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#1 Relic Collector ―古書籍商―

ー/ー



 文明レベル8の惑星が滅んだという情報を小耳に挟んだので、とりあえず行ってみた。

 辺境の話だから、速報ニュースもヘッドラインのみで続報無しの雑な扱いだったけどたまたま近くに居たので寄ってみた、てなレベル。具体的な災厄(ディザスター)の要因も当然不明だし、そうでなくとも惑星規模の滅亡(ダイオフ)だから、正直期待薄ではあった。
 情報が薄すぎたのか、いつもなら集まってくる故買屋連中も動きがない。

 こりゃ、くたびれ損かな。

 そう思いながらも、せっかくなので、俺は全天宙図に書いてある空間座標に向かった。しかし、500光秒まで近づいても惑星らしき影は見えない。長距離レーダーを基に描画された該当エリアを24インチブラウン管に表示してみたが、うっすらとした雲みたいな影しか映っていない。
 もしかするとと思った俺は、長年培った直観を信じ、すぐ近くにあったG型恒星でフライバイ加速をして現場に急いだ。



 そこにあるはずの惑星は、影も形も無くなっていた。そして同一軌道上をふらふらしていた小型惑星級の衛星(こちらは宙図に登録された通り)を中心に、おびただしい数の破片や人工物等、惑星由来のデブリが霧のように漂っていた。
 どうやら灼熱崩壊ではなかったらしい。浮かぶデブリは小惑星大からちりレベルの極小ものまでさまざまで、ところどころにコロニーのような塊を形づくっている。外殻を大容量電磁シールドで覆う俺の店のような船でないと穴だらけにあってしまうことだろう。
 ぶっちゃけ、これは大漁だ。

 俺は相棒AIの留治(ルイージ)を起こして、操船をやらせた。最初は寝起きで文句を垂れていた留治だが、外の状況を見て目の色が変わったようだ。そうなれば、船のことはヤツにまかせとけばいい。俺は目視で獲物を探した。狙いを理解している留治が、早くも見つけた大きめの人工構築物が集まったコロニーに近づいていく。

 あきらかに居住用と思われる構築物にアンカーを打ち込んで、船と建物の相対速度を0(ゼロ)にする。留治の野郎、随分と上手くなりやがった。荷捌きで待ち構えていた俺は、小型シールドスーツ姿で軽トラに乗り、颯爽と外に出た。
 さあ、お宝探しだ。

 建物の中には惑星の生物だったと思われる、破裂してからからに乾いたミイラがそこここに漂っていた。大きさはおおむねギャラクシー標準サイズ。中核ボディから5つの突起を生やした形状だが、一番小さな突起は他のとの位置関係や破損度合いから考えてコミュニケーションモジュラー機能を持つ司令塔だったのだろう。てことは、この星の基本は四肢生物か。しかも長さの違うのがボディの左右に2本ずつ対になってる。まさか二足歩行って奴か。レアじゃん。こりゃあ獲物が楽しみだ。

 軽トラに張り付けた右目#24と#31が漂ってる獲物を見つけた。やったぜ大金星! 俺は運転席を蹴って飛び出し、獲物を掴んだ。マジかよ。紙の本じゃねえか。こりゃ大当たりだよ。300枚くらいの紙を綺麗に束ねた細かい絵がたくさん入った本だ。建物の壁をマニピュレータで掴んで体を固定させてから、ぺらぺらと紙をめくる。どうやらこの星の生き物の生活や行動を活写した絵物語らしい。このタイプは珍しい。俺はお得意様の好事家どもの顔を思い浮かべた。同業者が群がってくる前にがっつり集めて、早いとこ売り出さんといかんな。
 ページを繰りながらスキャンした画像を、店舗ページの新着情報にリアルタイムで流しておく。おっと。早くも予約が入ったぜ。

 本を背嚢の中に収めると、俺は手近な扉(らしきもの)に手を掛けた。ひしゃげたドアをなんとか開くと、中はパラダイスだった。部屋中を埋め尽くすように本が漂っている。破裂した際に飛び散ったと思われる生物の体液で赤黒く汚れているものもあるが、ほとんどが状態は良いままだ。床や壁に固定されているのはおそらく書棚だ。ここにびっしりと並べられた本が、惑星崩壊とともに部屋ごと飛ばされたのだろう。ってことは、ここには続き物が揃ってるな。最高だぜ。俺は軽トラのスレイブバグズを呼び出して、部屋の中の本をすべて回収する指示を下した。


 
 ここの惑星周期(随伴衛星を基準にした)で3周期日の間獲物漁りをした俺は、仲間内の古書ギルドに連絡した。あと10周期日もすれば、連中もぞろぞろとやってくるだろう。懇意にしている考古学研究室にも先に詳細情報を送っておいたから、あいつらの方が早いかな。めぼしいコロニー数十か所にマーキングフラグを立て終えた俺は、意気揚々と帰路についた。
 実際はここからが大忙しだ。なにしろ、まったくわからない言語体系の本数万冊を、続きものごとでまとめ上げなきゃならない。どこよりも早く店頭に並べるために、ギャラクシー一の人気古書店にのし上がるために、俺は頑張っちゃうのだ。

 とはいえさすがにだいぶ疲れたから、分類作業は明日からやろう。今夜は留治を誘って酒でも飲みながら、今は亡きあの惑星の四肢生物を写した、とくに美麗な画像集でも眺めて過ごすとするか。

 と、いいタイミングでアラートが鳴った。この3周期日で大量の文字を読み込ませた簡易翻訳機が、どうやら解読を済ませたようだ。俺は再生の指示を出す。
 機械音声が、手元の画像集の書名を厳かに読み上げた。

《*『Santa Fe』*》


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 文明レベル8の惑星が滅んだという情報を小耳に挟んだので、とりあえず行ってみた。
 辺境の話だから、速報ニュースもヘッドラインのみで続報無しの雑な扱いだったけどたまたま近くに居たので寄ってみた、てなレベル。具体的な|災厄《ディザスター》の要因も当然不明だし、そうでなくとも惑星規模の|滅亡《ダイオフ》だから、正直期待薄ではあった。
 情報が薄すぎたのか、いつもなら集まってくる故買屋連中も動きがない。
 こりゃ、くたびれ損かな。
 そう思いながらも、せっかくなので、俺は全天宙図に書いてある空間座標に向かった。しかし、500光秒まで近づいても惑星らしき影は見えない。長距離レーダーを基に描画された該当エリアを24インチブラウン管に表示してみたが、うっすらとした雲みたいな影しか映っていない。
 もしかするとと思った俺は、長年培った直観を信じ、すぐ近くにあったG型恒星でフライバイ加速をして現場に急いだ。
 そこにあるはずの惑星は、影も形も無くなっていた。そして同一軌道上をふらふらしていた小型惑星級の衛星(こちらは宙図に登録された通り)を中心に、おびただしい数の破片や人工物等、惑星由来のデブリが霧のように漂っていた。
 どうやら灼熱崩壊ではなかったらしい。浮かぶデブリは小惑星大からちりレベルの極小ものまでさまざまで、ところどころにコロニーのような塊を形づくっている。外殻を大容量電磁シールドで覆う俺の店のような船でないと穴だらけにあってしまうことだろう。
 ぶっちゃけ、これは大漁だ。
 俺は相棒AIの|留治《ルイージ》を起こして、操船をやらせた。最初は寝起きで文句を垂れていた留治だが、外の状況を見て目の色が変わったようだ。そうなれば、船のことはヤツにまかせとけばいい。俺は目視で獲物を探した。狙いを理解している留治が、早くも見つけた大きめの人工構築物が集まったコロニーに近づいていく。
 あきらかに居住用と思われる構築物にアンカーを打ち込んで、船と建物の相対速度を|0《ゼロ》にする。留治の野郎、随分と上手くなりやがった。荷捌きで待ち構えていた俺は、小型シールドスーツ姿で軽トラに乗り、颯爽と外に出た。
 さあ、お宝探しだ。
 建物の中には惑星の生物だったと思われる、破裂してからからに乾いたミイラがそこここに漂っていた。大きさはおおむねギャラクシー標準サイズ。中核ボディから5つの突起を生やした形状だが、一番小さな突起は他のとの位置関係や破損度合いから考えてコミュニケーションモジュラー機能を持つ司令塔だったのだろう。てことは、この星の基本は四肢生物か。しかも長さの違うのがボディの左右に2本ずつ対になってる。まさか二足歩行って奴か。レアじゃん。こりゃあ獲物が楽しみだ。
 軽トラに張り付けた右目#24と#31が漂ってる獲物を見つけた。やったぜ大金星! 俺は運転席を蹴って飛び出し、獲物を掴んだ。マジかよ。紙の本じゃねえか。こりゃ大当たりだよ。300枚くらいの紙を綺麗に束ねた細かい絵がたくさん入った本だ。建物の壁をマニピュレータで掴んで体を固定させてから、ぺらぺらと紙をめくる。どうやらこの星の生き物の生活や行動を活写した絵物語らしい。このタイプは珍しい。俺はお得意様の好事家どもの顔を思い浮かべた。同業者が群がってくる前にがっつり集めて、早いとこ売り出さんといかんな。
 ページを繰りながらスキャンした画像を、店舗ページの新着情報にリアルタイムで流しておく。おっと。早くも予約が入ったぜ。
 本を背嚢の中に収めると、俺は手近な扉(らしきもの)に手を掛けた。ひしゃげたドアをなんとか開くと、中はパラダイスだった。部屋中を埋め尽くすように本が漂っている。破裂した際に飛び散ったと思われる生物の体液で赤黒く汚れているものもあるが、ほとんどが状態は良いままだ。床や壁に固定されているのはおそらく書棚だ。ここにびっしりと並べられた本が、惑星崩壊とともに部屋ごと飛ばされたのだろう。ってことは、ここには続き物が揃ってるな。最高だぜ。俺は軽トラのスレイブバグズを呼び出して、部屋の中の本をすべて回収する指示を下した。
 ここの惑星周期(随伴衛星を基準にした)で3周期日の間獲物漁りをした俺は、仲間内の古書ギルドに連絡した。あと10周期日もすれば、連中もぞろぞろとやってくるだろう。懇意にしている考古学研究室にも先に詳細情報を送っておいたから、あいつらの方が早いかな。めぼしいコロニー数十か所にマーキングフラグを立て終えた俺は、意気揚々と帰路についた。
 実際はここからが大忙しだ。なにしろ、まったくわからない言語体系の本数万冊を、続きものごとでまとめ上げなきゃならない。どこよりも早く店頭に並べるために、ギャラクシー一の人気古書店にのし上がるために、俺は頑張っちゃうのだ。
 とはいえさすがにだいぶ疲れたから、分類作業は明日からやろう。今夜は留治を誘って酒でも飲みながら、今は亡きあの惑星の四肢生物を写した、とくに美麗な画像集でも眺めて過ごすとするか。
 と、いいタイミングでアラートが鳴った。この3周期日で大量の文字を読み込ませた簡易翻訳機が、どうやら解読を済ませたようだ。俺は再生の指示を出す。
 機械音声が、手元の画像集の書名を厳かに読み上げた。
《*『Santa Fe』*》