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サバイバル

ー/ー



 船室の揺れが収まったのにカトラ達は気が付かなかった。一晩中轟音の中で語り明かしていた。揺れは嵐から離れるにつれて弱まっていき、カトラ達が寝息を立てられるまでになっていた。

「ん……」

 パチリと彼女が目を開けると、薄暗い船室の天井が目に入った。天井の欠けた部分から木漏れ日のように光が差し込む。その光にやんわりと照らされているコーンに目を移す。

「……夢じゃなかった」

 彼女の昨晩からの出来事はあまりにも現実離れしていた。村を滅ぼされ、船に乗って海に出て、大切な朽ちた肉体の持ち主を失い、子供達と出会った。物語にしては波乱すぎるように感じられた。

「コーン。起きて、コーン」

 コーンは目を擦り、あくびをする。目の前の少女が一瞬誰だかわからない様子だった。しかしだんだんと状況を把握し、ビクッと体を震わせた。

「あ、お、おはようございます。嵐はおさまったみたいですね」

 語尾にいくにつれて彼の声ははっきりと弱々しくなっていった。平穏が崩された出来事が夢ではないと彼もまた理解したのだ。

「おはようございます。キャプテン、そしてコーン」

 ビネアホエール号が小さな声で二人に声をかける。コーンはこの船がしゃべることなど知らない。彼はあたりをキョロキョロと見渡した。

「すみません。私は喋る船です。それは置いといて……私は今座礁しました」

「へ?!」

 カトラが素っ頓狂な声をあげて船室を飛び出す。一瞬晴天に目が眩んだが、すぐに甲板に出てあたりを見渡す。彼女は少し傾いた床に転びそうになる。

 ビネアホエール号は浅瀬に乗り上げていた。そして浅瀬に連なる陸地は砂浜だらけ。少し歩いたところに森が広がっている。

「人がいないところに乗り上げちゃったの?」

「……遭難ということでしょうか」

 コーンが震える声で尋ねる。カトラは最悪の状況を考えたが、すぐに頭を振った。

「わ、わからない。私達はまだ死ねない。人を探す。新しい海の幸とも出会えるかもよ、コーン」

 カトラは自分の鎖骨のあたりの背丈のコーンに目の高さを合わせた。そして気丈に笑って見せた。コーンはそんな彼女に同調するように少しずつ頬を緩めた。

「ねぇ、ビネアホエール号。みんなが起きたら船の中で待つように言っておいて。私とコーンで人を探してくる」

「アイ、アイ、サー」

 二人は船を降りようとする。しかし船体に取り付けられたハシゴは今にも根本から外れてしまいそうだった。比較的軽い彼らの体重を支え切れるかもわからなかった。

「わ、私が最初にハシゴで降りてみるよ。壊れちゃったらコーンは来なくていいからね?」

 カトラは船のヘリに足をかけた。ゆっくりとハシゴを踏んでみる。ミシリという音に彼女は震えた。しかしコーンが見ている中で怖がりたくはない。コーンに笑いかけると慎重に降りて行った。

 ハシゴの真下は足の甲が浸かるくらいの浅瀬だ。みずみずしい音を立ててカトラは着地すると胸を撫で下ろした。そして船の上のコーンに手を振った。

「平気そう。ぎりぎり」

 コーンは二、三回首を縦に振った。そして冷や汗をかきながらハシゴに足をかける。一段二段と足を下ろしていく。

「か、カトラさん。平気そうです」

 言下にことは起こった。四段目にコーンが足をかけたとき、たまごの殻が割れるような音が鳴った。コーンの体はバランスが崩れ、空中に投げ出された。

「コーン!」

 コーンはぎゅっと目を瞑った。水が下にあるとはいえ高所から落下した恐怖は当然ある。しかし思ったより彼の受けた衝撃は少なかった。

「あ、あれ……?」

 彼の尻の下にカトラの背中があった。

「か、カトラさん!す、すみません。助けてもらって……!」

 体の前面がびしょびしょに濡れて服が張り付き、髪も乱れたカトラ。顔をゴシゴシと拭いてから髪をかきあげた。

「へ、平気!さ、人を探そう」

 カトラはズボンの裾で手を拭いてからコーンの手を取った。二人は泡をたてながら浅瀬から砂浜の方へと歩いて行った。

 左右に目線をやっても特に港や釣船は見えない。人がいるとしたら森の中だと考えられる。二人は森の中に踏み入った。

 潮風に吹かれて不思議な形に固定された枝の木々が林立する中を進む。じめっとした気候もあってカトラの服はなかなか乾かない。汗も混じって気持ち悪かった。しかしカトラは懸命をあたりを見渡しながら歩いた。

 カラフルなキノコを見て、黄ばんだコケで足を滑らせ、ぬるぬるした岩を乗り越えた。

しかし二人の視界に人がしばらく映ることはなかった。熱帯らしい気候の中だが、二人は喉がカラカラだった。二人の荒い息がリズミカルに互いに聞こえてくる。

 休もうか、そんなことをコーンに伝えんと足を止めた。コーンも彼女の言わんとしていることがわかって足を止める。しかし

 カトラはワンテンポ遅れてそれに気づいた。機械のような音が聞こえたとともに、低い声が聞こえてくる。

「動くんでねぇ」

 髭の濃いバンダナの男が二人の前にいた。男は巌のようなゴツゴツした腕から伸びる毛むくじゃらの手にはピストルが握られており、銃口は二人を捉えていた。

 


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 船室の揺れが収まったのにカトラ達は気が付かなかった。一晩中轟音の中で語り明かしていた。揺れは嵐から離れるにつれて弱まっていき、カトラ達が寝息を立てられるまでになっていた。
「ん……」
 パチリと彼女が目を開けると、薄暗い船室の天井が目に入った。天井の欠けた部分から木漏れ日のように光が差し込む。その光にやんわりと照らされているコーンに目を移す。
「……夢じゃなかった」
 彼女の昨晩からの出来事はあまりにも現実離れしていた。村を滅ぼされ、船に乗って海に出て、大切な朽ちた肉体の持ち主を失い、子供達と出会った。物語にしては波乱すぎるように感じられた。
「コーン。起きて、コーン」
 コーンは目を擦り、あくびをする。目の前の少女が一瞬誰だかわからない様子だった。しかしだんだんと状況を把握し、ビクッと体を震わせた。
「あ、お、おはようございます。嵐はおさまったみたいですね」
 語尾にいくにつれて彼の声ははっきりと弱々しくなっていった。平穏が崩された出来事が夢ではないと彼もまた理解したのだ。
「おはようございます。キャプテン、そしてコーン」
 ビネアホエール号が小さな声で二人に声をかける。コーンはこの船がしゃべることなど知らない。彼はあたりをキョロキョロと見渡した。
「すみません。私は喋る船です。それは置いといて……私は今座礁しました」
「へ?!」
 カトラが素っ頓狂な声をあげて船室を飛び出す。一瞬晴天に目が眩んだが、すぐに甲板に出てあたりを見渡す。彼女は少し傾いた床に転びそうになる。
 ビネアホエール号は浅瀬に乗り上げていた。そして浅瀬に連なる陸地は砂浜だらけ。少し歩いたところに森が広がっている。
「人がいないところに乗り上げちゃったの?」
「……遭難ということでしょうか」
 コーンが震える声で尋ねる。カトラは最悪の状況を考えたが、すぐに頭を振った。
「わ、わからない。私達はまだ死ねない。人を探す。新しい海の幸とも出会えるかもよ、コーン」
 カトラは自分の鎖骨のあたりの背丈のコーンに目の高さを合わせた。そして気丈に笑って見せた。コーンはそんな彼女に同調するように少しずつ頬を緩めた。
「ねぇ、ビネアホエール号。みんなが起きたら船の中で待つように言っておいて。私とコーンで人を探してくる」
「アイ、アイ、サー」
 二人は船を降りようとする。しかし船体に取り付けられたハシゴは今にも根本から外れてしまいそうだった。比較的軽い彼らの体重を支え切れるかもわからなかった。
「わ、私が最初にハシゴで降りてみるよ。壊れちゃったらコーンは来なくていいからね?」
 カトラは船のヘリに足をかけた。ゆっくりとハシゴを踏んでみる。ミシリという音に彼女は震えた。しかしコーンが見ている中で怖がりたくはない。コーンに笑いかけると慎重に降りて行った。
 ハシゴの真下は足の甲が浸かるくらいの浅瀬だ。みずみずしい音を立ててカトラは着地すると胸を撫で下ろした。そして船の上のコーンに手を振った。
「平気そう。ぎりぎり」
 コーンは二、三回首を縦に振った。そして冷や汗をかきながらハシゴに足をかける。一段二段と足を下ろしていく。
「か、カトラさん。平気そうです」
 言下にことは起こった。四段目にコーンが足をかけたとき、たまごの殻が割れるような音が鳴った。コーンの体はバランスが崩れ、空中に投げ出された。
「コーン!」
 コーンはぎゅっと目を瞑った。水が下にあるとはいえ高所から落下した恐怖は当然ある。しかし思ったより彼の受けた衝撃は少なかった。
「あ、あれ……?」
 彼の尻の下にカトラの背中があった。
「か、カトラさん!す、すみません。助けてもらって……!」
 体の前面がびしょびしょに濡れて服が張り付き、髪も乱れたカトラ。顔をゴシゴシと拭いてから髪をかきあげた。
「へ、平気!さ、人を探そう」
 カトラはズボンの裾で手を拭いてからコーンの手を取った。二人は泡をたてながら浅瀬から砂浜の方へと歩いて行った。
 左右に目線をやっても特に港や釣船は見えない。人がいるとしたら森の中だと考えられる。二人は森の中に踏み入った。
 潮風に吹かれて不思議な形に固定された枝の木々が林立する中を進む。じめっとした気候もあってカトラの服はなかなか乾かない。汗も混じって気持ち悪かった。しかしカトラは懸命をあたりを見渡しながら歩いた。
 カラフルなキノコを見て、黄ばんだコケで足を滑らせ、ぬるぬるした岩を乗り越えた。
しかし二人の視界に人がしばらく映ることはなかった。熱帯らしい気候の中だが、二人は喉がカラカラだった。二人の荒い息がリズミカルに互いに聞こえてくる。
 休もうか、そんなことをコーンに伝えんと足を止めた。コーンも彼女の言わんとしていることがわかって足を止める。しかし《《足音は鳴り止まなかった。》》
 カトラはワンテンポ遅れてそれに気づいた。機械のような音が聞こえたとともに、低い声が聞こえてくる。
「動くんでねぇ」
 髭の濃いバンダナの男が二人の前にいた。男は巌のようなゴツゴツした腕から伸びる毛むくじゃらの手にはピストルが握られており、銃口は二人を捉えていた。