第1話 小森雅子
ー/ー
20世紀のいつか、美姫、良子、達夫高3
雅子大学2、明彦大学1
私はキャンパスの2号館から6号館の間を走った。なんで科目ごとのクラスの建物が違うの!信じられない!テキストブックの入っているショルダーバックが重い。
私の所属は理学部化学科。化学科と応用化学科って、新しい理論を見つけるか、売れそうな物質を作るか、それが違いだ。化学科は現在までの研究で証明されている理論や法則を学習し、新しい理論や物質を作る学科だ。つまり、化学科は就職しにくく、応用化学科は職が見つけやすい、つぶしが効くって話なのだ。もちろん、理学部よりも理工学部の方がはるかに潰しが効くけどね。
でも、まだ誰もが見たことのない世界を見たい!ノーベル賞を取りたい!なんて夢見る女学生だったけど、実際のところ、化学科が応用化学科よりも入試倍率が低かったというだけなんだなあ。
大学2年になって、カリキュラムが増えた。1年次は高校の化学、物理、数学の延長みたいな授業が多かったが、2年次になると、
一般化学実験
化学数学/一般物理学1/物理学実験/生物学実験/地学実験1・2
一般物理学2/電子計算機/地学1(岩石圏)/地学2(大気圏)
有機化学2・3/生化学1・2
無機化学2/分析化学/無機及分析化学実験
物理化学2A・2B
という学科を履修、おまけに一般教養の学科もある。今年は目一杯必須の一般教養を履修して、3年次は専門教科を取りこぼさずに過ごし、4年次、余裕を持って卒業研究に打ち込みたい、なんて思っている。研究室は、分子化学系の教授のところを狙っている。理化学研究所なんて就職できたら良いなあ、なんてね。だって、理化学研究所、大阪・神戸・兵庫に拠点があるので、実家の京都から近いのだ。
ちゃんと就職しないと、京都の実家の和紙問屋やら親戚の日本酒の酒造屋に引っ張られかねない。京都だから、いまだに縁戚同士の婚姻とかもあるんだもの。私はイヤ!自分の好きな人と巡り合って、恋愛して、結婚、でも、仕事は続けたいんだもの。
巡り合ってって、そう言えば、2月14日のバレンタインデーの日、2年次の履修科目の提出をするのに大学に行ったけど、手袋落とした私の好みの男の子に会ったわね。我ながらよく覚えているもんだ。可愛い子を連れていた。受験生で合格発表を見に来たんだろうけど、ウチの大学で女の子連れなんて珍しかったから覚えていたのかしら。
※「よこはま物語 壱、第5話 合格発表」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/913345710/461940836/episode/9342859)
彼が合格して入学するとして、入学式が1976年4月9日。もう1年次は始まってるわね?理学部?理工学部?薬学部は・・・たぶんないわね?どこかでバッタリ出会ったりして・・・って、ベッタリと彼の腕にしがみついていた可愛い子がいるわよね?
妹なんかじゃないね?彼女はガールフレンドだろうな?高校生かな?じゃあ、出会ってもチャンスはないってことよね?ガッカリだ・・・って、私のほうが年上じゃないの!たった1才違いだけど、この1才の差は大きいのだ。ダメだね、これは。
でも、気になるわ。あの女の子、彼のダッフルコートの袖にしがみついて、私を睨みつけてた。たまたま、手袋を拾ってあげただけじゃないの?あなたの彼氏を取ろうとしてないわ。まったく。東京の高校生って所有欲が激しいの?私だったらあんなに彼氏にしがみついてベタベタしないわ。恥ずかしい。
少しだけ染めた茶髪のショートボブ、白のとっくりセーターに黒のミニ、黒のタイツだったな。髪の毛を染めてるなんて不良っぽい。でも、髪を軽く染めるのもいいかもしれない?コケティッシュに見えるかな?今度、やってみよう。
だけど、あのファッション、私のファッションみたいじゃないの?顔もすごく私と似てた。彼の好みがあの子なら、私だって彼の好み?へへへ、そんなことないね。
なんて考えていたら教室に着いた。え~っと、と見回すと同じ美術部の内藤くんが座ってる。彼の隣に腰掛けた。「オッス、内藤くん、お元気?」と声をかける。
今日の私は、ネイビーブルーのボタンダウン、赤のベスト、黒のミニ、黒のストッキングで、ピーコートという格好。ミニが好きなだけで、決して男の子の気をひこうということじゃない。じゃないんだけど、男の子は私の脚を見る。見られて満更でもないってのは否定しません。
内藤くんは私の顔を見てニコッとした。「小森さん、かなり学科がダブってるよね?また、ノート見せてね」と言う。おいおい、自分でノート取れ!授業を聞け!内藤くんは1年次も私のノートを生協で全部コピーしたのだ。ダメなやつ。女の子ばっかり追いかけていて、勉強しないんだから。
授業中、私がノートを取っているのを彼は興味なさそうに見ているふりをして、私のスカートと脚を覗いているのはお見通し。見られて減るもんじゃなし、別にいいけど。でも、私だけじゃない、どんな女の子の脚とか胸とか顔も物欲しそうに見るんだ。私だけだったら好意も持てるけど、誰彼構わずじゃあ、内藤くん、そりゃ、ダメだよ。だから、彼はパスなのだ。
化学科は物理科に比べて比較的女の子は多い。物理科なんて女の子の割合は5%以下。理学部全体で男女比は8:2なんだそうだ。化学科は7:3ぐらいかな。薬学部は4:6で女の子が多い。
だから、内藤くんは用もないのに本部校舎から四ツ谷寄りの薬学部の校舎をウロウロしたり、薬学部の学食を利用したりしているのだ。(2003年に薬学部は神楽坂校舎から野田校舎に移転)節操のないやつだ。男女共学出の男の子はみんなこうなんだろうか?内藤くんは千葉出身だったかな?千葉じゃなあ、悪いけど節操がなさそうだ。
夕方、授業が終わって、美術部室に顔を出した。体育会系の部活でもないので、部員は三々五々集まっては、とりとめのない話をしたり、急に部員同士がモデルになって、クロッキーなんかをしている。今日は人も多い。夕方なので途中までの石膏デッサンはしない。部員のダベリに付き合った。石膏デッサンはあまり人もいない土曜日の午後がいいのだ。
内藤くんがいた。私を見て、自分の隣のベンチシートの場所を空ける。いいんだよ、余計な気をつかわなくても。私はあなたの彼女じゃない!近寄らんといてや!
内藤くんが「小森さん、今度の日曜日、渋谷の屋根裏でコンサートのチケットを2枚もらったんだ。一緒に行かない?」なんて誘われた。この前も誘われて断ったけど、千葉の男の子は諦めないのかな?
「悪いんだけど、今度の日曜日は予定があるのよ。土日はいろいろ忙しいの。かんにんええ。許してな」
「予定があるんだ?まさか、デートとか?」しつこい!京都の男の子だったら察してくれるんだけどなあ。千葉の男の子はダメか・・・
「デート?彼氏なんかいないわ。勉強も忙しいから、今はそっちの方面は興味が無いのよ。あ!ほら!吉田さん、吉田万里子ちゃんを誘えば?」矛先を変えよう。「万里子ちゃん、ちょっと、ちょっと」と離れて座っていた吉田万里子を呼んだ。
吉田万里子ちゃんは、化学科の1年生。元素の周期表で言うと、内藤くんと万里子ちゃんは、同じハロゲン族のようなもの。私は系列の違う希土類みたいなもの。絶対に、内藤くんと私じゃ合わない。万里子ちゃんとだったら、同じ系列で合うだろう。女内藤みたいなものだ。万里子ちゃん、どんな男の子の顔とか脚とかお尻とかでも物欲しそうに見る。内藤くん、キミは同じ系列を選ぶんだよ。
万里子ちゃんが大きな胸を揺さぶってこっちに来た。彼女の胸には私は負ける。髪の毛は派手な茶髪で(私、茶髪に敵愾心を燃やしているんだろうか?)、黄色のヨットパーカーの中は胸を強調するように体にフィットした黒のTシャツ。フレアの超ミニのスカートだ。パンツが見えそう。この露出狂女め!
「小森さん、なんですかぁ~?」と松田聖子ばりの笑顔。このぶりっ子が!
「万里子ちゃん、内藤くんが、今度の日曜日、渋谷の屋根裏のコンサートのチケットを2枚持っているんだって。私、誘われたんだけど、予定があるのよ。万里子ちゃん、私の代理で悪いけど、どう?その代わり、内藤くんが食事も奢ってくれるって」と言うと、内藤くんが奢るなんて言ってないという顔をして私を見る。自分からデートに誘ったら、奢れ!内藤!
「ええ?行きますぅ~。内藤さん、何のコンサートですかぁ?」ほら、食いついた。誰でもいいんだ、この子は。特に、食事おごり付き!なんて言われれば、ホィホィ、誰とでもデートしちゃう・・・という女子の噂。内藤くん、タダの(じゃないか?食事とホテル代は負担だよね?)セックスできるよ!
「・・・プログレバンドが数組出るんだ。クリムゾンとかイエスとかのコピーバンド。そんなに有名じゃないバンドなんだけどね・・・」
「私、プログレ、好きなんですよぉ~」と高音の声で万里子が言う。嘘つけ!この前の飲み会じゃあ、オフコースの『眠れぬ夜』、良いなぁ~って言ってたじゃないか?プログレと路線が違うだろう。
「じゃあ、俺、万里子ちゃんと行ってきます!」と内藤くんが未練がましく私の顔を見て言う。ハイ、行ってらっしゃぁ~い。
私は男嫌いってわけじゃない。セックスだってたぶん好きな方だ。処女じゃない、と言っても経験人数1人だけど。
あれは高校二年の夏。私の高校は女子校だったんだけど、高校一年になったら周りの子がどんどん経験をし始めた。処女を捨てる子が多くなって、私も捨てようかなあ、って思っていた。バカだったな、私。
高校二年の夏に友達が近くの男子校の男の子たちと敦賀に泊りがけで海水浴に行こうって話があった。男女、四人と四人で行った。声をかけてくれた私の友達はその高校の男の子と付き合っていて、他の二人も相手を決めちゃって、私は残りの一人とカップルになった。
まあまあタイプの男の子だったんだけど。それで、夜になって、他の三組は始めちゃう。私とその彼も始めちゃわないといけないような雰囲気になった。まあ、いいか、なんて思って、初めてを彼と経験した。ちょっと痛かった。彼も初めてで、二人共慣れてなかった。
それから、冬休みくらいまで、彼と付き合って、毎週土日は私か彼の家でセックスするようになった。だけど、だんだん、彼が私のことを抱いちゃったんだし、あれは俺の女、みたいな態度を周りにするようになった。
それで彼が私にいろいろ求めだした。彼の好みで服のスタイルを変えろとか。長髪のワンレンボディコンでデートに来いとかね。彼は陸上をやっていて、美術なんて興味なかった。そういう私の意に沿わないことをいろいろ言われて、美術も尊重してくれない。私だって陸上なんて興味なかった。もうセックスだけが接点になってしまって、それで、すれ違いで別れちゃった。それ以来、二年間、男の子は当分いいかな、なんて思ってる。
※未成年の飲酒シーンが書かれてあります。
※この物語は性描写や飲酒、喫煙シーンを含みます。
※この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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でも、まだ誰もが見たことのない世界を見たい!ノーベル賞を取りたい!なんて夢見る女学生だったけど、実際のところ、化学科が応用化学科よりも入試倍率が低かったというだけなんだなあ。
大学2年になって、カリキュラムが増えた。1年次は高校の化学、物理、数学の延長みたいな授業が多かったが、2年次になると、
一般化学実験
化学数学/一般物理学1/物理学実験/生物学実験/地学実験1・2
一般物理学2/電子計算機/地学1(岩石圏)/地学2(大気圏)
有機化学2・3/生化学1・2
無機化学2/分析化学/無機及分析化学実験
物理化学2A・2B
という学科を履修、おまけに一般教養の学科もある。今年は目一杯必須の一般教養を履修して、3年次は専門教科を取りこぼさずに過ごし、4年次、余裕を持って卒業研究に打ち込みたい、なんて思っている。研究室は、分子化学系の教授のところを狙っている。理化学研究所なんて就職できたら良いなあ、なんてね。だって、理化学研究所、大阪・神戸・兵庫に拠点があるので、実家の京都から近いのだ。
ちゃんと就職しないと、京都の実家の和紙問屋やら親戚の日本酒の酒造屋に引っ張られかねない。京都だから、いまだに縁戚同士の婚姻とかもあるんだもの。私はイヤ!自分の好きな人と巡り合って、恋愛して、結婚、でも、仕事は続けたいんだもの。
巡り合ってって、そう言えば、2月14日のバレンタインデーの日、2年次の履修科目の提出をするのに大学に行ったけど、手袋落とした私の好みの男の子に会ったわね。我ながらよく覚えているもんだ。可愛い子を連れていた。受験生で合格発表を見に来たんだろうけど、ウチの大学で女の子連れなんて珍しかったから覚えていたのかしら。
※「よこはま物語 壱、第5話 合格発表」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/913345710/461940836/episode/9342859)
彼が合格して入学するとして、入学式が1976年4月9日。もう1年次は始まってるわね?理学部?理工学部?薬学部は・・・たぶんないわね?どこかでバッタリ出会ったりして・・・って、ベッタリと彼の腕にしがみついていた可愛い子がいるわよね?
妹なんかじゃないね?彼女はガールフレンドだろうな?高校生かな?じゃあ、出会ってもチャンスはないってことよね?ガッカリだ・・・って、私のほうが年上じゃないの!たった1才違いだけど、この1才の差は大きいのだ。ダメだね、これは。
でも、気になるわ。あの女の子、彼のダッフルコートの袖にしがみついて、私を睨みつけてた。たまたま、手袋を拾ってあげただけじゃないの?あなたの彼氏を取ろうとしてないわ。まったく。東京の高校生って所有欲が激しいの?私だったらあんなに彼氏にしがみついてベタベタしないわ。恥ずかしい。
少しだけ染めた茶髪のショートボブ、白のとっくりセーターに黒のミニ、黒のタイツだったな。髪の毛を染めてるなんて不良っぽい。でも、髪を軽く染めるのもいいかもしれない?コケティッシュに見えるかな?今度、やってみよう。
だけど、あのファッション、私のファッションみたいじゃないの?顔もすごく私と似てた。彼の好みがあの子なら、私だって彼の好み?へへへ、そんなことないね。
なんて考えていたら教室に着いた。え~っと、と見回すと同じ美術部の内藤くんが座ってる。彼の隣に腰掛けた。「オッス、内藤くん、お元気?」と声をかける。
今日の私は、ネイビーブルーのボタンダウン、赤のベスト、黒のミニ、黒のストッキングで、ピーコートという格好。ミニが好きなだけで、決して男の子の気をひこうということじゃない。じゃないんだけど、男の子は私の脚を見る。見られて満更でもないってのは否定しません。
内藤くんは私の顔を見てニコッとした。「小森さん、かなり学科がダブってるよね?また、ノート見せてね」と言う。おいおい、自分でノート取れ!授業を聞け!内藤くんは1年次も私のノートを生協で全部コピーしたのだ。ダメなやつ。女の子ばっかり追いかけていて、勉強しないんだから。
授業中、私がノートを取っているのを彼は興味なさそうに見ているふりをして、私のスカートと脚を覗いているのはお見通し。見られて減るもんじゃなし、別にいいけど。でも、私だけじゃない、どんな女の子の脚とか胸とか顔も物欲しそうに見るんだ。私だけだったら好意も持てるけど、誰彼構わずじゃあ、内藤くん、そりゃ、ダメだよ。だから、彼はパスなのだ。
化学科は物理科に比べて比較的女の子は多い。物理科なんて女の子の割合は5%以下。理学部全体で男女比は8:2なんだそうだ。化学科は7:3ぐらいかな。薬学部は4:6で女の子が多い。
だから、内藤くんは用もないのに本部校舎から四ツ谷寄りの薬学部の校舎をウロウロしたり、薬学部の学食を利用したりしているのだ。(2003年に薬学部は神楽坂校舎から野田校舎に移転)節操のないやつだ。男女共学出の男の子はみんなこうなんだろうか?内藤くんは千葉出身だったかな?千葉じゃなあ、悪いけど節操がなさそうだ。
夕方、授業が終わって、美術部室に顔を出した。体育会系の部活でもないので、部員は三々五々集まっては、とりとめのない話をしたり、急に部員同士がモデルになって、クロッキーなんかをしている。今日は人も多い。夕方なので途中までの石膏デッサンはしない。部員のダベリに付き合った。石膏デッサンはあまり人もいない土曜日の午後がいいのだ。
内藤くんがいた。私を見て、自分の隣のベンチシートの場所を空ける。いいんだよ、余計な気をつかわなくても。私はあなたの彼女じゃない!近寄らんといてや!
内藤くんが「小森さん、今度の日曜日、渋谷の屋根裏でコンサートのチケットを2枚もらったんだ。一緒に行かない?」なんて誘われた。この前も誘われて断ったけど、千葉の男の子は諦めないのかな?
「悪いんだけど、今度の日曜日は予定があるのよ。土日はいろいろ忙しいの。かんにんええ。許してな」
「予定があるんだ?まさか、デートとか?」しつこい!京都の男の子だったら察してくれるんだけどなあ。千葉の男の子はダメか・・・
「デート?彼氏なんかいないわ。勉強も忙しいから、今はそっちの方面は興味が無いのよ。あ!ほら!吉田さん、吉田万里子ちゃんを誘えば?」矛先を変えよう。「万里子ちゃん、ちょっと、ちょっと」と離れて座っていた吉田万里子を呼んだ。
吉田万里子ちゃんは、化学科の1年生。元素の周期表で言うと、内藤くんと万里子ちゃんは、同じハロゲン族のようなもの。私は系列の違う希土類みたいなもの。絶対に、内藤くんと私じゃ合わない。万里子ちゃんとだったら、同じ系列で合うだろう。女内藤みたいなものだ。万里子ちゃん、どんな男の子の顔とか脚とかお尻とかでも物欲しそうに見る。内藤くん、キミは同じ系列を選ぶんだよ。
万里子ちゃんが大きな胸を揺さぶってこっちに来た。彼女の胸には私は負ける。髪の毛は派手な茶髪で(私、茶髪に敵愾心を燃やしているんだろうか?)、黄色のヨットパーカーの中は胸を強調するように体にフィットした黒のTシャツ。フレアの超ミニのスカートだ。パンツが見えそう。この露出狂女め!
「小森さん、なんですかぁ~?」と松田聖子ばりの笑顔。このぶりっ子が!
「万里子ちゃん、内藤くんが、今度の日曜日、渋谷の屋根裏のコンサートのチケットを2枚持っているんだって。私、誘われたんだけど、予定があるのよ。万里子ちゃん、私の代理で悪いけど、どう?その代わり、内藤くんが食事も奢ってくれるって」と言うと、内藤くんが奢るなんて言ってないという顔をして私を見る。自分からデートに誘ったら、奢れ!内藤!
「ええ?行きますぅ~。内藤さん、何のコンサートですかぁ?」ほら、食いついた。誰でもいいんだ、この子は。特に、食事おごり付き!なんて言われれば、ホィホィ、誰とでもデートしちゃう・・・という女子の噂。内藤くん、タダの(じゃないか?食事とホテル代は負担だよね?)セックスできるよ!
「・・・プログレバンドが数組出るんだ。クリムゾンとかイエスとかのコピーバンド。そんなに有名じゃないバンドなんだけどね・・・」
「私、プログレ、好きなんですよぉ~」と高音の声で万里子が言う。嘘つけ!この前の飲み会じゃあ、オフコースの『眠れぬ夜』、良いなぁ~って言ってたじゃないか?プログレと路線が違うだろう。
「じゃあ、俺、万里子ちゃんと行ってきます!」と内藤くんが未練がましく私の顔を見て言う。ハイ、行ってらっしゃぁ~い。
私は男嫌いってわけじゃない。セックスだってたぶん好きな方だ。処女じゃない、と言っても経験人数1人だけど。
あれは高校二年の夏。私の高校は女子校だったんだけど、高校一年になったら周りの子がどんどん経験をし始めた。処女を捨てる子が多くなって、私も捨てようかなあ、って思っていた。バカだったな、私。
高校二年の夏に友達が近くの男子校の男の子たちと敦賀に泊りがけで海水浴に行こうって話があった。男女、四人と四人で行った。声をかけてくれた私の友達はその高校の男の子と付き合っていて、他の二人も相手を決めちゃって、私は残りの一人とカップルになった。
まあまあタイプの男の子だったんだけど。それで、夜になって、他の三組は始めちゃう。私とその彼も始めちゃわないといけないような雰囲気になった。まあ、いいか、なんて思って、初めてを彼と経験した。ちょっと痛かった。彼も初めてで、二人共慣れてなかった。
それから、冬休みくらいまで、彼と付き合って、毎週土日は私か彼の家でセックスするようになった。だけど、だんだん、彼が私のことを抱いちゃったんだし、あれは俺の女、みたいな態度を周りにするようになった。
それで彼が私にいろいろ求めだした。彼の好みで服のスタイルを変えろとか。長髪のワンレンボディコンでデートに来いとかね。彼は陸上をやっていて、美術なんて興味なかった。そういう私の意に沿わないことをいろいろ言われて、美術も尊重してくれない。私だって陸上なんて興味なかった。もうセックスだけが接点になってしまって、それで、すれ違いで別れちゃった。それ以来、二年間、男の子は当分いいかな、なんて思ってる。
※未成年の飲酒シーンが書かれてあります。
※この物語は性描写や飲酒、喫煙シーンを含みます。
※この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。