私の名前は田中ユイ。今年で17才。いわゆるJKだ。
その日、お父さんは『残業』で、まだ帰宅していなかった。「お父さん、今日も残業なの?」
私はスマホでmagical☆princeの動画を観ながら、お母さんに聞いた。
「そうなの。最近、本当に残業が多いみたい。」
お母さんは、晩御飯の用意をしながらも、心配そうに言った。
「なんか、お父さん、最近、前より活き活きしてる気がするんだけど。」
「そうね。前より元気かもしれないわ。」
そう。お父さんは、最近、変だ。仕事が忙しいはずなのに、疲れた様子がない。むしろ、元気なのだ。
「まさか、私達に内緒でどこかに行ってるとか?」
お母さんの手が止まった。私の方に来て、隣に座る。
「ユイも、そう思う?お父さんに限って、そんなことはないと思うんだけど。。。」
「浮気?とか。まぁ、無いだろうけどね。」
私は核心に触れる一言を言ってしまった。お母さんは、明らかに動揺している。
「まさか!そんなこと言わないで。」
マズイ。お母さんが泣きそうだ。
「わかった。私が調べてみるよ。お父さん、残業の日は先に言ってくれるから。その日に会社から、尾行する。」
「ユイ。一人で危ないことはしないで。」
お母さんを心配させるようなことを言ってしまった。
「大丈夫。危ないことはしないよ。お父さんの後を付いてくだけ。」
娘としては、両親の夫婦の危機を防がなければ!すると、お母さんは、真面目な顔になった。
「わかった。私も行くわ。」
「えっ。私一人で大丈夫だよ。」
「これは、お父さんとお母さんの問題だから。娘のあなただけに危ないことはさせられない。」
「わかった。お母さん。一緒にやろう。」
母娘同盟が結ばれた。
ピンポーン。お父さんが帰ってきた!
「お母さん、このことは、お父さんには絶対に内緒ね。」
「わかったわ。」
お母さんは、台所に戻った。
「ただいまー」
「お帰りなさい。」「今日も、残業、お疲れ様。」
「いやー今日も疲れたよ。」
「お風呂でゆっくり疲れを取ったら?」
「そうさせてもらうよ。」お父さんが、お風呂に入っている間、お母さんと私は、お父さん尾行作戦の計画を話し合った。お父さんの残業の日が分かったら、その日、お父さんの会社に行き、定時の時間に張り込む。お父さんがもし、会社から出て来たら、尾行開始。証拠写真を撮る。「いい湯だった。」
「はい。ビール。」
プシュ!
グビグビッ。
プハーッ!
「この一口の為に生きてるな。」
今日もお父さんはご機嫌だ。
「お父さん、今日も肩揉んであげようか?」
「うん。ユイ、頼むよ。」
「ちょっと、肩凝ってるね。」
「やっぱり、そうか?」
「お父さん、まだ残業続くの?」
「うん、そうだなぁ。ごめんな、ユイ。」
「私は大丈夫だけど、お母さんが心配するから。」
「ごめんな。かあさん。」
お父さんが、お母さんの方を振り向いて謝った。私は、マッサージの手を止めた。
「お父さん、次の残業は、いつなの?」
「来週の火曜日かな。」
キタ!
「来週の火曜日ね。」
私はお母さんとアイコンタクトした。
「残業も良いけど、程々にね。」
「わかったよ。ユイ。」
そう言って、お父さんは、缶ビールを飲み干した。テレビでは、ちょうどマジプリが歌っている。
「ユイ、マジプリは、凄いな。」
「何?急に、お父さん。」
「マジプリは、トップアイドルなのに、全然、天狗になってないし。」
「お父さんも、マジプリの良さがわかるんだ。」
最近まで、興味なさそうだったのに。
「はは、まあな。本当に、若いのに凄いよ。」
何だか、自分に言われてるみたいで、照れ臭い。
「お父さんに、そう言われると、私もマジプリのファンとして、うれしいよ。」
「ユイも、マジプリみたいに、頑張れよ。」
「うん、お父さん。」マジプリは、今年で結成5周年。メンバーの脱退や事務所からの独立など、紆余曲折あったけど、今は3人で頑張っている。私は、これからもマジプリを推して行くつもりだ。「お父さんも体壊さないでね。」
「ありがとう、ユイ。」「じゃあ、部屋に行くね。おやすみ。」
「ユイ、おやすみ。」
私は2階の自分の部屋に上がる。
お母さんがウインクしたので、私もウインクを返した。お父さんが浮気しているなんて考えたくないけど、来週の火曜日には多分、分かる。
私はお父さんを信じたい。
何だか、心がザワザワして落ち着かない。こんな時はマジプリの曲を聴いて落ち着こう。やっぱりマジプリは、私にとって支えだ。
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今日のユイは、いつもとちょっと違ったな。まあ、気のせいか。
火曜日は、アヤ師匠のスタドリ指南の日だ。スタドリのこともだいぶ分かってきたが、まだまだだからな。握手会の作法も確認しなくては。
まだ知りたい事が沢山あるな。
火曜日、家族の危機が訪れることをまだ私は知らなかった。