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第3章・第2羽

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 身動(みじろ)ぎもせずに、しばらくベッドに横たわりながら天井を眺めていると、自室のドアが開いた。ボクの身体を案じるように部屋に入ってきた叔父に、ボクは声をかける。

憲二(けんじ)さん……」

耕史(こうじ)、目が覚めたか? クラスメートが、立て続けに……だからな。ショックを受けるのは理解できるが、おまえは、その二人と親しかったのか?」

「いや、そうじゃない。そうじゃないけど――――――ねぇ、今日、仲田美幸に重症を負わせた犯人は捕まったの?」

 ボクの問いかけに、憲二さんは無念そうに首を横に振った。

「残念ながら、まだのようだ。現場から、いくつか手掛かりのようなものは見つかったそうだがな。事故に遭った子がバイクに轢かれたのだろう、ということも、道路に残された部品から判明したらしい。バイクのメーカーと車種は、すぐに判明するだろう。それより、俺には気になることがある」

「気になることって、ナニ?」

「亡くなった、仲田って子だっけ? その生徒の自宅には、昼過ぎに二人の男女が訪ねてきたそうだ。今回のひき逃げが故意によるものなら、警察としては、まず、その二人組のことを疑って聞き込みをしなくちゃならん」

「その二人組なら、一人は二輪車の免許すら持っていないし、もう一人も原付きの免許しか持っていないはずだよ。バイクの車種が判明すれば、真っ先に容疑者リストから外れるだろうね」

「やっぱり、心当たりがあるのか?」

「……まあ、仲田の自宅を訪ねた二人組について考えている憲二さんと同じくらいにはね」
 
「なあ、耕史。現実に人が死んだり、事故に遭ったりすることは、ドラマやマンガの探偵物語とは違うんだ。おまえとトシコさんところの娘さんは、なんだって、こんなにもこの件に首を突っ込もうとするんだ? 事件の捜査は、警察に任せておけば――――――」

「そう思って、お任せにしちゃうと、亡くなった葛西は、自殺として処理されるかも知れないじゃないか!?」

 声を張り上げて反論すると、憲二さんは困ったような表情でボクを見つめる。そして、ため息をつきながら、ふたたび、ボクにたずねた。

「クラスメートが自殺したなんて考えたくない、という気持ちはわからんでもない。だが、そう考える根拠はなんなんだ?」

「葛西と仲田は、二人で頻繁に()()()()に出掛けていたらしい。しかも、お互い二人で出掛けていることを隠そうとしているようなんだ」

「そのことはは、前にも言っていたな? それが、おまえたちが、葛西稔梨(かさいみのり)が自殺していない、と考える理由なのか?」

「あの二人が、わざわざ県外の繁華街まで出掛けて行って、なにをしようとしていたのか? 葛西を妊娠させたのは誰なのか? そのことを仲田に聞きに行ったんだ……」

「彼女は、何か話したのか!?」

 憲二さんの質問に、今度はボクが首を横に振る。

「いいや……明日、もう一度ボク一人で会って、話しを聞こうと思ってたんだ」

「おまえは、仲田美幸(なかだみゆき)が、なにか知っていると感触を掴んだんだな?」

「誘導尋問や相手を苛立たせて、ボロを出させるやり方は、憲二さんに鍛えられているからね」

「明日、彼女に会えば、なんらかの事情を聞き出せたと思うか?」

「確信はないけど、湯舟が同席しないでボク一人で聞き取りをすれば、可能性は高いと考えていた」

 後悔しながらボクが答えると、憲二さんはつぶやくように言う。

「つまり、 四日前の事件と今日の事故がつながっているとすれば、犯人に先を越された、ということになるのか?」

 叔父の独り言のような言葉に、黙ってうなずく。

「今回の件は、憲二さんも捜査に駆り出されているの?」

「あぁ、俺も聞き込み要員の一人だ。まあ、人海戦術ってやつだな」

「当然、仲田の家族にも聞き込みを行ってるんだよね? 彼女の母親は、なにか言ってたの?」

「クラスメートを名乗る男女二人組が訪ねてきたあと、どこかに出掛けて、すぐ戻ってきたと思ったら、どこかに電話を掛けていたらしい。そして、大雨が降っているにもかかわらず、『友だちに会いに行く』と言って、また出掛けてしまったらしい」

「ひき逃げに遭ったのは、その時?」

 憲二さんは、黙ってうなずく。予想どおりの反応に、ボクは続いてたずねる。

「事故に遭ったりときの仲田の服装は?」

「緑色のタンクトップに、白いジーンズだ」

「ボクたちが、ワクドで話しをしたときと同じだな……ということは、わざわざ着替えて会いに行くような場所や人物じゃないってことか――――――?」

 頭を巡らせていると、自然と思考が口をついて出てしまった。すると、叔父は、深いため息をつきながら、忠告するようにボクを諭す。

「なあ、耕史。いつまで探偵ごっこを続けるつもりだ?」

「ただの参考意見だよ。別に捜査の邪魔にはならないだろう?」

「いや、もうこの件は警察に任せるんだ。今日の事故が、もし殺人未遂で四日前の件が殺人事件だったら、もう既に高校生が首を突っ込んで良い話しじゃない。おまえたちがやることは、夏休みの課題と……あとは、健全な交際だけだ」

 憲二さんは、仲田美幸が事故に遭ったことに関して、一度もボクを責めなかった。ただ、これ以上、この件について関与しないように忠告することで、言外にボクのこれまでの行動を反省するよう、うながしていることは間違いないだろう。

(残念だけど、話しができるのは、ここまでか……)

 そう悟ったボクは、叔父が帰宅する前に聞き取った情報を提供する。

「じゃあ、最後に一つだけ……あるクラスメートから聞かせてもらった情報によると、亡くなった葛西は、ウチの学年の教師と出掛けることもあったらしい。このバイクが、今日の事件と関係あるか調べてみてくれない?」

 ボクは、そう言って、枕元にあったスマホを手に取って操作し、遠山響子から送ってもらった、斎藤先生と葛西稔梨らしき人物が写っている画像ファイルを憲二さんに差し出した。


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 |身動《みじろ》ぎもせずに、しばらくベッドに横たわりながら天井を眺めていると、自室のドアが開いた。ボクの身体を案じるように部屋に入ってきた叔父に、ボクは声をかける。
「|憲二《けんじ》さん……」
「|耕史《こうじ》、目が覚めたか? クラスメートが、立て続けに……だからな。ショックを受けるのは理解できるが、おまえは、その二人と親しかったのか?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないけど――――――ねぇ、今日、仲田美幸に重症を負わせた犯人は捕まったの?」
 ボクの問いかけに、憲二さんは無念そうに首を横に振った。
「残念ながら、まだのようだ。現場から、いくつか手掛かりのようなものは見つかったそうだがな。事故に遭った子がバイクに轢かれたのだろう、ということも、道路に残された部品から判明したらしい。バイクのメーカーと車種は、すぐに判明するだろう。それより、俺には気になることがある」
「気になることって、ナニ?」
「亡くなった、仲田って子だっけ? その生徒の自宅には、昼過ぎに二人の男女が訪ねてきたそうだ。今回のひき逃げが故意によるものなら、警察としては、まず、その二人組のことを疑って聞き込みをしなくちゃならん」
「その二人組なら、一人は二輪車の免許すら持っていないし、もう一人も原付きの免許しか持っていないはずだよ。バイクの車種が判明すれば、真っ先に容疑者リストから外れるだろうね」
「やっぱり、心当たりがあるのか?」
「……まあ、仲田の自宅を訪ねた二人組について考えている憲二さんと同じくらいにはね」
「なあ、耕史。現実に人が死んだり、事故に遭ったりすることは、ドラマやマンガの探偵物語とは違うんだ。おまえとトシコさんところの娘さんは、なんだって、こんなにもこの件に首を突っ込もうとするんだ? 事件の捜査は、警察に任せておけば――――――」
「そう思って、お任せにしちゃうと、亡くなった葛西は、自殺として処理されるかも知れないじゃないか!?」
 声を張り上げて反論すると、憲二さんは困ったような表情でボクを見つめる。そして、ため息をつきながら、ふたたび、ボクにたずねた。
「クラスメートが自殺したなんて考えたくない、という気持ちはわからんでもない。だが、そう考える根拠はなんなんだ?」
「葛西と仲田は、二人で頻繁に|あ《・》|る《・》|場《・》|所《・》に出掛けていたらしい。しかも、お互い二人で出掛けていることを隠そうとしているようなんだ」
「そのことはは、前にも言っていたな? それが、おまえたちが、|葛西稔梨《かさいみのり》が自殺していない、と考える理由なのか?」
「あの二人が、わざわざ県外の繁華街まで出掛けて行って、なにをしようとしていたのか? 葛西を妊娠させたのは誰なのか? そのことを仲田に聞きに行ったんだ……」
「彼女は、何か話したのか!?」
 憲二さんの質問に、今度はボクが首を横に振る。
「いいや……明日、もう一度ボク一人で会って、話しを聞こうと思ってたんだ」
「おまえは、|仲田美幸《なかだみゆき》が、なにか知っていると感触を掴んだんだな?」
「誘導尋問や相手を苛立たせて、ボロを出させるやり方は、憲二さんに鍛えられているからね」
「明日、彼女に会えば、なんらかの事情を聞き出せたと思うか?」
「確信はないけど、湯舟が同席しないでボク一人で聞き取りをすれば、可能性は高いと考えていた」
 後悔しながらボクが答えると、憲二さんはつぶやくように言う。
「つまり、 四日前の事件と今日の事故がつながっているとすれば、犯人に先を越された、ということになるのか?」
 叔父の独り言のような言葉に、黙ってうなずく。
「今回の件は、憲二さんも捜査に駆り出されているの?」
「あぁ、俺も聞き込み要員の一人だ。まあ、人海戦術ってやつだな」
「当然、仲田の家族にも聞き込みを行ってるんだよね? 彼女の母親は、なにか言ってたの?」
「クラスメートを名乗る男女二人組が訪ねてきたあと、どこかに出掛けて、すぐ戻ってきたと思ったら、どこかに電話を掛けていたらしい。そして、大雨が降っているにもかかわらず、『友だちに会いに行く』と言って、また出掛けてしまったらしい」
「ひき逃げに遭ったのは、その時?」
 憲二さんは、黙ってうなずく。予想どおりの反応に、ボクは続いてたずねる。
「事故に遭ったりときの仲田の服装は?」
「緑色のタンクトップに、白いジーンズだ」
「ボクたちが、ワクドで話しをしたときと同じだな……ということは、わざわざ着替えて会いに行くような場所や人物じゃないってことか――――――?」
 頭を巡らせていると、自然と思考が口をついて出てしまった。すると、叔父は、深いため息をつきながら、忠告するようにボクを諭す。
「なあ、耕史。いつまで探偵ごっこを続けるつもりだ?」
「ただの参考意見だよ。別に捜査の邪魔にはならないだろう?」
「いや、もうこの件は警察に任せるんだ。今日の事故が、もし殺人未遂で四日前の件が殺人事件だったら、もう既に高校生が首を突っ込んで良い話しじゃない。おまえたちがやることは、夏休みの課題と……あとは、健全な交際だけだ」
 憲二さんは、仲田美幸が事故に遭ったことに関して、一度もボクを責めなかった。ただ、これ以上、この件について関与しないように忠告することで、言外にボクのこれまでの行動を反省するよう、うながしていることは間違いないだろう。
(残念だけど、話しができるのは、ここまでか……)
 そう悟ったボクは、叔父が帰宅する前に聞き取った情報を提供する。
「じゃあ、最後に一つだけ……あるクラスメートから聞かせてもらった情報によると、亡くなった葛西は、ウチの学年の教師と出掛けることもあったらしい。このバイクが、今日の事件と関係あるか調べてみてくれない?」
 ボクは、そう言って、枕元にあったスマホを手に取って操作し、遠山響子から送ってもらった、斎藤先生と葛西稔梨らしき人物が写っている画像ファイルを憲二さんに差し出した。