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第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜⑩

ー/ー



 柔琳寺(じゅうりんじ)での聞き取り調査を終えたオレは、すぐに、いつも頼りにしている上級生に連絡を取った。
 通話アプリを起動し、彼女のアカウントをタップすると、二度目のコールですぐに彼女は応答する。

「どうしたの、黒田くん? 聞き取り調査でなにか進展があったのかしら?」

「はい、柔琳寺(じゅうりんじ)のご住職から、お話しをうかがって、かなり色々なことがわかってきました。そして、おそらく、亜慈夢(あじむ)古美術堂の店主さんが、オレたちに課題を課した意図も……」
 
「なるほど……そして、私に連絡を取ってきた、ということは、自分の出そうとしている結論について、第三者の意見を仰ぎたい、と言ったところかしら?」

「はい、鳳花先輩の時間をもらって申し訳ないですが、良ければ、話しを聞いてもらえないかと思って……」

「わかったわ。今日も、学校の図書室にいるから、こっちに着いたら声をかけて」

 幸いなことに、我が広報部の部長は、今日も話しを聞いてくれると言う。

「ありがとうございます! これから、そちらに向かいます」

 オレは、鳳花先輩の面倒見の良さに感謝しながら、自転車で山道をくだり、夏休み中の学校を目指す。
 
 快適な下り坂ということもあって、柔琳寺(じゅうりんじ)からは、二十分ほどで先輩の待つ目的地へと到着した。

 図書室の入り口のそばにある自習スペースで、上級生の姿を見つけたオレが声をかけると、彼女は腕時計を確認しながら応じる。

「あら、思ったよりも早かったわね? 少しだけ早いけど、お昼を食べながら、お話しを聞かせてもらおうかしら?」

 先輩の言葉に、「よろしくお願いします」と答えて、オレたちは食堂に移動することにした。

 学期中と異なり、飲食物の提供こそないものの、夏休み中も、部活動を行う生徒のために食事を摂るスペースとして解放されている学内食堂は、正午より少し早い時間帯だったためか、生徒はほとんど利用しておらず、話しを聞いてもらう環境としては理想的なモノだった。

「それで、柔琳寺(じゅうりんじ)は、どんなお話しが聞けたの?」

 持ってきていたお弁当を広げた先輩は、さっそく本題についてたずねてくる。
 一方、昼食を買ってくる時間を惜しんだオレは、先に話しを聞いてもらおうと、会話を切り出した。

「はい、結論から言うと、天竹に調査してもらったアメリカの幽霊屋敷のウワサが広まったのと同じような経緯があると感じました」

「あら、そうなの? どちらも詳しい事情を把握できていない私にも、わかりやすく説明してくれると、ありがたいのだけど……」

 上品にお弁当を食べ始める先輩の言葉に、「わかりました」と答えたオレは、情報を整理しながら、自分の考えを伝える。

「まず、アメリカのミステリー・ハウスについてですが、天竹の報告によれば、この屋敷がオカルト現象と結び付けてウワサされるようになったのは、先輩が話してくれたように、事実報道よりもセンセーショナルと売り上げを重視した新聞記事の影響が大きいようです。この屋敷と女性主人の半生を追った書籍には、伝承における誤情報と実際の事象が比較して列記されているそうです」

「なるほど……まあ、ここまではよくある話しね。それで、柔琳寺(じゅうりんじ)の牛女だったかしら? そちらの方は、どうなの?」

「はい、柔琳寺(じゅうりんじ)の牛女騒動も、やっぱり、マスメディアの影響が大きかったようです。本来あのお寺は、牛女の存在とはまったく無縁だったようなんですが……ご住職の話しによれば、柔琳寺(じゅうりんじ)で最初に牛女の騒動が起こったのは、昭和末期だったそうで、そのウワサの発端は、雑誌メディアに書かれた『境内の|祠(ほこら)のまわりを三周すると牛女が追いかけて来る』という内容の怪談記事だったそうです」

「あら、アメリカのミステリー・ハウスと同じなのね? それが、いまも続いているの?」

「いえ、その時の騒動は、『牛女は残念ながら引越しされました』という看板を立てたことで、一度は収まったそうなんですが――――――平成の中頃に、テレビ局が、牛女の言い伝えを取り上げるべく、騙し討ちのような取材を行ったことで、また騒動が再燃してしまったそうです」

 この話しを聞いているときに、「もう少し詳しい内容を話してもらえませんか?」と、リクエストしたところ、ご住職は、テレビ局の名前と有名タレントの名前をポロリとこぼした。

 詳しいことは話せないが、そのテレビ局名とタレントの名前を聞くと、誰もが「あ〜、そうなんだ……」と納得するモノだったと言うことだけは伝えておきたい。

「ふ〜ん、アメリカの新聞メディアに、日本の雑誌、テレビメディア……たしかに、その時代を代表する媒体によって、怪談が、あたかも事実であるように語られていっている、というのは面白いわね」

 興味深そうな口調で答える先輩にうなずいきながらも、自分自身が、もっとも気になっていることを伝えるために、オレは言葉を続ける。

「たしかに、そうなんですけど……オレは、それ以上に違和感を覚えていることがあるんです」

「あら、まだ何か気になることがあるの?」

「はい、それは、どうして、牛女の伝承が、戦前から自分たちの住む地域限定で伝わっているのか、ということです」

 オレが、まっすぐに先輩の目を見ながら言い終えると、彼女は、こちらの意図に気づいたのだろう、こう問いかけてきた。
 
「その表情だと、貴方は何か確信に近い考えを持っているのね?」

 鳳花先輩の言葉に、オレは大きくうなずいた。


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 |柔琳寺《じゅうりんじ》での聞き取り調査を終えたオレは、すぐに、いつも頼りにしている上級生に連絡を取った。 通話アプリを起動し、彼女のアカウントをタップすると、二度目のコールですぐに彼女は応答する。
「どうしたの、黒田くん? 聞き取り調査でなにか進展があったのかしら?」
「はい、|柔琳寺《じゅうりんじ》のご住職から、お話しをうかがって、かなり色々なことがわかってきました。そして、おそらく、|亜慈夢《あじむ》古美術堂の店主さんが、オレたちに課題を課した意図も……」
「なるほど……そして、私に連絡を取ってきた、ということは、自分の出そうとしている結論について、第三者の意見を仰ぎたい、と言ったところかしら?」
「はい、鳳花先輩の時間をもらって申し訳ないですが、良ければ、話しを聞いてもらえないかと思って……」
「わかったわ。今日も、学校の図書室にいるから、こっちに着いたら声をかけて」
 幸いなことに、我が広報部の部長は、今日も話しを聞いてくれると言う。
「ありがとうございます! これから、そちらに向かいます」
 オレは、鳳花先輩の面倒見の良さに感謝しながら、自転車で山道をくだり、夏休み中の学校を目指す。
 快適な下り坂ということもあって、|柔琳寺《じゅうりんじ》からは、二十分ほどで先輩の待つ目的地へと到着した。
 図書室の入り口のそばにある自習スペースで、上級生の姿を見つけたオレが声をかけると、彼女は腕時計を確認しながら応じる。
「あら、思ったよりも早かったわね? 少しだけ早いけど、お昼を食べながら、お話しを聞かせてもらおうかしら?」
 先輩の言葉に、「よろしくお願いします」と答えて、オレたちは食堂に移動することにした。
 学期中と異なり、飲食物の提供こそないものの、夏休み中も、部活動を行う生徒のために食事を摂るスペースとして解放されている学内食堂は、正午より少し早い時間帯だったためか、生徒はほとんど利用しておらず、話しを聞いてもらう環境としては理想的なモノだった。
「それで、|柔琳寺《じゅうりんじ》は、どんなお話しが聞けたの?」
 持ってきていたお弁当を広げた先輩は、さっそく本題についてたずねてくる。
 一方、昼食を買ってくる時間を惜しんだオレは、先に話しを聞いてもらおうと、会話を切り出した。
「はい、結論から言うと、天竹に調査してもらったアメリカの幽霊屋敷のウワサが広まったのと同じような経緯があると感じました」
「あら、そうなの? どちらも詳しい事情を把握できていない私にも、わかりやすく説明してくれると、ありがたいのだけど……」
 上品にお弁当を食べ始める先輩の言葉に、「わかりました」と答えたオレは、情報を整理しながら、自分の考えを伝える。
「まず、アメリカのミステリー・ハウスについてですが、天竹の報告によれば、この屋敷がオカルト現象と結び付けてウワサされるようになったのは、先輩が話してくれたように、事実報道よりもセンセーショナルと売り上げを重視した新聞記事の影響が大きいようです。この屋敷と女性主人の半生を追った書籍には、伝承における誤情報と実際の事象が比較して列記されているそうです」
「なるほど……まあ、ここまではよくある話しね。それで、|柔琳寺《じゅうりんじ》の牛女だったかしら? そちらの方は、どうなの?」
「はい、|柔琳寺《じゅうりんじ》の牛女騒動も、やっぱり、マスメディアの影響が大きかったようです。本来あのお寺は、牛女の存在とはまったく無縁だったようなんですが……ご住職の話しによれば、|柔琳寺《じゅうりんじ》で最初に牛女の騒動が起こったのは、昭和末期だったそうで、そのウワサの発端は、雑誌メディアに書かれた『境内の||祠《ほこら》のまわりを三周すると牛女が追いかけて来る』という内容の怪談記事だったそうです」
「あら、アメリカのミステリー・ハウスと同じなのね? それが、いまも続いているの?」
「いえ、その時の騒動は、『牛女は残念ながら引越しされました』という看板を立てたことで、一度は収まったそうなんですが――――――平成の中頃に、テレビ局が、牛女の言い伝えを取り上げるべく、騙し討ちのような取材を行ったことで、また騒動が再燃してしまったそうです」
 この話しを聞いているときに、「もう少し詳しい内容を話してもらえませんか?」と、リクエストしたところ、ご住職は、テレビ局の名前と有名タレントの名前をポロリとこぼした。
 詳しいことは話せないが、そのテレビ局名とタレントの名前を聞くと、誰もが「あ〜、そうなんだ……」と納得するモノだったと言うことだけは伝えておきたい。
「ふ〜ん、アメリカの新聞メディアに、日本の雑誌、テレビメディア……たしかに、その時代を代表する媒体によって、怪談が、あたかも事実であるように語られていっている、というのは面白いわね」
 興味深そうな口調で答える先輩にうなずいきながらも、自分自身が、もっとも気になっていることを伝えるために、オレは言葉を続ける。
「たしかに、そうなんですけど……オレは、それ以上に違和感を覚えていることがあるんです」
「あら、まだ何か気になることがあるの?」
「はい、それは、どうして、牛女の伝承が、戦前から自分たちの住む地域限定で伝わっているのか、ということです」
 オレが、まっすぐに先輩の目を見ながら言い終えると、彼女は、こちらの意図に気づいたのだろう、こう問いかけてきた。
「その表情だと、貴方は何か確信に近い考えを持っているのね?」
 鳳花先輩の言葉に、オレは大きくうなずいた。