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第十三話:凍てつく光の中で

ー/ー



 年末のレオナ・ステーション。
 木星少女杯が終わった翌日、白雷ジムのサイドール居住区は、ひどく静まり返っていた。

 

 

 ◇

 

 「……スレイ……?」

 

 ベッドの上で膝を抱え、フリアノンは小さく呟いた。
 昨日から、何度も何度も呼んでいるその名前。
 けれど返事はなく、彼女のタブレットに残るスレイプニルのデータファイルには、**「出走停止」**の二文字が赤く光っているだけだった。

 

 

 ◇

 

 窓の外には、木星の淡い光。
 その縞模様さえ、今日はやけに冷たく無機質に見える。

 

 スレイプニルはいつも言っていた。
 ――木星を見ると、胸がわくわくするんだよ!
 ――いつか、あのリングを一周する最速のサイドールになるんだって!

 

 

 ◇

 

 フリアノンは毛布に顔を埋め、声を押し殺して泣いた。

 

 (スレイ……どうして……。
 どうしていなくなっちゃったの……。)

 

 ただ一緒にいるだけでよかった。
 練習後にお菓子を食べて、笑いあうだけでよかった。
 なのに――

 

 

 ◇

 

 いつの間にか眠りに落ちていた。
 目が覚めたとき、部屋の照明は落とされ、人工窓の外にはコロニーの夜景が瞬いていた。

 

 冷たい水を飲み、洗面台で顔を洗う。
 鏡の中の自分は、瞼が腫れて酷い顔をしていた。

 

 

 ◇

 

 (……こんなんじゃ……スレイに笑われちゃう……。)

 

 思わず涙が零れた。
 慌てて袖で拭う。

 

 (……でも……。)

 

 スレイプニルが最後に残した言葉を思い出す。

 

 ――ノンちゃんも、いつかD1に来なよ。
 ――ノンちゃんならできるよ。
 ――だって、ノンちゃんは……わたしの一番のライバルだから。

 

 

 ◇

 

 「……ライバル……。」

 

 震える声で呟く。
 胸の奥が痛かった。
 でも、その痛みの奥に、じわりと小さな熱が灯る。

 

 

 ◇

 

 立ち上がる。
 フリアノンの細い脚がふらついたが、ベッドの手すりを掴んでなんとか立った。

 

 (スレイ……わたし……。)

 

 涙で滲む視界の奥、木星の縞模様がゆらめいて見えた。

 

 (わたし……走るよ……。)

 

 (スレイの分まで……スレイの夢……わたしが……。)

 

 (わたしが……叶える……!)

 

 

 ◇

 

 そのとき、部屋のドア横に貼っていたスレイプニルとの写真が目に入った。
 練習後、二人で顔を寄せ合って笑っている写真。

 

 「……見てて、スレイ……。」

 

 フリアノンは小さく笑った。
 涙で濡れた頬をぬぐい、その瞳に光を取り戻していた。

 

 

 ◇

 

 外では、もう年末恒例のイルミネーション点灯式が始まっていた。
 街灯のように光る木星リングの照明が、冬空に星屑を散らす。

 

 (わたし……絶対に……走るから……。)

 

 心に深く刻む。
 決意は氷より冷たく、炎より熱かった。

 

 

 ◇

 

 ――スレイプニルの夢を背負い、
 ――その名を超える日まで。

 

 弱気で臆病だった少女は、
 涙の中から立ち上がろうとしていた。


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 年末のレオナ・ステーション。
 木星少女杯が終わった翌日、白雷ジムのサイドール居住区は、ひどく静まり返っていた。
 ◇
 「……スレイ……?」
 ベッドの上で膝を抱え、フリアノンは小さく呟いた。
 昨日から、何度も何度も呼んでいるその名前。
 けれど返事はなく、彼女のタブレットに残るスレイプニルのデータファイルには、**「出走停止」**の二文字が赤く光っているだけだった。
 ◇
 窓の外には、木星の淡い光。
 その縞模様さえ、今日はやけに冷たく無機質に見える。
 スレイプニルはいつも言っていた。
 ――木星を見ると、胸がわくわくするんだよ!
 ――いつか、あのリングを一周する最速のサイドールになるんだって!
 ◇
 フリアノンは毛布に顔を埋め、声を押し殺して泣いた。
 (スレイ……どうして……。
 どうしていなくなっちゃったの……。)
 ただ一緒にいるだけでよかった。
 練習後にお菓子を食べて、笑いあうだけでよかった。
 なのに――
 ◇
 いつの間にか眠りに落ちていた。
 目が覚めたとき、部屋の照明は落とされ、人工窓の外にはコロニーの夜景が瞬いていた。
 冷たい水を飲み、洗面台で顔を洗う。
 鏡の中の自分は、瞼が腫れて酷い顔をしていた。
 ◇
 (……こんなんじゃ……スレイに笑われちゃう……。)
 思わず涙が零れた。
 慌てて袖で拭う。
 (……でも……。)
 スレイプニルが最後に残した言葉を思い出す。
 ――ノンちゃんも、いつかD1に来なよ。
 ――ノンちゃんならできるよ。
 ――だって、ノンちゃんは……わたしの一番のライバルだから。
 ◇
 「……ライバル……。」
 震える声で呟く。
 胸の奥が痛かった。
 でも、その痛みの奥に、じわりと小さな熱が灯る。
 ◇
 立ち上がる。
 フリアノンの細い脚がふらついたが、ベッドの手すりを掴んでなんとか立った。
 (スレイ……わたし……。)
 涙で滲む視界の奥、木星の縞模様がゆらめいて見えた。
 (わたし……走るよ……。)
 (スレイの分まで……スレイの夢……わたしが……。)
 (わたしが……叶える……!)
 ◇
 そのとき、部屋のドア横に貼っていたスレイプニルとの写真が目に入った。
 練習後、二人で顔を寄せ合って笑っている写真。
 「……見てて、スレイ……。」
 フリアノンは小さく笑った。
 涙で濡れた頬をぬぐい、その瞳に光を取り戻していた。
 ◇
 外では、もう年末恒例のイルミネーション点灯式が始まっていた。
 街灯のように光る木星リングの照明が、冬空に星屑を散らす。
 (わたし……絶対に……走るから……。)
 心に深く刻む。
 決意は氷より冷たく、炎より熱かった。
 ◇
 ――スレイプニルの夢を背負い、
 ――その名を超える日まで。
 弱気で臆病だった少女は、
 涙の中から立ち上がろうとしていた。