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第9話

ー/ー



「ゴメン! 憲二さん、応対して! こっちは、手が離せない」

 リビングの掃除機がけを終え、散らばっていたゴミをまとめてゴミ袋に放り込んでいたボクは、まだパジャマ姿のままの叔父に来客の対応を委ねた。

「応対って……オレは、まだ寝間着のままだぞ?」

 そう反論する憲二さんに、

「支度が遅いよ! ナニやってんの!?」

と、ホワイトベースの左舷の弾幕が薄いことに対する叱咤激励の言葉を吐く、連邦軍の若き艦長の(実際のテレビ放送では言っていない)セリフでツッコミを入れたあと、

「クラスメートだから、気にしなくて大丈夫だよ!」

と、返答する。

「はいはい、わかったよ」

 渋々と言った感じで、玄関に向かった叔父の姿を確認したボクは、急いでダイニングテーブルの食器類をキッチンのシンクに移動させてからゴミ集めのラストスパートに入り、まとめたゴミをリビングの隣の部屋に置いている大きなゴミ箱に放り込んだ。

 ドアを占めて、急場しのぎで行った片付けの痕跡を消したボクは、渋い表情で女子生徒を室内に招いた叔父に、

「ありがとう、憲二さん」

と、お礼の言葉を述べたあとで、

「あらためて、おはよう湯舟。案内なしだけど大丈夫だった?」

と、クラスメートには気遣う言葉をかけた。
 すると、ボクの声に答えた湯舟敏羽(ゆふねとわ)は、

「えぇ、ここのお宅は有名だから……」

と、はにかむような表情で応じたあとで、ニコリと微笑んで、叔父にあいさつをする。
 それは、なだらかな坂道が続く住宅街を登ってきたとは思えない、さわやかな笑顔だった。

「朝早くからお邪魔して申し訳ありません。耕史くんと同じクラスの湯舟と言います。よろしくお願いします」

(おいおい、昨日や今朝の通話のときとは、エラい違いじゃないか……)

 クラスメートの豹変ぶりに冷や汗が流れるのを感じていると、パジャマ姿のままで、ボクに近寄ってきた憲二さんが小声でささやいてきた。

「さっき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、言ったじゃないか! 女子生徒が来るなんて聞いてないぞ?」

「そりゃ、性別まで聞かれなかったしね」

「それに、この辺りで湯舟って言えば……」

「そう、彼女は、ユフネ・グループのご令嬢だよ」

 表情を変えずに答えると、憲二さんは、

「それを先に言え!」

と言って、すぐに自室に戻ってしまった。

(なんだ……刑事のくせに、お嬢様相手に緊張しているのか? 変なの……)

 叔父の心境を測りかねたボクは、その行動に疑問を感じながら、クラスメートの女子からの質問に答える。

「なるほど……叔父さんと同居しているから、警察の情報も早く耳に入るんだ。ところで、ご両親は? お二人にものあいさつをさせてもらわないと」

「父も母も居ないよ。ボクが小学生の頃、事故で亡くなったからね」

 ボクのアッサリとした返答に、湯舟は、「えっ」と言葉を失ったあと、申し訳なさそうに続ける。

「ゴメンナサイ、私、知らなくて……」

「別に、湯舟が気にする必要はないよ。ボクは、普通に暮らせているし、高校にも通えているからね」

 クラスメートの言葉に対する返答は、決して強がりなどではない。
 もちろん、両親が亡くなったときは、絶望を感じるくらい悲しかったけど、事故のあと、父親の弟である憲二さんが、実家に戻ることを条件に、ボクを引き取ってくれたので、暮らしに困ることはなかった。

 県警に務めているため、土日問わず忙しい叔父に代わって行う家事全般の作業にも慣れてきたし、実際のところ、親戚や養護施設を転々と移動する世界線もあったのではないかと考えると、ボクは遥かに運が良い方だと思うので、自分の保護者となるべく名乗り出てくれた憲二さんには、とても感謝をしている。もっとも、普段は、そのことをあまり口に出すことは無いけど……。

「じゃあ、家事全般をこなしているっていうのも?」

「あぁ、ウソじゃないよ。まあ、作業が溜まってしまったことに関しては、ここのところ、サボり気味だったことに対する自己責任だけどね」

「そう……それじゃ、私にも手伝わせてくれない? 野田くんの都合も考えずに、朝早くお邪魔してしまったお詫びをしたいの」

「そう言ってもらえるのは、ホントに嬉しいけど、初めて我が家に来てくれたお客さんにそんなことをさせられないよ。洗濯機を回している間に、湯舟の話を聞かせてもらうから、ちょっと待っていてくれないか?」

 ボクは、そう答えて、クラスメートをリビングに案内して、冷たい麦茶を彼女に出す。
 すると、そのタイミングで出勤用のサマースーツに着替えた憲二さんが、ボクたちに声をかけてきた。

「耕史、行ってくるぞ! 湯舟さんに失礼のないようにな……」

 心無しか、いつもより、パリッと決まったジャケットを羽織っている気がしたのだけど、それは、ボクの気のせいかも知れない。

「わかってるよ。これから洗濯するから、部屋に溜まってるモノは、洗濯機に放り込むからね」

 そう言って、出勤する憲二さんを見送ったあと、自室と叔父の部屋から汚れ物を集めたボクは、予告どおり洗濯機に仕事を任せてから、湯舟の待つリビングに戻った。

「お待たせして、ゴメンね。それで、湯舟はどんなことが聞きたいの?」

 ボクの言葉に、湯舟敏羽はすぐに反応する。
 
「もちろん、稔梨が亡くなったときのことについて。私、どうして、あのコが亡くなったのか、理由を知りたいんだ。野田くん、この真相を探るため、私に協力してくれない?」


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「ゴメン! 憲二さん、応対して! こっちは、手が離せない」
 リビングの掃除機がけを終え、散らばっていたゴミをまとめてゴミ袋に放り込んでいたボクは、まだパジャマ姿のままの叔父に来客の対応を委ねた。
「応対って……オレは、まだ寝間着のままだぞ?」
 そう反論する憲二さんに、
「支度が遅いよ! ナニやってんの!?」
と、ホワイトベースの左舷の弾幕が薄いことに対する叱咤激励の言葉を吐く、連邦軍の若き艦長の(実際のテレビ放送では言っていない)セリフでツッコミを入れたあと、
「クラスメートだから、気にしなくて大丈夫だよ!」
と、返答する。
「はいはい、わかったよ」
 渋々と言った感じで、玄関に向かった叔父の姿を確認したボクは、急いでダイニングテーブルの食器類をキッチンのシンクに移動させてからゴミ集めのラストスパートに入り、まとめたゴミをリビングの隣の部屋に置いている大きなゴミ箱に放り込んだ。
 ドアを占めて、急場しのぎで行った片付けの痕跡を消したボクは、渋い表情で女子生徒を室内に招いた叔父に、
「ありがとう、憲二さん」
と、お礼の言葉を述べたあとで、
「あらためて、おはよう湯舟。案内なしだけど大丈夫だった?」
と、クラスメートには気遣う言葉をかけた。
 すると、ボクの声に答えた|湯舟敏羽《ゆふねとわ》は、
「えぇ、ここのお宅は有名だから……」
と、はにかむような表情で応じたあとで、ニコリと微笑んで、叔父にあいさつをする。
 それは、なだらかな坂道が続く住宅街を登ってきたとは思えない、さわやかな笑顔だった。
「朝早くからお邪魔して申し訳ありません。耕史くんと同じクラスの湯舟と言います。よろしくお願いします」
(おいおい、昨日や今朝の通話のときとは、エラい違いじゃないか……)
 クラスメートの豹変ぶりに冷や汗が流れるのを感じていると、パジャマ姿のままで、ボクに近寄ってきた憲二さんが小声でささやいてきた。
「さっき、|ク《・》|ラ《・》|ス《・》|メ《・》|ー《・》|ト《・》|だ《・》|か《・》|ら《・》|気《・》|に《・》|し《・》|な《・》|く《・》|て《・》|大《・》|丈《・》|夫《・》|だ《・》と、言ったじゃないか! 女子生徒が来るなんて聞いてないぞ?」
「そりゃ、性別まで聞かれなかったしね」
「それに、この辺りで湯舟って言えば……」
「そう、彼女は、ユフネ・グループのご令嬢だよ」
 表情を変えずに答えると、憲二さんは、
「それを先に言え!」
と言って、すぐに自室に戻ってしまった。
(なんだ……刑事のくせに、お嬢様相手に緊張しているのか? 変なの……)
 叔父の心境を測りかねたボクは、その行動に疑問を感じながら、クラスメートの女子からの質問に答える。
「なるほど……叔父さんと同居しているから、警察の情報も早く耳に入るんだ。ところで、ご両親は? お二人にものあいさつをさせてもらわないと」
「父も母も居ないよ。ボクが小学生の頃、事故で亡くなったからね」
 ボクのアッサリとした返答に、湯舟は、「えっ」と言葉を失ったあと、申し訳なさそうに続ける。
「ゴメンナサイ、私、知らなくて……」
「別に、湯舟が気にする必要はないよ。ボクは、普通に暮らせているし、高校にも通えているからね」
 クラスメートの言葉に対する返答は、決して強がりなどではない。
 もちろん、両親が亡くなったときは、絶望を感じるくらい悲しかったけど、事故のあと、父親の弟である憲二さんが、実家に戻ることを条件に、ボクを引き取ってくれたので、暮らしに困ることはなかった。
 県警に務めているため、土日問わず忙しい叔父に代わって行う家事全般の作業にも慣れてきたし、実際のところ、親戚や養護施設を転々と移動する世界線もあったのではないかと考えると、ボクは遥かに運が良い方だと思うので、自分の保護者となるべく名乗り出てくれた憲二さんには、とても感謝をしている。もっとも、普段は、そのことをあまり口に出すことは無いけど……。
「じゃあ、家事全般をこなしているっていうのも?」
「あぁ、ウソじゃないよ。まあ、作業が溜まってしまったことに関しては、ここのところ、サボり気味だったことに対する自己責任だけどね」
「そう……それじゃ、私にも手伝わせてくれない? 野田くんの都合も考えずに、朝早くお邪魔してしまったお詫びをしたいの」
「そう言ってもらえるのは、ホントに嬉しいけど、初めて我が家に来てくれたお客さんにそんなことをさせられないよ。洗濯機を回している間に、湯舟の話を聞かせてもらうから、ちょっと待っていてくれないか?」
 ボクは、そう答えて、クラスメートをリビングに案内して、冷たい麦茶を彼女に出す。
 すると、そのタイミングで出勤用のサマースーツに着替えた憲二さんが、ボクたちに声をかけてきた。
「耕史、行ってくるぞ! 湯舟さんに失礼のないようにな……」
 心無しか、いつもより、パリッと決まったジャケットを羽織っている気がしたのだけど、それは、ボクの気のせいかも知れない。
「わかってるよ。これから洗濯するから、部屋に溜まってるモノは、洗濯機に放り込むからね」
 そう言って、出勤する憲二さんを見送ったあと、自室と叔父の部屋から汚れ物を集めたボクは、予告どおり洗濯機に仕事を任せてから、湯舟の待つリビングに戻った。
「お待たせして、ゴメンね。それで、湯舟はどんなことが聞きたいの?」
 ボクの言葉に、湯舟敏羽はすぐに反応する。
「もちろん、稔梨が亡くなったときのことについて。私、どうして、あのコが亡くなったのか、理由を知りたいんだ。野田くん、この真相を探るため、私に協力してくれない?」