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第27話 愛

ー/ー



 驚いているのか身体が少し震える槇子。槇子の手に自分の手を絡ませる惠美。それに応えしっかり二人の指は絡み合った。

「分からない…… 分からなくて…… 多喜ちゃんと君のことで頭が一緒くたになってもうよく分からなくなっちゃって…… 多喜ちゃんを好きだった気持ちが消えるのが怖いのに、多喜ちゃんが心の中からいなくなるのが怖いのに…… だけどそれとは全然違って、君の事を想うと…… あああ……もうどうしたらいいかわからないの! どうしてあなたにこんなに惹かれるのか分からないの! 多喜ちゃんへの気持ちもそのままなのに私何でこんなズルいことばかり! ずっとずっと君のことばかり考えているんだから! 好きなの…… どうしたらいいか分からないくらい…… 好き」

 身を震わせながら(おもて)を下げ、呻くように泣く槇子。その熱い涙が惠美の手や指にもかかる。

「ズルくても卑怯でもわがままでもいいんです。私全然構いません。あの時の話のように多喜とちゃんとさよならするのをお手伝いします。出来なかったら無理やりにでもこちらを向いてもらいますから」

 (こうべ)を垂れたまま緩く左右に頭を振る槇子

「こんなに強引な子だと思わなかった」

 惠美は優しく力強く微笑んだ。

「強引なんです」

 槇子がゆっくりと面を上げる。こちらを見ているようだ。その時車のライトが車内を照らす。一瞬だけ槇子の顔が映る。また涙でメイクを崩した、いつか見たあの顔。そしてあの眼。胸が甘く苦しく締め付けられる。胸の奥がきゅぅぅぅ…となる。
 ああそうだ、ずっとずっと、その眼で、その瞳で、射抜いて欲しかったんだ。

 惠美の方からそっとキスをした。そっと一瞬触れただけのキス。槇子は惠美をそのまま受け入れた。

 惠美はシートベルトを外す。槇子もシートベルトを外してシートを後ろに下げる。騒々しい警告音を無視して惠美は槇子のももに乗り、また惠美の方からキスをする。唇を重ね、唇を唇でなぞり、唇を吸う、唇を舐める、舌を絡ませ、互いの唇で互いの口の中を愛しあうまで長い時間をかける。二人の微かな呻きだけが車内に響く。
 キスをしながら穏やかに優しく抱き合う。片方の手で相手の体温と感触を確かめ合うように触れてまわる。片方の手はいつの間にか恋人繋ぎになっていた。槇子の服や髪から火災特有の臭気がする。
 唇を離し見つめ合う。今度は槇子の方から抱擁し惠美の髪に頬ずりしながら呟いた。

「何度も言ったけどズルいのよ私。二股かけてるんだもの」

 悲し気でかつ自嘲気味な響きがする。

「構わないって言ったじゃないですか。私、多喜になんか負けませんから。ふふっ」

 槇子の鎖骨を唇でなぞる惠美の腕に少し力が入る。

「なんか不思議。本当なら三角関係でケンカするような間柄だったのに」

「でも今は槇子さんを巡って私と多喜が争っているのかも知れないですよ」

 惠美の言葉は槇子には意外だったようで少し驚いた声が車内に響く。

「あ、それは気づかなかった」

「あの、槇子さんは私と多喜と、どっちを取ります?」

 意地悪半分で、だけどどうしても訊きたくて、惠美はついそんな質問をしてしまった。
 槇子は即答できない。槇子はそんな自分に改めて動揺する。

「……うん。自信を持ってちゃんと言えるようになるまでもっとゆっくり時間を頂戴。ごめんなさいね。本当にごめんなさい。惠美ちゃん。何度も言うけど、もしかしたら私多喜ちゃんのことを簡単には忘れられないかも知れない。もちろんちゃんと努力はします。でも、どうやってもだめかもしれない。そんなことになったらごめんね……」

 惠美は何も恐れていなかったし、何の不安もなかった。むしろ正直な槇子の言葉が嬉しかった。惠美はしっかりと言い含めるような声で槇子に言う。

「謝ることなんてないです。そんなことにはなりませんから」

「強引な上に強気」

 さすがに槇子も苦笑する。

「はい」

 もう一度キスをする。ゆっくり時間をかけた丁寧なキス。

 もっと甘い時間を過ごしたかったが、槇子の大人の判断で急いで惠美を自宅へ送ることになった。翌朝より槇子の仕事がかなりきつくなりそうというのもある。別れ際、長々と名残を惜しむ熱っぽいキスをして、ようやく連絡先を交換して別れた。

 帰宅してすぐ惠美は紀恵にメッセージを送った。

〈連絡先交換した。それとちゅーした〉

 すぐに紀恵から返信があった。

〈(親指を立てた絵文字)〉

 槇子にもたくさんメッセージを送りたかったが、仕事に障るといけないので手短に愛の言葉を交わすにとどめた。

 実を言うと、槇子はもっとメッセージが飛んでこないものかと午前3時半まで起きて待ち続けていた。これは惠美も紀恵も知らない槇子だけの恥ずかしい秘密であった。


 三日後の深夜槇子は過労により倒れ、勤務先から救急搬送された。



【次回】
 第27話 君といつまでも


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 驚いているのか身体が少し震える槇子。槇子の手に自分の手を絡ませる惠美。それに応えしっかり二人の指は絡み合った。
「分からない…… 分からなくて…… 多喜ちゃんと君のことで頭が一緒くたになってもうよく分からなくなっちゃって…… 多喜ちゃんを好きだった気持ちが消えるのが怖いのに、多喜ちゃんが心の中からいなくなるのが怖いのに…… だけどそれとは全然違って、君の事を想うと…… あああ……もうどうしたらいいかわからないの! どうしてあなたにこんなに惹かれるのか分からないの! 多喜ちゃんへの気持ちもそのままなのに私何でこんなズルいことばかり! ずっとずっと君のことばかり考えているんだから! 好きなの…… どうしたらいいか分からないくらい…… 好き」
 身を震わせながら面《おもて》を下げ、呻くように泣く槇子。その熱い涙が惠美の手や指にもかかる。
「ズルくても卑怯でもわがままでもいいんです。私全然構いません。あの時の話のように多喜とちゃんとさよならするのをお手伝いします。出来なかったら無理やりにでもこちらを向いてもらいますから」
 頭《こうべ》を垂れたまま緩く左右に頭を振る槇子
「こんなに強引な子だと思わなかった」
 惠美は優しく力強く微笑んだ。
「強引なんです」
 槇子がゆっくりと面を上げる。こちらを見ているようだ。その時車のライトが車内を照らす。一瞬だけ槇子の顔が映る。また涙でメイクを崩した、いつか見たあの顔。そしてあの眼。胸が甘く苦しく締め付けられる。胸の奥がきゅぅぅぅ…となる。
 ああそうだ、ずっとずっと、その眼で、その瞳で、射抜いて欲しかったんだ。
 惠美の方からそっとキスをした。そっと一瞬触れただけのキス。槇子は惠美をそのまま受け入れた。
 惠美はシートベルトを外す。槇子もシートベルトを外してシートを後ろに下げる。騒々しい警告音を無視して惠美は槇子のももに乗り、また惠美の方からキスをする。唇を重ね、唇を唇でなぞり、唇を吸う、唇を舐める、舌を絡ませ、互いの唇で互いの口の中を愛しあうまで長い時間をかける。二人の微かな呻きだけが車内に響く。
 キスをしながら穏やかに優しく抱き合う。片方の手で相手の体温と感触を確かめ合うように触れてまわる。片方の手はいつの間にか恋人繋ぎになっていた。槇子の服や髪から火災特有の臭気がする。
 唇を離し見つめ合う。今度は槇子の方から抱擁し惠美の髪に頬ずりしながら呟いた。
「何度も言ったけどズルいのよ私。二股かけてるんだもの」
 悲し気でかつ自嘲気味な響きがする。
「構わないって言ったじゃないですか。私、多喜になんか負けませんから。ふふっ」
 槇子の鎖骨を唇でなぞる惠美の腕に少し力が入る。
「なんか不思議。本当なら三角関係でケンカするような間柄だったのに」
「でも今は槇子さんを巡って私と多喜が争っているのかも知れないですよ」
 惠美の言葉は槇子には意外だったようで少し驚いた声が車内に響く。
「あ、それは気づかなかった」
「あの、槇子さんは私と多喜と、どっちを取ります?」
 意地悪半分で、だけどどうしても訊きたくて、惠美はついそんな質問をしてしまった。
 槇子は即答できない。槇子はそんな自分に改めて動揺する。
「……うん。自信を持ってちゃんと言えるようになるまでもっとゆっくり時間を頂戴。ごめんなさいね。本当にごめんなさい。惠美ちゃん。何度も言うけど、もしかしたら私多喜ちゃんのことを簡単には忘れられないかも知れない。もちろんちゃんと努力はします。でも、どうやってもだめかもしれない。そんなことになったらごめんね……」
 惠美は何も恐れていなかったし、何の不安もなかった。むしろ正直な槇子の言葉が嬉しかった。惠美はしっかりと言い含めるような声で槇子に言う。
「謝ることなんてないです。そんなことにはなりませんから」
「強引な上に強気」
 さすがに槇子も苦笑する。
「はい」
 もう一度キスをする。ゆっくり時間をかけた丁寧なキス。
 もっと甘い時間を過ごしたかったが、槇子の大人の判断で急いで惠美を自宅へ送ることになった。翌朝より槇子の仕事がかなりきつくなりそうというのもある。別れ際、長々と名残を惜しむ熱っぽいキスをして、ようやく連絡先を交換して別れた。
 帰宅してすぐ惠美は紀恵にメッセージを送った。
〈連絡先交換した。それとちゅーした〉
 すぐに紀恵から返信があった。
〈(親指を立てた絵文字)〉
 槇子にもたくさんメッセージを送りたかったが、仕事に障るといけないので手短に愛の言葉を交わすにとどめた。
 実を言うと、槇子はもっとメッセージが飛んでこないものかと午前3時半まで起きて待ち続けていた。これは惠美も紀恵も知らない槇子だけの恥ずかしい秘密であった。
 三日後の深夜槇子は過労により倒れ、勤務先から救急搬送された。
【次回】
 第27話 君といつまでも