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第13話

ー/ー



「えっ!? 稔梨(みのり)がグリ下に?」

「あっ! もう、あそこは壁が設置されて、いまは、みんな別の場所に集まってるんだっけ?」
 
「いや、そういうことじゃなくて……」

 中学校では同級生だったという女子二人の会話は、ボクにとっても意外に感じられるモノだった。
 説明するまでもないかも知れないけど、()()()というのは、僕らの住む県の隣の府にある繁華街・道頓堀にあるグリコ看板下の遊歩道やその周辺一帯を指す言葉で、特に夜間になると多くの若者が集まる場所として知られている場所だ。東日本の通称「トー横」と並んで、その一帯には、家庭環境や学校生活に悩み、居場所を求めて集まる若者が多い、とされていた。

 ただ、湯舟敏羽(ゆふねとわ)の友人の伊藤敦子(いとうあつこ)が付け足すように言ったように、湾岸エリアで開催される万国博覧会に合わせて、グリ下の周辺では、今年の冬に、グリコの看板下の遊歩道付近には、塀が設置され、橋の下で腰掛ける場所が無くなったため、その場所に集まっていた若者たちは、道頓堀川の下流の場所に移動した、というニュースを見た記憶がある。

 そんな場所に、大人しい優等生タイプの葛西稔梨が出かけていたなんて……。
 そして、彼女の友人の湯舟敏羽も、ボクと同じことを感じていたようで確認するように、ボクたちを招いてくれた部屋の主にたずねる。

稔梨(みのり)がグリ下周辺の場所に行ってたのって、ホントなの?」

「うん……誠一くんが言うには、私たちと同じ中学だった金子くんが去年の年末くらいに、グリ下で稔梨(みのり)を見たって言ってたらしいよ」

「さっき聞いた鮎川くんの友達って金子くんだったんだ……たしか、グリ下に居た子たちって、いまは浮き庭って言うんだっけ? 別の場所に集まってるんだよね? 稔梨は、その場所にも行ってたのかな?」

「それは、わかんない」

 情報提供者の伊藤敦子は、そう言って首を横に振った……のだけれど、

「ただ、気になることがあってね……」

と、言葉を続ける。

「二〜三か月くらい前のゴールデン・ウィークの頃だったかな? ガーデンズのツタバの前で、偶然、稔梨に会ったことが会ったんだ。あのコから、『ちょっと話せない?』って言われて、こっちも時間には余裕があったから、ツタバに付き合ったの。そうしたら、稔梨がね『せっかくだから、奢るよ。好きなモノ頼んで』って言うの」

「へぇ、稔梨が? 珍しいね」

「でしょう? あのコ、中学の時から、そういうことにシビアだったじゃない? 私たちと出掛けるときも、お店に入るとき、あんまりお金を使わせちゃいけないなって、稔梨に気を使って入る店を選ばないといけなかったし……それに、ツタバでも『どんどんカスタマイズして良いよ』なんて言って、ガンガン追加注文するの。ほら、これが、稔梨が注文したマンゴーパッションティーフラペチーノ」

 そう言って、伊藤敦子はスマホで彼女のSNSのアカウントを表示させる。
 そこには、鮮やかなマンゴーイエローの最も大きなサイズのドリンクとともに、カスタマイズしたオーダーが記載されていた。

 マンゴーパッションティーフラペチーノ Venti(税込み671円)
 ・パッションティーを抜いてもらう(無料)
 ・ホワイトモカシロップを追加(+税込み55円)
 ・シトラス果肉を追加✕2(+税込み220円)
 ・ホイップクリームを追加(+税込み55円)
 
「全部で、税込1001円。こんなに盛り盛りのカスタマイズなんて初めて見たから、写真を撮らせてもらちゃった。まあ、私も稔梨のお言葉に甘えて、抹茶クリームフラペチーノをカスタマイズさせてもらったんだけどね」

 そう言って、可愛らしくペロッと小さく舌を出した彼女は、続けて自分がオーダーした抹茶ドリンクの画像を表示させた。

「これでも盛った方だけど、900円は超えてないよ」

 葛西の言葉に甘えて、全力でタカった訳では無いとアピールする旧友に、湯舟敏羽は、「あ〜、わかる〜」と、相槌を打ちながら、さり気なく確信に迫る質問をする。

「友だちに奢りたくなるくらい、稔梨はお金を持ってたのかな?」

「それなんだよね〜。私が、冗談交じりで、『なにか良いバイトでも始めたの?』って聞いたら、『敦子にも紹介しようか?』って言ってくるの。それで、『コッチのアカウントで色々と投稿してるから、良かったらフォローして』って言うの。一応、その時アカウントの書き込みは、チラッと見たんだけど、私なんだか怖くなって……気になってた、グリ下のことも聞けなかったんだ……」

 伊藤敦子は、後悔するように、最後の言葉を吐き出した。

「そのアカウントは、いますぐ確認できる?」

「ちょっと待ってね……あっ、結局フォローしなかったから、すぐにはわかんないや。気になるなら、調べてあとでリンクを送るけど?」

「ありがとう、お願い! あとは、グリ下で稔梨を目撃した金子くんに話しを聞くしかないか……」

 お礼の言葉を述べた湯舟がつぶやくように言うと、伊藤敦子は、またもや意外な人物の名前を出してきた。

「それなら、あなた達と同じクラスの仲田(なかだ)さんに聞いた方が良いと思うよ? 最近、稔梨は、あのコと仲が良かったみたいだから」

 その言葉に、湯舟敏羽は、とても驚いたようすだった。


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「えっ!? |稔梨《みのり》がグリ下に?」
「あっ! もう、あそこは壁が設置されて、いまは、みんな別の場所に集まってるんだっけ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
 中学校では同級生だったという女子二人の会話は、ボクにとっても意外に感じられるモノだった。
 説明するまでもないかも知れないけど、|グ《・》|リ《・》|下《・》というのは、僕らの住む県の隣の府にある繁華街・道頓堀にあるグリコ看板下の遊歩道やその周辺一帯を指す言葉で、特に夜間になると多くの若者が集まる場所として知られている場所だ。東日本の通称「トー横」と並んで、その一帯には、家庭環境や学校生活に悩み、居場所を求めて集まる若者が多い、とされていた。
 ただ、|湯舟敏羽《ゆふねとわ》の友人の|伊藤敦子《いとうあつこ》が付け足すように言ったように、湾岸エリアで開催される万国博覧会に合わせて、グリ下の周辺では、今年の冬に、グリコの看板下の遊歩道付近には、塀が設置され、橋の下で腰掛ける場所が無くなったため、その場所に集まっていた若者たちは、道頓堀川の下流の場所に移動した、というニュースを見た記憶がある。
 そんな場所に、大人しい優等生タイプの葛西稔梨が出かけていたなんて……。
 そして、彼女の友人の湯舟敏羽も、ボクと同じことを感じていたようで確認するように、ボクたちを招いてくれた部屋の主にたずねる。
「|稔梨《みのり》がグリ下周辺の場所に行ってたのって、ホントなの?」
「うん……誠一くんが言うには、私たちと同じ中学だった金子くんが去年の年末くらいに、グリ下で|稔梨《みのり》を見たって言ってたらしいよ」
「さっき聞いた鮎川くんの友達って金子くんだったんだ……たしか、グリ下に居た子たちって、いまは浮き庭って言うんだっけ? 別の場所に集まってるんだよね? 稔梨は、その場所にも行ってたのかな?」
「それは、わかんない」
 情報提供者の伊藤敦子は、そう言って首を横に振った……のだけれど、
「ただ、気になることがあってね……」
と、言葉を続ける。
「二〜三か月くらい前のゴールデン・ウィークの頃だったかな? ガーデンズのツタバの前で、偶然、稔梨に会ったことが会ったんだ。あのコから、『ちょっと話せない?』って言われて、こっちも時間には余裕があったから、ツタバに付き合ったの。そうしたら、稔梨がね『せっかくだから、奢るよ。好きなモノ頼んで』って言うの」
「へぇ、稔梨が? 珍しいね」
「でしょう? あのコ、中学の時から、そういうことにシビアだったじゃない? 私たちと出掛けるときも、お店に入るとき、あんまりお金を使わせちゃいけないなって、稔梨に気を使って入る店を選ばないといけなかったし……それに、ツタバでも『どんどんカスタマイズして良いよ』なんて言って、ガンガン追加注文するの。ほら、これが、稔梨が注文したマンゴーパッションティーフラペチーノ」
 そう言って、伊藤敦子はスマホで彼女のSNSのアカウントを表示させる。
 そこには、鮮やかなマンゴーイエローの最も大きなサイズのドリンクとともに、カスタマイズしたオーダーが記載されていた。
 マンゴーパッションティーフラペチーノ Venti(税込み671円)
 ・パッションティーを抜いてもらう(無料)
 ・ホワイトモカシロップを追加(+税込み55円)
 ・シトラス果肉を追加✕2(+税込み220円)
 ・ホイップクリームを追加(+税込み55円)
「全部で、税込1001円。こんなに盛り盛りのカスタマイズなんて初めて見たから、写真を撮らせてもらちゃった。まあ、私も稔梨のお言葉に甘えて、抹茶クリームフラペチーノをカスタマイズさせてもらったんだけどね」
 そう言って、可愛らしくペロッと小さく舌を出した彼女は、続けて自分がオーダーした抹茶ドリンクの画像を表示させた。
「これでも盛った方だけど、900円は超えてないよ」
 葛西の言葉に甘えて、全力でタカった訳では無いとアピールする旧友に、湯舟敏羽は、「あ〜、わかる〜」と、相槌を打ちながら、さり気なく確信に迫る質問をする。
「友だちに奢りたくなるくらい、稔梨はお金を持ってたのかな?」
「それなんだよね〜。私が、冗談交じりで、『なにか良いバイトでも始めたの?』って聞いたら、『敦子にも紹介しようか?』って言ってくるの。それで、『コッチのアカウントで色々と投稿してるから、良かったらフォローして』って言うの。一応、その時アカウントの書き込みは、チラッと見たんだけど、私なんだか怖くなって……気になってた、グリ下のことも聞けなかったんだ……」
 伊藤敦子は、後悔するように、最後の言葉を吐き出した。
「そのアカウントは、いますぐ確認できる?」
「ちょっと待ってね……あっ、結局フォローしなかったから、すぐにはわかんないや。気になるなら、調べてあとでリンクを送るけど?」
「ありがとう、お願い! あとは、グリ下で稔梨を目撃した金子くんに話しを聞くしかないか……」
 お礼の言葉を述べた湯舟がつぶやくように言うと、伊藤敦子は、またもや意外な人物の名前を出してきた。
「それなら、あなた達と同じクラスの|仲田《なかだ》さんに聞いた方が良いと思うよ? 最近、稔梨は、あのコと仲が良かったみたいだから」
 その言葉に、湯舟敏羽は、とても驚いたようすだった。