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正と負

ー/ー



「何を考えているのかな? あいつら」

 本来の調子を取り戻したトキが、出発の前日久し振りに仕留めた野ウサギを丸焼きにしながらつぶやいた。あいつらとはオオジュリンたちの事である。

「なによ、突然」

「いや、あの日ヒレンジャクたちが現れて以来、俺たち襲われてないだろ? 海上での襲撃はともかく、島に上陸してからの二日間も何もなかったのがかえっておかしいと思ったのさ」

 ツグミは、薬草の煮汁をかき混ぜながら相づちを打った。

「確かにそうね。トキもセッカも船酔いで戦えなかった訳だし、千里の眼を使えばその様子が判っていたと思うわ。ホント、何を考えているのかしら?」

「待っているんだと思う」

 アイリスは、島に自生していた竹のような木を細工しながらそう言った。竹は見る間に矢に変わる。

「やつらはミサゴという少女をさらい、ブルーを手に入れようとしている。しかし、いまだにブルーを手に入れた形跡はない。ブルーを手に入れるには、ミサゴの他にオジロが残した魔法の道具が必要なのかも知れないと私は考えている。そしておそらく、やつらはそれを探し出せないでいるに違いない」

「そうか、それを俺たちに探させようとしているんだ」

 焼き上がった野ウサギを切り分けながら、トキは興味深げにアイリスの竹細工を見る。ツグミは空を見上げて星の運行を見ているようだ。食事が待ちきれなかったノスリは、切り分けてもらった肉にかぶりついて口の中をヤケドしてしまったらしい。

「そう言えば、ノスリはオジロと一緒に冒険してたんだろ? ブルーの正体、知ってるんじゃないの?」

「知らない。知ってるのは、オジロがブルーを使ってヒレンジャクとキレンジャクを封印したって事だけだ。どういうもので、どういう風に使ったのかは、本当に知らない」

「そうか…」

 セッカは、赤い火が踊るたき火を見つめた。
 ミサゴに近付いているのだろう。彼女の泣き声がだんだんはっきり聞こえてくるようになっていた。夜一人静かに見張りなんかしていると、その声は今までのようなとぎれとぎれではなくはっきりと彼の名を呼んで助けを求める声が聞こえてくる。彼はその声に、あの日のヒバリの涙を重ねて切ない気持ちになる事がある。そして、こう思うのだ「絶対、生きて元の世界に戻るんだ。戻ってヒバリに謝らなきゃいけないんだ」と。
 翌日、彼らはノスリを先頭に島の探検に出発した。ノスリの記憶によれば山の奥に沼があって、そこに沈めてあるのだという。
 この島は草食動物の楽園のようだった。
 天敵になるような肉食動物がいないのだろう。生命感に満ちあふれていて、セッカなどともすれば小学校の遠足をしている気分になる。
 大きな島じゃない。やがて小川が見つかり、川筋をたどって行くとうっそうと(しげ)る密林の中に木漏れ日を受けてキラキラと輝く神秘的な沼が現れた。
 沼をのぞき込んでも中の様子はよく見えない。水をすくってみるととても澄んだキレイな水なのにだ。

「沼自体に魔法がかかっているのかな?」

「そんな事ないわ」

 魔法がかかっていればマナの集中が見られるはずであり、魔法使いのツグミが気付かないはずがない。アイリスも精霊による魔法の形跡はないと言っている。

「潜って探すしかないんだろうな」

 泳ぐのには自信のあるセッカが鎧を脱ごうとした時、アイリスがそれを止める。

「鎧は脱がない方がいい」

 はっとして辺りを見ると、トキもツグミも臨戦(りんせん)態勢(たいせい)を整えていた。敵が近いのか? この頃にはセッカだってそれなりに生き物の気配や殺気を感じられるようになっている。多少の油断はあったかも知れないけれど、他の全員が気付いているらしい敵の気配に気付かなかったなんて…。くやしい気持ちを抑えながら盾を構えて長剣を腰から抜いた。

「何がいるの?」

「判らない」

 実は、トキにも気配は感じられなかったのだ。ただ、長年の狩人としての(かん)が身の危険を報せたのだ。

「魔法の力に囲まれたわ」

 マナとは違う魔法の力。
 ツグミが感じたのはそんなものだ。その魔法の力が沼をぐるりと取り囲んでいる。人数という考え方が出来るとすれば十四、五人というくらいか。
 アイリスが不快感を隠さない表情をしている。

「マナは万物の根源的エネルギーと言われているが、それは正のエネルギーを指しているに過ぎない。この気配は負のエネルギーだ」

「負のエネルギー?」

 セッカは、理科の知識を総動員して考える。正と負ってことは+と−だ。この世界に存在するためのエネルギーがマナであるとすれば……。
 セッカの足がガタガタ震え出す。

「セッカ? 正体が判ったの?」

 ホラー系のゲーム画面が目の前に浮かぶ。

「ゾ、ゾンビ…!?」

「なんだそれ?」

 トキの肩に乗っていたノスリが聞き返す。
 やがて、近付いてきた敵の発しているらしいカラカラという乾いた音が沼にこだまを始めた。


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「何を考えているのかな? あいつら」
 本来の調子を取り戻したトキが、出発の前日久し振りに仕留めた野ウサギを丸焼きにしながらつぶやいた。あいつらとはオオジュリンたちの事である。
「なによ、突然」
「いや、あの日ヒレンジャクたちが現れて以来、俺たち襲われてないだろ? 海上での襲撃はともかく、島に上陸してからの二日間も何もなかったのがかえっておかしいと思ったのさ」
 ツグミは、薬草の煮汁をかき混ぜながら相づちを打った。
「確かにそうね。トキもセッカも船酔いで戦えなかった訳だし、千里の眼を使えばその様子が判っていたと思うわ。ホント、何を考えているのかしら?」
「待っているんだと思う」
 アイリスは、島に自生していた竹のような木を細工しながらそう言った。竹は見る間に矢に変わる。
「やつらはミサゴという少女をさらい、ブルーを手に入れようとしている。しかし、いまだにブルーを手に入れた形跡はない。ブルーを手に入れるには、ミサゴの他にオジロが残した魔法の道具が必要なのかも知れないと私は考えている。そしておそらく、やつらはそれを探し出せないでいるに違いない」
「そうか、それを俺たちに探させようとしているんだ」
 焼き上がった野ウサギを切り分けながら、トキは興味深げにアイリスの竹細工を見る。ツグミは空を見上げて星の運行を見ているようだ。食事が待ちきれなかったノスリは、切り分けてもらった肉にかぶりついて口の中をヤケドしてしまったらしい。
「そう言えば、ノスリはオジロと一緒に冒険してたんだろ? ブルーの正体、知ってるんじゃないの?」
「知らない。知ってるのは、オジロがブルーを使ってヒレンジャクとキレンジャクを封印したって事だけだ。どういうもので、どういう風に使ったのかは、本当に知らない」
「そうか…」
 セッカは、赤い火が踊るたき火を見つめた。
 ミサゴに近付いているのだろう。彼女の泣き声がだんだんはっきり聞こえてくるようになっていた。夜一人静かに見張りなんかしていると、その声は今までのようなとぎれとぎれではなくはっきりと彼の名を呼んで助けを求める声が聞こえてくる。彼はその声に、あの日のヒバリの涙を重ねて切ない気持ちになる事がある。そして、こう思うのだ「絶対、生きて元の世界に戻るんだ。戻ってヒバリに謝らなきゃいけないんだ」と。
 翌日、彼らはノスリを先頭に島の探検に出発した。ノスリの記憶によれば山の奥に沼があって、そこに沈めてあるのだという。
 この島は草食動物の楽園のようだった。
 天敵になるような肉食動物がいないのだろう。生命感に満ちあふれていて、セッカなどともすれば小学校の遠足をしている気分になる。
 大きな島じゃない。やがて小川が見つかり、川筋をたどって行くとうっそうと繁《しげ》る密林の中に木漏れ日を受けてキラキラと輝く神秘的な沼が現れた。
 沼をのぞき込んでも中の様子はよく見えない。水をすくってみるととても澄んだキレイな水なのにだ。
「沼自体に魔法がかかっているのかな?」
「そんな事ないわ」
 魔法がかかっていればマナの集中が見られるはずであり、魔法使いのツグミが気付かないはずがない。アイリスも精霊による魔法の形跡はないと言っている。
「潜って探すしかないんだろうな」
 泳ぐのには自信のあるセッカが鎧を脱ごうとした時、アイリスがそれを止める。
「鎧は脱がない方がいい」
 はっとして辺りを見ると、トキもツグミも臨戦《りんせん》態勢《たいせい》を整えていた。敵が近いのか? この頃にはセッカだってそれなりに生き物の気配や殺気を感じられるようになっている。多少の油断はあったかも知れないけれど、他の全員が気付いているらしい敵の気配に気付かなかったなんて…。くやしい気持ちを抑えながら盾を構えて長剣を腰から抜いた。
「何がいるの?」
「判らない」
 実は、トキにも気配は感じられなかったのだ。ただ、長年の狩人としての勘《かん》が身の危険を報せたのだ。
「魔法の力に囲まれたわ」
 マナとは違う魔法の力。
 ツグミが感じたのはそんなものだ。その魔法の力が沼をぐるりと取り囲んでいる。人数という考え方が出来るとすれば十四、五人というくらいか。
 アイリスが不快感を隠さない表情をしている。
「マナは万物の根源的エネルギーと言われているが、それは正のエネルギーを指しているに過ぎない。この気配は負のエネルギーだ」
「負のエネルギー?」
 セッカは、理科の知識を総動員して考える。正と負ってことは+と−だ。この世界に存在するためのエネルギーがマナであるとすれば……。
 セッカの足がガタガタ震え出す。
「セッカ? 正体が判ったの?」
 ホラー系のゲーム画面が目の前に浮かぶ。
「ゾ、ゾンビ…!?」
「なんだそれ?」
 トキの肩に乗っていたノスリが聞き返す。
 やがて、近付いてきた敵の発しているらしいカラカラという乾いた音が沼にこだまを始めた。