魔法
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自己紹介の後、ようやくセッカは、トキがどうしてあんなに警戒していたのか教えてもらった。
それは、ツグミが魔法使いだからだった。
敵が魔法使いを中心とした集団であるという事で、魔法使いであるツグミを敵かも知れないと疑ったのだ。
「さて…救世主くんの怪我の治療を兼ねて、話の続きは私の部屋で話しましょう?」
とツグミは二人に声をかけた。
「どうしてツグミの部屋に? 僕たちの部屋にくればいいのに」
そういったセッカに対して、ツグミは悪戯っぽく微笑みかけるとこういった。
「私も一応女の子なんだけど。何の準備もなしに男の子の部屋に行くなんて不用意な行動はしないのよ」
それがどういう意味なのかはよく理解出来なかったが、その仕草と話し方がセッカにはとても魅力的に思われて思わず頬が赤くなった。
ツグミの部屋は一人部屋でセッカたちの部屋より狭かったが、荷物はきちんと片付けられていてしかもほんのりいい匂いがした。
「まずはセッカの腕の治療ね。腕を出して。その方が治りが早いから」
言われてセッカは上着を脱ぎ、包帯を外した。傷口は強い衝撃でぱっくり裂(さ)けたもので、血だけは止まっていた。それを確認するとツグミはトキを振り返り感心した口調でこういった。
「普通の手当としては合格ね。やっぱトキって優秀だわ」
そしてちょうど西部劇のガンマンがガンベルトに差している拳銃を抜くように三十㎝ほどの杖を取り出すと、杖の先を傷口に近づけて囁くように不思議な抑揚のついた呪文の詠唱を始めた。するとセッカの左腕はじんわりと温かくなり、傷口にくすぐったい感覚を覚えみるみるうちに傷が治り始めた。傷跡が残るだろうと覚悟していた深い裂傷は、ものの数分で綺麗に消えてしまった。
治癒の魔法には大きく三段階、上級魔法の復元(失った部位を元に戻すことができる)、中級魔法の修復(切り離された部位をつなぎ合わせることができる)、そして今セッカの治療に使われた初級魔法の根治(傷を治すことができる)があり、ツグミが言うには体の中のマナに働きかけて傷を治すスピードと能力を上げる魔法なのだという。
余談だが、怪我と病気の治療は根本的に同じ魔法なのだが働きかけるマナの作用を呪文の詠唱のわずかな違いで変える。産業革命以前の文化水準に思えるこの世界において医療分野だけは現代医学に匹敵するほどの進歩を果たしているのだが、ひとえに治癒魔法の進化に人体構造と各器官の働きの解明が必要だったからである。
さて、ツグミが教えてくれた事。それはとても具体的な事だった。
十年ほど前、マンテル共和国の評議員をしていたオオジュリンという魔術師(上級魔法より複雑な呪文を使える魔法使いをそう呼ぶ)がその邪悪な志しを見破られ、評議会を追われた。彼はその後、闇の魔術師と呼ばれるようになり自らの野望達成のために手下を集めて活動するようになったそうだ。やがてスターンバー王国のブルー伝説とミサゴの存在を知り、野望達成のためにブルーの力を手に入れようとミサゴをさらって行ったという事らしい。
「オオジュリンの野望って?」
「世界征服じゃない?」
セッカたちは、話の重大さに酒場に戻るとこもできず人目を避けてツグミの部屋で話をしていた。それぞれに飲み物の入ったカップを握って、今やこの世界全体に影響を及ぼすかも知れない事が判ってきた事件に暗く、重たい気持ちになっていた。
「ブルーって一体何なの?」
ツグミは、いびきをかきながら寝ているノスリをなでながら言う。
「ごめんね、私アニング公国出身なの。それは、トキの方が詳しいんじゃない?」
アニング公国とはマンテル共和国の勢力圏内にありながらスターンバー王国と同盟を結ぶ小さな国だ。
「俺もおとぎ話や英雄譚で語られている以上のことは知らない。ただ、伝説ではブルーが発動すると奇跡が起こると言われている。地球から召喚された前回の救世主オジロが、ヒレンジャク・キレンジャクという鬼を退治する時に使われたというのがよく知られているくらいだよ」
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自己紹介の後、ようやくセッカは、トキがどうしてあんなに警戒していたのか教えてもらった。
それは、ツグミが魔法使いだからだった。
敵が魔法使いを中心とした集団であるという事で、魔法使いであるツグミを敵かも知れないと疑ったのだ。
「さて…救世主くんの怪我《けが》の治療《ちりょう》を兼ねて、話の続きは私の部屋で話しましょう?」
とツグミは二人に声をかけた。
「どうしてツグミの部屋に? 僕たちの部屋にくればいいのに」
そういったセッカに対して、ツグミは悪戯《いたずら》っぽく微笑みかけるとこういった。
「私も一応女の子なんだけど。何の準備もなしに男の子の部屋に行くなんて不用意な行動はしないのよ」
それがどういう意味なのかはよく理解出来なかったが、その仕草と話し方がセッカにはとても魅力的に思われて思わず頬が赤くなった。
ツグミの部屋は一人部屋でセッカたちの部屋より狭かったが、荷物はきちんと片付けられていてしかもほんのりいい匂いがした。
「まずはセッカの腕の治療ね。腕を出して。その方が治りが早いから」
言われてセッカは上着を脱ぎ、包帯を外した。傷口は強い衝撃でぱっくり裂(さ)けたもので、血だけは止まっていた。それを確認するとツグミはトキを振り返り感心した口調でこういった。
「普通の手当としては合格ね。やっぱトキって優秀だわ」
そしてちょうど西部劇のガンマンがガンベルトに差している拳銃を抜くように三十㎝ほどの杖を取り出すと、杖の先を傷口に近づけて囁《ささや》くように不思議な抑揚《よくよう》のついた呪文の詠唱《えいしょう》を始めた。するとセッカの左腕はじんわりと温かくなり、傷口にくすぐったい感覚を覚えみるみるうちに傷が治り始めた。傷跡が残るだろうと覚悟していた深い裂傷《れっしょう》は、ものの数分で綺麗に消えてしまった。
治癒《ちゆ》の魔法には大きく三段階、上級魔法の復元《ふくげん》(失った部位を元に戻すことができる)、中級魔法の修復《しゅうふく》(切り離された部位をつなぎ合わせることができる)、そして今セッカの治療に使われた初級魔法の根治《こんち》(傷を治すことができる)があり、ツグミが言うには体の中のマナに働きかけて傷を治すスピードと能力を上げる魔法なのだという。
余談だが、怪我と病気の治療は根本的に同じ魔法なのだが働きかけるマナの作用を呪文の詠唱のわずかな違いで変える。産業革命以前の文化水準に思えるこの世界において医療分野だけは現代医学に匹敵するほどの進歩を果たしているのだが、ひとえに治癒魔法の進化に人体構造と各器官の働きの解明が必要だったからである。
さて、ツグミが教えてくれた事。それはとても具体的な事だった。
十年ほど前、マンテル共和国の評議員をしていたオオジュリンという魔術師(上級魔法より複雑な呪文を使える魔法使いをそう呼ぶ)がその邪悪な志《こころざ》しを見破られ、評議会を追われた。彼はその後、闇の魔術師と呼ばれるようになり自らの野望達成のために手下を集めて活動するようになったそうだ。やがてスターンバー王国のブルー伝説とミサゴの存在を知り、野望達成のためにブルーの力を手に入れようとミサゴをさらって行ったという事らしい。
「オオジュリンの野望って?」
「世界征服じゃない?」
セッカたちは、話の重大さに酒場に戻るとこもできず人目を避けてツグミの部屋で話をしていた。それぞれに飲み物の入ったカップを握って、今やこの世界全体に影響を及ぼすかも知れない事が判ってきた事件に暗く、重たい気持ちになっていた。
「ブルーって一体何なの?」
ツグミは、いびきをかきながら寝ているノスリをなでながら言う。
「ごめんね、私アニング公国出身なの。それは、トキの方が詳しいんじゃない?」
アニング公国とはマンテル共和国の勢力圏内にありながらスターンバー王国と同盟を結ぶ小さな国だ。
「俺もおとぎ話や英雄譚《えいゆうたん》で語られている以上のことは知らない。ただ、伝説ではブルーが発動すると奇跡が起こると言われている。地球から召喚された前回の救世主オジロが、ヒレンジャク・キレンジャクという鬼を退治する時に使われたというのがよく知られているくらいだよ」