ユーステッド、拝読す
ー/ー ゆっくりと時間が流れる。
『収穫祭』で慌ただしかったのもあったけど、こうして穏やかな気持ちで……ティアとふたり並んでデルフィヌスの海を眺めることができるようになった事は……すごくうれしい。
少しずつだけど……ティアが自分のことを話してくれた。
シエル辺境伯の前妻である女性の名前は『アザレア』と言って、ティアが小さい時からの友人なんだそうだ。
まだ幼く、体も弱かった彼女が辺境のこの島へ嫁入りすると聞いて最初は心配していたんだけど、婚礼の日に見た彼女の幸せそうな姿を見て安心した。
そして……その時に感じた胸の高鳴りというものに幸せを感じたんだそうだ。
友人だからというのもあるだろうけど、その笑顔に感動を覚えた。
それからティアは自分のことなどお構いなく……他人の幸せを願い、叶えられるよう過ごし……友人の死を知り、残されたカイとシエル辺境伯……友人の愛した家族の幸せを守るためにデルフィヌスに来た。
カイに自分を母と呼ばせなかったことも、アザレアが母だということを忘れさせない為であり、シエル辺境伯を愛することがなかったのはアザレアを裏切ることにならないように。
もちろん、それがティアの選んだ自分の幸せだったのだろうけど……それはとても寂しい事だと思った。
でも……今からは違う。
「シエル辺境伯が残した日記には君の幸せを願うと書かれていたんだ」
「まぁ!シエル様ったら……なにか余計なことも書かれてたんじゃありませんか?真面目な方でしたけれどちょっと偏屈なところもあったので……」
けっこうお見通しなんだな……そりゃそうか、一緒に過ごした時間は僕より……まだ!長いんだから仕方ない……でもちょっと、モヤッとする。
「愛していたなんて書いてあったんだ……今思い出すとちょっと……意地の悪い人だ……」
「……やきもちですかユース?」
「ゆッ……!そ、そう意味じゃないことは分かってる!わかってるけどさ……」
「うふふ……はぁ……こんなに楽になるならもっと早く……気付けばよかったわ……」
愛称で呼ばれてドキッとしてしまった。
嬉しいけど、このドキドキの連打は心臓に悪い……ティアはなんだかすっきりしてるみたいだけど。
「僕だって人に言われなきゃわからなかったんだから仕方ないよ」
「そうね……そういうものよね。うん!とってもいい気分!ねぇユース!今日は一緒に食事をしましょうね?」
「いいね!カイも呼んでみんなで……楽しみだ!」
ここまで変わるのかと本当に驚く。
悩んでいたとか、受け入れられなかったとか全部ひっくるめてもものすごい変化だ。
でも、今ここで花の様に笑うティアが本当のティアであることは間違いない。
明るく、華やかで、凛としているのに実は……ちょっと、子供っぽい。
「く……ふふふっ!」
「なにを笑っているの?」
「いや……僕のことを子供にしか見れないって言ってたことを思い出してつい……そういうティアも子供みたいだって思っちゃって……っくくく」
「わ、笑うなんてひどいわ!だって……ロベリアの時ずっと見ていたけどその時は本当にそうだったし……」
「お嬢さん?言葉遣いが崩れていますよ?」
「ユース!!」
僕もちょっとつられてしまったのかな?子供の様に意地悪をしたくなっているみたいだ。
ふたりで手を繋いで……ふたりの墓に礼をして……花畑の島から屋敷へ坂を上っていく。
「あ、そうだ。その……ティアが嫌じゃなければなんだけれど……」
「なんでしょう?」
「たまにでいいんだけど……ロベリアになってくれない?」
「……ユース?」
「あ、いや、その……ロベリアのティアもその……僕の大事な人なのでして……?」
「……変な人」
自分でもおかしなことを言っていると思うんだけど、その変な人を作ったのはティアだということを自覚してもらいたい。
このお願いに対しての返答は得られないまま屋敷へ戻り、ベンに人数分の食事をお願いした……なんだかすごい、喜んでいた。
張り切っていたので、とびきりのご馳走が食べられそうだ。
初めて3人で囲むこととなる食卓は、きっと素晴らしいものになるだろうな……自然と笑みがこぼれてしまう。
「あ、ユーステッド様!手紙が届いてるっすよ?」
「僕に手紙?あ……」
友人に手紙を出していたのをすっかり忘れていた。
ジュリーから手紙を受けとり、食堂へ行く前に寝室に戻って封を切る。
「ほう……うん……うん………うん?!」
奴がくる。
僕は手紙の返事だけ貰えれば、それで良かったんだけど……今手紙が届いたということは、デルフィヌスに着くのは……
「ご友人が来るのですか?」
「よかったじゃないユース。ちょうど『大漁祭』とかぶるのでしょう?楽しんでもらえそうで――……ってなんでそんな顔をしているの?」
そりゃ来てもらえることはうれしいとは思うし、デルフィヌスの良さを知ってもらうのに『大漁祭』が重なっているのはさらに喜ばしい事ではある。
「来てもらえることは僕だって嬉しいんだ……けど……だけど……!」
「だけど?」
「あいつは変態なんだ……っ!!」
静まり返る食卓。
パンをちぎっていたカイの手も、白身魚のムニエルを口に運ぼうとしていたティアの動きも止まる。
「……変態はユースで慣れていますのでボクは別に……問題ないです」
「……そうねカイ。私も同じ意見よ」
「え……?」
再び動き出す。
待ってくれ。
言うほど僕は変態の分類には入らないのではないか?確かにロベリアのうなじが気になったりするし、『収穫祭』の衣装から見えたティアの素足に見惚れたり、ヒツジさんパンツを大事にしたりはしてるけど……どれも表立ってしていないはずだ。
「ど、どこが……?」
「先程の発言」
「いつぞやのお風呂」
「……」
ベン、僕のメインディッシュだけなんだか塩辛い気がするよ……楽しい食事ではあるけれど、ちょっとだけ発言と行動に気をつけようと思ったよ。
「その人がどんな人でも大丈夫……ということですユース。気にしないでください」
「そうよユース。婚礼もあるのだから。貴方を知る友人のひとりでもいた方がいいでしょう?その方がどんな方であっても……友人であるのなら歓迎しない理由はないわ」
『大漁祭』も楽しみだけど……そうだったね。
婚礼……そうか、もうすぐ僕とティアの――。
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