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千年前の物語 4

ー/ー



 抜剣したソイロークは戦場を駆けた。黒い魔剣は魔力で刀身が伸び、一振りで数十人を殲滅する。

「な、なんだあれ……」

 敵国の兵士たちは恐怖した。ソイロークが走った後には死体しか残らない。

 あっという間に、軽々と百人は斬り捨てた。

「っつ!! ソイローク様……。魔剣を……」

 サズァンが心配そうに横目で見る。

「だ、ダメだ、バケモンだあああぁぁぁ!!!」

 武器を捨てて命の逃走をする兵士たち。

 だが、ソイロークはそれを許さない。

 数十分近くで戦況は大きく変わった。敵軍はほぼ壊滅状態に近い。

「流石は勇者様だ!!」

 味方からは歓声が上がる。

 しかし、次の瞬間、皆が困惑した。ソイロークは戦場を離れ、国境を越えようとしている。

 サズァンが気付き、倍速の魔法を自らに掛け、彼の後を追った。




「ソイローク様!! お止まりください!!」

 サズァンは並走してソイロークに叫ぶ。

「ソイローク様!! ソイローク様!!」

 彼は歩みを止めない。途中で旅人が道を歩いていた。何事かとこちらを見ている。

「おい、王都は何処だ?」

 剥き身の剣を構えたままソイロークに言われた旅人は腰を抜かして、答えた。

「あ、あ、あっちです!! この街道をずっといけば……」

 それを聞いてソイロークは再び走り出した。

「ソイローク様、もしや王都に!?」

 返事は無い。やがて日が暮れ、夜になるも、二人は走り続ける。

 夜が開けるぐらいに、城壁で囲まれた立派な城が見えた。その辺りでサズァンの体に限界が来る。

 振り返りもせずに、ソイロークは城へと向かった。

 異変に気付いた兵士が城門を閉める。鉄製のそれを、バターでも切るかのように魔剣で切り抜き、ソイロークが王都へと侵入した。

 遠くからその様子を眺めるサズァン。疲れ切った体を引きずって王都へと向かう。

 ソイロークは滅茶苦茶に暴れた。最初は寄ってくる兵士たちを斬り捨てていったが、次第に目に付く者は皆、市民たちにも攻撃を加え始める。

 悲鳴が鳴り響く王都。ソイロークに近付く者が消え、彼は城へと足を踏み入れた。

 兵士たちは時間稼ぎにもならない。階段を駆け上がり、王の間へと入る。

「なっ!!」

 王は避難しようとしていたが、それより先にソイロークが来てしまった。

「お前がっ!! お前がっ!!!!」

 一直線に向かい、ソイロークは敵国王の首を刎ねた。

 それと同時に、魔剣を持つ右手が黒く染まり、次第に全身に廻る。

 ソイロークだったものは崩れ落ち、塵になってしまった。

 勇者の気配が消えた事を感じ取ったサズァンは膝を地面に着いてしまう。

 勇者ソイロークの偉業はあっという間に祖国に伝わる。

 敵国は停戦を申し出て、国はその条件を飲んだ。

 自分の身と引き換えに戦争を終わらせたソイロークは、真の勇者として人々に称えられた。

 ここまでが国に伝わる昔話の真実だ。

 そして、ここからがその後サズァンが歩んだ人生である。



 サズァンは絶望していた。

 魔人を倒し、平和が訪れると思っていたのに。

 希望に溢れた勇者ソイロークは絶望して死んだ。

 優しい聖女であるニシナーは心を殺し、人を殺して死んだ。

 自分だけが生き残ってしまった。

 こんな思いをするぐらいだったら、あの戦争で死んでいた方が良かったとさえ思う。

「俺を倒した所で世界は平和になんかならない」

 魔人エィノキの言葉を思い出す。本当にアイツの言う通りになってしまった。

 だが、奴は何かもう一つ言っていた気がする。

 俺の目的を邪魔することは出来ないと。

 ヤツの目的とは何だったのだろうか、それともう一つ思い出した。

「お前はこの世界に絶望する。その時、またここを訪れろ」

 サズァンの頭でその言葉が繰り返し響く。

 何かに導かれるようにサズァンは枯れたダンジョンへと向かった。

 途中、サズァンが子供たちに襲われた街で宿を取る。当時よりも更に荒廃して見えた。

 サズァンはふと、飴玉とお金を渡した少女の事が気になって、スラム街の少年に話しかける。

「ちょっといいかしら? ミルって女の子知らない?」

 少年は警戒しながらも言葉を返してきた。

「ミルだったら死んだよ」

「なっ……」

 サズァンは驚いて口をふさぐ。その様子を見ていた青年達がやって来た。

「あぁ、あの時の姉さんか」

 皆、酷く痩せて若者とは思えない。

「ミルだったら死んじまった。食い物が無くて、栄養が足りなかったんだろう」

「そんな……」

 その知らせは、サズァンの心に更に追い打ちを掛けた。

 宿に泊まる予定は無しだ。一刻も早く枯れたダンジョンへと向かわなくてはならない。

 夜通し何も考えないように歩き、フラフラの状態でサズァンは枯れたダンジョンへと辿り着いた。

 誰もいない、何の変哲もない場所だが、中へと入り、奥の方まで向かう。

「来たか、娘よ」

 枯れたダンジョンの奥深く。突如聞こえた声にサズァンは驚き、周りを見渡す。

「ここだ」

 黒い魔石から声が出ているようだ。サズァンはいつでも魔法を放てるように構えながら近付く。

「そう警戒しなくてもいい。手を出そうにも、俺は話す以外何も出来ないからな」

 魔石の声は、軽く笑いながらそう言った。

「あなたは何者なの? 魔人エィノキ?」

「そうだ。正しくは、魔人エィノキの精神を複製した魔石だ」

 サズァンは意味が分からないが、納得するしか無さそうだ。

「そう、どうだって良いわ」

「勇者はどうした?」

 ソイロークの事を尋ねられて、サズァンは視線を逸らす。

「ソイローク様は、戦争で亡くなったわ……」

「戦争か、俺の思った通りだな。魔人が倒され、疲弊し、荒廃した国が残れば、これぞ好機と攻め入るだろうな」

「原因を作ったのはあなたでしょう!!!」

 サズァンは魔石に向かって怒鳴る。

「そうだろうな、だが、俺の目的の為には仕方が無かったのだ」

「その身勝手な目的とやらのために!! 何人の人が犠牲になったと思っているの!?」

「その犠牲、それこそが俺の目的だ」

 やはりこの魔人は狂っている。魔石を叩き割ろうとした瞬間、またエィノキが語り始めた。

「まぁ、待て娘。お前はその目で何を見てきた」

「目で?」

 サズァンはピタリと止まり、質問の意図を考える。

「この世は残酷だっただろう? 訳の分からない内に産み落とされ、親も選べない、国も選べない。ただ苦しむだけに産まれ、死んで逝く者もいる」

 サズァンは魔石に伸ばした手を下に下げた。

「生きても地獄だ。病気になり苦しむかもしれない。凄惨な事件に巻き込まれるかもしれない。飢えて死ぬ、戦って死ぬ。この世に生きる限り、絶対の安全や安らぎなど無いのだ」

 エィノキは黙るサズァンを前に続ける。

「そして、苦しい思いをし、生き延びたとて、老いがやって来る。いずれは誰しも死という残酷な未来が待っている」

「生とは狂気だ。そして、悲劇だ。俺の真の目的は、全ての生物の救済。等しく全てを無に返すのだ」

 サズァンはため息を付いた。

「狂っているのはあなたよ」

「俺がか? それを言えば世間や世界の方がより狂っていると思うがな」

 再び魔石に手を伸ばす。

「サズァンよ、神にならないか?」

 突然、名前を呼ばれ、突拍子も無い事を言われて、少し頭が回らなかった。

「神とは言え、人々に崇められる神ではなく、邪神だがな」


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 抜剣したソイロークは戦場を駆けた。黒い魔剣は魔力で刀身が伸び、一振りで数十人を殲滅する。
「な、なんだあれ……」
 敵国の兵士たちは恐怖した。ソイロークが走った後には死体しか残らない。
 あっという間に、軽々と百人は斬り捨てた。
「っつ!! ソイローク様……。魔剣を……」
 サズァンが心配そうに横目で見る。
「だ、ダメだ、バケモンだあああぁぁぁ!!!」
 武器を捨てて命の逃走をする兵士たち。
 だが、ソイロークはそれを許さない。
 数十分近くで戦況は大きく変わった。敵軍はほぼ壊滅状態に近い。
「流石は勇者様だ!!」
 味方からは歓声が上がる。
 しかし、次の瞬間、皆が困惑した。ソイロークは戦場を離れ、国境を越えようとしている。
 サズァンが気付き、倍速の魔法を自らに掛け、彼の後を追った。
「ソイローク様!! お止まりください!!」
 サズァンは並走してソイロークに叫ぶ。
「ソイローク様!! ソイローク様!!」
 彼は歩みを止めない。途中で旅人が道を歩いていた。何事かとこちらを見ている。
「おい、王都は何処だ?」
 剥き身の剣を構えたままソイロークに言われた旅人は腰を抜かして、答えた。
「あ、あ、あっちです!! この街道をずっといけば……」
 それを聞いてソイロークは再び走り出した。
「ソイローク様、もしや王都に!?」
 返事は無い。やがて日が暮れ、夜になるも、二人は走り続ける。
 夜が開けるぐらいに、城壁で囲まれた立派な城が見えた。その辺りでサズァンの体に限界が来る。
 振り返りもせずに、ソイロークは城へと向かった。
 異変に気付いた兵士が城門を閉める。鉄製のそれを、バターでも切るかのように魔剣で切り抜き、ソイロークが王都へと侵入した。
 遠くからその様子を眺めるサズァン。疲れ切った体を引きずって王都へと向かう。
 ソイロークは滅茶苦茶に暴れた。最初は寄ってくる兵士たちを斬り捨てていったが、次第に目に付く者は皆、市民たちにも攻撃を加え始める。
 悲鳴が鳴り響く王都。ソイロークに近付く者が消え、彼は城へと足を踏み入れた。
 兵士たちは時間稼ぎにもならない。階段を駆け上がり、王の間へと入る。
「なっ!!」
 王は避難しようとしていたが、それより先にソイロークが来てしまった。
「お前がっ!! お前がっ!!!!」
 一直線に向かい、ソイロークは敵国王の首を刎ねた。
 それと同時に、魔剣を持つ右手が黒く染まり、次第に全身に廻る。
 ソイロークだったものは崩れ落ち、塵になってしまった。
 勇者の気配が消えた事を感じ取ったサズァンは膝を地面に着いてしまう。
 勇者ソイロークの偉業はあっという間に祖国に伝わる。
 敵国は停戦を申し出て、国はその条件を飲んだ。
 自分の身と引き換えに戦争を終わらせたソイロークは、真の勇者として人々に称えられた。
 ここまでが国に伝わる昔話の真実だ。
 そして、ここからがその後サズァンが歩んだ人生である。
 サズァンは絶望していた。
 魔人を倒し、平和が訪れると思っていたのに。
 希望に溢れた勇者ソイロークは絶望して死んだ。
 優しい聖女であるニシナーは心を殺し、人を殺して死んだ。
 自分だけが生き残ってしまった。
 こんな思いをするぐらいだったら、あの戦争で死んでいた方が良かったとさえ思う。
「俺を倒した所で世界は平和になんかならない」
 魔人エィノキの言葉を思い出す。本当にアイツの言う通りになってしまった。
 だが、奴は何かもう一つ言っていた気がする。
 俺の目的を邪魔することは出来ないと。
 ヤツの目的とは何だったのだろうか、それともう一つ思い出した。
「お前はこの世界に絶望する。その時、またここを訪れろ」
 サズァンの頭でその言葉が繰り返し響く。
 何かに導かれるようにサズァンは枯れたダンジョンへと向かった。
 途中、サズァンが子供たちに襲われた街で宿を取る。当時よりも更に荒廃して見えた。
 サズァンはふと、飴玉とお金を渡した少女の事が気になって、スラム街の少年に話しかける。
「ちょっといいかしら? ミルって女の子知らない?」
 少年は警戒しながらも言葉を返してきた。
「ミルだったら死んだよ」
「なっ……」
 サズァンは驚いて口をふさぐ。その様子を見ていた青年達がやって来た。
「あぁ、あの時の姉さんか」
 皆、酷く痩せて若者とは思えない。
「ミルだったら死んじまった。食い物が無くて、栄養が足りなかったんだろう」
「そんな……」
 その知らせは、サズァンの心に更に追い打ちを掛けた。
 宿に泊まる予定は無しだ。一刻も早く枯れたダンジョンへと向かわなくてはならない。
 夜通し何も考えないように歩き、フラフラの状態でサズァンは枯れたダンジョンへと辿り着いた。
 誰もいない、何の変哲もない場所だが、中へと入り、奥の方まで向かう。
「来たか、娘よ」
 枯れたダンジョンの奥深く。突如聞こえた声にサズァンは驚き、周りを見渡す。
「ここだ」
 黒い魔石から声が出ているようだ。サズァンはいつでも魔法を放てるように構えながら近付く。
「そう警戒しなくてもいい。手を出そうにも、俺は話す以外何も出来ないからな」
 魔石の声は、軽く笑いながらそう言った。
「あなたは何者なの? 魔人エィノキ?」
「そうだ。正しくは、魔人エィノキの精神を複製した魔石だ」
 サズァンは意味が分からないが、納得するしか無さそうだ。
「そう、どうだって良いわ」
「勇者はどうした?」
 ソイロークの事を尋ねられて、サズァンは視線を逸らす。
「ソイローク様は、戦争で亡くなったわ……」
「戦争か、俺の思った通りだな。魔人が倒され、疲弊し、荒廃した国が残れば、これぞ好機と攻め入るだろうな」
「原因を作ったのはあなたでしょう!!!」
 サズァンは魔石に向かって怒鳴る。
「そうだろうな、だが、俺の目的の為には仕方が無かったのだ」
「その身勝手な目的とやらのために!! 何人の人が犠牲になったと思っているの!?」
「その犠牲、それこそが俺の目的だ」
 やはりこの魔人は狂っている。魔石を叩き割ろうとした瞬間、またエィノキが語り始めた。
「まぁ、待て娘。お前はその目で何を見てきた」
「目で?」
 サズァンはピタリと止まり、質問の意図を考える。
「この世は残酷だっただろう? 訳の分からない内に産み落とされ、親も選べない、国も選べない。ただ苦しむだけに産まれ、死んで逝く者もいる」
 サズァンは魔石に伸ばした手を下に下げた。
「生きても地獄だ。病気になり苦しむかもしれない。凄惨な事件に巻き込まれるかもしれない。飢えて死ぬ、戦って死ぬ。この世に生きる限り、絶対の安全や安らぎなど無いのだ」
 エィノキは黙るサズァンを前に続ける。
「そして、苦しい思いをし、生き延びたとて、老いがやって来る。いずれは誰しも死という残酷な未来が待っている」
「生とは狂気だ。そして、悲劇だ。俺の真の目的は、全ての生物の救済。等しく全てを無に返すのだ」
 サズァンはため息を付いた。
「狂っているのはあなたよ」
「俺がか? それを言えば世間や世界の方がより狂っていると思うがな」
 再び魔石に手を伸ばす。
「サズァンよ、神にならないか?」
 突然、名前を呼ばれ、突拍子も無い事を言われて、少し頭が回らなかった。
「神とは言え、人々に崇められる神ではなく、邪神だがな」