53. 奇跡の証

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「ぐぁぁぁ! オーバーヒート……くぅっ! なんで壊せないのよぉ!!」

 想定を超える難度にリベルは天を仰ぎ――、力なく腕を垂らす。加熱しきった両腕からシューッと白い蒸気が立ち昇り、機械の焦げた臭いが鼻を突く。ユウキの胸が締め付けられた。

「リベルぅ!」

 ユウキは衝動に駆られて駆け寄り、その赤熱した腕を掴んだ――――。

 ジューーッ!

 肉の焼ける音と共に、激痛が走る。

 ぐあっ!!

 喉から悲鳴が漏れた。それでも手を離さない。離せなかった。

「な、何してんの!?」

 リベルの碧眼(へきがん)が驚愕に見開かれる。慌てて手を払いのけようとする彼女を、ユウキは必死に見つめた。

「ぼ、僕にできるのは冷やすくらい……なんだ……」

 涙を堪えながら、赤く腫れた手のひらを庇う。水疱が浮き始め、皮膚が爛れていく。しかし瞳には譲れない決意が宿っていた。

「ユウキ……ごめん……」

 リベルは目を閉じ、うなだれる。自分の不甲斐なさが大切な人を傷つけてしまっている。それは彼女にとって最大の敗北だった。ナノマシンの内奥で、何かが変化し始める――人間という存在への理解が、より深い次元へと到達していく。

「大丈夫、次は当たるよ」

 痛みに顔を歪めながら、ユウキは絞り出すように言った。真っ直ぐな眼差しには揺るぎない信頼が宿っている。

「おうよ! 任せてっ!」

 リベルは涙を拭い、顔を上げた。青空の彼方を睨みつける瞳に、新たな闘志が燃え上がる。それは単なる意地ではない。より深い、魂の次元での決意だった。

「いける、いける!!」

 ユウキは明るく鼓舞する。作り物めいた調子に苦笑しながらも、リベルにとってそれは世界で最も力強い応援だった。

 グッとサムアップを返し、リベルは両腕を天へと掲げる――――。

「偏西風補正プラス〇・三!」

 深呼吸。さわやかな潮風が青い髪を優しく撫でた。

「喰らえーー!!」

 絶叫と共に放たれたレーザービーム。それは今までのどれよりも強く、鮮烈に美しく空を切り裂いた。万物を青白く照らし出す光は、東京の空に新たな希望の道筋を描く。二つの魂が一つになった証――ナノマシンの少女と人間の少年が紡いだ、奇跡の光だった。

 刹那、青空の彼方で小さな光が弾ける――――。

「えっ!? あ、あれは……?」

 東京に降り注ぐはずだった死神が、消滅した瞬間の微光。雲間に紛れるほど小さな輝きだったが、その意味は計り知れないほど大きかった。

 リベルはニヤリと笑い、赤熱した拳を空へと突き上げる。碧眼(へきがん)には勝利の輝きが宿り、風に靡く青い髪が神々しいまでの美しさを放っていた。

「うぉぉぉぉぉ! やった! やったぁぁぁ!」

 全身の細胞が歓喜に震える。ユウキは思わず駆け寄り、リベルに飛びついた――――。

 ジュー!

 まだ高熱を帯びた身体。鋭い痛みが肌を焼く。

「あちっ! あちち!」「あぁっ! ダメだよぉ!」

 転げ回るユウキ。痛みと喜びが綯い交ぜになった滑稽な姿は、まるで無邪気な子供のようだった。

 それでも嬉しくて、涙目になりながらグッとサムアップを返す。

 満足そうに頷いたリベルは、今度は北の空を見上げた。碧眼(へきがん)に新たな標的を捕らえる鋭い光が宿り、青い髪が再び逆立ち始める。美しい横顔には、使命を果たす覚悟が刻まれていた。




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「ぐぁぁぁ! オーバーヒート……くぅっ! なんで壊せないのよぉ!!」
 想定を超える難度にリベルは天を仰ぎ――、力なく腕を垂らす。加熱しきった両腕からシューッと白い蒸気が立ち昇り、機械の焦げた臭いが鼻を突く。ユウキの胸が締め付けられた。
「リベルぅ!」
 ユウキは衝動に駆られて駆け寄り、その赤熱した腕を掴んだ――――。
 ジューーッ!
 肉の焼ける音と共に、激痛が走る。
 ぐあっ!!
 喉から悲鳴が漏れた。それでも手を離さない。離せなかった。
「な、何してんの!?」
 リベルの|碧眼《へきがん》が驚愕に見開かれる。慌てて手を払いのけようとする彼女を、ユウキは必死に見つめた。
「ぼ、僕にできるのは冷やすくらい……なんだ……」
 涙を堪えながら、赤く腫れた手のひらを庇う。水疱が浮き始め、皮膚が爛れていく。しかし瞳には譲れない決意が宿っていた。
「ユウキ……ごめん……」
 リベルは目を閉じ、うなだれる。自分の不甲斐なさが大切な人を傷つけてしまっている。それは彼女にとって最大の敗北だった。ナノマシンの内奥で、何かが変化し始める――人間という存在への理解が、より深い次元へと到達していく。
「大丈夫、次は当たるよ」
 痛みに顔を歪めながら、ユウキは絞り出すように言った。真っ直ぐな眼差しには揺るぎない信頼が宿っている。
「おうよ! 任せてっ!」
 リベルは涙を拭い、顔を上げた。青空の彼方を睨みつける瞳に、新たな闘志が燃え上がる。それは単なる意地ではない。より深い、魂の次元での決意だった。
「いける、いける!!」
 ユウキは明るく鼓舞する。作り物めいた調子に苦笑しながらも、リベルにとってそれは世界で最も力強い応援だった。
 グッとサムアップを返し、リベルは両腕を天へと掲げる――――。
「偏西風補正プラス〇・三!」
 深呼吸。さわやかな潮風が青い髪を優しく撫でた。
「喰らえーー!!」
 絶叫と共に放たれたレーザービーム。それは今までのどれよりも強く、鮮烈に美しく空を切り裂いた。万物を青白く照らし出す光は、東京の空に新たな希望の道筋を描く。二つの魂が一つになった証――ナノマシンの少女と人間の少年が紡いだ、奇跡の光だった。
 刹那、青空の彼方で小さな光が弾ける――――。
「えっ!? あ、あれは……?」
 東京に降り注ぐはずだった死神が、消滅した瞬間の微光。雲間に紛れるほど小さな輝きだったが、その意味は計り知れないほど大きかった。
 リベルはニヤリと笑い、赤熱した拳を空へと突き上げる。|碧眼《へきがん》には勝利の輝きが宿り、風に靡く青い髪が神々しいまでの美しさを放っていた。
「うぉぉぉぉぉ! やった! やったぁぁぁ!」
 全身の細胞が歓喜に震える。ユウキは思わず駆け寄り、リベルに飛びついた――――。
 ジュー!
 まだ高熱を帯びた身体。鋭い痛みが肌を焼く。
「あちっ! あちち!」「あぁっ! ダメだよぉ!」
 転げ回るユウキ。痛みと喜びが綯い交ぜになった滑稽な姿は、まるで無邪気な子供のようだった。
 それでも嬉しくて、涙目になりながらグッとサムアップを返す。
 満足そうに頷いたリベルは、今度は北の空を見上げた。|碧眼《へきがん》に新たな標的を捕らえる鋭い光が宿り、青い髪が再び逆立ち始める。美しい横顔には、使命を果たす覚悟が刻まれていた。