表示設定
表示設定
目次 目次




第4章~オレの幼なじみがこんなに素直なわけがない~第10話

ー/ー



 ガン! ガン! ガン! ガン!

 外にいる誰かに聞こえることを祈り続けながら、オレは、廊下のスミに置かれている掃除用具入れのロッカーの内側から扉を叩き続ける。

 すると、扉の向こう側から、

「誰か、いるの?」

という声がした。

 さらに、通気口のようなわずかなすきまから、外の明かりとともに、柑橘の実を思わせる爽やかな香りがただよう。
 聞き覚えのある声だと感じながら、オレは、扉の外側にいると思われる女子生徒に返答する。
 
「2組の次屋(つぎや)に閉じ込められたんだ! 外から扉を開けてくれないか?」

 コチラの声に反応を示した相手は、すぐに扉に手をかけ外側からロッカーを開けてくれた。
 暗闇に閉ざされたロッカーの内部は、午後の明るい陽射しが差し込み、同時に、シトラスの芳香が強くオレの鼻をくすぐる。

「高校生にもなって、ロッカーに閉じ込められる男子が居るなんてね……まるで、保育園や幼稚園に通っている子どもみたい。あなたは、よっぽど、そういう場所に縁があるのね」

 なかば、あきれたような表情で語る名和リッカに対して、

「まあ、たしかにそれは、否定できないな」

と、苦笑交じりに返答したオレは、すぐに気持ちを切り替えて、彼女に問いかける。

「そうだ! 久々知は、どうしてる? まだ、教室に居るのか?」

 オレが、たずねると、リッカは、ヤレヤレと言うように肩をすくめて答えた。

「どうしてる? って、あなたが教室を出た後、あとを追うように出て行ったわよ?」

 その返答に歯噛みしたオレは、「マズい……」と、言葉を漏らし、すぐに駆け出す。

「ちょっと、お礼も言わずにどこに行くの!?」

 背後から、声をかけつつ、オレの後についてくるクラスメートに返答する。

「すまん、礼はあとで、あらためてするから! いまは、四階の空き教室に向かわないと!」

 駆け出しながら、そう答えると、かすかに、
 
「もう、なんなのよ! こっちの計画が台無しじゃない!!」

と言う不満げなつぶやきが聞こえた気がした。彼女の計画とやらが、どういうモノかはわからないが、いまは、そのことを探っている余裕はなかった。

 上坂部葉月(かみさかべはづき)を呼び出したオレが、放課後の空き教室にあらわれず、代わりに次屋が向かったということは、クラス委員の女子の身が安全であるという保証はない。
 そして、上坂部に危険が迫るような場面に遭遇した久々知大成が、どんな行動にでるか、わからない。

 もしも、そこで、暴力行為のようなことが行われたりしたら――――――。

 暴行した生徒は、停学などの処分は免れないかも知れない……そう考えると、自分の計画に浅はかさに、今さらながら腹が立ってきた。

(上坂部、どうか無事でいてくれ!)
(久々知、無茶なことだけはするなよ!)

 そんなことを案じながら階段を駆け上がり、目的の空き教室にたどり着く。

 教室前の廊下には、空き教室の室内から、怒号のような声が飛んでいるのが聞こえた。

「次屋、てめぇ、葉月になにしてんだ!」

 ガラス張りになっている廊下側の窓からは、久々知が、いまにも次屋に殴りかかろうとしているのが見える。

(マズい、早く止めないと!)

 そう思ったオレは、教室前方のドアを豪快に開き、クラスメートに大きな声で呼びかける。

「待て、やめるんだ! 久々知!」

 オレの叫び声に、教室に居た三人の生徒が一斉に振り向いた。
 どうやら、自分の方に注意を向けることには成功したようだ。

 その勢いのまま、オレは、教室に飛び込んだのだが――――――。

「のわっ!」

 勢いあまって、タイル張りの教室の床で足を滑らせたオレは、後方に転びそうになったところを手近にあったモノに手を伸ばす。
 それは、教室用の学習机の上に逆さまの状態で置かれている、同じ種類の机の脚の部分だった。

 教室の入口付近に置かれているその学習机の脚を左手で掴んだオレが、上体を起こすために踏ん張ろうと、その脚を掴んだまま左腕にチカラを込めると、窓際に整然と並べられていた逆さまの学習机は、隣の机に置かれた机を巻き込んで、豪快に床に落下する。

 ドン! ガラガラ! ガラガラ! ガッシャーン!

 玉突き事故、あるいはドミノ倒しのような連鎖反応を発生させた学習机は、合計六台を道連れにして、空き教室の床に大音響を発生させた。

 放課後で大半の生徒はすでに校舎から離れつつあるとは言え、階下の三年生の教室では、天井から、さぞかし大きな音が鳴り響いているだろう。

「な、なんだ! オレには関係ないぞ!」

 久々知に襟元を掴まれていた次屋は、相手の腕を振り払うと、そんな言葉を残して、「おい、待てよ次屋!」というオレの言葉に振り返ることすらなく、空き教室を走り去っていく。

 さらに、逃げ出した男子生徒と入れ替わるように教室に入ってきた女子生徒は、

「すごい音がしたと思ったら……あ〜あ、大変……」

と、あきれたようすで、空き教室の惨状に目を丸くしている。

 そうして、オレの心配のタネであったクラスメートの二人に目を向けると――――――。

 我がクラスの女子のクラス委員は、
 
「怖かったよぉ、大成(たいせい)……」

と、男子のクラス委員にしがみついていた。

 そのようすに気まずさを感じたオレが、二人から目をそらす。
 そして、たまたま視界に入ったもう一人のクラスメートの表情を確認すると――――――。

 クラス委員の二人を見つめるリッカの表情は、なぜか、満足げなように感じられた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 ガン! ガン! ガン! ガン!
 外にいる誰かに聞こえることを祈り続けながら、オレは、廊下のスミに置かれている掃除用具入れのロッカーの内側から扉を叩き続ける。
 すると、扉の向こう側から、
「誰か、いるの?」
という声がした。
 さらに、通気口のようなわずかなすきまから、外の明かりとともに、柑橘の実を思わせる爽やかな香りがただよう。
 聞き覚えのある声だと感じながら、オレは、扉の外側にいると思われる女子生徒に返答する。
「2組の|次屋《つぎや》に閉じ込められたんだ! 外から扉を開けてくれないか?」
 コチラの声に反応を示した相手は、すぐに扉に手をかけ外側からロッカーを開けてくれた。
 暗闇に閉ざされたロッカーの内部は、午後の明るい陽射しが差し込み、同時に、シトラスの芳香が強くオレの鼻をくすぐる。
「高校生にもなって、ロッカーに閉じ込められる男子が居るなんてね……まるで、保育園や幼稚園に通っている子どもみたい。あなたは、よっぽど、そういう場所に縁があるのね」
 なかば、あきれたような表情で語る名和リッカに対して、
「まあ、たしかにそれは、否定できないな」
と、苦笑交じりに返答したオレは、すぐに気持ちを切り替えて、彼女に問いかける。
「そうだ! 久々知は、どうしてる? まだ、教室に居るのか?」
 オレが、たずねると、リッカは、ヤレヤレと言うように肩をすくめて答えた。
「どうしてる? って、あなたが教室を出た後、あとを追うように出て行ったわよ?」
 その返答に歯噛みしたオレは、「マズい……」と、言葉を漏らし、すぐに駆け出す。
「ちょっと、お礼も言わずにどこに行くの!?」
 背後から、声をかけつつ、オレの後についてくるクラスメートに返答する。
「すまん、礼はあとで、あらためてするから! いまは、四階の空き教室に向かわないと!」
 駆け出しながら、そう答えると、かすかに、
「もう、なんなのよ! こっちの計画が台無しじゃない!!」
と言う不満げなつぶやきが聞こえた気がした。彼女の計画とやらが、どういうモノかはわからないが、いまは、そのことを探っている余裕はなかった。
 |上坂部葉月《かみさかべはづき》を呼び出したオレが、放課後の空き教室にあらわれず、代わりに次屋が向かったということは、クラス委員の女子の身が安全であるという保証はない。
 そして、上坂部に危険が迫るような場面に遭遇した久々知大成が、どんな行動にでるか、わからない。
 もしも、そこで、暴力行為のようなことが行われたりしたら――――――。
 暴行した生徒は、停学などの処分は免れないかも知れない……そう考えると、自分の計画に浅はかさに、今さらながら腹が立ってきた。
(上坂部、どうか無事でいてくれ!)
(久々知、無茶なことだけはするなよ!)
 そんなことを案じながら階段を駆け上がり、目的の空き教室にたどり着く。
 教室前の廊下には、空き教室の室内から、怒号のような声が飛んでいるのが聞こえた。
「次屋、てめぇ、葉月になにしてんだ!」
 ガラス張りになっている廊下側の窓からは、久々知が、いまにも次屋に殴りかかろうとしているのが見える。
(マズい、早く止めないと!)
 そう思ったオレは、教室前方のドアを豪快に開き、クラスメートに大きな声で呼びかける。
「待て、やめるんだ! 久々知!」
 オレの叫び声に、教室に居た三人の生徒が一斉に振り向いた。
 どうやら、自分の方に注意を向けることには成功したようだ。
 その勢いのまま、オレは、教室に飛び込んだのだが――――――。
「のわっ!」
 勢いあまって、タイル張りの教室の床で足を滑らせたオレは、後方に転びそうになったところを手近にあったモノに手を伸ばす。
 それは、教室用の学習机の上に逆さまの状態で置かれている、同じ種類の机の脚の部分だった。
 教室の入口付近に置かれているその学習机の脚を左手で掴んだオレが、上体を起こすために踏ん張ろうと、その脚を掴んだまま左腕にチカラを込めると、窓際に整然と並べられていた逆さまの学習机は、隣の机に置かれた机を巻き込んで、豪快に床に落下する。
 ドン! ガラガラ! ガラガラ! ガッシャーン!
 玉突き事故、あるいはドミノ倒しのような連鎖反応を発生させた学習机は、合計六台を道連れにして、空き教室の床に大音響を発生させた。
 放課後で大半の生徒はすでに校舎から離れつつあるとは言え、階下の三年生の教室では、天井から、さぞかし大きな音が鳴り響いているだろう。
「な、なんだ! オレには関係ないぞ!」
 久々知に襟元を掴まれていた次屋は、相手の腕を振り払うと、そんな言葉を残して、「おい、待てよ次屋!」というオレの言葉に振り返ることすらなく、空き教室を走り去っていく。
 さらに、逃げ出した男子生徒と入れ替わるように教室に入ってきた女子生徒は、
「すごい音がしたと思ったら……あ〜あ、大変……」
と、あきれたようすで、空き教室の惨状に目を丸くしている。
 そうして、オレの心配のタネであったクラスメートの二人に目を向けると――――――。
 我がクラスの女子のクラス委員は、
「怖かったよぉ、|大成《たいせい》……」
と、男子のクラス委員にしがみついていた。
 そのようすに気まずさを感じたオレが、二人から目をそらす。
 そして、たまたま視界に入ったもう一人のクラスメートの表情を確認すると――――――。
 クラス委員の二人を見つめるリッカの表情は、なぜか、満足げなように感じられた。