ユーステッド、製作す
ー/ー
ガランガランッ!!
と、なにかが崩れる音が聞こえた。ザワザワと先ほどと違ったざわめきが辺りを包む。気になった僕は店主にまた来ることを伝え、広場の中央まで走った。
大桶の設置と飾りの屋根を作っていただろう男たちが。あっちへこっちへと慌てて動きまわっている……なにか事故が起きたのは明白だ。
「シーナさん、これは……」
「ユースくん来てたのかい。飾り屋根を建ててたんだけど建付けが悪かったのか急に崩れちまったみたいなんだよ。誰かケガでもしてなきゃいいんだけど……」
人だかりができていて近寄れないらしく、心配そうに様子をうかがっている。手伝いをしているジュリーのことも気になったので、僕が見てくるとシーナさんに伝えて人混みをむりやりかきわけて現場へと。
「ジュリー!大丈夫か!」
「ユーステッド様?!急に崩れて……」
屈強な男たちがオロオロとしている……どうやら怪我人が出てしまったようだ。仰向けで横たわる男の太い腕には大きな木材が当たった跡があり、赤黒く腫れあがっている。今まで見たことの無い状況に僕は戸惑ったし、前までの僕なら動けなかっただろう。
けど……
「ん……街の医院まで運ぶには……ジュリー!この人が収まる長さの布を持ってきてくれ!担架を作ろう。医者を呼ぶより運ぶ方が早いから!!」
「はいっす!」
「そこの!腰につけてる布を貸してくれ……そう……これを添え木にするからおさえていて。」
「う、うっす……」
救助なんてしたことなんてない。ただ僕は……書斎で読んだ戦術書の中にあった応急処置の方法が書かれていたのを思い出してやってみているだけ。世話になっているみんなが困っているから……助けたいだけ。体が嘘みたいにすぐ動いたのは……怪我に過剰に反応してしまう優しい彼女を思いだしたから。
「……っ!ぐっ!!」
「腕はこれでいいだろう……頭も強く打っていたら危ない……無理に動かさないようにするんだ」
「ユーステッド様!持ってきたっす!」
「ありがとうジュリー!この棒に……こうやって結んでいくから――」
ジュリーから受け取った布の端を口と手を使って縛れるように細かく裂いて、2本の棒の間に布を張るように結んでいく。僕の力じゃちょっと不安だから、ジュリーに僕の結び目をもう一度強く締めてもらい、担架を完成させる。
出来るだけ動かさないように怪我人を乗せて、なるべく揺らさず素早く慎重に走って医院へ向かうように指示を出した。
「……はぁ。びっくりしたね。ジュリーは怪我がないみたいで良かった。」
「ユーステッド様……ありがとうっす!!屋敷にいる時とはまるで別人っすね!!」
「たまたま体が動いただけで……別人は言いすぎだろジュリー……まったく」
話を聞くと、毎年来てくれていた本土で建築士をしている爺さんがいるのだが、高齢なのもあって今年は不在なのだそうだ。毎年見ているから大丈夫だ!ってことで港の男たちで屋根を作っていたのだが……やはり素人の作るものだ。どこか甘い作りになってしまったのと馬鹿力の衝撃で崩れたみたいだ。
「それにしても見事にバラバラになっちまったすね……今年は屋根なしでやるしかないっすかねぇ……結構綺麗にできてたんっすけど……」
努力の結晶がバラバラに崩れ、タダの木の棒や板に戻ってしまった残骸を見て肩を落とす男たち。周りで見ていた人たちも少しずつ離れはじめ、男たちに声をかける身内の女性や子供が何人か残る程度になっていた。
僕はさっきみた屋根を思い浮かべながら、なにかできることはないかと……思いついた考えをジュリーに伝えようと声をかける。
「ねぇジュリー。皆で作っていた立派なものには劣るかもしれない。でも……明日に間に合わせることができるかもしれない……なにか書くものを持ってきてもらっていいかな?あ、残った人も集めてくれると助かる」
「は、はいっす!」
残って残骸の片づけをしてくれていたシーナさんにも声をかけて、何人か手先の器用な人を呼んできてくれた。
ジュリーが持ってきてくれた紙に図面を書く。
建築家のように正確なものは描けないけれど、全体図と屋根の作り、柱と屋根の合わせ目の説明をしながら、みんなにわかるように説明をしていく。
「――で……一応打ち付けはするけどロープでも結んで強度をあげる。船乗りの集まりだからロープを安全に頑丈に結ぶなんてのはお手の物だろ?」
「なるほど……屋根は屋根でも飾りは乗せるだけにするんすね」
「もちろん屋根の基礎は作るけど重くならないようにすれば木材もそこまで必要じゃないし崩れてしまった中から探せば使えるものもあるはず。ただちょっと心配なのが……」
軽さ故に海風で飛ばされてしまわないかということだ。ロープで張ることもできるだろうけど、それだと盛り上がって周りが見えなくなった時に事故になりそうだ。
「……俺の故郷ではこうやって作ることもある。」
さっきの露店の店主が声をかけてきて、僕の描いた図面の土台の部分に書き込んでいく。
「石を使うのか……なるほど。」
「でもどうやって木材を石の中にいれるんすか?」
「木材に合うように石を加工する必要があるね……」
「俺が加工してやる。さすがに朝までかかるだろうが……その間にお前達は屋根を完成させたらいい。軽いのなら乗せるだけだろう?」
思いがけない申し出もあり、新しい屋根作りが始められることになった。
「じゃああたし達は屋根に乗せる飾りを作っていけばいいんだね?まかせときな!さ!はじめるよ!」
「「はーーい」」
シーナさんと女達も、漁に使う網に花や草を織り込んで屋根にかぶせる飾り作りを始める。さすがの手際の良さ……屋根が出来上がる前に終わってしまいそうなはやさだ。
「店主ありがとう。これでなんとかなりそうだ。」
「かまわん。俺は毎年ここから『収穫祭』を見るのが楽しみなんだ。若く美しく……可憐で儚く……咲き誇る花の様にはしゃぐ少女たちを愛でるのがな……」
「……。」
そう言って自分の露店に戻り、ジュリーが持ってきた石の加工を始める店主。
たぶん彼が言っていることはまったく格好のいい発言ではないことは確かだ。この店でティアへの贈り物を選ぶのを少しためらってしまいそうになった。
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ガランガランッ!!
と、なにかが崩れる音が聞こえた。ザワザワと先ほどと違ったざわめきが辺りを包む。気になった僕は店主にまた来ることを伝え、広場の中央まで走った。
|大桶《おおおけ》の設置と飾りの屋根を作っていただろう男たちが。あっちへこっちへと慌てて動きまわっている……なにか事故が起きたのは明白だ。
「シーナさん、これは……」
「ユースくん来てたのかい。飾り屋根を建ててたんだけど|建付《たてつ》けが悪かったのか急に崩れちまったみたいなんだよ。誰かケガでもしてなきゃいいんだけど……」
人だかりができていて近寄れないらしく、心配そうに様子をうかがっている。手伝いをしているジュリーのことも気になったので、僕が見てくるとシーナさんに伝えて人混みをむりやりかきわけて現場へと。
「ジュリー!大丈夫か!」
「ユーステッド様?!急に崩れて……」
|屈強《くっきょう》な男たちがオロオロとしている……どうやら|怪我人《けがにん》が出てしまったようだ。|仰向《あおむ》けで横たわる男の太い腕には大きな木材が当たった跡があり、赤黒く腫れあがっている。今まで見たことの無い状況に僕は戸惑ったし、前までの僕なら動けなかっただろう。
けど……
「ん……街の医院まで運ぶには……ジュリー!この人が収まる長さの布を持ってきてくれ!|担架《たんか》を作ろう。医者を呼ぶより運ぶ方が早いから!!」
「はいっす!」
「そこの!腰につけてる布を貸してくれ……そう……これを|添《そ》え|木《ぎ》にするからおさえていて。」
「う、うっす……」
救助なんてしたことなんてない。ただ僕は……|書斎《しょさい》で読んだ|戦術書《せんじゅつしょ》の中にあった|応急処置《おうきゅうしょち》の方法が書かれていたのを思い出してやってみているだけ。世話になっているみんなが困っているから……助けたいだけ。体が嘘みたいにすぐ動いたのは……怪我に|過剰《かじょう》に反応してしまう優しい彼女を思いだしたから。
「……っ!ぐっ!!」
「腕はこれでいいだろう……頭も強く打っていたら危ない……無理に動かさないようにするんだ」
「ユーステッド様!持ってきたっす!」
「ありがとうジュリー!この棒に……こうやって結んでいくから――」
ジュリーから受け取った布の端を口と手を使って縛れるように細かく裂いて、2本の棒の間に布を張るように結んでいく。僕の力じゃちょっと不安だから、ジュリーに僕の結び目をもう一度強く締めてもらい、担架を完成させる。
出来るだけ動かさないように怪我人を乗せて、なるべく揺らさず素早く|慎重《しんちょう》に走って医院へ向かうように指示を出した。
「……はぁ。びっくりしたね。ジュリーは怪我がないみたいで良かった。」
「ユーステッド様……ありがとうっす!!屋敷にいる時とはまるで別人っすね!!」
「たまたま体が動いただけで……別人は言いすぎだろジュリー……まったく」
話を聞くと、毎年来てくれていた本土で|建築士《けんちくし》をしている爺さんがいるのだが、高齢なのもあって今年は不在なのだそうだ。毎年見ているから大丈夫だ!ってことで港の男たちで屋根を作っていたのだが……やはり素人の作るものだ。どこか甘い作りになってしまったのと|馬鹿力《ばかぢから》の|衝撃《しょうげき》で|崩《くず》れたみたいだ。
「それにしても見事にバラバラになっちまったすね……今年は屋根なしでやるしかないっすかねぇ……結構綺麗にできてたんっすけど……」
努力の結晶がバラバラに崩れ、タダの木の棒や板に戻ってしまった|残骸《ざんがい》を見て肩を落とす男たち。周りで見ていた人たちも少しずつ離れはじめ、男たちに声をかける身内の女性や子供が何人か残る程度になっていた。
僕はさっきみた屋根を思い浮かべながら、なにかできることはないかと……思いついた考えをジュリーに伝えようと声をかける。
「ねぇジュリー。皆で作っていた立派なものには|劣《おと》るかもしれない。でも……明日に間に合わせることができるかもしれない……なにか書くものを持ってきてもらっていいかな?あ、残った人も集めてくれると助かる」
「は、はいっす!」
残って残骸の片づけをしてくれていたシーナさんにも声をかけて、何人か手先の器用な人を呼んできてくれた。
ジュリーが持ってきてくれた紙に図面を書く。
|建築家《けんちくか》のように正確なものは描けないけれど、全体図と屋根の作り、柱と屋根の合わせ目の説明をしながら、みんなにわかるように説明をしていく。
「――で……一応打ち付けはするけどロープでも結んで強度をあげる。船乗りの集まりだからロープを安全に頑丈に結ぶなんてのはお手の物だろ?」
「なるほど……屋根は屋根でも飾りは乗せるだけにするんすね」
「もちろん屋根の|基礎《きそ》は作るけど重くならないようにすれば木材もそこまで必要じゃないし崩れてしまった中から探せば使えるものもあるはず。ただちょっと心配なのが……」
軽さ故に海風で飛ばされてしまわないかということだ。ロープで張ることもできるだろうけど、それだと盛り上がって周りが見えなくなった時に事故になりそうだ。
「……俺の故郷ではこうやって作ることもある。」
さっきの露店の店主が声をかけてきて、僕の描いた図面の土台の部分に書き込んでいく。
「石を使うのか……なるほど。」
「でもどうやって木材を石の中にいれるんすか?」
「木材に合うように石を加工する必要があるね……」
「俺が加工してやる。さすがに朝までかかるだろうが……その間にお前達は屋根を完成させたらいい。軽いのなら乗せるだけだろう?」
思いがけない申し出もあり、新しい屋根作りが始められることになった。
「じゃああたし達は屋根に乗せる飾りを作っていけばいいんだね?まかせときな!さ!はじめるよ!」
「「はーーい」」
シーナさんと女達も、漁に使う|網《あみ》に花や草を|織《お》り込んで屋根にかぶせる飾り作りを始める。さすがの手際の良さ……屋根が出来上がる前に終わってしまいそうなはやさだ。
「店主ありがとう。これでなんとかなりそうだ。」
「かまわん。俺は毎年ここから『|収穫祭《しゅうかくさい》』を見るのが楽しみなんだ。若く美しく……可憐で儚く……咲き|誇《ほこ》る花の様にはしゃぐ少女たちを愛でるのがな……」
「……。」
そう言って自分の露店に戻り、ジュリーが持ってきた石の加工を始める店主。
たぶん彼が言っていることはまったく格好のいい発言ではないことは確かだ。この店でティアへの贈り物を選ぶのを少しためらってしまいそうになった。