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6 プレゼント選び

ー/ー



 数日後の六月八日。

「直樹さん、直樹さん、十六日はお店に来てください」

 六月十六日金曜日は、直樹の誕生日である。

「誕生日、祝ってくれるの?」
「はい。実は!」

 というと、菜帆は思わせぶりにタメを作る。

「じゃじゃーん。私の誕生日でもあります。びっくりした?」
「そうなんだ。すごい偶然だね」
「奇跡です! なんか二人は波長が合う気がしたんですけどやっぱりです」
「あ、でも、プレゼントとか用意しないと」
「土日の午前中なら美優ちゃん連れてっていいですよ。それとも火曜日に一緒にいきますか?」
「どうしようかな、迷うな」

 サプライズプレゼントもいいけど一緒に買いに行くのもいい。
 まだ知り合ってそれほど経っていないし、相手の好みがわからない。
 美優なら菜帆の好みを知り尽くしていそうだけど、変なものを上げるよりは、一緒に行った方がいいかもしれない。

「火曜日に一緒に買いに行こう」
「わかりました」


 火曜日。二人は喫茶店で待ち合わせをして、駅の反対側の商店街に向かった。
 六月の梅雨時だったが珍しく晴れている。
 この日の菜帆は紺色で胸の下に絞りがあるミニワンピースだ。

「どこから行きましょうか」
「菜帆さんの好きなところでいいよ」
「じゃあ、隅の方から順番に見ていこうと思います」

 最初は金魚屋に入った。

「小っちゃい金魚がたくさんいますね」
「ああ、でもこれ貰ってもちょっと困る」
「そうですね。見るだけにしますか。こっちには出目金がいますよ」

 菜帆はそう言ってしゃがんで目線を合わせている。
 さらに奥の方を見に行く。

「こっちには大きな金魚がいます」

 水槽に二十センチ位の巨大な金魚が三匹入っていた。種類は見た感じでは普通の金魚だ。

「これコイではないんだね」
「コイはもっと厚みがあってヒゲとか生えてますね。この子はタイみたいな形だから違うと思います」
「お店にどう?」
「うーん。やめておきます」

 一番奥まで見物したので店を出た。
 二人は次に家具屋に入った。

「なにかほしい家具とかある?」
「部屋に合う本棚とかほしいです」
「俺もそれほしいかも」

 二人はテーブルなどのコーナーを抜けて棚のあるコーナーに行く。

「こっちの棚は厚みが半分ぐらいのがほしいです」
「ふむ」
「そっちの棚は高さがもう少しほしいです」
「なかなか、ぴったりの棚って見つからないね」
「そうですね。残念です」
「色とかは?」
「ピンク!……の棚は、目立つので普通の木目でいいです」
「そうなんだ」

 続いてカバン屋に入る。

「ここって三原さんを買ったお店かな?」
「そうですよ」

 入り口付近からすでに左右の上から下までバックがいっぱい掛かっている。
 店員が奥の方から入口を覗いて挨拶をしてくる。四十歳位の女性だった。

「いらっしゃい。菜帆ちゃんじゃない。その子が噂の彼氏?」
「は、はい! い、いえ、彼氏ではないです」
「あらそうなの。まあゆっくり見てって」
「はい」

 直樹は改めて、デートみたいに毎週のように出かけるけど彼氏彼女ではなく店長とバイトだったな、と二人の関係を思いだしていた。
 考えている間に入口に置いていかれている。

「直樹さん何ぼーっとしてるんですか、入りますよ」

 そう言って戻ってきた菜帆が直樹の左手をつかんで中に連れて行く。

「ちょ、ちょっと」

 菜帆と手をつないだのは初めてだなと思いつつ、照れてしまってうまく言えない。

「直樹さん、ほしいバッグとかないですか?」
「え、と、特には。でも小さ目のがほしいかも」
「そうですか。もう少し奥のほうですね」

 手をつないだまま、さらに奥の方に行く。

「男性向けのバッグとかどんなものが流行ってるんでしょうか」
「さ、さあ」
「とりあえずウェストポーチではなさそうですね」
「うん」
「トートバッグとかエコバッグとか割と流行ってましたよね」
「たぶん」

 直樹は汗が(にじ)んでこないか心配してあまり会話にならなかった。

「バッグといえばリュックを紐を長くして背負うのが流行ってるみたいですけど、私はあれ変だと思うんです。直樹さんはそう思いません?」
「まぁそうだね」
「ですよね」
「うん」
「ところで、直樹さんどこか変ですよ? どうしたんですか?」
「て、手が」

 と言って繋いだままの手を少し上げる。

「あ、繋いだままでした。しょうがないなぁ」

 菜帆はちょっとわざとらしく言った後、手を離す。

「はい」
「手を繋いだ位で喋れなくなるなんて、彼女できないですよ!」
「すみません。でも菜帆さんだって若干上がってましたよね」
「そ、そう?」
「そうです」

 直樹は、菜帆の目を見つめてうなずく。
 菜帆のほうは目線を右の方にずらしてから、

「だって、私だって手を繋ぐのに勇気がいるんです。ちょっとくらいハイにもなります」
「そうだったんだ」
「はい。まぁお互い様です」
「うん」

 今度は菜帆は照れ気味だが、しっかりと直樹の方を見て、

「そうだ、二人とも恋愛経験値が低いから相方とかいないんですよ。だから、たまに手を繋いだりして経験値をためましょう。そうすれば、レベルアップして彼女もできるようになりますよ」
「そうかもね。じゃあ練習相手よろしく」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。ところでバッグどうします?」
「とりあえず、今日はいいや」
「わかりました」

 二人はいそいそと店を後にした。
 次はアンティークなどを扱っている不思議な感じの小さい店へ入った。
 他の店と違って、入口にドアがついている。

「こんにちは」
「お、菜帆ちゃんいらっしゃい」

 店主の五十歳位のおじさんが立ち上がって挨拶を返してきた。

「おっと例のお婿さん?」
「いえ、お婿さんでも彼氏でもなくバイトさんです」

 今度は菜帆も冷静に答えられた。
 直樹も挨拶する。

「こんにちは、バイトの森山です」

 バイトを若干強調して言った。

「俺は店主の杉浦です。邪魔とかしないからゆっくり適当に見てってください。割れ物には注意してください」
「わかりました」

 店内には、お皿、コップ、ランプ、スプーン、絵画など西洋風の雑貨を中心に並べてあるようだ。
 とりあえず、入口付近から物色してみる。まずオルゴールがいくつか置いてある。
 陶器の女性の人形が木の箱の上についていて、横にハンドルが飛び出ている。

「このオルゴール回してみていいですか?」
「どうぞ」

 菜帆は箱を押さえてハンドルを回す。
 回し終えて放すと、知らない曲の音楽が流れだし人形が回転しはじめる。

「これ菜帆さんに似てない?」

 人形はピンクのエプロンドレスのような格好で黒い肩までのセミロングだ。

「確かにちょっと似てるかもしれないですね」

 そういうと、菜帆もスローテンポのオルゴールに合わせて右手を上げてゆっくり回りだした。
 直樹はじっとしてそれを眺めている。菜帆のこういうおちゃめな感じは割と好きだ。
 しばらくするとオルゴールが止まった。それに合わせて菜帆も回るのをやめた。

「なかなかいいね」
「はい」

 直樹はオルゴールの下敷きになっている紙の値札をオルゴールを動かして見た。

「58,000円だな」
「予算オーバーです。残念です」

 今度はキリコガラスのコップを眺めている。

「赤、青、緑とカラフルですね。私と直樹さんで一つずつとかどうですか」
「うん。それもいいかもね。ちなみにおいくら万円?」

 菜帆は掠れかかっている値段を見る。

「12,000円です。一つ」
「ちょっと高いね。まぁ出せなくはないけど」
「私割っちゃいそうで使えません」
「それもそうだね」

 他にも時計とか色々なものが置いてあったが、ぴったりのものは見つけられなかった。

「いい物もいっぱいありましたけど、やっぱりいい物は予算がちょっと無理でした」

 店主は笑って返事をする。

「ははは、そうだね。良い物は高い。こればっかりはどうしようもないね。見るだけならタダだからまたおいで」
「はい。また来ます」

 二人は次の店に向かった。今度はアンティークではない雑貨屋だ。
 この雑貨屋はさっきのお店の三倍は大きい。

「ここなら、きっといいプレゼントが見つかります」
「見つかるといいね」
「見つからなかったら大変ですよ? もう後がないです」
「そうなの?」
「あとは、お肉屋さんとスーパーと洋服屋さんと布団屋さんぐらいしかないです」
「布団貰っても困るな。持って帰るの大変だし」
「あと下着屋さんもあるにはあります」
「下着はちょっとはずかしいな」
「まだ下着屋へ行くには恋愛経験値が足りないですよね」
「うん。もっとも経験値足りても遠慮したいな」
「ですよね。私もです。気が合ってよかったです」

 二人は、店内に入った。
 入口からすぐの所にクッションがある。しかも結構種類が多い。

「クッション可愛いですね」
「うん」

 チェック模様の落ち着いた色のクッションがあるかと思えば、赤と白の目立つものもある。

「直樹さんは落ち着いた物と派手なクッションどっちか好きですか?」
「僕は落ち着いた物かな」
「ふむふむ」

 反対側のコーナも覗いてみる。
 こちらにもクッションがあるが、ネコ、イヌ、アルパカ、イルカなどの動物クッションコーナーだった。

「動物クッションたくさんありますね」
「うん」
「正直に言います。全部ほしいです!」

 菜帆は手をお祈りのポーズにして目をキラキラさせている。

「全部ですか……」
「はい。『私、クッションに埋もれて眠るのが夢だったんです』」
「そうなの? ほんとに?」
「いえ、今考えました」
「やっぱりな」

 さらに向こう側にもクッションがあるようだ。今度は野菜クッションだった。
 ニンジン、ジャガイモ、ハクサイ、シイタケ、白ネギという感じだ。

「この店はクッションに力を入れてるみたいですね」
「だね。僕はシイタケがいいかな」
「結構渋い所いきますね。私はトマトがいいです」
「菜帆さんはわりと派手だね。ちなみに値段は?」
「トマトは9,800円です」
「とりあえず、ほかも見て回ろうか」
「はい」

 クッションコーナーを抜けて観葉植物コーナに来た。

「これ鉢植えの木だけど、大きくならないのか?」
「たぶん、大きくなる種類もあると思います」
「三メートルとかになったら困るね」
「はい。それとプレゼントとして持ち運ぶのもちょっと不便です」

 色々見た後、二人はコップコーナーを見ているところだ。

「コップもいっぱいあるね」
「ガラスのコップはお店にいっぱいあります」
「それもそうか」

 もう少し先を見る。そこには、動物の絵のついたマグカップが並んでいた。

「動物カップがいっぱいあります。わたしピンと来ました」
「ピンと来ちゃったか。けっこう安いからいつでも買えるけど、本当にこれでいい?」
「はい。これにしましょう」
「いいよ。どの動物にする?」
「もう決めてます。私はクジラさんのカップです。えへへ」

 菜帆はそう言うと、クジラのカップを両手で包むように手に取った。
 白地にアニメ調の二頭のクジラが向い合せに描かれている頑丈そうなカップだ。左側はネクタイが付いていて、潮を噴いている。右側は赤いリボンが付いていてオスメスのカップルのようだ。

「なんで、クジラにしたの?」
「逆に聞きます。わからないんですか?」

 菜帆は丸い大きい目でじっと見つめてくる。

「えっと、クジラが好きだから」
「もちろん嫌いではないですけど、はずれです」
「じゃあ、なんでだろう」

 直樹は色々考えようとするが見つめられていて、うまく考えられない。

「今は教えてあげません」
「じゃあそのうち教えてくれるんだ」
「まぁ、たぶん。それで、直樹さんは何にしますか?」
「僕は、ネコのカップにするよ」

 ネコのカップは、茶トラのオス猫と白いメス猫だ。こちらも白ネコのほうの頭に赤いリボンが付いている。
 白猫の目は空色だった。

「ネコが好きだからですか?」
「ネコも好きだけど、理由は教えてあげない」
「えー。ずるいです」
「お相子でしょ」
「はい。そうでした。それと、ついでに美優ちゃんにも買っていこうかな?」
「あ、うん、半分だすよ」
「お願いします。それで美優ちゃんはですね。犬が好きだと思います」
「犬ね。どんな犬?」

 見てみると、犬は四種類くらいの絵柄があった。

「この中だと柴犬ですね。たぶん」
「了解」

 カップは見本用のほかに箱に入っていた物が置いてあったのでそれを持って二人でレジに向かう。

「はい。プレゼントなので、それまで交換です。お願いします」
「うん、はい、交換」

 それぞれのカップを交換する、犬のカップは菜帆が持った。
 レジの人に会計と包装をお願いする。

「プレゼント用の包装お願いします」
「わかりました」




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 数日後の六月八日。
「直樹さん、直樹さん、十六日はお店に来てください」
 六月十六日金曜日は、直樹の誕生日である。
「誕生日、祝ってくれるの?」
「はい。実は!」
 というと、菜帆は思わせぶりにタメを作る。
「じゃじゃーん。私の誕生日でもあります。びっくりした?」
「そうなんだ。すごい偶然だね」
「奇跡です! なんか二人は波長が合う気がしたんですけどやっぱりです」
「あ、でも、プレゼントとか用意しないと」
「土日の午前中なら美優ちゃん連れてっていいですよ。それとも火曜日に一緒にいきますか?」
「どうしようかな、迷うな」
 サプライズプレゼントもいいけど一緒に買いに行くのもいい。
 まだ知り合ってそれほど経っていないし、相手の好みがわからない。
 美優なら菜帆の好みを知り尽くしていそうだけど、変なものを上げるよりは、一緒に行った方がいいかもしれない。
「火曜日に一緒に買いに行こう」
「わかりました」
 火曜日。二人は喫茶店で待ち合わせをして、駅の反対側の商店街に向かった。
 六月の梅雨時だったが珍しく晴れている。
 この日の菜帆は紺色で胸の下に絞りがあるミニワンピースだ。
「どこから行きましょうか」
「菜帆さんの好きなところでいいよ」
「じゃあ、隅の方から順番に見ていこうと思います」
 最初は金魚屋に入った。
「小っちゃい金魚がたくさんいますね」
「ああ、でもこれ貰ってもちょっと困る」
「そうですね。見るだけにしますか。こっちには出目金がいますよ」
 菜帆はそう言ってしゃがんで目線を合わせている。
 さらに奥の方を見に行く。
「こっちには大きな金魚がいます」
 水槽に二十センチ位の巨大な金魚が三匹入っていた。種類は見た感じでは普通の金魚だ。
「これコイではないんだね」
「コイはもっと厚みがあってヒゲとか生えてますね。この子はタイみたいな形だから違うと思います」
「お店にどう?」
「うーん。やめておきます」
 一番奥まで見物したので店を出た。
 二人は次に家具屋に入った。
「なにかほしい家具とかある?」
「部屋に合う本棚とかほしいです」
「俺もそれほしいかも」
 二人はテーブルなどのコーナーを抜けて棚のあるコーナーに行く。
「こっちの棚は厚みが半分ぐらいのがほしいです」
「ふむ」
「そっちの棚は高さがもう少しほしいです」
「なかなか、ぴったりの棚って見つからないね」
「そうですね。残念です」
「色とかは?」
「ピンク!……の棚は、目立つので普通の木目でいいです」
「そうなんだ」
 続いてカバン屋に入る。
「ここって三原さんを買ったお店かな?」
「そうですよ」
 入り口付近からすでに左右の上から下までバックがいっぱい掛かっている。
 店員が奥の方から入口を覗いて挨拶をしてくる。四十歳位の女性だった。
「いらっしゃい。菜帆ちゃんじゃない。その子が噂の彼氏?」
「は、はい! い、いえ、彼氏ではないです」
「あらそうなの。まあゆっくり見てって」
「はい」
 直樹は改めて、デートみたいに毎週のように出かけるけど彼氏彼女ではなく店長とバイトだったな、と二人の関係を思いだしていた。
 考えている間に入口に置いていかれている。
「直樹さん何ぼーっとしてるんですか、入りますよ」
 そう言って戻ってきた菜帆が直樹の左手をつかんで中に連れて行く。
「ちょ、ちょっと」
 菜帆と手をつないだのは初めてだなと思いつつ、照れてしまってうまく言えない。
「直樹さん、ほしいバッグとかないですか?」
「え、と、特には。でも小さ目のがほしいかも」
「そうですか。もう少し奥のほうですね」
 手をつないだまま、さらに奥の方に行く。
「男性向けのバッグとかどんなものが流行ってるんでしょうか」
「さ、さあ」
「とりあえずウェストポーチではなさそうですね」
「うん」
「トートバッグとかエコバッグとか割と流行ってましたよね」
「たぶん」
 直樹は汗が|滲《にじ》んでこないか心配してあまり会話にならなかった。
「バッグといえばリュックを紐を長くして背負うのが流行ってるみたいですけど、私はあれ変だと思うんです。直樹さんはそう思いません?」
「まぁそうだね」
「ですよね」
「うん」
「ところで、直樹さんどこか変ですよ? どうしたんですか?」
「て、手が」
 と言って繋いだままの手を少し上げる。
「あ、繋いだままでした。しょうがないなぁ」
 菜帆はちょっとわざとらしく言った後、手を離す。
「はい」
「手を繋いだ位で喋れなくなるなんて、彼女できないですよ!」
「すみません。でも菜帆さんだって若干上がってましたよね」
「そ、そう?」
「そうです」
 直樹は、菜帆の目を見つめてうなずく。
 菜帆のほうは目線を右の方にずらしてから、
「だって、私だって手を繋ぐのに勇気がいるんです。ちょっとくらいハイにもなります」
「そうだったんだ」
「はい。まぁお互い様です」
「うん」
 今度は菜帆は照れ気味だが、しっかりと直樹の方を見て、
「そうだ、二人とも恋愛経験値が低いから相方とかいないんですよ。だから、たまに手を繋いだりして経験値をためましょう。そうすれば、レベルアップして彼女もできるようになりますよ」
「そうかもね。じゃあ練習相手よろしく」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。ところでバッグどうします?」
「とりあえず、今日はいいや」
「わかりました」
 二人はいそいそと店を後にした。
 次はアンティークなどを扱っている不思議な感じの小さい店へ入った。
 他の店と違って、入口にドアがついている。
「こんにちは」
「お、菜帆ちゃんいらっしゃい」
 店主の五十歳位のおじさんが立ち上がって挨拶を返してきた。
「おっと例のお婿さん?」
「いえ、お婿さんでも彼氏でもなくバイトさんです」
 今度は菜帆も冷静に答えられた。
 直樹も挨拶する。
「こんにちは、バイトの森山です」
 バイトを若干強調して言った。
「俺は店主の杉浦です。邪魔とかしないからゆっくり適当に見てってください。割れ物には注意してください」
「わかりました」
 店内には、お皿、コップ、ランプ、スプーン、絵画など西洋風の雑貨を中心に並べてあるようだ。
 とりあえず、入口付近から物色してみる。まずオルゴールがいくつか置いてある。
 陶器の女性の人形が木の箱の上についていて、横にハンドルが飛び出ている。
「このオルゴール回してみていいですか?」
「どうぞ」
 菜帆は箱を押さえてハンドルを回す。
 回し終えて放すと、知らない曲の音楽が流れだし人形が回転しはじめる。
「これ菜帆さんに似てない?」
 人形はピンクのエプロンドレスのような格好で黒い肩までのセミロングだ。
「確かにちょっと似てるかもしれないですね」
 そういうと、菜帆もスローテンポのオルゴールに合わせて右手を上げてゆっくり回りだした。
 直樹はじっとしてそれを眺めている。菜帆のこういうおちゃめな感じは割と好きだ。
 しばらくするとオルゴールが止まった。それに合わせて菜帆も回るのをやめた。
「なかなかいいね」
「はい」
 直樹はオルゴールの下敷きになっている紙の値札をオルゴールを動かして見た。
「58,000円だな」
「予算オーバーです。残念です」
 今度はキリコガラスのコップを眺めている。
「赤、青、緑とカラフルですね。私と直樹さんで一つずつとかどうですか」
「うん。それもいいかもね。ちなみにおいくら万円?」
 菜帆は掠れかかっている値段を見る。
「12,000円です。一つ」
「ちょっと高いね。まぁ出せなくはないけど」
「私割っちゃいそうで使えません」
「それもそうだね」
 他にも時計とか色々なものが置いてあったが、ぴったりのものは見つけられなかった。
「いい物もいっぱいありましたけど、やっぱりいい物は予算がちょっと無理でした」
 店主は笑って返事をする。
「ははは、そうだね。良い物は高い。こればっかりはどうしようもないね。見るだけならタダだからまたおいで」
「はい。また来ます」
 二人は次の店に向かった。今度はアンティークではない雑貨屋だ。
 この雑貨屋はさっきのお店の三倍は大きい。
「ここなら、きっといいプレゼントが見つかります」
「見つかるといいね」
「見つからなかったら大変ですよ? もう後がないです」
「そうなの?」
「あとは、お肉屋さんとスーパーと洋服屋さんと布団屋さんぐらいしかないです」
「布団貰っても困るな。持って帰るの大変だし」
「あと下着屋さんもあるにはあります」
「下着はちょっとはずかしいな」
「まだ下着屋へ行くには恋愛経験値が足りないですよね」
「うん。もっとも経験値足りても遠慮したいな」
「ですよね。私もです。気が合ってよかったです」
 二人は、店内に入った。
 入口からすぐの所にクッションがある。しかも結構種類が多い。
「クッション可愛いですね」
「うん」
 チェック模様の落ち着いた色のクッションがあるかと思えば、赤と白の目立つものもある。
「直樹さんは落ち着いた物と派手なクッションどっちか好きですか?」
「僕は落ち着いた物かな」
「ふむふむ」
 反対側のコーナも覗いてみる。
 こちらにもクッションがあるが、ネコ、イヌ、アルパカ、イルカなどの動物クッションコーナーだった。
「動物クッションたくさんありますね」
「うん」
「正直に言います。全部ほしいです!」
 菜帆は手をお祈りのポーズにして目をキラキラさせている。
「全部ですか……」
「はい。『私、クッションに埋もれて眠るのが夢だったんです』」
「そうなの? ほんとに?」
「いえ、今考えました」
「やっぱりな」
 さらに向こう側にもクッションがあるようだ。今度は野菜クッションだった。
 ニンジン、ジャガイモ、ハクサイ、シイタケ、白ネギという感じだ。
「この店はクッションに力を入れてるみたいですね」
「だね。僕はシイタケがいいかな」
「結構渋い所いきますね。私はトマトがいいです」
「菜帆さんはわりと派手だね。ちなみに値段は?」
「トマトは9,800円です」
「とりあえず、ほかも見て回ろうか」
「はい」
 クッションコーナーを抜けて観葉植物コーナに来た。
「これ鉢植えの木だけど、大きくならないのか?」
「たぶん、大きくなる種類もあると思います」
「三メートルとかになったら困るね」
「はい。それとプレゼントとして持ち運ぶのもちょっと不便です」
 色々見た後、二人はコップコーナーを見ているところだ。
「コップもいっぱいあるね」
「ガラスのコップはお店にいっぱいあります」
「それもそうか」
 もう少し先を見る。そこには、動物の絵のついたマグカップが並んでいた。
「動物カップがいっぱいあります。わたしピンと来ました」
「ピンと来ちゃったか。けっこう安いからいつでも買えるけど、本当にこれでいい?」
「はい。これにしましょう」
「いいよ。どの動物にする?」
「もう決めてます。私はクジラさんのカップです。えへへ」
 菜帆はそう言うと、クジラのカップを両手で包むように手に取った。
 白地にアニメ調の二頭のクジラが向い合せに描かれている頑丈そうなカップだ。左側はネクタイが付いていて、潮を噴いている。右側は赤いリボンが付いていてオスメスのカップルのようだ。
「なんで、クジラにしたの?」
「逆に聞きます。わからないんですか?」
 菜帆は丸い大きい目でじっと見つめてくる。
「えっと、クジラが好きだから」
「もちろん嫌いではないですけど、はずれです」
「じゃあ、なんでだろう」
 直樹は色々考えようとするが見つめられていて、うまく考えられない。
「今は教えてあげません」
「じゃあそのうち教えてくれるんだ」
「まぁ、たぶん。それで、直樹さんは何にしますか?」
「僕は、ネコのカップにするよ」
 ネコのカップは、茶トラのオス猫と白いメス猫だ。こちらも白ネコのほうの頭に赤いリボンが付いている。
 白猫の目は空色だった。
「ネコが好きだからですか?」
「ネコも好きだけど、理由は教えてあげない」
「えー。ずるいです」
「お相子でしょ」
「はい。そうでした。それと、ついでに美優ちゃんにも買っていこうかな?」
「あ、うん、半分だすよ」
「お願いします。それで美優ちゃんはですね。犬が好きだと思います」
「犬ね。どんな犬?」
 見てみると、犬は四種類くらいの絵柄があった。
「この中だと柴犬ですね。たぶん」
「了解」
 カップは見本用のほかに箱に入っていた物が置いてあったのでそれを持って二人でレジに向かう。
「はい。プレゼントなので、それまで交換です。お願いします」
「うん、はい、交換」
 それぞれのカップを交換する、犬のカップは菜帆が持った。
 レジの人に会計と包装をお願いする。
「プレゼント用の包装お願いします」
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