仕事を終えたマナはカイルに付き添われ家路につく。
カイルがマナを心配して、いつも家まで送ってくれた。
こういう優しさに、マナはいつも感謝とともに暖かい気持ちを感じていた。
家に着くとナナが二人を出迎えた。
「おかえりー」
カイルはマナが夕食の準備をする間、ナナの話し相手をしてくれる。
「カイル、今日の新聞見た? 白怪盗のとこ!」
ナナが嬉しそうに満面の笑みを向ける。
「ああ、見たよ。白怪盗かっこいいよなあ」
「そうだよね! かっこいいー」
ナナはカイルの返答にご満悦だ。
カイルはマナの様子を気にしながら、問いかける。
「マナは? 白怪盗のこと、どう思う?」
夕飯の準備で忙しいマナは手を止めずに答えた。
「私は白怪盗のことよく知らないから……わからない」
その言葉を聞き、ナナが唇を尖らせる。
「お姉ちゃんは白怪盗に興味がないだけだよ」
「そっか……」
カイルはどことなく寂しそうに笑うのだった。
ナナはしばらく白怪盗の話題で盛り上がったあと、カイルに向かって尋ねた。
「そうそう。ねえ、今女の子の間で流ってるものって知ってる?」
カイルは首を横に振る。
「ルビーのペンダント!
それを持ってると、好きな人と両想いになれるんだって」
ナナは嬉しそうにニコニコしながら、カイルの返答を待っている。
「へえ、そうなんだ……」
興味なさそうなカイルの返答に、ナナは頬を膨らませた。
「いいよね、ペンダント……私も欲しいなあ」
「ナナちゃん、好きな子でもいるの?」
ナナは上目遣いでじっとカイルを見つめるが、カイルは不思議そうな顔をする。
ナナは面白くなさそうに顔をそむけた。
「秘密」
「なんだよ」
二人が楽しく会話する姿を優しく見つめていたマナが、出来上がった料理を運んできた。
「ご飯出来たよ、どうぞ」
あわただしかった一日もようやく終わり。
マナは疲れた身体を休めるため、窓辺に置いてある椅子に座りながら月を眺めていた。
ふと、先ほどの会話が蘇ってくる。
二人が話していたルビーのペンダント。
ナナのために買ってあげたいと思うが、金銭的に考えて無理だ。
今の暮らしでも精一杯なのだ。
やわらかな月の光を浴びながら、マナは深いため息をつくのだった。
マナとカイルの二人は、カイルの父親からお使いを頼まれ、市場に来ていた。
市場はいつも通り賑やかに活気づいていた。
人通りが多く、カイルとはぐれそうになったマナはカイルの袖をつかんだ。
その瞬間、カイルはビックと反応した……が、カイルはマナの方を見ようともせず、さっさと歩いていってしまう。
マナがカイルの様子を窺うと、なぜかカイルの耳は赤くなっていた。
突然、カイルは足を止めた。
「何? 急に止まって」
「あれ」
カイルが指差す先にいたのは、ナナだ。
路地の方に入っていくのを見た二人は、後を追った。
ナナは数人の女子に囲まれていた。
彼女たちの不穏な空気を感じ取ったマナたちは、声をかけられずその場で様子を見守る。
「ナナ、これがルビーのペンダントよ。綺麗でしょ」
女子グループのリーダーらしき女が、ペンダントをナナに見せびらかす。
ナナは下を向いたまま、黙っている。
「あ、そっか。ナナはルビーのペンダントなんか持ってないわよね。ごめん」
彼女の甲高い笑い声が響き渡る。
取り巻きの女達もさりげなくルビーのペンダントを見せながら、クスクスと笑っていた。
ナナは唇を噛みしめ、拳をぎゅっと握った。
マナは見ていられなくて、ナナの方へ踏み出そうとした。
しかし、カイルがそれを制した。
カイルはまっすぐナナを見つめながら、首を横に振った。
「どうして?」
「……」
カイルの手はきつく握りしめられ震えていた。
彼もマナと同じ気持ちなのだ。
彼女たちはさらにナナに詰め寄っていく。
「ナナも早く手に入れられるといいわねえ」
「それは無理よ、だってこの子の家は、ねえ」
「かわいそうに、父親があれじゃあねえ」
次々に浴びせられる罵詈雑言にも耐え続けるナナ。
マナもカイルも、もう耐えられなかった。
「お姉さんの雀の涙ほどの収入じゃあ、手も足も出ないでしょうよ」
その言葉を聞いた途端、今まで沈黙を保っていたナナが動いた。
「ってめえ! お姉ちゃんの悪口言う奴は、絶対許さねえ」
ドスの効いた低い声、人を殺しそうな鋭い目つき、一瞬で人の間合いに入り込むスピード。
その場にいた誰もが凍りついた。
ナナに首元を掴まれた子が、ガタガタと肩を震わせ涙目になる。
「もう、いいわ……帰りましょう」
彼女たちはナナから恐る恐る離れると、あっという間にいなくなってしまった。
ナナは彼女たちが去ったあと、自分の服についた誇りを払い、何事もなかったかのようにその場を後にした。
マナとカイルは唖然とする。
そして、二人はお互いを見つめ頷いた。
ナナを絶対怒らせないようにしようと心に誓うのだった。
カイルは心配そうにマナを見つめる。
マナは思いつめた表情をしながら下を向いていた。
「マナ……」
「私、頑張る」
マナの瞳には決意が帯びていた。
「マナ……無茶なことは」
「カイル、心配しないで」
マナは家族のこととなると無茶をするところがある。
カイルは胸に浮かんだ嫌な予感を拭い去ろうとしたが、なかなか消えそうになかった。