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新サクラの友達

ー/ー



 「コンコンコン。」

 瑠菜はドアをたたきながらそう言った。
 すると、中から笑顔のあきがドアを開ける。

 「どうしたの?瑠菜ちゃん。」
 「この子知ってるかなって思って。」

 瑠菜はそう言いながらあきに資料を開いて見せた。
 ぶっちゃけると、この資料は持ち帰り厳禁なそれはそれは大切な資料だ。
 個人情報が多く乗っているため見れる人も少ないくらい。
 なぜ、それがここにあるのかはすぐにわかる。

 「瑠菜ちゃん、これ大丈夫?」
 「盗んできたから。ばれたらお兄に許可紹書いてもらう。」
 「ならいいか。」

 瑠菜のこの行動も、今に始まったことではないのであきは見て見ぬふりをすることにした。
 今までも何度か大切な資料を瑠菜が持ち出してきたのを見たことがあるからだ。

 「で、この子なんだけど。」
 「ん?あぁ、法律を担当してるとこの子か。師匠になったんでしょ?知ってるよ。」
 「お兄の下の子?」
 「全然関係ない子。」
 「じゃあ、この子は?」

 瑠菜はそう言ってサクラが気になると言った子を指さした。
 すると、あきは笑顔のまま首を二、三回縦に振った。

 「この子は前の師匠の妹。確か13、4くらいの年だよ。」
 「ふぅーん。」
 「つい最近入ったんだよね。」
 「あ、そうなんだ。」
 「才能はあるけど、どうも愛想がなくて。僕が話しかけても全くしゃべらなかったんだよ。」
 「名前は?」
 「みおりちゃん……だったかな?そこまで覚えてないけどそんな名前だよ。」

 瑠菜はそれを聞いて少し考えた。
 サクラがなぜ、気になるといったのか。
 そして、前の師匠の妹が今の師匠を敬えるのか。
 もっと言うと、今の師匠が前の師匠の妹を可愛がれるのか。
 いや、瑠菜だったら後者はできるが前者は無理だ。

 「ありがとう、あき。」
 「いいえ。」

 瑠菜はそう言ってあきに手を振った。
 あきも瑠菜が見えなくなるまで手を振って返した。










 「瑠菜さんと仲直りしないんですか?」
 「まぁな。つーか声でけーよ。黙れ。」

 瑠菜が帰ってくるまでの間、サクラは楓李との静寂さに耐えられなくなり声をかけた。
 イケメンが横でスマホをいじっているのも落ち着かない。
 待っててと言われてなかったらさっさと部屋を出て行っていただろう。

 「瑠菜さんの様子からして謝っては来ないと思いますよ?」
 「別にいいだろ?いつかは……。」
 「瑠菜さんは今すぐ仲直りしたいんじゃないでしょうか。」
 「いじめられたお前を心配してるだけだ。失敗は多いし最近お前がおかしいとは思ってただろうよ。」

 楓李がそう言ってサクラのほうをチラリと覗き見ると、サクラは涙目になっていた。

 一つここで説明を足しておこう。
 楓李はとても女に弱い。
 瑠菜に関してはもう慣れていて、泣かれようが吐かれようが冷静に対処できる。
 しかし、それ以外の女は本当に慣れていないのだ。
 女の扱いがうまいのはあきやこはくで、楓李はそこのところの出来は悪かった。
 何なら、瑠菜に慣れたのだってつい最近だ。

 「ちょっ……。」
 「……怖かったんです。ずっと、なんでか知らないけどこけるし、怒られるし……。」
 「なんで早めから相談しなかった?」
 「わかんなかったんです。いつもドジばっかりで忘れることも多かったし。周りが私の言うこととはいつも違うから私がおかしいんだと思って。それに、瑠菜さんは楓李兄さんとけんかしてて機嫌が悪いし。」
 「……それは悪かった。」

 楓李がそう言うと、サクラは涙を浮かべて楓李の腕をつかんだ。
 縋りつくような温かい手に力がこもる。

 「きぃ姉さんたちが言ってました。」
 「何を?」
 「瑠菜さんも言ってました。楓李兄さんは優しくて上手だって。」
 「は?」
 「襲ってください!」
 「なぜそうなる?いや、まて!……ちょっ……やめろって。」
 「楓李兄さんが悪いんです!」
 「俺は何もしてな……わかった!わかった、謝るから。」

 サクラは本気なのか楓李を押し倒す体制に持っていく。
 楓李は抵抗しようとしていたが、あまり動くとサクラが怪我しかねないと思いそのまま押し倒された。

 「こういうのは恋人とやれ。」
 「いないので誰でもいいです。」
 「誰でもいいなら龍子でも襲って来い。」
 「顔合わせられなくなるからいやです。」
 「青龍とはもともとあまり会わねぇだろ?」
 「無理です。」

 楓李はできるだけ安全にここから逃げる方法を探した。
 このままサクラを襲えば瑠菜に合わせる顔がない。
 もっと言うと、きぃちゃんから冷ややかな目で見られてしまうし、雪紀からはからかわれてしまうだろう。
 それだけは避けたい。

 「サクラ……そろそろどいてくれ。」
 「襲ってください。」

 お風呂に入ったばかりだからか石鹸のにおいをふわふわと感じる。
 真っ赤に紅潮したサクラの顔はまだ泣きそうだ。

(こいつ瑠菜の石鹸使ったな……。)

 最近瑠菜から相手にされていない楓李は、これ以上は危険だと判断してサクラから本気で逃げようとする。
 しかし、サクラの手はがっしりと楓李をつかんだまま離さない。

 (仕方ない。ドアも締まってるし、誰も来ないことを願うか。)

 楓李はそう決心してくるりとサクラを床に押し倒し返した。
 サクラの手がほどけた瞬間に楓李がサクラの手首をつかむ。
 サクラもその動きは予想していなかったようでされるがままになっていた。

 「ひゃっ……あの……。」

 身動きが取れなくてサクラはあたふたとするが楓李はそのまま手に力を込める。

 「誘うなら怖がんじゃねぇよ。」
 「……はい。」

 その時、ガチャリとドアが開いた音がして二人は肩をびくりとさせた。
 ここは瑠菜の部屋なのだ。
 部屋主が帰ってくるのは当たり前である。

 「あの……いや、これは……。」
 「……うん。サクラが言ってた女の子の情報が分かったの。みおりちゃんっていうんだって。」
 「え?」

 あまりにも普通に接する瑠菜を見て二人は頭が追い付かなかった。
 それでも、どうにか言い訳をしようとは思い口をパクパクとさせている。

 「あの……瑠菜?」
 「ん?あぁ、あきにちょっと聞いてきたの。あきは顔が広いから。いい子だよって言ってたし、引き取ろうかなって思ってる。」
 「いや、その……。」
 「あ、邪魔しちゃってごめんね。続きは外でやってちょうだい。」
 「瑠菜……その。」
 「ここは私の部屋だから。」

 瑠菜はそう言って二人をゴミでも見るかのような目でにらんだ。
 最初は笑顔でしゃべっていたが、その豹変ぶりには恐怖すら抱いてしまう。
 話すら聞いてもらえず、二人は部屋の前で路頭に迷った。

 「ごめんなさ……私……。」
 「いや、サクラは悪くない。悪いのは変なこと吹き込んだきぃ姉さんと瑠菜だな。悪かった、怖がらせて。」

 二人はほぼ同時にため息をついて、その場から離れた。
 サクラの中でこうなってしまうことは思ってもみなかったのだ。
 言うなれば、ただの好奇心。
 その相手に楓李を巻き込んだのは間違いだったと自分でも思う。

 しかしもう一人、大きめのため息をついたのがベッドの上で横になっていた。

(仲直りするつもりだったのに……。やっぱり、浮気しててもおかしくないよね。)

 瑠菜はその日、部屋から一歩も出ずに何も食べないまま一人で長い一夜を過ごした。
 












 次の日、瑠菜がリビングへと降りていくともうすでに楓李の姿はなかった。

(仕事……行ったんだ。)
 「瑠菜さん!」

 瑠菜は急にサクラから声をかけられて無意識に少しだけ距離を取った。
 驚いたからなのか、心から拒否反応を示しているのか。
 瑠菜にはわからない。

 「何?今日は休みでしょう?」
 「いや、その……昨日は、楓李兄さんから襲ったのではなく、私から……。だから、楓李兄さんは何もしてなくて……。」
 「これからするところだったんでしょう?」
 「それは私が無理に言ったから!」
 「……昨日は、ってことは他の日もしてたの?」
 「え?……いや、違います!言葉を間違えただけで……。」
 「もういいわ。」

 瑠菜は自分でも性格が悪いなと思ってしまった。
 別に楓李とサクラを悪者にしたいわけではないのだ。
 サクラは本当のことを言っている。
 瑠菜でもそれはわかっている。
 ただ、あの時モヤッとした気持がした気がして、何も信じられないのだ。

 (かえなんて……いや、もう少し信じてみるべきよね。サクラが言った通りかもしれないし。)

 瑠菜はそう思うことにした。
 楓李のことがそれだけ好きなのもあるが、何よりこのままでは自分がとても小さい人間に思えてしまうからだ。

瑠菜は自分の部屋に入って、悶々と考えた。
人間はこういう時、安心するようなものを求めるものだ。
簡単に言うと、瑠菜は安心する匂いを欲した。

 「瑠菜さん、お客様です。」
 「しーくん……あ、うん。今行く。」

 しおんに呼ばれてすごくびっくりしたが、瑠菜は何事もなかったかのようにうなずいた。
 しおんは瑠菜が何かを隠したのを見てにこりと笑った。

 「……黙っておきます。ちゃんと元の場所に戻しておいてくださいね。」
 「ち、違うって!いいにおいの洗剤だなって思って……。」
 「いつもと変わりませんよ?」
 「う、いや……その。ち、違うから。ただ置いてあったから……。」

 瑠菜がそんなことを言っていると、しおんは瑠菜の唇に人差し指を押し付けた。
 赤い口紅が少しだけしおんの指についてしまう。

 「わかりましたから、お客さんの前ではしっかりしてくださいね。」
 「……はい……。」

 瑠菜はおとなしくなりながら、階段を下りて玄関へと行った。

(あ、この子……。)

 「すみませんでした!」
 「えっ?……ちょ……。」

 玄関には、先日堂々と瑠菜とみなこをバカにした女が立っていた。
 女は挨拶もせずに土下座をしたまま瑠菜に謝った。

 「……ほら、あんたもだよっ!この子がお弟子様をいじめて……けがをさせてしまったと通告が来て。」
 「いや、大した怪我じゃないわよ。大丈夫だから、顔をあげてくれる?」
 「処罰だけはお許しください!なんでもします。なので処罰だけは。」

 女は瑠菜の言葉も聞かずに土下座をし続け、サクラが気になっていた子と思われる弟子の頭を地面に押し付けた。
 自分が処罰を受けるのが相当嫌なのだろう。

 とはいえ、瑠菜はサクラがいじめにあったからと言って通告まで出して大げさなことはしない。
 本社に訴えたのは雪紀だ。
 もちろんそれを取り下げるのも雪紀にしかできない。
 瑠菜に処罰について決める権限などほぼ無いのだ。

(何言っても無理か。)

 瑠菜が困ったように周りをきょろきょろしていると、後ろに楓李がいるのが見えた。
 近くもなく遠くもない距離で瑠菜がどうするのか見ている。

 「どうか……。」
 「私、そういうの嫌いなのよね。」
 「へ?」

 瑠菜の低い声が響いたときそれを聞いていた全員がびくりと反応した。

 「そこは靴を脱ぐ場所でしょう?そんな汚いところに弟子の頭をつけるなんて、それでもあなたは師匠なの?別に弟子は頭を下げる必要はない。あなただけ、下げればいいのよ。」
 「い、いや。私はただ……。」
 「で?あなたは弟子のしたことに責任とれるの?」
 「え?」
 「弟子のしたことにどこまで責任とるのかって聞いてるのよ。」
 「そ……それは。」
 「責任も取れないようなら師匠なんてやめてしまいなさい。あなたにその資格はないわ。」

 瑠菜は抑揚のない声で淡々と話した。
 途中鼻で笑い、女を見下した姿勢を崩さない。

 瑠菜はサクラの失敗に何度も頭を下げてきた。
 サクラの横でも頭を下げて、サクラがいないところでもサクラの失敗を聞くたびに頭を下げた。
それは瑠菜が昔、コムから師匠というのは弟子のために何でもする人だと言われたからだ。
 弟子を助け、弟子を守るのが師匠なのだと。
 そういう師匠を見て弟子は成長し、師匠が何も言わなくても自分から行動できるようになる。
 だから、瑠菜はサクラに謝るように強要しない。
 その必要はないのだ。

 「で、どう責任取るつもり?」
 「瑠菜、もうやめておけ。」
 「……アハッ。何?怖いの?こうなるってことも想像できなかった?」

 楓李に声をかけられても瑠菜の声は低いままだ。
 感情ののっていない言い方と顔に張り付いたような笑顔は、相手を恐怖の底へ陥れるのにとても向いている。
 瑠菜は笑顔のまましゃがんで女と目線を合わせた瞬間、女の顎をつかんだ。
 女の恐怖に満ちた顔やカタカタと震える体は瑠菜にとって珍しくもない光景だ。

 「ごめーんね?」
 「瑠菜、さすがにやりすぎだ。」
 「はぁい。」

 楓李から二度目の注意を受けてようやく瑠菜はいつもの高い声で返事をした。
 女はやっと許されたと言わんばかりにほっと肩をおとしてる。
 そんな姿を見逃す瑠菜ではない。
 ここで許すわけがない。

 「あ、そうそう。何でもするって言ったわよね?」
 「え?……あ、はい。何でも……。」

 気の抜けたような声で女は瑠菜の問いに答えた。

 「じゃあ、その子ちょうだい。」
 「はい?……いや、この子は……。」
 「お兄ー、私この子が欲しいんだけど。手続きお願いできる?あとこの女の弟子、誰がサクラいじめたのか分からないし全員クビにしといて。」
 「ん?そいつはクビにしないのか?」
 「いじめたのはこの子の弟子だもの。ただし、全員クビにしておいて。」
 「この悪魔が……。あーはいはい、了解。」
 「ちょっ……待ってくださ……。」
 「残念だったわね。一からやり直しなさい。」

 瑠菜がまた低い声に戻してそう言うと、女はひぃッと言って家から飛び出してしまった。
 相当怖かったらしい。
 弟子くらいの身分なら師匠が相当地位の高くてその師匠から気に入られていないと会社からすぐに首切りされる。
 もちろん、ほったらかしているであろうあの女は弟子をすべて失うだろう。

 「あの……私は……。」
 「ついて行かなくてもいいの?いや、ついてってもクビになるだけだけど。」
 「……ついてなんて行きません。」
 「そう。弟子と見習いどっちからやりたい?」
 「なぜ私を?」
 「ん?優秀だって聞いてたからね。それにサクラも気になってたみたいだし。」
 「そんな……。私はあの子にバケツで水をかけたのですよ?」
 「そうなの?サクラ。」

 みおりは瑠菜に向き合って真剣に言っているが、瑠菜は軽く答える。
 その姿はみおりからしたら適当なように見えてしまう。
 最終的には奥の部屋のサクラを呼ぶくらいだ。

(ここにいたら私も……いや、その前に私は法律を学びたいの。姉さんのように……。)

 雪紀やコムは法律に関してあまり力を入れていなかった。
 あきやケイは法律の知識はあるが、今までみおりがいたところに比べたらそこまで名が知られたところではない。
 みおりは今すぐ帰りたかった。
 しかし、今帰るのは瑠菜に対して無礼な態度だ。
 瑠菜に対してそんな態度をとってしまえば、みおりはこの会社から追い出されてしまう。
 もちろん、あの女の弟子として居座ったとしてもクビなのだが。

 「もういいです。」
 「待ってください。」

 奥の部屋から申し訳なさそうに出てきたサクラは帰ろうとするみおりを止めた。
 片腕にサクラの体重がかかる。
 みおりにはその手を振り払うことはできなかった。

 「あの時……あなたは、泥を少しでも乾かないようにしておこうと思ったのではないですか?」
 「っ……ち、違うわよ。」
 「私には逃がそうとしている気がしました。」
 「気のせいでしょ?」
 「いいえ、そんなはずありません。だってあなたは最後私に水をかけていなかったから。」

 みおりはもともとサクラをいじめることに気乗りしていなかった。
 ただ面倒くさいことに巻き込まれただけ。
 自分に、いじめの刃が向かないようにしたかっただけだ。
 だから、いじめているふりをしてサクラが逃げられるように後押ししていた。

 「……でも、私は……。」
 「私、法律の知識もあるのよ?」
 「聞いたことがありません。」
 「かえ、テスト取ってきて。」
 「ん。」
 「はやいね。準備してたんだ。」

 瑠菜はそう言いながら楓李から入社試験を挟んだファイルをもらう。

 「今は心理だけど、昔は医療のほうを手伝ってから。ほら。」
 「え?これ入社試験ですか?」

 すべて満点のテストが中には入っていた。
 みおりは入社試験を解いたからわかる。
 入社試験で満点をとれるほどの人はいない。
 それどころか、半分以上の点数を取っている人すらも見たことがなかった。

 (会社で働いている9割の人が半分以下の点数しか取れないと有名な入社試験を満点……。)

 みおりは息をのんだ。

 「少なくとも、あの女よりも法の知識はあると思うけど。」
 「……私は、法を学びたいんです。」
 「いいわよ。教えてあげる。その代わりに心理のほうも手伝うこと。いいわね?」
 「はいっ。」

 瑠菜に言われて、みおりはすごくうれしそうにうなずいた。
 瑠菜はにこにこと笑いながらみおりを家の中へと誘う。
 ずっと玄関にいて瑠菜自身も早く座りたいのだ。

(瑠菜に教えるほど法の知識なんかあったか?)

 楓李だけが瑠菜の行動に疑問を持っていたが、ここで何か言うと瑠菜から首を絞められかねないため黙っておく。

 「お兄、法律一人入りまーす。」
 「おっ、助かるなぁ。いいぞ。簡単な問題を持って来るか。問題集はいくつでもあるからな。」
 「え?僕の仕事だよね?法は。」
 「さぁ、この人がここの法律担当。わかんなかったら周りに聞いてね。」
 「は、はい。」
 「部屋余ってるし、ここに住むか?あの感じだと変えるに帰れないだろう。」
 「はい。お願いします。」
 「え?まって……僕の担当だよね?法は。」
 「だから教えてあげてね。あき。」

 あきが自分の仕事を取られるのではないかと焦っていると、瑠菜が面倒くさそうに言った。
 雪紀も瑠菜ももみおりを歓迎しまくっている。
 それを見てちびっこやみなこは警戒心丸出しで部屋の隅に固まっている。

 「みおりん、何か飲む?」
 「みおりんっ?」
 「あ、みおのほうがいい?っていうか、何飲みたい?」
 「お茶で……。」
 「OKみおりんお茶ね。」
 「みおで!呼び名はみおがいいです。」

 瑠菜はみおりをからかって楽しんでいる。
 ほぼ無表情に近い表情をしていたのがちこちょこ反応してくれるのが嬉しいのだろう。
 その横でサクラは声をかけたくてうずうずしている。

 「……何?」
 「み、みお、よろしくお願いします。」
 「……いいの?私はあなたをいじめて……。」
 「?助けてくれたので。あの時水をかけてくれなければ私はずっと湖に落とされ続けていたでしょう?湖から離れられたのはみおのおかげです。」
 「……お気楽ね。」

 サクラはみおりと同じような年だ。
 それでもみおりの目にはサクラが十個くらい年下に見えた。

 「?これからよろしくお願いします。みお。」
 「フッ……よろしくね。」
 「……!みおが笑った!みなさん、みおが笑いました。」
 「そりゃ笑うわよ!悪かったわね。表情が硬くて。」

 みおりが来て、また少し家がにぎやかになった。


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 「コンコンコン。」
 瑠菜はドアをたたきながらそう言った。
 すると、中から笑顔のあきがドアを開ける。
 「どうしたの?瑠菜ちゃん。」
 「この子知ってるかなって思って。」
 瑠菜はそう言いながらあきに資料を開いて見せた。
 ぶっちゃけると、この資料は持ち帰り厳禁なそれはそれは大切な資料だ。
 個人情報が多く乗っているため見れる人も少ないくらい。
 なぜ、それがここにあるのかはすぐにわかる。
 「瑠菜ちゃん、これ大丈夫?」
 「盗んできたから。ばれたらお兄に許可紹書いてもらう。」
 「ならいいか。」
 瑠菜のこの行動も、今に始まったことではないのであきは見て見ぬふりをすることにした。
 今までも何度か大切な資料を瑠菜が持ち出してきたのを見たことがあるからだ。
 「で、この子なんだけど。」
 「ん?あぁ、法律を担当してるとこの子か。師匠になったんでしょ?知ってるよ。」
 「お兄の下の子?」
 「全然関係ない子。」
 「じゃあ、この子は?」
 瑠菜はそう言ってサクラが気になると言った子を指さした。
 すると、あきは笑顔のまま首を二、三回縦に振った。
 「この子は前の師匠の妹。確か13、4くらいの年だよ。」
 「ふぅーん。」
 「つい最近入ったんだよね。」
 「あ、そうなんだ。」
 「才能はあるけど、どうも愛想がなくて。僕が話しかけても全くしゃべらなかったんだよ。」
 「名前は?」
 「みおりちゃん……だったかな?そこまで覚えてないけどそんな名前だよ。」
 瑠菜はそれを聞いて少し考えた。
 サクラがなぜ、気になるといったのか。
 そして、前の師匠の妹が今の師匠を敬えるのか。
 もっと言うと、今の師匠が前の師匠の妹を可愛がれるのか。
 いや、瑠菜だったら後者はできるが前者は無理だ。
 「ありがとう、あき。」
 「いいえ。」
 瑠菜はそう言ってあきに手を振った。
 あきも瑠菜が見えなくなるまで手を振って返した。
 「瑠菜さんと仲直りしないんですか?」
 「まぁな。つーか声でけーよ。黙れ。」
 瑠菜が帰ってくるまでの間、サクラは楓李との静寂さに耐えられなくなり声をかけた。
 イケメンが横でスマホをいじっているのも落ち着かない。
 待っててと言われてなかったらさっさと部屋を出て行っていただろう。
 「瑠菜さんの様子からして謝っては来ないと思いますよ?」
 「別にいいだろ?いつかは……。」
 「瑠菜さんは今すぐ仲直りしたいんじゃないでしょうか。」
 「いじめられたお前を心配してるだけだ。失敗は多いし最近お前がおかしいとは思ってただろうよ。」
 楓李がそう言ってサクラのほうをチラリと覗き見ると、サクラは涙目になっていた。
 一つここで説明を足しておこう。
 楓李はとても女に弱い。
 瑠菜に関してはもう慣れていて、泣かれようが吐かれようが冷静に対処できる。
 しかし、それ以外の女は本当に慣れていないのだ。
 女の扱いがうまいのはあきやこはくで、楓李はそこのところの出来は悪かった。
 何なら、瑠菜に慣れたのだってつい最近だ。
 「ちょっ……。」
 「……怖かったんです。ずっと、なんでか知らないけどこけるし、怒られるし……。」
 「なんで早めから相談しなかった?」
 「わかんなかったんです。いつもドジばっかりで忘れることも多かったし。周りが私の言うこととはいつも違うから私がおかしいんだと思って。それに、瑠菜さんは楓李兄さんとけんかしてて機嫌が悪いし。」
 「……それは悪かった。」
 楓李がそう言うと、サクラは涙を浮かべて楓李の腕をつかんだ。
 縋りつくような温かい手に力がこもる。
 「きぃ姉さんたちが言ってました。」
 「何を?」
 「瑠菜さんも言ってました。楓李兄さんは優しくて上手だって。」
 「は?」
 「襲ってください!」
 「なぜそうなる?いや、まて!……ちょっ……やめろって。」
 「楓李兄さんが悪いんです!」
 「俺は何もしてな……わかった!わかった、謝るから。」
 サクラは本気なのか楓李を押し倒す体制に持っていく。
 楓李は抵抗しようとしていたが、あまり動くとサクラが怪我しかねないと思いそのまま押し倒された。
 「こういうのは恋人とやれ。」
 「いないので誰でもいいです。」
 「誰でもいいなら龍子でも襲って来い。」
 「顔合わせられなくなるからいやです。」
 「青龍とはもともとあまり会わねぇだろ?」
 「無理です。」
 楓李はできるだけ安全にここから逃げる方法を探した。
 このままサクラを襲えば瑠菜に合わせる顔がない。
 もっと言うと、きぃちゃんから冷ややかな目で見られてしまうし、雪紀からはからかわれてしまうだろう。
 それだけは避けたい。
 「サクラ……そろそろどいてくれ。」
 「襲ってください。」
 お風呂に入ったばかりだからか石鹸のにおいをふわふわと感じる。
 真っ赤に紅潮したサクラの顔はまだ泣きそうだ。
(こいつ瑠菜の石鹸使ったな……。)
 最近瑠菜から相手にされていない楓李は、これ以上は危険だと判断してサクラから本気で逃げようとする。
 しかし、サクラの手はがっしりと楓李をつかんだまま離さない。
 (仕方ない。ドアも締まってるし、誰も来ないことを願うか。)
 楓李はそう決心してくるりとサクラを床に押し倒し返した。
 サクラの手がほどけた瞬間に楓李がサクラの手首をつかむ。
 サクラもその動きは予想していなかったようでされるがままになっていた。
 「ひゃっ……あの……。」
 身動きが取れなくてサクラはあたふたとするが楓李はそのまま手に力を込める。
 「誘うなら怖がんじゃねぇよ。」
 「……はい。」
 その時、ガチャリとドアが開いた音がして二人は肩をびくりとさせた。
 ここは瑠菜の部屋なのだ。
 部屋主が帰ってくるのは当たり前である。
 「あの……いや、これは……。」
 「……うん。サクラが言ってた女の子の情報が分かったの。みおりちゃんっていうんだって。」
 「え?」
 あまりにも普通に接する瑠菜を見て二人は頭が追い付かなかった。
 それでも、どうにか言い訳をしようとは思い口をパクパクとさせている。
 「あの……瑠菜?」
 「ん?あぁ、あきにちょっと聞いてきたの。あきは顔が広いから。いい子だよって言ってたし、引き取ろうかなって思ってる。」
 「いや、その……。」
 「あ、邪魔しちゃってごめんね。続きは外でやってちょうだい。」
 「瑠菜……その。」
 「ここは私の部屋だから。」
 瑠菜はそう言って二人をゴミでも見るかのような目でにらんだ。
 最初は笑顔でしゃべっていたが、その豹変ぶりには恐怖すら抱いてしまう。
 話すら聞いてもらえず、二人は部屋の前で路頭に迷った。
 「ごめんなさ……私……。」
 「いや、サクラは悪くない。悪いのは変なこと吹き込んだきぃ姉さんと瑠菜だな。悪かった、怖がらせて。」
 二人はほぼ同時にため息をついて、その場から離れた。
 サクラの中でこうなってしまうことは思ってもみなかったのだ。
 言うなれば、ただの好奇心。
 その相手に楓李を巻き込んだのは間違いだったと自分でも思う。
 しかしもう一人、大きめのため息をついたのがベッドの上で横になっていた。
(仲直りするつもりだったのに……。やっぱり、浮気しててもおかしくないよね。)
 瑠菜はその日、部屋から一歩も出ずに何も食べないまま一人で長い一夜を過ごした。
 次の日、瑠菜がリビングへと降りていくともうすでに楓李の姿はなかった。
(仕事……行ったんだ。)
 「瑠菜さん!」
 瑠菜は急にサクラから声をかけられて無意識に少しだけ距離を取った。
 驚いたからなのか、心から拒否反応を示しているのか。
 瑠菜にはわからない。
 「何?今日は休みでしょう?」
 「いや、その……昨日は、楓李兄さんから襲ったのではなく、私から……。だから、楓李兄さんは何もしてなくて……。」
 「これからするところだったんでしょう?」
 「それは私が無理に言ったから!」
 「……昨日は、ってことは他の日もしてたの?」
 「え?……いや、違います!言葉を間違えただけで……。」
 「もういいわ。」
 瑠菜は自分でも性格が悪いなと思ってしまった。
 別に楓李とサクラを悪者にしたいわけではないのだ。
 サクラは本当のことを言っている。
 瑠菜でもそれはわかっている。
 ただ、あの時モヤッとした気持がした気がして、何も信じられないのだ。
 (かえなんて……いや、もう少し信じてみるべきよね。サクラが言った通りかもしれないし。)
 瑠菜はそう思うことにした。
 楓李のことがそれだけ好きなのもあるが、何よりこのままでは自分がとても小さい人間に思えてしまうからだ。
瑠菜は自分の部屋に入って、悶々と考えた。
人間はこういう時、安心するようなものを求めるものだ。
簡単に言うと、瑠菜は安心する匂いを欲した。
 「瑠菜さん、お客様です。」
 「しーくん……あ、うん。今行く。」
 しおんに呼ばれてすごくびっくりしたが、瑠菜は何事もなかったかのようにうなずいた。
 しおんは瑠菜が何かを隠したのを見てにこりと笑った。
 「……黙っておきます。ちゃんと元の場所に戻しておいてくださいね。」
 「ち、違うって!いいにおいの洗剤だなって思って……。」
 「いつもと変わりませんよ?」
 「う、いや……その。ち、違うから。ただ置いてあったから……。」
 瑠菜がそんなことを言っていると、しおんは瑠菜の唇に人差し指を押し付けた。
 赤い口紅が少しだけしおんの指についてしまう。
 「わかりましたから、お客さんの前ではしっかりしてくださいね。」
 「……はい……。」
 瑠菜はおとなしくなりながら、階段を下りて玄関へと行った。
(あ、この子……。)
 「すみませんでした!」
 「えっ?……ちょ……。」
 玄関には、先日堂々と瑠菜とみなこをバカにした女が立っていた。
 女は挨拶もせずに土下座をしたまま瑠菜に謝った。
 「……ほら、あんたもだよっ!この子がお弟子様をいじめて……けがをさせてしまったと通告が来て。」
 「いや、大した怪我じゃないわよ。大丈夫だから、顔をあげてくれる?」
 「処罰だけはお許しください!なんでもします。なので処罰だけは。」
 女は瑠菜の言葉も聞かずに土下座をし続け、サクラが気になっていた子と思われる弟子の頭を地面に押し付けた。
 自分が処罰を受けるのが相当嫌なのだろう。
 とはいえ、瑠菜はサクラがいじめにあったからと言って通告まで出して大げさなことはしない。
 本社に訴えたのは雪紀だ。
 もちろんそれを取り下げるのも雪紀にしかできない。
 瑠菜に処罰について決める権限などほぼ無いのだ。
(何言っても無理か。)
 瑠菜が困ったように周りをきょろきょろしていると、後ろに楓李がいるのが見えた。
 近くもなく遠くもない距離で瑠菜がどうするのか見ている。
 「どうか……。」
 「私、そういうの嫌いなのよね。」
 「へ?」
 瑠菜の低い声が響いたときそれを聞いていた全員がびくりと反応した。
 「そこは靴を脱ぐ場所でしょう?そんな汚いところに弟子の頭をつけるなんて、それでもあなたは師匠なの?別に弟子は頭を下げる必要はない。あなただけ、下げればいいのよ。」
 「い、いや。私はただ……。」
 「で?あなたは弟子のしたことに責任とれるの?」
 「え?」
 「弟子のしたことにどこまで責任とるのかって聞いてるのよ。」
 「そ……それは。」
 「責任も取れないようなら師匠なんてやめてしまいなさい。あなたにその資格はないわ。」
 瑠菜は抑揚のない声で淡々と話した。
 途中鼻で笑い、女を見下した姿勢を崩さない。
 瑠菜はサクラの失敗に何度も頭を下げてきた。
 サクラの横でも頭を下げて、サクラがいないところでもサクラの失敗を聞くたびに頭を下げた。
それは瑠菜が昔、コムから師匠というのは弟子のために何でもする人だと言われたからだ。
 弟子を助け、弟子を守るのが師匠なのだと。
 そういう師匠を見て弟子は成長し、師匠が何も言わなくても自分から行動できるようになる。
 だから、瑠菜はサクラに謝るように強要しない。
 その必要はないのだ。
 「で、どう責任取るつもり?」
 「瑠菜、もうやめておけ。」
 「……アハッ。何?怖いの?こうなるってことも想像できなかった?」
 楓李に声をかけられても瑠菜の声は低いままだ。
 感情ののっていない言い方と顔に張り付いたような笑顔は、相手を恐怖の底へ陥れるのにとても向いている。
 瑠菜は笑顔のまましゃがんで女と目線を合わせた瞬間、女の顎をつかんだ。
 女の恐怖に満ちた顔やカタカタと震える体は瑠菜にとって珍しくもない光景だ。
 「ごめーんね?」
 「瑠菜、さすがにやりすぎだ。」
 「はぁい。」
 楓李から二度目の注意を受けてようやく瑠菜はいつもの高い声で返事をした。
 女はやっと許されたと言わんばかりにほっと肩をおとしてる。
 そんな姿を見逃す瑠菜ではない。
 ここで許すわけがない。
 「あ、そうそう。何でもするって言ったわよね?」
 「え?……あ、はい。何でも……。」
 気の抜けたような声で女は瑠菜の問いに答えた。
 「じゃあ、その子ちょうだい。」
 「はい?……いや、この子は……。」
 「お兄ー、私この子が欲しいんだけど。手続きお願いできる?あとこの女の弟子、誰がサクラいじめたのか分からないし全員クビにしといて。」
 「ん?そいつはクビにしないのか?」
 「いじめたのはこの子の弟子だもの。ただし、全員クビにしておいて。」
 「この悪魔が……。あーはいはい、了解。」
 「ちょっ……待ってくださ……。」
 「残念だったわね。一からやり直しなさい。」
 瑠菜がまた低い声に戻してそう言うと、女はひぃッと言って家から飛び出してしまった。
 相当怖かったらしい。
 弟子くらいの身分なら師匠が相当地位の高くてその師匠から気に入られていないと会社からすぐに首切りされる。
 もちろん、ほったらかしているであろうあの女は弟子をすべて失うだろう。
 「あの……私は……。」
 「ついて行かなくてもいいの?いや、ついてってもクビになるだけだけど。」
 「……ついてなんて行きません。」
 「そう。弟子と見習いどっちからやりたい?」
 「なぜ私を?」
 「ん?優秀だって聞いてたからね。それにサクラも気になってたみたいだし。」
 「そんな……。私はあの子にバケツで水をかけたのですよ?」
 「そうなの?サクラ。」
 みおりは瑠菜に向き合って真剣に言っているが、瑠菜は軽く答える。
 その姿はみおりからしたら適当なように見えてしまう。
 最終的には奥の部屋のサクラを呼ぶくらいだ。
(ここにいたら私も……いや、その前に私は法律を学びたいの。姉さんのように……。)
 雪紀やコムは法律に関してあまり力を入れていなかった。
 あきやケイは法律の知識はあるが、今までみおりがいたところに比べたらそこまで名が知られたところではない。
 みおりは今すぐ帰りたかった。
 しかし、今帰るのは瑠菜に対して無礼な態度だ。
 瑠菜に対してそんな態度をとってしまえば、みおりはこの会社から追い出されてしまう。
 もちろん、あの女の弟子として居座ったとしてもクビなのだが。
 「もういいです。」
 「待ってください。」
 奥の部屋から申し訳なさそうに出てきたサクラは帰ろうとするみおりを止めた。
 片腕にサクラの体重がかかる。
 みおりにはその手を振り払うことはできなかった。
 「あの時……あなたは、泥を少しでも乾かないようにしておこうと思ったのではないですか?」
 「っ……ち、違うわよ。」
 「私には逃がそうとしている気がしました。」
 「気のせいでしょ?」
 「いいえ、そんなはずありません。だってあなたは最後私に水をかけていなかったから。」
 みおりはもともとサクラをいじめることに気乗りしていなかった。
 ただ面倒くさいことに巻き込まれただけ。
 自分に、いじめの刃が向かないようにしたかっただけだ。
 だから、いじめているふりをしてサクラが逃げられるように後押ししていた。
 「……でも、私は……。」
 「私、法律の知識もあるのよ?」
 「聞いたことがありません。」
 「かえ、テスト取ってきて。」
 「ん。」
 「はやいね。準備してたんだ。」
 瑠菜はそう言いながら楓李から入社試験を挟んだファイルをもらう。
 「今は心理だけど、昔は医療のほうを手伝ってから。ほら。」
 「え?これ入社試験ですか?」
 すべて満点のテストが中には入っていた。
 みおりは入社試験を解いたからわかる。
 入社試験で満点をとれるほどの人はいない。
 それどころか、半分以上の点数を取っている人すらも見たことがなかった。
 (会社で働いている9割の人が半分以下の点数しか取れないと有名な入社試験を満点……。)
 みおりは息をのんだ。
 「少なくとも、あの女よりも法の知識はあると思うけど。」
 「……私は、法を学びたいんです。」
 「いいわよ。教えてあげる。その代わりに心理のほうも手伝うこと。いいわね?」
 「はいっ。」
 瑠菜に言われて、みおりはすごくうれしそうにうなずいた。
 瑠菜はにこにこと笑いながらみおりを家の中へと誘う。
 ずっと玄関にいて瑠菜自身も早く座りたいのだ。
(瑠菜に教えるほど法の知識なんかあったか?)
 楓李だけが瑠菜の行動に疑問を持っていたが、ここで何か言うと瑠菜から首を絞められかねないため黙っておく。
 「お兄、法律一人入りまーす。」
 「おっ、助かるなぁ。いいぞ。簡単な問題を持って来るか。問題集はいくつでもあるからな。」
 「え?僕の仕事だよね?法は。」
 「さぁ、この人がここの法律担当。わかんなかったら周りに聞いてね。」
 「は、はい。」
 「部屋余ってるし、ここに住むか?あの感じだと変えるに帰れないだろう。」
 「はい。お願いします。」
 「え?まって……僕の担当だよね?法は。」
 「だから教えてあげてね。あき。」
 あきが自分の仕事を取られるのではないかと焦っていると、瑠菜が面倒くさそうに言った。
 雪紀も瑠菜ももみおりを歓迎しまくっている。
 それを見てちびっこやみなこは警戒心丸出しで部屋の隅に固まっている。
 「みおりん、何か飲む?」
 「みおりんっ?」
 「あ、みおのほうがいい?っていうか、何飲みたい?」
 「お茶で……。」
 「OKみおりんお茶ね。」
 「みおで!呼び名はみおがいいです。」
 瑠菜はみおりをからかって楽しんでいる。
 ほぼ無表情に近い表情をしていたのがちこちょこ反応してくれるのが嬉しいのだろう。
 その横でサクラは声をかけたくてうずうずしている。
 「……何?」
 「み、みお、よろしくお願いします。」
 「……いいの?私はあなたをいじめて……。」
 「?助けてくれたので。あの時水をかけてくれなければ私はずっと湖に落とされ続けていたでしょう?湖から離れられたのはみおのおかげです。」
 「……お気楽ね。」
 サクラはみおりと同じような年だ。
 それでもみおりの目にはサクラが十個くらい年下に見えた。
 「?これからよろしくお願いします。みお。」
 「フッ……よろしくね。」
 「……!みおが笑った!みなさん、みおが笑いました。」
 「そりゃ笑うわよ!悪かったわね。表情が硬くて。」
 みおりが来て、また少し家がにぎやかになった。


楓李と瑠菜はまだ仲直りできないようです

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