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第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜③

ー/ー



「壮馬ァァァァァァ! なに、やってんだあ〜〜〜〜〜!!」

 住宅街を抜けたことで、周囲に家屋が無いことから、オレはペダルを漕ぐ脚にチカラを込めながら、絶叫する。
 こちらの声が数十メートル先の相手に届いたのか、真っ黒な姿の人影がこちらを振り向いたように感じられた。

 そのまま全速力で、ペダルを踏み込み続け、夫婦岩のそばまで来たところで、歩道に自転車を置く。

 そして、もう一度、車道の真ん中に鎮座する巨石から離れようとしない親友に向かって、声をあげた。

「壮馬! こんな時間に、なにやってんだ!!」

 交通量の少なくなる深夜帯なので、走ってくる自動車やバイクを確認することもなく、車道を横切って夫婦岩に駆け寄ると、壮馬は薄い笑みを浮かべながら、

「なんだよ、竜司。邪魔しないでくれよ」

と、緩みきった表情でこちらを見つめ返してきた。
 よく見ると、焦点があっていないような視線に気づき、オレは親友の両手でつかんで揺さぶった。

「しっかりしろ、壮馬! こんな夜中に、こんな場所まで来て、どういうつもりだ!?」

「どういうつもりだって? 決まってるじゃないか? 牛女を撮影しに来たんだよ?」

 そのようすに、どう返答したものか、言葉を失っていると、相変わらず、ヘラヘラと緩んだ表情で答える親友の姿が目に入ったのか、オレのあとを追ってきた緑川も心配げな表情でたずねてくる。

「黒田、大丈夫なのか? 黄瀬のようすは、おかしくないか?」

 クラスメートの声にうなずいたオレは、

「あぁ! とにかく、壮馬を歩道に連れ戻そう。緑川、白草の連絡先は知ってるよな? 夫婦岩で壮馬を見つけたとメッセージを送ってくれないか?」

と返答し、親友を安全は歩道に移動させようと手をつかむ。しかし――――――。

「なんだよ! 邪魔するなって言ったじゃないか!!」

 そう言ったかと思うと、オレの手を乱暴に振り払った。
 その形相に驚いたのか、スマホを手にして、シロに連絡を取ろうとしていた緑川は、持っていた端末をアスファルトの路面に落としてしまったようだ。

 そんな親友の尋常でないようすとクラスメートの狼狽ぶりを目にしたオレは、壮馬を無理やり歩道に連れ戻すことをあきらめ、あらためて、緑川に呼びかける。

「壮馬のそばに居ると何があるかわからない。緑川は、歩道に戻ってから、白草と連絡を取ってくれ」

「あ、あぁ。わかった」

 焦りながらも、スマホを拾い上げた緑川が歩道に戻っていくのを確認し、オレは壮馬の説得を続けることにした。

「壮馬、なんでオレに相談せずに、一人でこんなところまで来たんだよ? 撮影をするなら、オレに一声くらい掛けてくれても良いじゃないか?」

 なるべく、相手を刺激しないよう、穏やかな言葉を選びながら親友に問いかける。
 すると、先ほどの激しく怒りをあらわにした表情や、出会った直後の緩みきった顔とは違い、壮馬は、少しだけ、いじけるような表情で言葉を返してきた。

「こんな時間に出掛けるのに、竜司に迷惑を掛けられないし……それに、相談したら絶対に止めるだろう?」

 前髪を触りながら語る、どこか子供っぽい仕草に、少し和みながら、オレは答える。

「相談してくれたら、頭ごなしに反対はしねぇよ。それより、一人でこんな時間に、こんな場所に来ることが、どれだけ危険か考えろ。あの古美術堂の店主さんも言ってだろう? 『心霊スポットは、夜に訪れるだろうから、防犯対策も重要。一人での訪問は避け、必ず複数人で行動するように』ってな」

 努めて、ゆったりとした口調で語ると、親友の表情にも自然なで柔らかな笑みが浮かび、

「そっか……ゴメン……」

と、その口から素直な謝罪の言葉が出た。

「わかってくれたなら、それでイイよ。それより、奈々美さんが心配してるぞ?」

 オレは、そう言って、スマホの着信履歴を壮馬に見せた。

「そうか、母さんが……竜司、色々とゴメン」

「オレじゃなく、まず、両親に謝っとけよ」
 
 と言うと、ふたたび、親友は素直に頭を下げる。
 そんな姿を横目に見ながら、二人で緑川が待っている歩道に戻り、オレはスマホの着信履歴から、友人の母親の番号にリダイヤルした。

 1コールで応答した奈々美さんに、

「壮馬を見つけました。いま、一緒にいるところです」

と告げると、

「ホントに? ありがとう、竜司くん! そばに居るなら、あの子に代わって!」

と返答があった。
 すぐに壮馬にスマホを手渡し、親子で話し合ってもらうことにする。

 しばらくして、両親ふたりから小言をもらったようすの壮馬からスマホを返してもらい、ふたたび、お礼を繰り返す奈々美さんに恐縮しながら通話を終えると、真夜中の県道脇の歩道にたたずむ男子三名の間には、ようやく、緊張が解ける空気が流れ出した。

「緑川も付いて来てくれたんだ……わざわざ、ゴメン」

 振り返ってみれば、壮馬が、ライブ配信に参加してくれた緑川に謝罪するのは、これが初めてかも知れない。

「いや、別に気にしなくて良いよ。それより、黄瀬は、どうして、こんな時間にひとりで夫婦岩に来たんだ?」

 根は、人の良い性格なのか、緑川が謝罪を受け流しながら、疑問に思っていたであろうことをたずねると、壮馬は、少し照れくさそうに頬をかきながら答える。

「牛女は、深夜十二時になると夫婦岩にあらわれるって言うだろう? だから、この時間なら、もう一度、目の前にあらわれるんじゃないかって思ったんだよ」

 そんな親友の言葉に、「ナニを馬鹿なことを言ってるんだ? 壮馬らしくないな……」と、口にしたところで、緑川が、

「あっ!」

と、声をあげる。

「あっ、アレはなんだ!?」

 クラスメートが指差す場所に目を向けると、夫婦岩の上には、女性ものの和服を着た、人らしき姿の者が立っていた。


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「壮馬ァァァァァァ! なに、やってんだあ〜〜〜〜〜!!」
 住宅街を抜けたことで、周囲に家屋が無いことから、オレはペダルを漕ぐ脚にチカラを込めながら、絶叫する。
 こちらの声が数十メートル先の相手に届いたのか、真っ黒な姿の人影がこちらを振り向いたように感じられた。
 そのまま全速力で、ペダルを踏み込み続け、夫婦岩のそばまで来たところで、歩道に自転車を置く。
 そして、もう一度、車道の真ん中に鎮座する巨石から離れようとしない親友に向かって、声をあげた。
「壮馬! こんな時間に、なにやってんだ!!」
 交通量の少なくなる深夜帯なので、走ってくる自動車やバイクを確認することもなく、車道を横切って夫婦岩に駆け寄ると、壮馬は薄い笑みを浮かべながら、
「なんだよ、竜司。邪魔しないでくれよ」
と、緩みきった表情でこちらを見つめ返してきた。
 よく見ると、焦点があっていないような視線に気づき、オレは親友の両手でつかんで揺さぶった。
「しっかりしろ、壮馬! こんな夜中に、こんな場所まで来て、どういうつもりだ!?」
「どういうつもりだって? 決まってるじゃないか? 牛女を撮影しに来たんだよ?」
 そのようすに、どう返答したものか、言葉を失っていると、相変わらず、ヘラヘラと緩んだ表情で答える親友の姿が目に入ったのか、オレのあとを追ってきた緑川も心配げな表情でたずねてくる。
「黒田、大丈夫なのか? 黄瀬のようすは、おかしくないか?」
 クラスメートの声にうなずいたオレは、
「あぁ! とにかく、壮馬を歩道に連れ戻そう。緑川、白草の連絡先は知ってるよな? 夫婦岩で壮馬を見つけたとメッセージを送ってくれないか?」
と返答し、親友を安全は歩道に移動させようと手をつかむ。しかし――――――。
「なんだよ! 邪魔するなって言ったじゃないか!!」
 そう言ったかと思うと、オレの手を乱暴に振り払った。
 その形相に驚いたのか、スマホを手にして、シロに連絡を取ろうとしていた緑川は、持っていた端末をアスファルトの路面に落としてしまったようだ。
 そんな親友の尋常でないようすとクラスメートの狼狽ぶりを目にしたオレは、壮馬を無理やり歩道に連れ戻すことをあきらめ、あらためて、緑川に呼びかける。
「壮馬のそばに居ると何があるかわからない。緑川は、歩道に戻ってから、白草と連絡を取ってくれ」
「あ、あぁ。わかった」
 焦りながらも、スマホを拾い上げた緑川が歩道に戻っていくのを確認し、オレは壮馬の説得を続けることにした。
「壮馬、なんでオレに相談せずに、一人でこんなところまで来たんだよ? 撮影をするなら、オレに一声くらい掛けてくれても良いじゃないか?」
 なるべく、相手を刺激しないよう、穏やかな言葉を選びながら親友に問いかける。
 すると、先ほどの激しく怒りをあらわにした表情や、出会った直後の緩みきった顔とは違い、壮馬は、少しだけ、いじけるような表情で言葉を返してきた。
「こんな時間に出掛けるのに、竜司に迷惑を掛けられないし……それに、相談したら絶対に止めるだろう?」
 前髪を触りながら語る、どこか子供っぽい仕草に、少し和みながら、オレは答える。
「相談してくれたら、頭ごなしに反対はしねぇよ。それより、一人でこんな時間に、こんな場所に来ることが、どれだけ危険か考えろ。あの古美術堂の店主さんも言ってだろう? 『心霊スポットは、夜に訪れるだろうから、防犯対策も重要。一人での訪問は避け、必ず複数人で行動するように』ってな」
 努めて、ゆったりとした口調で語ると、親友の表情にも自然なで柔らかな笑みが浮かび、
「そっか……ゴメン……」
と、その口から素直な謝罪の言葉が出た。
「わかってくれたなら、それでイイよ。それより、奈々美さんが心配してるぞ?」
 オレは、そう言って、スマホの着信履歴を壮馬に見せた。
「そうか、母さんが……竜司、色々とゴメン」
「オレじゃなく、まず、両親に謝っとけよ」
 と言うと、ふたたび、親友は素直に頭を下げる。
 そんな姿を横目に見ながら、二人で緑川が待っている歩道に戻り、オレはスマホの着信履歴から、友人の母親の番号にリダイヤルした。
 1コールで応答した奈々美さんに、
「壮馬を見つけました。いま、一緒にいるところです」
と告げると、
「ホントに? ありがとう、竜司くん! そばに居るなら、あの子に代わって!」
と返答があった。
 すぐに壮馬にスマホを手渡し、親子で話し合ってもらうことにする。
 しばらくして、両親ふたりから小言をもらったようすの壮馬からスマホを返してもらい、ふたたび、お礼を繰り返す奈々美さんに恐縮しながら通話を終えると、真夜中の県道脇の歩道にたたずむ男子三名の間には、ようやく、緊張が解ける空気が流れ出した。
「緑川も付いて来てくれたんだ……わざわざ、ゴメン」
 振り返ってみれば、壮馬が、ライブ配信に参加してくれた緑川に謝罪するのは、これが初めてかも知れない。
「いや、別に気にしなくて良いよ。それより、黄瀬は、どうして、こんな時間にひとりで夫婦岩に来たんだ?」
 根は、人の良い性格なのか、緑川が謝罪を受け流しながら、疑問に思っていたであろうことをたずねると、壮馬は、少し照れくさそうに頬をかきながら答える。
「牛女は、深夜十二時になると夫婦岩にあらわれるって言うだろう? だから、この時間なら、もう一度、目の前にあらわれるんじゃないかって思ったんだよ」
 そんな親友の言葉に、「ナニを馬鹿なことを言ってるんだ? 壮馬らしくないな……」と、口にしたところで、緑川が、
「あっ!」
と、声をあげる。
「あっ、アレはなんだ!?」
 クラスメートが指差す場所に目を向けると、夫婦岩の上には、女性ものの和服を着た、人らしき姿の者が立っていた。