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第3章〜汚れた聖地巡礼について〜⑮

ー/ー



(なんだ、壮馬はもう帰ったのか)

 と考えつつ、スマホを確認すると、思ったとおり親友からLANEのメッセージが届いている。

 ==============
 一通りできるとこまで編集完了

 いつものフォルダに動画を
 入れてるから確認してみて
 ==============

 帰宅のあいさつも無しに、相変わらず、言いたいことだけを伝える内容に苦笑しつつ、いつもどおりの友人の雰囲気に戻ったことを感じ取って、少し安心する。

 どうやら、壮馬は、必要な編集作業を終えて、自宅に戻ったようだ。

 ここのところ、普段とは異なるようすを見せていたことから、親友の言動を注視しておかないといけない、と考えていたが、こうして、本職(?)の動画編集作業を行えば、いつもと変わらない雰囲気に戻っているように感じられたことから、これまでの心配は、自分の取り越し苦労だったか、と考え直す。

 そうして、一人で淡々と作業をこなす親友の普段の姿を思い浮かべながら、メッセージにあった依頼に従って、編集室のデスクトップPCを起動し、動画の確認を行う。

 整理された動画フォルダの中には、『心霊スポットツアー』というタイトルの新規フォルダが作られているのが目に入った。
 こういうときに、細かな指示を記さないのも壮馬らしい。

 そんなことを考えながら、フォルダを開くと、そこで、おかしなことに気づいた。
 フォルダの中には、3つしか動画ファイルが保存されていない。

(壮馬は、各スポットで完成版の動画を作るって言ってたのに……)

 かすかに感じた違和感を振り払いながら、更新時間が古いファイルから順に再生していく。

 1つ目は、武甲川鉄橋そばの踏み切りだ。
 これには、ライブ配信時に収録されていなかったはずの謎の()()()()のようなものが、編集で重ねられていた。

(この謎の音を切り取り動画で強調するのか?)

 親友の編集意図を汲み取りながら、画面に集中する。
 
 当初の予定では、明日の午後に、緑川が発見した現場に残されたカメラから動画を取り出したという設定で、ネット上にデータをアップロードすることになっている。
 
 その動画が、いまオレが確認している映像だ。
 さらに、動画サイトにアップした編集版の動画をもとに、恐怖シーンの切り抜き動画を準備しておき、シロの《TikTak》のアカウントで切り抜きのショート動画をバズらせ(竜馬ちゃんねる)の別アカウントで、夫婦岩訪問の最後の動画に視聴者を誘導する……というのが、今回の企画の全容だ。

 自分たちの企画を振り返りながら、2本目の動画の視聴に移る。

 日の池公園の公衆トイレで撮影された動画では、オレたちが手洗い場を前に実況を行っている背後で、壁や天井に手形のシミが増えていく。

 真面目な表情で語る自分たちの背中の方で音もなく増えていく手の形が不気味さを醸し出していた。

 そして、3本目の動画では――――――。

 墓地の中心にたたずむ片手を挙げた少女の手がゆっくりと手招きをする特殊効果が使われていた。それは、当地で語り継がれているウワサによれば、事故や死を招くサインでもある。

 こうして見ると、心霊スポット訪問を重ねるたびに、徐々に恐怖度が増して行っているように感じられる。

 親友の相変わらずの演出の巧みさに感心しつつ、最後の訪問場所である夫婦岩で起きた出来事と記録されていた映像を思い出す。

(あの映像には、かなりハッキリと、()()()()()らしき存在が映り込んでいたしな……)

 あの内容で十分に再生数を上げられる……壮馬も、そう考えたんだろう――――――。

 そう考えて、安心しきっていた自分の考えの安直さをオレは後悔することになる。

 動画の確認を終えて、一人きりの夕食と入浴も済んで、

(少し早いが、明日の動画アップロードに備えて寝ておくとするか……)

と、ベッドに入ろうとした午後10時半を過ぎたあたりのこと――――――。

 スマホに珍しい相手から電話が掛かってきた。

「竜司くん、壮馬はそっちに行っていない? 1時間ほど前に家を出て行ったきり、戻ってこないのよ」

 電話の声は、オレが小学生の頃からお世話になっている壮馬の母親のものだった。


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(なんだ、壮馬はもう帰ったのか)
 と考えつつ、スマホを確認すると、思ったとおり親友からLANEのメッセージが届いている。
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 一通りできるとこまで編集完了
 いつものフォルダに動画を
 入れてるから確認してみて
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 帰宅のあいさつも無しに、相変わらず、言いたいことだけを伝える内容に苦笑しつつ、いつもどおりの友人の雰囲気に戻ったことを感じ取って、少し安心する。
 どうやら、壮馬は、必要な編集作業を終えて、自宅に戻ったようだ。
 ここのところ、普段とは異なるようすを見せていたことから、親友の言動を注視しておかないといけない、と考えていたが、こうして、本職(?)の動画編集作業を行えば、いつもと変わらない雰囲気に戻っているように感じられたことから、これまでの心配は、自分の取り越し苦労だったか、と考え直す。
 そうして、一人で淡々と作業をこなす親友の普段の姿を思い浮かべながら、メッセージにあった依頼に従って、編集室のデスクトップPCを起動し、動画の確認を行う。
 整理された動画フォルダの中には、『心霊スポットツアー』というタイトルの新規フォルダが作られているのが目に入った。
 こういうときに、細かな指示を記さないのも壮馬らしい。
 そんなことを考えながら、フォルダを開くと、そこで、おかしなことに気づいた。
 フォルダの中には、3つしか動画ファイルが保存されていない。
(壮馬は、各スポットで完成版の動画を作るって言ってたのに……)
 かすかに感じた違和感を振り払いながら、更新時間が古いファイルから順に再生していく。
 1つ目は、武甲川鉄橋そばの踏み切りだ。
 これには、ライブ配信時に収録されていなかったはずの謎の|う《・》|め《・》|き《・》|声《・》のようなものが、編集で重ねられていた。
(この謎の音を切り取り動画で強調するのか?)
 親友の編集意図を汲み取りながら、画面に集中する。
 当初の予定では、明日の午後に、緑川が発見した現場に残されたカメラから動画を取り出したという設定で、ネット上にデータをアップロードすることになっている。
 その動画が、いまオレが確認している映像だ。
 さらに、動画サイトにアップした編集版の動画をもとに、恐怖シーンの切り抜き動画を準備しておき、シロの《TikTak》のアカウントで切り抜きのショート動画をバズらせ、《竜馬ちゃんねる》の別アカウントで、夫婦岩訪問の最後の動画に視聴者を誘導する……というのが、今回の企画の全容だ。
 自分たちの企画を振り返りながら、2本目の動画の視聴に移る。
 日の池公園の公衆トイレで撮影された動画では、オレたちが手洗い場を前に実況を行っている背後で、壁や天井に手形のシミが増えていく。
 真面目な表情で語る自分たちの背中の方で音もなく増えていく手の形が不気味さを醸し出していた。
 そして、3本目の動画では――――――。
 墓地の中心にたたずむ片手を挙げた少女の手がゆっくりと手招きをする特殊効果が使われていた。それは、当地で語り継がれているウワサによれば、事故や死を招くサインでもある。
 こうして見ると、心霊スポット訪問を重ねるたびに、徐々に恐怖度が増して行っているように感じられる。
 親友の相変わらずの演出の巧みさに感心しつつ、最後の訪問場所である夫婦岩で起きた出来事と記録されていた映像を思い出す。
(あの映像には、かなりハッキリと、|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》らしき存在が映り込んでいたしな……)
 あの内容で十分に再生数を上げられる……壮馬も、そう考えたんだろう――――――。
 そう考えて、安心しきっていた自分の考えの安直さをオレは後悔することになる。
 動画の確認を終えて、一人きりの夕食と入浴も済んで、
(少し早いが、明日の動画アップロードに備えて寝ておくとするか……)
と、ベッドに入ろうとした午後10時半を過ぎたあたりのこと――――――。
 スマホに珍しい相手から電話が掛かってきた。
「竜司くん、壮馬はそっちに行っていない? 1時間ほど前に家を出て行ったきり、戻ってこないのよ」
 電話の声は、オレが小学生の頃からお世話になっている壮馬の母親のものだった。