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みかんの木とアゲハチョウの赤ちゃん

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 みんなのよろこぶかおが大すきな、やさしいみかんの木のお話です。
 夏にはみどり色の葉っぱが、お日さまの光をあびてかがやいていました。そよ風にふかれると、みかんの木はちょっぴりあまずっぱいかおりをただよわせました。すると、そのかおりにつられるように、アゲハチョウのおかあさんがふわふわととんでやってきました。
「ねぇ、みかんさん。わたしのたまごをあずけてもよいかしら?」
「ええ、もちろん。元気なこどもに会えるのが楽しみだわ」
 みかんの木は、そよそよと葉っぱをゆらしながら、こころよくうなずきました。だから、アゲハチョウのおかあさんは安心して、みかんの葉っぱの上に大切なたまごをうみました。
 その日から、みかんの木はアゲハチョウのたまごを見守っていました。お日さまの光が強すぎる時には、そっとえだを動かして、かげをつくりました。そうして、そよそよとゆれて、すずしい風を送っていました。
 夏も終わりに近づいて、青いみかんの実もだんだんとふくらんできました。みかんの葉っぱの上では小さな赤ちゃんが、たまごのからをわって出てきました。赤ちゃんは、外の世界ははじめてでした。しかし、何だかあたたかくて、やさしいものにつつまれているように感じていました。赤ちゃんは黒の中に白のまじった、きたない色をしていました。でも、みかんの木は、赤ちゃんのことをまるでわが子のようにかわいく思いました。
 アゲハチョウの赤ちゃんは、みかんの葉っぱを食べてすくすくと大きくなっていきました。しかし、赤ちゃんが大きくなるにつれて、あぶない目にあうこともありました。
 ある時には、みかんのえだにとまったスズメが、赤ちゃんを見てつぶやきました。
「ああ、おなかがすいたなぁ。葉っぱにくっついているあれは、何かしら? へんな色をしているけれど、虫ではないかしら」
 そんなことを話して、ついばみに行こうとするものですから、みかんの木はあわてて言いました。
「いいえ、スズメさん。これは、虫ではないわ。ハトがわたしの葉っぱにおとしていったフンなのよ。そんなものをついばんでしまっては、きたないわ」
 それを聞いたスズメは、あらためてアゲハチョウの赤ちゃんを見て、ぶるりとふるえました。
「これは、たしかに。ハトのフンにちがいないわ。ああ、あぶない。きたないものをついばんでしまうところだった。みかんさん、ありがとう」
 スズメはみかんの木からとびたって、べつのごはんをさがしに行きました。
 みかんの木は、ほっとむねをなでおろしました。そうです。アゲハチョウの赤ちゃんは、ハトのフンとまちがえるほどにきたない色をしていました。でも、だからこそ、虫をねらう小鳥の目をごまかして、命びろいをしていたのでした。


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みんなのリアクション

 みんなのよろこぶかおが大すきな、やさしいみかんの木のお話です。
 夏にはみどり色の葉っぱが、お日さまの光をあびてかがやいていました。そよ風にふかれると、みかんの木はちょっぴりあまずっぱいかおりをただよわせました。すると、そのかおりにつられるように、アゲハチョウのおかあさんがふわふわととんでやってきました。
「ねぇ、みかんさん。わたしのたまごをあずけてもよいかしら?」
「ええ、もちろん。元気なこどもに会えるのが楽しみだわ」
 みかんの木は、そよそよと葉っぱをゆらしながら、こころよくうなずきました。だから、アゲハチョウのおかあさんは安心して、みかんの葉っぱの上に大切なたまごをうみました。
 その日から、みかんの木はアゲハチョウのたまごを見守っていました。お日さまの光が強すぎる時には、そっとえだを動かして、かげをつくりました。そうして、そよそよとゆれて、すずしい風を送っていました。
 夏も終わりに近づいて、青いみかんの実もだんだんとふくらんできました。みかんの葉っぱの上では小さな赤ちゃんが、たまごのからをわって出てきました。赤ちゃんは、外の世界ははじめてでした。しかし、何だかあたたかくて、やさしいものにつつまれているように感じていました。赤ちゃんは黒の中に白のまじった、きたない色をしていました。でも、みかんの木は、赤ちゃんのことをまるでわが子のようにかわいく思いました。
 アゲハチョウの赤ちゃんは、みかんの葉っぱを食べてすくすくと大きくなっていきました。しかし、赤ちゃんが大きくなるにつれて、あぶない目にあうこともありました。
 ある時には、みかんのえだにとまったスズメが、赤ちゃんを見てつぶやきました。
「ああ、おなかがすいたなぁ。葉っぱにくっついているあれは、何かしら? へんな色をしているけれど、虫ではないかしら」
 そんなことを話して、ついばみに行こうとするものですから、みかんの木はあわてて言いました。
「いいえ、スズメさん。これは、虫ではないわ。ハトがわたしの葉っぱにおとしていったフンなのよ。そんなものをついばんでしまっては、きたないわ」
 それを聞いたスズメは、あらためてアゲハチョウの赤ちゃんを見て、ぶるりとふるえました。
「これは、たしかに。ハトのフンにちがいないわ。ああ、あぶない。きたないものをついばんでしまうところだった。みかんさん、ありがとう」
 スズメはみかんの木からとびたって、べつのごはんをさがしに行きました。
 みかんの木は、ほっとむねをなでおろしました。そうです。アゲハチョウの赤ちゃんは、ハトのフンとまちがえるほどにきたない色をしていました。でも、だからこそ、虫をねらう小鳥の目をごまかして、命びろいをしていたのでした。