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#17-monster children-

ー/ー



 彼女曰くここ数日は用心の為にホテルで暮らしていたのだが、暇つぶしがてら本を読み進めていくうちにスマホカメラを用いる方法が紹介されていたので、物は試しということで昨夜は友人を連れて帰宅し、久しぶりの帰宅にもかかわらず埃が積もっている様子もなく、整頓された部屋で二人でピザを頼んで飲み食いし友人が帰った後も碌に片付けもせずわざと散らかしたまま就寝したが、その際に二台あるスマホのうち片方をスタンドに固定してリビングの中心を録画させ、もう片方はベッドの上の自分を映しながら床に就いたとのことだ。
 朝陽がカーテンの隙間から部屋を照らし始め見渡してみると、すっかり片付いていたので恐る恐るリビングに設置したカメラを確認したところ、黙々と部屋を片づける自分の姿が映っており同時刻もう片方のスマホには横になった直後に起き上がる自分が映っていたそうだが、そこまでなら前回と変わらないのだが今回は決定的んな違いがあった。
 それは宮比さんは確かにベッドに移動したが朝まで一睡もせず、ひたすらベッドの上で布団にもぐり込んで縮こまっていたにも関わらずという事だ。
 マネージャーに電話で話したが当然寝ぼけていたんじゃないかとか本気で取り合ってもらうことはできず、絶対にそれはないと断言すると探偵と同じく、むしろそれ以上真剣に精神病まで疑われる始末だったらしい。

 とにかく今日の撮影には来るようにと言われたので仕方なくスーツに着替えコートを羽織った所で異変が起こる。
 なんと足を引っかけた訳でもないのに目の前で一人でにコンセントが抜けて蛇の様に頭をもたげ、シュルシュルと足首に巻き付いてきたのだそうだ。
 パニックに陥り転倒しながらもなんとか解き、部屋から出ようと玄関まで這う間も雑誌やリモコンなどが飛んできて腕を怪我したらしい。
 あとはもう悲鳴とも言えない声を上げながら靴箱の上のカギと鞄の紐をひっつかんで部屋を飛び出し、閉めたドアの向こうに色々な物がぶつかる音を聞きながら封印するように施錠してエレベーターに駆け込んで、撮影現場にも顔を出さず直接ここへ来たらしい。

「難儀だったな。して、ここ数ヶ月の間で他に変わったことはなかったか。」

「変わったことですか。そうですね、田舎から都会に出て来たくらいでこれといっては。新築のマンションを買ったので事故物件というのも有り得ませんし、もう何が何だか。」

「作用か。まあ部屋の中でしか事がおこっておらぬ以上、一度直接見に行く他あるまいな。台座よ、明日行ってこい。」

「任された。ってあたしだけ!?」

「私はこれで色々と忙しくてな。年末だというのに駆け込みが多すぎるのだ。貴様はどうせ暇なのだろう?」

「一応あたしこれでも女子高生だから予定ぐらいあるんですけど。」

「そうね、残念だけど無理強いはよくないわよね。ごめんなさいねクリスマス前でマメさんも忙しいだろうし、最悪また引っ越せばいいから気にしないで。」

「だそうだが、どうする?なに危ない相手ではないゆえ、台座だけで十分だと思うのだが。」

 小さな友人との約束を思い出し頭の中で弾ける笑顔と嬉しそうな声が反響したが、目の前で困っている美女のションボリ顔を前にやらぬと言い放つことはどうしても出来ず、半ばやけくそのような返事をして引き受けることになったのだった。



「ひゃ、初めまひて自分はマメと同じ高校に通う望月桃です!本日はよろしくお願いしまひゅ!」

「昨日電話でお話ししたマメさんのお友達さんね。こちらこそ遊ぶ約束の邪魔をしてごめんさいね。」

「いえ!むしろあのMIYABIさんとお会いすることが出来たので恐悦至極です!毎日邪魔してください!」

 昨日自宅訪問を引き受けた後、すぐさま今日の予定をキャンセルしたいと申し訳なさいっぱいの胸中で電話したところ、端末の向こうの彼女がそこそこ不機嫌になったのを感じ取ったのか自分のせいだからと宮比さんが通話を変わった途端にその態度は一変し、いつの間にか私だけでなく桃も混ざって三人で向かうことになっていた。
 大阪駅に繋がっている大きなビルの九階に位置する本だらけのカフェに集合したのだが、ガチガチの桃を眺めながら微笑む宮比さんはいつものスーツ姿ではなく、黒いスキニーパンツに紫のニットセーターというラフな格好で背もたれにはベージュのコートがかかっている。
 あの後今更だけどと職場に謝罪の電話をした彼女は橿原の実家に泊まったそうで、実家にあった昔着ていた物を適当に見繕って来たとのことだが、傍目にはそんなことは全くわからず素人見識ではあるがそのまま雑誌に載っていても違和感がないとすら思える着こなしは流石はトップモデルという所だろうか。
 カフェで一杯飲んでいると実はお昼ご飯がまだでご馳走するから付き合って欲しいと誘われたのでお言葉に甘え、一階上のランチビュッフェをご馳走になりながら話を聞いてみると梅田駅から徒歩十分ほどの所に住んでいるらしく、仕事が終わって電車で帰って来た際にはよくここでご飯を食べているのだそうだ。

「ここから十分ってすごい街中じゃないですか!いつでも最新の服を見られるなんて羨ましいです!」

 終始語尾に【!】が付くくらい元気溌剌な桃なのだが、宮比さんは今住んでいる部屋のことを思い出したのか少し困ったように眉尻を下げながらデメリットの話をしてくれる。

「私もそう思って大阪に移ったんだけど、流石に街中過ぎたみたいで少し後悔しているの。確かに深夜でも買い物はもちろん遊ぶ所にも困らない便利な所だし、地元で聞いてたみたいに物価が高いなんてことも実際は全然なかったんだけど騒音だけは酷くてね。夜になれば多少はマシになるんだけどやっぱり田舎と比べるとヤンチャ者が集まってるからどうしてもね。もし桃さんがこれから県庁所在地や都会に出る気なら、その辺も考えて部屋を借りた方がいいかもしれないわ。」

 世知辛い大人のアドバイスを素直に受け入れ元気よく返事をする友人を見ていると、何となく生きている私はこれからどうすればいいのだろうと考えてしまう。
 一応地元大学の文系に進むつもりではあるのだが果たしてその先は何処に就職するのだろう、そして納得のいく人生は送れるのだろうかと。
 桃は以前から服飾系の専門に進んで自分のブランドを立ち上げたいと語っているが、そういった夢が無く不透明な将来像しかない自分のそれと比べると、途端に未来が暗いものに思えてしまい、言葉にし難い不安に駆られてしまうのだ。

「それはそうとまだ時間はあるしもっと食べましょ。九十分食べ放題コースだから元とらなきゃね。」

 私に刺した影を悟ってという訳ではないだろうが、いいタイミングで話を切り替えてくれたので新たに料理を取りに立った宮比さんに続いて私も席を立つ。
 考えれば考えるほど頭が痛くなる話題を振り払うように揚げ物やピザを盛りに盛って席に帰ると、小奇麗なデザート盛り合わせを持つモデルの皿とベジタリアンなのかほぼ野菜しか見当たらない桃のプレートに迎えられまたしてもやってしまった事を悟ったのだった。



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 彼女曰くここ数日は用心の為にホテルで暮らしていたのだが、暇つぶしがてら本を読み進めていくうちにスマホカメラを用いる方法が紹介されていたので、物は試しということで昨夜は友人を連れて帰宅し、久しぶりの帰宅にもかかわらず埃が積もっている様子もなく、整頓された部屋で二人でピザを頼んで飲み食いし友人が帰った後も碌に片付けもせずわざと散らかしたまま就寝したが、その際に二台あるスマホのうち片方をスタンドに固定してリビングの中心を録画させ、もう片方はベッドの上の自分を映しながら床に就いたとのことだ。
 朝陽がカーテンの隙間から部屋を照らし始め見渡してみると、すっかり片付いていたので恐る恐るリビングに設置したカメラを確認したところ、黙々と部屋を片づける自分の姿が映っており同時刻もう片方のスマホには横になった直後に起き上がる自分が映っていたそうだが、そこまでなら前回と変わらないのだが今回は決定的んな違いがあった。
 それは宮比さんは確かにベッドに移動したが朝まで一睡もせず、ひたすらベッドの上で布団にもぐり込んで縮こまっていたにも関わらずという事だ。
 マネージャーに電話で話したが当然寝ぼけていたんじゃないかとか本気で取り合ってもらうことはできず、絶対にそれはないと断言すると探偵と同じく、むしろそれ以上真剣に精神病まで疑われる始末だったらしい。
 とにかく今日の撮影には来るようにと言われたので仕方なくスーツに着替えコートを羽織った所で異変が起こる。
 なんと足を引っかけた訳でもないのに目の前で一人でにコンセントが抜けて蛇の様に頭をもたげ、シュルシュルと足首に巻き付いてきたのだそうだ。
 パニックに陥り転倒しながらもなんとか解き、部屋から出ようと玄関まで這う間も雑誌やリモコンなどが飛んできて腕を怪我したらしい。
 あとはもう悲鳴とも言えない声を上げながら靴箱の上のカギと鞄の紐をひっつかんで部屋を飛び出し、閉めたドアの向こうに色々な物がぶつかる音を聞きながら封印するように施錠してエレベーターに駆け込んで、撮影現場にも顔を出さず直接ここへ来たらしい。
「難儀だったな。して、ここ数ヶ月の間で他に変わったことはなかったか。」
「変わったことですか。そうですね、田舎から都会に出て来たくらいでこれといっては。新築のマンションを買ったので事故物件というのも有り得ませんし、もう何が何だか。」
「作用か。まあ部屋の中でしか事がおこっておらぬ以上、一度直接見に行く他あるまいな。台座よ、明日行ってこい。」
「任された。ってあたしだけ!?」
「私はこれで色々と忙しくてな。年末だというのに駆け込みが多すぎるのだ。貴様はどうせ暇なのだろう?」
「一応あたしこれでも女子高生だから予定ぐらいあるんですけど。」
「そうね、残念だけど無理強いはよくないわよね。ごめんなさいねクリスマス前でマメさんも忙しいだろうし、最悪また引っ越せばいいから気にしないで。」
「だそうだが、どうする?なに危ない相手ではないゆえ、台座だけで十分だと思うのだが。」
 小さな友人との約束を思い出し頭の中で弾ける笑顔と嬉しそうな声が反響したが、目の前で困っている美女のションボリ顔を前にやらぬと言い放つことはどうしても出来ず、半ばやけくそのような返事をして引き受けることになったのだった。
「ひゃ、初めまひて自分はマメと同じ高校に通う望月桃です!本日はよろしくお願いしまひゅ!」
「昨日電話でお話ししたマメさんのお友達さんね。こちらこそ遊ぶ約束の邪魔をしてごめんさいね。」
「いえ!むしろあのMIYABIさんとお会いすることが出来たので恐悦至極です!毎日邪魔してください!」
 昨日自宅訪問を引き受けた後、すぐさま今日の予定をキャンセルしたいと申し訳なさいっぱいの胸中で電話したところ、端末の向こうの彼女がそこそこ不機嫌になったのを感じ取ったのか自分のせいだからと宮比さんが通話を変わった途端にその態度は一変し、いつの間にか私だけでなく桃も混ざって三人で向かうことになっていた。
 大阪駅に繋がっている大きなビルの九階に位置する本だらけのカフェに集合したのだが、ガチガチの桃を眺めながら微笑む宮比さんはいつものスーツ姿ではなく、黒いスキニーパンツに紫のニットセーターというラフな格好で背もたれにはベージュのコートがかかっている。
 あの後今更だけどと職場に謝罪の電話をした彼女は橿原の実家に泊まったそうで、実家にあった昔着ていた物を適当に見繕って来たとのことだが、傍目にはそんなことは全くわからず素人見識ではあるがそのまま雑誌に載っていても違和感がないとすら思える着こなしは流石はトップモデルという所だろうか。
 カフェで一杯飲んでいると実はお昼ご飯がまだでご馳走するから付き合って欲しいと誘われたのでお言葉に甘え、一階上のランチビュッフェをご馳走になりながら話を聞いてみると梅田駅から徒歩十分ほどの所に住んでいるらしく、仕事が終わって電車で帰って来た際にはよくここでご飯を食べているのだそうだ。
「ここから十分ってすごい街中じゃないですか!いつでも最新の服を見られるなんて羨ましいです!」
 終始語尾に【!】が付くくらい元気溌剌な桃なのだが、宮比さんは今住んでいる部屋のことを思い出したのか少し困ったように眉尻を下げながらデメリットの話をしてくれる。
「私もそう思って大阪に移ったんだけど、流石に街中過ぎたみたいで少し後悔しているの。確かに深夜でも買い物はもちろん遊ぶ所にも困らない便利な所だし、地元で聞いてたみたいに物価が高いなんてことも実際は全然なかったんだけど騒音だけは酷くてね。夜になれば多少はマシになるんだけどやっぱり田舎と比べるとヤンチャ者が集まってるからどうしてもね。もし桃さんがこれから県庁所在地や都会に出る気なら、その辺も考えて部屋を借りた方がいいかもしれないわ。」
 世知辛い大人のアドバイスを素直に受け入れ元気よく返事をする友人を見ていると、何となく生きている私はこれからどうすればいいのだろうと考えてしまう。
 一応地元大学の文系に進むつもりではあるのだが果たしてその先は何処に就職するのだろう、そして納得のいく人生は送れるのだろうかと。
 桃は以前から服飾系の専門に進んで自分のブランドを立ち上げたいと語っているが、そういった夢が無く不透明な将来像しかない自分のそれと比べると、途端に未来が暗いものに思えてしまい、言葉にし難い不安に駆られてしまうのだ。
「それはそうとまだ時間はあるしもっと食べましょ。九十分食べ放題コースだから元とらなきゃね。」
 私に刺した影を悟ってという訳ではないだろうが、いいタイミングで話を切り替えてくれたので新たに料理を取りに立った宮比さんに続いて私も席を立つ。
 考えれば考えるほど頭が痛くなる話題を振り払うように揚げ物やピザを盛りに盛って席に帰ると、小奇麗なデザート盛り合わせを持つモデルの皿とベジタリアンなのかほぼ野菜しか見当たらない桃のプレートに迎えられまたしてもやってしまった事を悟ったのだった。