最初に言っておこう。異世界転生で無双する詐欺師を見に来たんなら、君たちは騙されたね。残念。
「君は天使に相応しい。」
全く、嘘つきの僕がそんな嘘みたいなこと言われるなんてね。
というわけでこれは羽が生えた僕の物語だ。
今、僕の胸には十字架が刺さってる。宗教的な喩えじゃないよ。ホンモノの、教会のやつ。the天罰ってカンジだ。…でも、「同情」なんてしないで欲しい。
トラウマがあるからね。
胸が熱い。痛い。呼吸が出来ない。…死ぬってこんなに辛いんだ。いやー。もっといろんな人を騙したかったのにな。…騙されてみたかったのにな。
そんな不思議な感情と共に、僕の意識は無くなった。
「おーい。生きてる?…あ、死んでたわ。ウケル。」
そんなポップな声で目が覚めちゃった。
無機質な白い部屋。視線が低い。どうやら椅子に座っているみたい。
向かいには、180cmはありそうな褐色の女。何かスポーツでもしてたのかな?白いピッチリスーツに、頭の上では光輪がクルクル回っている。CGには…見えないね。
「よっ罪人!ようこそ天国へ!」
なろうのテンプレート、飽き飽きだよ、全く。
「浮島環。あんたさ。自分がしたこと…分かってる?」
「んー…あいにく、十字架が刺さったインパクトが強すぎてさ。覚えてないね。」
「…あんた今日、晴明光一とかいう善良な市民を騙したみたいじゃん?」
ああ、そんな奴いたね。カモのことなんて覚えてないからね、僕。
「自称神父として100均の壺を売りつける…しかも10万で!?ウケるんですけど!!」
「君の輪っかも同じ値で売れるよ。」
「…『君』じゃない。あーしはメタトロン。記録の天使やってまーす。」
「へぇ。変な名前!でもカワイイね。」
てかなにこのギャル口調。天使ってこんななの?
「…晴明を騙した理由ある?」
「理由?勿論。理由もなく人を騙すなんて最低だよ全く。」
「あっても最低だし。」
「あいつは働かずに親の金でゲームに課金してるクズ。今壺を買わないと神様が逃げる!なんて言ったらATMへ直行。…人って決断迫られるとさ。本性が出るんだ。その瞬間。まるでデザートだよ。」
…それに本心が出る、その瞬間だけ、僕は【対等】だしね。
そう。その瞬間だけだった。僕に本心で…同じ目線で話してくれる人がいるのは。…ま、そんなこと、このギャルに言っても無駄か。
「…そんなデザートバズんないよ?」
「ひどいなあ。見た目は悪いが絶品だよ?」
「…へぇ。あんたの気持ちよ~く分かった。…残念だけど、天罰ルートだね、こりゃ。」
…僕の気持ちが分かった?それは凄い。詐欺師の素質あるよ君。…僕の本心を出せるやつなんていない。
——この世に1人もね。
「…罰ってどんなの?小動物に囲まれるとか?」
「饅頭も怖がるだろうなあ!?あんた!…安心してよ、きっと気に入る。刑罰は…異世界転生だからね。」
「…は?」
それって罰になるもんなの?ニートへのご褒美じゃない?アレ。
「これはヒキニートを馬鹿にしたあんたへの刑罰。リスポーン可能、スキル選んで。魔王を倒せば刑期終了。」
これまたありがちな展開だね。僕頭いいし、無双しちゃうね。君たちもそれを見に来ただろ?
「…んで、スキルは?」
「一つ 巻き爪にならない。
二つ スカしっ屁の成功率100%」
…。失礼。お洒落な皮肉も浮かばない。
「…ええと、状態異常にならないor回避率100%?」
「もう一回言う?」
「ああ、もういいよ。…とりあえず、ワシに死ねというんじゃな?」
「ま、そうなるね。」
ホント神様本気出しすぎだ。
「…まあ落ち着きなって。あんたにも同情できる点はあるし。」
———同情。その言葉が僕の陽気な顔を歪める。
「…同情?」
最悪だ。僕の一番嫌いな言葉。思わずいつもの調子じゃ居られなくなる。
僕は歪んだ顔のままかすかに笑って答えた。
「…悪いけどそれ、やめてもらえる?花粉よりアレルゲンなんだよね。同情ってやつは。」
一瞬息が詰まる。僕の体が強張っていく。
「…地雷だった?」
メタトロンの声が優しくなる。そんな優しさが嫌いだって言ってんだよ。
「…天使が偉そうに僕に踏み込むなよ。」
「可哀想。」ふとこの言葉が頭をよぎる。ある時は同級生。ある時は教師。…ある時は家族に…。
僕はちっとも可哀想じゃなかったのに。
そんな世界が…大嫌いだった。
…そして僕はこの後、自分の怒りに後悔することになる。
全く皮肉なもんだよ。人を傷つける詐欺師の僕が、人を癒す《天使》にされちゃったんだから。
本当に神様は僕のことが嫌いらしい。