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第二部・幕間〜白草ヨツバのクローバーフィールド・その3〜後編

ー/ー



古都乃(ことの)さん、どうでした? 今朝の配信内容は?」

「バッチグー! 今日も、グッジョブだったよ、ヨツバちゃん!」

 自動車での朝の通勤途上――――――。

 ハンドルを握っているため、ハンズフリーの状態にしたスマホ越しに聞こえる通話の相手、白草四葉の問いかけに、所属する企業で若年向けネイルやコスメ・ブランドの広報戦略を統括する三石(みついし)古都乃は、「万事良好で完璧なようす」を表す、もはや死語となった言葉を冒頭に付け、上機嫌で答えた。

 彼女が広報活動の責任者を務めるこの企業では、SNSを活用した、ステマ……もとい、ターゲット・マーケティングを積極的に行い、テレビなどのマス・メディアへの露出が少ないにも関わらず、十代を中心に熱心な顧客を獲得していた。

 その広報戦略の中心を担うのが、白草四葉のような同世代に影響力を持つインフルエンサーに依頼し、彼女たちの《ミンスタグラム》や《YourTube》の動画などで、自社の商品を紹介してもらう手法だ。

 古都乃が現在の部署に異動した五年前から、社内ではミンスタグラマーやYourTuberを起用した広報活動を行っており、マス・メディアに広告を出稿するより、はるかに低コストでPRが可能なこの戦略のおかげで、大幅に収益を伸ばしていた。

 なかでも、白草四葉をはじめ、この企業と提携しているインフルエンサー本人と直接コンタクトを取る三石古都乃(みついしことの)は、動画配信の内容と宣伝効果に目を光らせながら、商品の伝導者たちとの契約継続や打ち切りを判断する重要なポジションを担っている。

「三石さんに、そう言ってもらえて、嬉しいです! 今回は、お役に立てそうですか?」

 古都乃の言葉が色よいモノだったことに気を良くしたのか、電話口で嬉しそうに声を弾ませる四葉に対して、企業担当者は、大人びた口調で感謝の意志を伝える。

「今回、十分にお役に立ってもらってるわよ! 朝から早速、紹介してもらったアイ・パッチとグロウオイルの注文が殺到してるわ。さっすが、一◯◯万人のフォロワーを誇る、カリスマ・ミンスタグラマーね!」

「そんな……微力ながら、お役に立てたのなら、光栄です」

 年上の人間との会話だから――――――、ということだけでなく、小学生の頃からテレビの音楽番組に出演し、舞台演出家の父と女優の母という芸能一家に生まれ、業界や企業関係者との対応に慣れている四葉は、ふだん、竜司たちに見せる傲岸不遜とも言える言動など、少しも見せずに、奥ゆかしい言葉で対応する。

「相変わらず、謙虚ね……ヨツバちゃんは。きっと、お母さんの教育が良かったのね」

 朗らかな口調で応える古都乃。

 仕事に私情は挟まない彼女ではあるが、実際のところ、契約中の十人あまりの担当ミンスタグラマーの中で、白草四葉のことが、もっとも気に入っている。

 それは、古都乃自身が、四葉の母親である小原真紅(おはらしんく)のファンであること、人気を鼻にかけない謙虚な四葉の言動、そして、広告出稿費における費用対効果の面においてもバツグンのコスト・パフォーマンスを誇る彼女のアカウントに対する絶大な信頼感から生じていた。

「これで、もう少し、私たちの案件を引き受けてくれると、嬉しいんだけどな〜」

「申し訳ありません。引っ越しや転校もあって、なかなか時間が取れなくて……あと、やっぱり、フォロワーのみんなには、本当に喜んでもらえるモノを紹介したいので……あっ、もちろん、古都乃さんの会社の商品は、どれも素敵なんですけど」

 自身の考えを主張しつつ、相手へのフォローを忘れない、年齢に不相応な気づかいをする四葉の言葉に苦笑しつつ、古都乃は、仕事を離れて、自分の担当するインフルエンサーのプライベートな話題に踏み込むことにした。

「まぁ、案件のお話しは冗談として……今日の配信で、ちょっとことがあったんだけどさ〜」

「えっ、なんですか? わたし、なにか、失言とかしちゃいました?」

 こと、という古都乃の言葉に敏感に反応した四葉が、自身の配信に落ち度があったのか、と身構えながら問い返すと、広報戦略の責任者は、微苦笑をたたえながら返答する。

「あ〜、そうじゃなくて……気になったのは、ヨツバちゃんを寝不足にした相手のこと。、紹介してもらえるって、なにか関係あるのかな、って思っただけ」

 信頼する企業案件の提供者の鋭い質問に、四葉は、

「えっ!?」

と、一瞬、言葉を失ったあと、しどろもどろになりながら答える。

「え、え〜と、すいません。プライベートなことは、事務所を通して……」

「え〜? ヨツバちゃん、事務所はお母さんのところに仮所属だったよね。お母さんに聞いてみて良い?」

「ちょ……それは、困ります!」

 それまでの穏やかな口調が一変して、困惑の声をあげる四葉に対し、古都乃は、年上の女性らしく、余裕を持った口調で、

「アハハ……冗談よ。でも、恋の悩みなら、いつでも相談に乗るからね! 遠慮なく、連絡して。まぁ、転校先でも、すぐに男の子たちから告白されるヨツバちゃんには、必要ないかも知れないけど……」

と言って、

「アッハッハ!」

と豪快に笑った。
 自身の言葉に、

「う〜」

と、うなる四葉の声をスマホ越しに聞きながら、これ以上、相手の心には踏み込めないと悟った古都乃は、会話の切り上げ時だと判断し、微笑をたたえて、

「ゴメンね、ヨツバちゃん、変なこと言っちゃって……夜の配信も期待してる! フットネイルの紹介、ヨロシクね!」

「はい……みんなに気に入ってもらえるように、がんばります」

「それじゃ、また、なにかあったら、連絡させてもらうわ!」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 四葉の返答のあと、終話ボタンをタップして、古都乃は、ふたたびハンドルに両手を添える。
 
 仕事に私情を挟まない――――――。

 とは言うものの、古都乃自身は、対人関係や恋愛の悩みなど、担当する十代のインフルエンサーたちのプライベートな相談については、積極的に相談に乗ってきたつもりだ。

 それが、彼女たちの安定した動画配信ならびに商品紹介につながる、というビジネス・パーソンとしての動機はもちろん大きいが、心理面で不安定さをみせることのある十代の彼女たちの相談相手になることを疎ましいと感じることはなかった。

「もう少し、プライベートなことを話してほしい、ってのは、ホントなんだけどな……」

 社会人相手にも物怖じせず、気配りも忘れない白草四葉に本音に迫りたい、という想いを抱えながらつぶやいて、古都乃は、脳内を仕事モードに切り替えることにした。


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「|古都乃《ことの》さん、どうでした? 今朝の配信内容は?」
「バッチグー! 今日も、グッジョブだったよ、ヨツバちゃん!」
 自動車での朝の通勤途上――――――。
 ハンドルを握っているため、ハンズフリーの状態にしたスマホ越しに聞こえる通話の相手、白草四葉の問いかけに、所属する企業で若年向けネイルやコスメ・ブランドの広報戦略を統括する|三石《みついし》古都乃は、「万事良好で完璧なようす」を表す、もはや死語となった言葉を冒頭に付け、上機嫌で答えた。
 彼女が広報活動の責任者を務めるこの企業では、SNSを活用した、ステマ……もとい、ターゲット・マーケティングを積極的に行い、テレビなどのマス・メディアへの露出が少ないにも関わらず、十代を中心に熱心な顧客を獲得していた。
 その広報戦略の中心を担うのが、白草四葉のような同世代に影響力を持つインフルエンサーに依頼し、彼女たちの《ミンスタグラム》や《YourTube》の動画などで、自社の商品を紹介してもらう手法だ。
 古都乃が現在の部署に異動した五年前から、社内ではミンスタグラマーやYourTuberを起用した広報活動を行っており、マス・メディアに広告を出稿するより、はるかに低コストでPRが可能なこの戦略のおかげで、大幅に収益を伸ばしていた。
 なかでも、白草四葉をはじめ、この企業と提携しているインフルエンサー本人と直接コンタクトを取る|三石古都乃《みついしことの》は、動画配信の内容と宣伝効果に目を光らせながら、商品の伝導者たちとの契約継続や打ち切りを判断する重要なポジションを担っている。
「三石さんに、そう言ってもらえて、嬉しいです! 今回は、お役に立てそうですか?」
 古都乃の言葉が色よいモノだったことに気を良くしたのか、電話口で嬉しそうに声を弾ませる四葉に対して、企業担当者は、大人びた口調で感謝の意志を伝える。
「今回《《も》》、十分にお役に立ってもらってるわよ! 朝から早速、紹介してもらったアイ・パッチとグロウオイルの注文が殺到してるわ。さっすが、一◯◯万人のフォロワーを誇る、カリスマ・ミンスタグラマーね!」
「そんな……微力ながら、お役に立てたのなら、光栄です」
 年上の人間との会話だから――――――、ということだけでなく、小学生の頃からテレビの音楽番組に出演し、舞台演出家の父と女優の母という芸能一家に生まれ、業界や企業関係者との対応に慣れている四葉は、ふだん、竜司たちに見せる傲岸不遜とも言える言動など、少しも見せずに、奥ゆかしい言葉で対応する。
「相変わらず、謙虚ね……ヨツバちゃんは。きっと、お母さんの教育が良かったのね」
 朗らかな口調で応える古都乃。
 仕事に私情は挟まない彼女ではあるが、実際のところ、契約中の十人あまりの担当ミンスタグラマーの中で、白草四葉のことが、もっとも気に入っている。
 それは、古都乃自身が、四葉の母親である|小原真紅《おはらしんく》のファンであること、人気を鼻にかけない謙虚な四葉の言動、そして、広告出稿費における費用対効果の面においてもバツグンのコスト・パフォーマンスを誇る彼女のアカウントに対する絶大な信頼感から生じていた。
「これで、もう少し、私たちの案件を引き受けてくれると、嬉しいんだけどな〜」
「申し訳ありません。引っ越しや転校もあって、なかなか時間が取れなくて……あと、やっぱり、フォロワーのみんなには、本当に喜んでもらえるモノを紹介したいので……あっ、もちろん、古都乃さんの会社の商品は、どれも素敵なんですけど」
 自身の考えを主張しつつ、相手へのフォローを忘れない、年齢に不相応な気づかいをする四葉の言葉に苦笑しつつ、古都乃は、仕事を離れて、自分の担当するインフルエンサーのプライベートな話題に踏み込むことにした。
「まぁ、案件のお話しは冗談として……今日の配信で、ちょっと《《気になる》》ことがあったんだけどさ〜」
「えっ、なんですか? わたし、なにか、失言とかしちゃいました?」
 《《気になる》》こと、という古都乃の言葉に敏感に反応した四葉が、自身の配信に落ち度があったのか、と身構えながら問い返すと、広報戦略の責任者は、微苦笑をたたえながら返答する。
「あ〜、そうじゃなくて……気になったのは、ヨツバちゃんを寝不足にした相手のこと。《《放課後の学校であった刺激的なことと》》、紹介してもらえる《《ネイルに目が釘付けだった男の子》》って、なにか関係あるのかな、って思っただけ」
 信頼する企業案件の提供者の鋭い質問に、四葉は、
「えっ!?」
と、一瞬、言葉を失ったあと、しどろもどろになりながら答える。
「え、え〜と、すいません。プライベートなことは、事務所を通して……」
「え〜? ヨツバちゃん、事務所はお母さんのところに仮所属だったよね。お母さんに聞いてみて良い?」
「ちょ……それは、困ります!」
 それまでの穏やかな口調が一変して、困惑の声をあげる四葉に対し、古都乃は、年上の女性らしく、余裕を持った口調で、
「アハハ……冗談よ。でも、恋の悩みなら、いつでも相談に乗るからね! 遠慮なく、連絡して。まぁ、転校先でも、すぐに男の子たちから告白されるヨツバちゃんには、必要ないかも知れないけど……」
と言って、
「アッハッハ!」
と豪快に笑った。
 自身の言葉に、
「う〜」
と、うなる四葉の声をスマホ越しに聞きながら、これ以上、相手の心には踏み込めないと悟った古都乃は、会話の切り上げ時だと判断し、微笑をたたえて、
「ゴメンね、ヨツバちゃん、変なこと言っちゃって……夜の配信も期待してる! フットネイルの紹介、ヨロシクね!」
「はい……みんなに気に入ってもらえるように、がんばります」
「それじゃ、また、なにかあったら、連絡させてもらうわ!」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
 四葉の返答のあと、終話ボタンをタップして、古都乃は、ふたたびハンドルに両手を添える。
 仕事に私情を挟まない――――――。
 とは言うものの、古都乃自身は、対人関係や恋愛の悩みなど、担当する十代のインフルエンサーたちのプライベートな相談については、積極的に相談に乗ってきたつもりだ。
 それが、彼女たちの安定した動画配信ならびに商品紹介につながる、というビジネス・パーソンとしての動機はもちろん大きいが、心理面で不安定さをみせることのある十代の彼女たちの相談相手になることを疎ましいと感じることはなかった。
「もう少し、プライベートなことを話してほしい、ってのは、ホントなんだけどな……」
 社会人相手にも物怖じせず、気配りも忘れない白草四葉に本音に迫りたい、という想いを抱えながらつぶやいて、古都乃は、脳内を仕事モードに切り替えることにした。