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第3章~彼の幼馴染みと彼女が修羅場すぎる~第2話

ー/ー



 放課後の教室で発生した修羅場をぼう然と眺めることしかできなかったオレが、ようやく、現状を整理して、ついにクラス委員の前でも本性(?)をあらわした転校生に向かって、一言モノ申してやろうと口を開こうとすると、目の前の女子生徒はつぶやいた。

「ちょっと言い過ぎだったかな……?」

 その一言に、オレは、

「いや、いまのは、ちょっとどころじゃねぇだろ!?」

と、間髪を入れずに言葉を発した。
 
(女子相手に香りの問題を指摘するなんて……ヒトの心とか無いんか!?)

 投射呪法(とうしゃじゅほう)の使い手にして糸目のクズエリートのようなセリフとともに、オレの心の中に怒りのような感情がフツフツと湧いてくる。

「上坂部が、久々知のそばに居るのが気に食わないとしても、あんなことまで言う必要は無いんじゃねぇのか?」

「そのことについては、反省してる。もう少し、違ったアドバイスの仕方もあったかなって……」

 そう言った名和リッカは、後悔するかのように耳元にかかる髪をかきあげた。その仕草とともに、これまでただよっていたジャスミンとバニラを混ぜたような濃密なフレグランスに変わって、オレンジなどの柑橘系の実を思わせる爽やかで明るいシトラスフローラルの香りが、オレの鼻をくすぐる。
 
 以前にも感じたように、それは、オレに幼少期の記憶を呼び起こさせる不思議な香りだった。
 
 そのことを意識の脇に追いやり、少しバツの悪そうな顔つきをしている女子生徒に
 
「いや、あれがアドバイスって、どういう神経をしてるんだ?」
 
と、苦言を呈しつつも、オレの頭の片隅には、

(同性に、こんな嫌味を言う女子なんて、保育園の同級生だったあのコ以来だ……)

という懐かしい思い出がよみがえってきた。

 ただ、そんなオレの心の動きには関心がないのだろう、名和リッカは、

「だから、それは悪かったと思ってるって……そんなことより――――――」

と、話題を変えようとする。

「葉月のこと、このままで良いの? 四葉ちゃんの動画で相談をしたのは、あなたなんでしょ、立花クン?」

 その一言は、発言の矛先が、オレに変わったことを示していた。
 突然の指摘に動揺しつつも、匿名の相談なので、そう簡単に正体が判明することはないと、とりあえず、シラを切ることにする。

「な、なんのことだ? 四葉ちゃんの動画って? オレはなにも知らないぞ?」

 こちらの返答に、「ふ〜ん、そうやって、とぼけるんだ……」と、つぶやいた女子生徒は、これまで、オレが把握していなかった情報を開示してきた。

「立花クンには言ってなかったかもだけど……私、モデルの仕事してて、白草四葉ちゃんと仲が良いんだよね〜。その四葉ちゃんに、この前の『彼女がデキてしまった男子と付き合うための方法』のアドバイスを面白かったよ、あの相談って、ホントに視聴者からの投稿なの? って聞いたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って、教えてくれたんだ。そのコメントのアカウント名は、たしか……」

 なんということだ! そんなところまでバレていたとは――――――。
 
 彼女が最後まで言い終わらないうちに、オレは白旗を上げることにする。
 
「わかった、わかった! そうだよ、あの相談は、オレがコメント欄に投稿したものだ」

 まさか、「知り合いの女の子のために、一生懸命がんばれる男の子って素敵じゃない?」と、オレのことを肯定してくれた()使()()()()()()()()()()と、目の前にいる、本性は口の悪さも性格の悪さも極上である()()()()()()()()()()()が仲が良いなんて、思いもしなかった。

(四葉ちゃん、イイ人だから、きっと名和リッカのことを疑いもしてないんだろうな……)

 同世代のカリスマにしてインフルエンサーである女子に同情しつつ、人間関係のめぐり合わせの悪さに愕然とする。
 先ほどまでのクラス委員と転校生が、一人の男子生徒を巡って口論になりかけた修羅場に続き、ふたたび、茫然自失とするオレに対して、名和リッカが口を開いた。
 
「そっか……やっぱり、あなただったのね」

 つぶやくように言う彼女の問いかけに、オレは、なかば、うなだれるように答える。

「あぁ、そうだよ」

 ただ、名和リッカからの非難を覚悟してたオレにとって、その後の彼女の反応は予想外のものだった。
 オレの返答に、軽くうなずいた女子生徒は、思案顔で問いかけてくる。

「さっきも、葉月のことはこのままで良いの? と、聞いたけど……女子の間では、この間の四葉ちゃんの動画の相談主が、葉月なんじゃないか、ってウワサになってるよ」

「な、なんだって!? どうして、上坂部が?」

 とっさに、そう口にしたが、あらためて四葉ちゃんの動画の内容を思い出す。
 オレが投稿した相談が取り上げられた動画では、配信者と掛け合いをするかたちで、

 ―――これ、第三者的な立ち位置で質問してるけど、幼なじみのコ本人が投稿してるんじゃないの?

というテロップが表示されていた。

 自分が投稿主であることから、客観的な視点が抜け落ちていたが、他人から見れば、たしかに、オレがコメントら欄に書き込んだ内容は、「片思いをする幼なじみの女子」が、第三者を装って相談を持ちかけた、と感じ取れる部分があるかも知れない……。

 オレの表情から、なにかを察したのだろう、名和リッカは、こんなことを言い残して、教室を去って行った。

「葉月の印象が変わったのは、四葉ちゃんの動画が公開された週末の直後だったからね……あのコのことを考えるなら、なにか策を取った方が良いんじゃないの?」


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 放課後の教室で発生した修羅場をぼう然と眺めることしかできなかったオレが、ようやく、現状を整理して、ついにクラス委員の前でも本性(?)をあらわした転校生に向かって、一言モノ申してやろうと口を開こうとすると、目の前の女子生徒はつぶやいた。
「ちょっと言い過ぎだったかな……?」
 その一言に、オレは、
「いや、いまのは、ちょっとどころじゃねぇだろ!?」
と、間髪を入れずに言葉を発した。
(女子相手に香りの問題を指摘するなんて……ヒトの心とか無いんか!?)
 |投射呪法《とうしゃじゅほう》の使い手にして糸目のクズエリートのようなセリフとともに、オレの心の中に怒りのような感情がフツフツと湧いてくる。
「上坂部が、久々知のそばに居るのが気に食わないとしても、あんなことまで言う必要は無いんじゃねぇのか?」
「そのことについては、反省してる。もう少し、違ったアドバイスの仕方もあったかなって……」
 そう言った名和リッカは、後悔するかのように耳元にかかる髪をかきあげた。その仕草とともに、これまでただよっていたジャスミンとバニラを混ぜたような濃密なフレグランスに変わって、オレンジなどの柑橘系の実を思わせる爽やかで明るいシトラスフローラルの香りが、オレの鼻をくすぐる。
 以前にも感じたように、それは、オレに幼少期の記憶を呼び起こさせる不思議な香りだった。
 そのことを意識の脇に追いやり、少しバツの悪そうな顔つきをしている女子生徒に
「いや、あれがアドバイスって、どういう神経をしてるんだ?」
と、苦言を呈しつつも、オレの頭の片隅には、
(同性に、こんな嫌味を言う女子なんて、保育園の同級生だったあのコ以来だ……)
という懐かしい思い出がよみがえってきた。
 ただ、そんなオレの心の動きには関心がないのだろう、名和リッカは、
「だから、それは悪かったと思ってるって……そんなことより――――――」
と、話題を変えようとする。
「葉月のこと、このままで良いの? 四葉ちゃんの動画で相談をしたのは、あなたなんでしょ、立花クン?」
 その一言は、発言の矛先が、オレに変わったことを示していた。
 突然の指摘に動揺しつつも、匿名の相談なので、そう簡単に正体が判明することはないと、とりあえず、シラを切ることにする。
「な、なんのことだ? 四葉ちゃんの動画って? オレはなにも知らないぞ?」
 こちらの返答に、「ふ〜ん、そうやって、とぼけるんだ……」と、つぶやいた女子生徒は、これまで、オレが把握していなかった情報を開示してきた。
「立花クンには言ってなかったかもだけど……私、モデルの仕事してて、白草四葉ちゃんと仲が良いんだよね〜。その四葉ちゃんに、この前の『彼女がデキてしまった男子と付き合うための方法』のアドバイスを面白かったよ、あの相談って、ホントに視聴者からの投稿なの? って聞いたら、|別《・》|の《・》|動《・》|画《・》|の《・》|コ《・》|メ《・》|ン《・》|ト《・》|欄《・》|か《・》|ら《・》|採《・》|用《・》|し《・》|た《・》|ん《・》|だ《・》|よ《・》って、教えてくれたんだ。そのコメントのアカウント名は、たしか……」
 なんということだ! そんなところまでバレていたとは――――――。
 彼女が最後まで言い終わらないうちに、オレは白旗を上げることにする。
「わかった、わかった! そうだよ、あの相談は、オレがコメント欄に投稿したものだ」
 まさか、「知り合いの女の子のために、一生懸命がんばれる男の子って素敵じゃない?」と、オレのことを肯定してくれた|天《・》|使《・》|の《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|四《・》|葉《・》|ち《・》|ゃ《・》|ん《・》と、目の前にいる、本性は口の悪さも性格の悪さも極上である|ケ《・》|モ《・》|ノ《・》|の《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|女《・》|子《・》|生《・》|徒《・》が仲が良いなんて、思いもしなかった。
(四葉ちゃん、イイ人だから、きっと名和リッカのことを疑いもしてないんだろうな……)
 同世代のカリスマにしてインフルエンサーである女子に同情しつつ、人間関係のめぐり合わせの悪さに愕然とする。
 先ほどまでのクラス委員と転校生が、一人の男子生徒を巡って口論になりかけた修羅場に続き、ふたたび、茫然自失とするオレに対して、名和リッカが口を開いた。
「そっか……やっぱり、あなただったのね」
 つぶやくように言う彼女の問いかけに、オレは、なかば、うなだれるように答える。
「あぁ、そうだよ」
 ただ、名和リッカからの非難を覚悟してたオレにとって、その後の彼女の反応は予想外のものだった。
 オレの返答に、軽くうなずいた女子生徒は、思案顔で問いかけてくる。
「さっきも、葉月のことはこのままで良いの? と、聞いたけど……女子の間では、この間の四葉ちゃんの動画の相談主が、葉月なんじゃないか、ってウワサになってるよ」
「な、なんだって!? どうして、上坂部が?」
 とっさに、そう口にしたが、あらためて四葉ちゃんの動画の内容を思い出す。
 オレが投稿した相談が取り上げられた動画では、配信者と掛け合いをするかたちで、
 ―――これ、第三者的な立ち位置で質問してるけど、幼なじみのコ本人が投稿してるんじゃないの?
というテロップが表示されていた。
 自分が投稿主であることから、客観的な視点が抜け落ちていたが、他人から見れば、たしかに、オレがコメントら欄に書き込んだ内容は、「片思いをする幼なじみの女子」が、第三者を装って相談を持ちかけた、と感じ取れる部分があるかも知れない……。
 オレの表情から、なにかを察したのだろう、名和リッカは、こんなことを言い残して、教室を去って行った。
「葉月の印象が変わったのは、四葉ちゃんの動画が公開された週末の直後だったからね……あのコのことを考えるなら、なにか策を取った方が良いんじゃないの?」