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第3章~彼の幼馴染みと彼女が修羅場すぎる~第8話

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 名和(めいわ)リッカが立ち去る姿を見送り、帰り支度をしようとカバンの中身を確認していると、おもむろに教室のドアが開いた。

 さっきまで、言い合っていた女子生徒が、なにか言い残したことを言おうとして戻ってきたのか……と身構えたが、あらわれたのは、オレの予想とは異なり、二人の生徒だった。

「ゴメンね、睦月(むつき)……私のせいで……」

「大丈夫だよ、小春(こはる)。机を確認したら、すぐに帰ろう」

 そんなことを話し合いながら、吹奏楽部の浜小春と大島睦月が教室に入ってきた。
 二人で会話をしながらも、オレの存在に気づいた大島が、たずねてくる。

「あら? まだ、残ってたの、立花? いま、さっき、教室の前で名和さんとすれ違ったんだけど……彼女、珍しく苛立(いらだ)っているような表情に見えたわね。あなた、もしかして、名和さんとなにかあったの?」

 教室から出てきたクラスメートが不機嫌なようすを見せており、その教室に残っているのがオレだけとなれば、大島の推測も当然のことと言える。

「あぁ、上坂部のことで、ちょっと言い合いになってな……いくら、上坂部を応援したいと思っても、やっぱり、付き合ったばかりの二人を別れさせるってのは、平穏にはいかないよな」

 オレに反発するように教室を出て行った相手の後ろ姿を思い出しながら答える。
 誰かをかばうわけではないが、話し合った相手にもそれなりに言い分はあると思うので、自分の方からは、詳細に触れることなく、いましがた、教室で起こったことをほのめかす程度にとどめた。

 すると、オレの言葉に反応した大島は、
 
「もしかして、名和さんに、葉月が久々知のことを諦めずにアプローチしようとしていることがバレてるの?」

と、たずねてきた。

「ああ、それについては、一昨日、ひと悶着があってな。名和の方から上坂部に意志確認をしたあと、『私から、大成を奪ってみなさい!』って、啖呵を切ったんだよ」

 オレの返答に、大島は、「そう……」と答えたあと、

「いわゆる修羅場ってヤツね……完全に第三者のあなたが、その目撃者になっているのも、皮肉な気がするけど……まさか、影から現場をのぞいてたわけじゃないでしょうね?」

と、やや険しい表情でたずねてくる。

「まさか! オレも一緒に、『確認したいことがある』って、名和から呼び出されていたんだよ」

 オレが、そう答えると、大島は「そうなの……」と、つぶやくだけだったが、一方の浜は、なにかに気づいたような表情でたずねてきた。

「ねぇ、もしかして、なんだけど……立花くんが、昨日の朝、授業が始まる前に、教壇のところで、『四葉ちゃんにお悩み相談をしたのは――――――なにを隠そう、このオレだ!』って、自分から話したのって、そのことと関係あるの?」
 
 普段はおっとりとしているクラスメートからの鋭い問いかけに面食らったオレは、適当に言い繕うことも出来ず、照れ隠しに頬をかきながら、「あぁ、まあ、そういうことになるかな……」と、答えた。

 正直なところ、少しばかり気持ちが楽になっているとは言え、昨日の朝のことは、あまり思い出したくないのだが……。

 ただ、控えめな性格の女子生徒は、上ずるような声で、オレに語りかけてきた。

「そ、それって、立花くんが上坂部さんを守ってあげようとしたってことだよね? 白草四葉ちゃんの動画の相談主は、実は上坂部さんなんじゃないか? って、女子の間ではウワサになってたし……」

「い、いや、そんな上坂部を守ろうとか、そんな大層なモノじゃないよ……オレが、勝手に動画のコメント欄に相談の内容を書き込んだのは事実だし」

「でも、上坂部さんが誤解されそうになってるって思ったからこそ、あんな風に、自分から、ホントのことを言ってくれたんだよね!?」

 普段の教室では大人し目な振る舞いを目にすることが多い浜小春が、ずいぶんと食い気味に、そして、熱心に、オレの意志を確認してこようとする。

「ん……まあ、そういうふうにも言えるのかな?」

 あまりひつこく否定すると、さらに、こちらの事情を問い詰めて来そうなので、あいまいでありながらも肯定的なニュアンスで答えると、「やっぱり……」と、小柄なクラスメートは、どこか嬉しそうな表情で、胸をなでおろすような仕草を見せた。

 すると、そんな親友のようすを見ながら、珍しく大島睦月がクスクスと笑みを漏らす。
 これまた、普段はあまり見られない、クールビューティーなクラスメートの表情を不思議な想いで眺めていると、

「ああ、ゴメンナサイ。小春のようすが可愛らしかったのと、このコが言ったとおりのことだというのがわかったから、ちょっと、可笑(おか)しくて……」

()()()()()()()()()()()()()って、どういうことだ?)

 そんな疑問が表情にあらわれたのだろう、怪訝な顔つきで話しを聞いていたオレのようすに気づいたのか、大島は、さらに言葉を続ける。

「小春は、昨日、あなたが、ずいぶんと落ち込んでいるようすだったから、心配していたのよ。『立花くん、みんなの前で、あんなこと言って大丈夫かな?』って……私は、教壇でのあなたの()()()の場面を見逃してしまったから、小春を上手く安心させることができなくて……でも、これで、テスト前の心配のタネが無くなったわ。忘れ物も、机の中にあったみたいだし、心おきなく、テストに取り組めるわね、小春?」

 いつもの教室ではあまり見られない朗らかな表情で語る大島睦月に対して、浜小春は、可愛らしく抗議する。

「もう、睦月! そんなに詳しく話すことないじゃない!」

 真っ赤になって、親友に物申しているクラスメートの姿を眺めながら、オレの心は、そのようすを微笑ましく感じるあたたかな気持ちにつつまれていた。


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 |名和《めいわ》リッカが立ち去る姿を見送り、帰り支度をしようとカバンの中身を確認していると、おもむろに教室のドアが開いた。
 さっきまで、言い合っていた女子生徒が、なにか言い残したことを言おうとして戻ってきたのか……と身構えたが、あらわれたのは、オレの予想とは異なり、二人の生徒だった。
「ゴメンね、|睦月《むつき》……私のせいで……」
「大丈夫だよ、|小春《こはる》。机を確認したら、すぐに帰ろう」
 そんなことを話し合いながら、吹奏楽部の浜小春と大島睦月が教室に入ってきた。
 二人で会話をしながらも、オレの存在に気づいた大島が、たずねてくる。
「あら? まだ、残ってたの、立花? いま、さっき、教室の前で名和さんとすれ違ったんだけど……彼女、珍しく|苛立《いらだ》っているような表情に見えたわね。あなた、もしかして、名和さんとなにかあったの?」
 教室から出てきたクラスメートが不機嫌なようすを見せており、その教室に残っているのがオレだけとなれば、大島の推測も当然のことと言える。
「あぁ、上坂部のことで、ちょっと言い合いになってな……いくら、上坂部を応援したいと思っても、やっぱり、付き合ったばかりの二人を別れさせるってのは、平穏にはいかないよな」
 オレに反発するように教室を出て行った相手の後ろ姿を思い出しながら答える。
 誰かをかばうわけではないが、話し合った相手にもそれなりに言い分はあると思うので、自分の方からは、詳細に触れることなく、いましがた、教室で起こったことをほのめかす程度にとどめた。
 すると、オレの言葉に反応した大島は、
「もしかして、名和さんに、葉月が久々知のことを諦めずにアプローチしようとしていることがバレてるの?」
と、たずねてきた。
「ああ、それについては、一昨日、ひと悶着があってな。名和の方から上坂部に意志確認をしたあと、『私から、大成を奪ってみなさい!』って、啖呵を切ったんだよ」
 オレの返答に、大島は、「そう……」と答えたあと、
「いわゆる修羅場ってヤツね……完全に第三者のあなたが、その目撃者になっているのも、皮肉な気がするけど……まさか、影から現場をのぞいてたわけじゃないでしょうね?」
と、やや険しい表情でたずねてくる。
「まさか! オレも一緒に、『確認したいことがある』って、名和から呼び出されていたんだよ」
 オレが、そう答えると、大島は「そうなの……」と、つぶやくだけだったが、一方の浜は、なにかに気づいたような表情でたずねてきた。
「ねぇ、もしかして、なんだけど……立花くんが、昨日の朝、授業が始まる前に、教壇のところで、『四葉ちゃんにお悩み相談をしたのは――――――なにを隠そう、このオレだ!』って、自分から話したのって、そのことと関係あるの?」
 普段はおっとりとしているクラスメートからの鋭い問いかけに面食らったオレは、適当に言い繕うことも出来ず、照れ隠しに頬をかきながら、「あぁ、まあ、そういうことになるかな……」と、答えた。
 正直なところ、少しばかり気持ちが楽になっているとは言え、昨日の朝のことは、あまり思い出したくないのだが……。
 ただ、控えめな性格の女子生徒は、上ずるような声で、オレに語りかけてきた。
「そ、それって、立花くんが上坂部さんを守ってあげようとしたってことだよね? 白草四葉ちゃんの動画の相談主は、実は上坂部さんなんじゃないか? って、女子の間ではウワサになってたし……」
「い、いや、そんな上坂部を守ろうとか、そんな大層なモノじゃないよ……オレが、勝手に動画のコメント欄に相談の内容を書き込んだのは事実だし」
「でも、上坂部さんが誤解されそうになってるって思ったからこそ、あんな風に、自分から、ホントのことを言ってくれたんだよね!?」
 普段の教室では大人し目な振る舞いを目にすることが多い浜小春が、ずいぶんと食い気味に、そして、熱心に、オレの意志を確認してこようとする。
「ん……まあ、そういうふうにも言えるのかな?」
 あまりひつこく否定すると、さらに、こちらの事情を問い詰めて来そうなので、あいまいでありながらも肯定的なニュアンスで答えると、「やっぱり……」と、小柄なクラスメートは、どこか嬉しそうな表情で、胸をなでおろすような仕草を見せた。
 すると、そんな親友のようすを見ながら、珍しく大島睦月がクスクスと笑みを漏らす。
 これまた、普段はあまり見られない、クールビューティーなクラスメートの表情を不思議な想いで眺めていると、
「ああ、ゴメンナサイ。小春のようすが可愛らしかったのと、このコが言ったとおりのことだというのがわかったから、ちょっと、|可笑《おか》しくて……」
(|こ《・》|の《・》|コ《・》|が《・》|言《・》|っ《・》|た《・》|と《・》|お《・》|り《・》|の《・》|こ《・》|と《・》って、どういうことだ?)
 そんな疑問が表情にあらわれたのだろう、怪訝な顔つきで話しを聞いていたオレのようすに気づいたのか、大島は、さらに言葉を続ける。
「小春は、昨日、あなたが、ずいぶんと落ち込んでいるようすだったから、心配していたのよ。『立花くん、みんなの前で、あんなこと言って大丈夫かな?』って……私は、教壇でのあなたの|大《・》|演《・》|説《・》の場面を見逃してしまったから、小春を上手く安心させることができなくて……でも、これで、テスト前の心配のタネが無くなったわ。忘れ物も、机の中にあったみたいだし、心おきなく、テストに取り組めるわね、小春?」
 いつもの教室ではあまり見られない朗らかな表情で語る大島睦月に対して、浜小春は、可愛らしく抗議する。
「もう、睦月! そんなに詳しく話すことないじゃない!」
 真っ赤になって、親友に物申しているクラスメートの姿を眺めながら、オレの心は、そのようすを微笑ましく感じるあたたかな気持ちにつつまれていた。