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第1章〜広報部のある企画について〜⑬

ー/ー



 会議のメンバーから、特に異論などは出なかったため、壮馬の提案は、すんなりと承認された。

柔琳寺(じゅうりんじ)に撮影協力をお願いするなら、また、古美術店に行くことになるだろう? そっちの交渉は、オレに任せてくれ」

 そう声をかけると、親友は「サンキュー竜司、助かる」と嬉しそうに返答する。

 一方、今日はあまり機嫌の良くないクラスメートは、

「そんなこと言って、また、女性の店主に会いに行きたいだけなんじゃないの?」

と、なぜか、オレに突っかかってくる。

「それはねぇよ。そんなにあの店が気になるなら、今度はシロも一緒に来ればいいじゃないか?」

 シロに反論するように投げ返した言葉には、壮馬が先に反応し、

「そうだね! 白草さんは、今回の情報発信のカギを握っているし、動画の投稿の参考になりそうなら、一度、亜慈夢(あじむ)古美術堂に行ってもらうのも良いかもね」

と、オレの提案を後押しするように返答する。

 すると、不機嫌だったシロの表情は、やや穏やかなモノに変化し、

「そうねぇ、黄瀬クンもああ言ってくれているし、クロが()()()()()って言うなら、同行してあげても良いよ」

と、こちらに視線を向けながら言ってくる。

(なんて、面倒くさいヤツだ……)

 と感じながらも、壮馬の言うとおり、今回の企画は、インフルエンサー・白草四葉の情報発信力に頼るところが大きいので、()()()()とは言え、シロの機嫌を損なうことは避けておきたい。

「そうだな、SNSや動画の投稿のためになりそうなら、古美術堂に一緒に来てくれ」

 オレが、そう返答すると、表情をほころばせたシロは、

「そんなこと言って、ホントは、わたしと一緒にいたいくせに。もう、素直じゃないなぁ、クロは……」

と言って、クスクスと笑う。

 既視感―――というか、シロとは、もう何度も、こんなやり取りをしている気がする。
 
 その度に、わずらわしいと感じながらも対応しているのだが、今回も企画の協力者にヘソを曲げられては困るので、ここは心を押し殺しながら、表情を変えずに「あぁ、そうだな」と返答しておいた。

 すると、校内で『七面倒くさい女子グランプリ』が開催されたら、連覇を達成しそうな女子生徒は、フフと満足げに微笑んで、機嫌を直したようである。

 だが―――。

 一方で、無言を貫いているものの、下級生女子の表情から穏やかさが消えていっていることに気づく。

(シロの機嫌が戻ったと思ったら、今度は、モモか……)

 心のなかで、今日、何度目かわからないため息をつきながら、桃華の情緒を安定させるための策を考える。
 中学校時代からの付き合いである女子生徒が好んで飲んでいるドリンクの銘柄(ブランド)を思い出しながら、オレは、

「モモ、今回の企画のことで、ちょっと相談したいことがあるんだが……このあと、放送室に残ってくれないか?」

と声をかけた。

 ◆

 壮馬が中心となって進んだ会議が終わると、オレは、ダッシュで購買部近くの自動販売機に向かうと、リプトンの白の贅沢ミルクティーを購入して、放送室に戻る。

 会議を終えたあとの放送室では、タブレットPCを開きながら作業をしていた。

「時間を取ってもらって、すまんな、モモ」

 と声をかけると、下級生女子は、

「いえ、企画についての相談ということなら、部活動の一環ですから」

と、こちらに顔を向けることなく、タブレットのモニターに視線を注いだまま返事をする。

 ここで、「おいおい、機嫌を直してくれよ……」と言おうものなら、話しがこじれてしまいかねないので、オレは、

「そうか」

と、短く相づちを打ったあと、

「議事録やスケジュールをまとめてくれて、ありがとうな。これは、その御礼だ」

と言って、ペットボトルをテーブルに置く。

「こんなもので買収されませんよ? でも……ワタシの好みを把握していることは評価します」

 そう言ってから、桃華は表情を和らげて、ペットボトルのフタを開け、ミルクティーを口に含んだ。

「それじゃ、買収額が低くて申し訳ないが、本題に入っていいか? ()()()()()相談できないことなんだ」

「な、なんですか? ワタシにしかできない話しって?」

 なぜか、動揺を見せる後輩女子に、オレは真剣な眼差しで答える。

「なあ、最近の壮馬のようすについて、モモはどう思う?」

「へっ? きぃ先輩のようすですか?」

 拍子抜けしたように、1オクターブ上ずった声を出した桃華は、そのことを気にするように、頬を少し赤く染めたあと、

「積極的に企画も出してくれますし、そのアイデアも面白いモノだとワタシは感じてますけど……くろ先輩は、なにか気になっていることでもあるんですか?」

と問い返してきた。

「あぁ、自分の出した企画に熱心なことや初対面の相手にも積極的に質問する姿勢は良いんだけど……どうも、今回の企画で再生数を稼ぐことや、都市伝説の内容に前のめりになりすぎている感じがしてな……」

 オレの返答をうなずきながら聞いていた桃華は、

「企画に熱心なことも初対面の人と積極的にコミュニケーションを取ることができるのも良いことじゃないですか? と言いたいところですけど……くろ先輩が、そう感じているってことは、きぃ先輩の言葉や行動には、注意しておいた方が良い、ということですね?」

と、理解を示してくれた。

「ありがとう! 話しが早くて助かる。やっぱり、桃華に相談してよかった」

 安堵して、そう言葉を漏らすと、桃華は澄ました表情で語る。

「まあ、くろ先輩とは付き合いが長いですから。ワタシの好みをキチンと把握してくれている先輩から、()()()()()()()()()()()()を持ちかけられたら、それに相応しい対応をしますよ。ワタシも、きぃ先輩の言動には注意を払っていこうと思います。くろ先輩が、こうして話してくれたということは、なにか理由がありそうですしね」

 そう言って、穏やかに微笑む下級生の表情に頼もしさを感じつつ、広報部の活動を通じて機嫌を直してくれる桃華の性格に、オレは感謝していた。


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 会議のメンバーから、特に異論などは出なかったため、壮馬の提案は、すんなりと承認された。
「|柔琳寺《じゅうりんじ》に撮影協力をお願いするなら、また、古美術店に行くことになるだろう? そっちの交渉は、オレに任せてくれ」
 そう声をかけると、親友は「サンキュー竜司、助かる」と嬉しそうに返答する。
 一方、今日はあまり機嫌の良くないクラスメートは、
「そんなこと言って、また、女性の店主に会いに行きたいだけなんじゃないの?」
と、なぜか、オレに突っかかってくる。
「それはねぇよ。そんなにあの店が気になるなら、今度はシロも一緒に来ればいいじゃないか?」
 シロに反論するように投げ返した言葉には、壮馬が先に反応し、
「そうだね! 白草さんは、今回の情報発信のカギを握っているし、動画の投稿の参考になりそうなら、一度、|亜慈夢《あじむ》古美術堂に行ってもらうのも良いかもね」
と、オレの提案を後押しするように返答する。
 すると、不機嫌だったシロの表情は、やや穏やかなモノに変化し、
「そうねぇ、黄瀬クンもああ言ってくれているし、クロが|ど《・》|う《・》|し《・》|て《・》|も《・》って言うなら、同行してあげても良いよ」
と、こちらに視線を向けながら言ってくる。
(なんて、面倒くさいヤツだ……)
 と感じながらも、壮馬の言うとおり、今回の企画は、インフルエンサー・白草四葉の情報発信力に頼るところが大きいので、|原《・》|因《・》|不《・》|明《・》とは言え、シロの機嫌を損なうことは避けておきたい。
「そうだな、SNSや動画の投稿のためになりそうなら、古美術堂に一緒に来てくれ」
 オレが、そう返答すると、表情をほころばせたシロは、
「そんなこと言って、ホントは、わたしと一緒にいたいくせに。もう、素直じゃないなぁ、クロは……」
と言って、クスクスと笑う。
 既視感―――というか、シロとは、もう何度も、こんなやり取りをしている気がする。
 その度に、わずらわしいと感じながらも対応しているのだが、今回も企画の協力者にヘソを曲げられては困るので、ここは心を押し殺しながら、表情を変えずに「あぁ、そうだな」と返答しておいた。
 すると、校内で『七面倒くさい女子グランプリ』が開催されたら、連覇を達成しそうな女子生徒は、フフと満足げに微笑んで、機嫌を直したようである。
 だが―――。
 一方で、無言を貫いているものの、下級生女子の表情から穏やかさが消えていっていることに気づく。
(シロの機嫌が戻ったと思ったら、今度は、モモか……)
 心のなかで、今日、何度目かわからないため息をつきながら、桃華の情緒を安定させるための策を考える。
 中学校時代からの付き合いである女子生徒が好んで飲んでいるドリンクの|銘柄《ブランド》を思い出しながら、オレは、
「モモ、今回の企画のことで、ちょっと相談したいことがあるんだが……このあと、放送室に残ってくれないか?」
と声をかけた。
 ◆
 壮馬が中心となって進んだ会議が終わると、オレは、ダッシュで購買部近くの自動販売機に向かうと、リプトンの白の贅沢ミルクティーを購入して、放送室に戻る。
 会議を終えたあとの放送室では、タブレットPCを開きながら作業をしていた。
「時間を取ってもらって、すまんな、モモ」
 と声をかけると、下級生女子は、
「いえ、企画についての相談ということなら、部活動の一環ですから」
と、こちらに顔を向けることなく、タブレットのモニターに視線を注いだまま返事をする。
 ここで、「おいおい、機嫌を直してくれよ……」と言おうものなら、話しがこじれてしまいかねないので、オレは、
「そうか」
と、短く相づちを打ったあと、
「議事録やスケジュールをまとめてくれて、ありがとうな。これは、その御礼だ」
と言って、ペットボトルをテーブルに置く。
「こんなもので買収されませんよ? でも……ワタシの好みを把握していることは評価します」
 そう言ってから、桃華は表情を和らげて、ペットボトルのフタを開け、ミルクティーを口に含んだ。
「それじゃ、買収額が低くて申し訳ないが、本題に入っていいか? |桃《・》|華《・》|に《・》|し《・》|か《・》相談できないことなんだ」
「な、なんですか? ワタシにしかできない話しって?」
 なぜか、動揺を見せる後輩女子に、オレは真剣な眼差しで答える。
「なあ、最近の壮馬のようすについて、モモはどう思う?」
「へっ? きぃ先輩のようすですか?」
 拍子抜けしたように、1オクターブ上ずった声を出した桃華は、そのことを気にするように、頬を少し赤く染めたあと、
「積極的に企画も出してくれますし、そのアイデアも面白いモノだとワタシは感じてますけど……くろ先輩は、なにか気になっていることでもあるんですか?」
と問い返してきた。
「あぁ、自分の出した企画に熱心なことや初対面の相手にも積極的に質問する姿勢は良いんだけど……どうも、今回の企画で再生数を稼ぐことや、都市伝説の内容に前のめりになりすぎている感じがしてな……」
 オレの返答をうなずきながら聞いていた桃華は、
「企画に熱心なことも初対面の人と積極的にコミュニケーションを取ることができるのも良いことじゃないですか? と言いたいところですけど……くろ先輩が、そう感じているってことは、きぃ先輩の言葉や行動には、注意しておいた方が良い、ということですね?」
と、理解を示してくれた。
「ありがとう! 話しが早くて助かる。やっぱり、桃華に相談してよかった」
 安堵して、そう言葉を漏らすと、桃華は澄ました表情で語る。
「まあ、くろ先輩とは付き合いが長いですから。ワタシの好みをキチンと把握してくれている先輩から、|ワ《・》|タ《・》|シ《・》|に《・》|し《・》|か《・》|で《・》|き《・》|な《・》|い《・》|相《・》|談《・》を持ちかけられたら、それに相応しい対応をしますよ。ワタシも、きぃ先輩の言動には注意を払っていこうと思います。くろ先輩が、こうして話してくれたということは、なにか理由がありそうですしね」
 そう言って、穏やかに微笑む下級生の表情に頼もしさを感じつつ、広報部の活動を通じて機嫌を直してくれる桃華の性格に、オレは感謝していた。