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第4章〜推しが、燃えるとき〜⑫

ー/ー



「つづいて、二人目の演説者は、2年生の光石琴(みついしこと)さんです。光石さん、中央の演台へどうぞ」

 司会のmichiの言葉にうながされ、光石琴が、舞台の真ん中にある大きな演台に向かった。
 その瞬間、

「光石さん! がんばって!」 

という声が上がる。

 生徒たちが座る座席の方に目を向けると、ステージの側に居る僕たちから向かって右側の1年生が座る位置からのようだ。おそらく、その声は、先日の生徒会選挙で光石琴のSNS担当を任された天野さんのものだ。

 下級生の声に気づいた候補者は、生徒たちの座る席の方に向かって、ニコリと微笑んだあと、気を引き締めるように、一度、口を真一文字に結んでから、中央の演台の前に立った。
 
 どんな言葉で演説をはじめるんだろう?

 僕が注目していた彼女の第一声は、意外な言葉からはじまった。

「今回の生徒会選挙に立候補しました光石琴です。この生徒会選挙に当たり、ここまで来ることができたのは、私のことを応援してくれた生徒のみなさんのおかげです。その方々にお礼を申し上げます。私自身には、多くの足りないところがあり、先日の生徒会選挙でも、多くの生徒のみなさんの心を傷つけ、期待を裏切ってしまいました。この選挙戦では、色々なイヤな想いをされた方が多かったと思います。私自身の至らなかった点を心からお詫び申し上げます。それとともに、この生徒会選挙を通じて、私は多くのことを学ばせていただきました」

 まさか、最初の言葉を謝罪ではじめるなんて、思ってもいなかった。
 しかも、彼女は周りの人たちを、そして、自分自身を傷つけられた側じゃないか……。

 身贔屓(みびいき)と他の生徒に言われても、僕は光石琴の言葉に対して、そう感じてしまう。
 ただ、そんな僕のちっぽけな想いをよそに、候補者は言葉を続ける。

「先日、そして、今回の生徒会選挙をともに戦った多くの候補者の方から、多くの教えをいただきました。生徒会役員を志す者としての生きざまも教えていただきました。この投票が終わった後は、結果にかかわらず、本当に心を一つにして、一宮高校のために、全校生徒のために、ともに手を携え、全身全霊を尽くしたいと思ってます」

 光石琴の言葉は、ここから、熱を帯び始めた。
 
「先日の生徒会選挙に立候補への決意を表明したとき、私は自分の所属する吹奏楽部が活動している音楽室で出馬表明をしました。まだまだ暑さの残る日でした。その音楽室で夏休みに行った定期演奏会には、学校の内外から多くの人たちに参加していただきました。演奏を聞いた大勢の人が笑顔を見せてくれました。私は、そんな笑顔があふれる一宮高校にしたいと思っています。そう考えて、前回の選挙で期待を裏切ったにもかかわらず、あらためて、今回の選挙に立候補しました」

 彼女の言葉を噛みしめるように聞いていた僕は、頬が熱く火照るりはじめるのを感じていた。
 
「お互いが悪口を言い合ったり、足を引っ張ったりするのではなく、ともに助け合い、悲しい思いでいる人、苦しい思いでいる人、そういう人たちを助け合うような、そんな一宮高校にしたいと思っています」

 光石琴が発する言葉の一つ一つに、僕は力強くうなずく。

「今年の生徒会選挙では、色々なことがありました。クラブ連盟や運営委員会の組織票に頼った選挙。SNSを中心にして、正確でない情報が飛び交う選挙。今のままでいいと私は思っていません。一人一人が幸せを実感できる。安心して登校できる。もう一度、一人一人に笑顔が戻ってくる。そういう一宮高校を必ず作っていきます」

 僕は、いつの間にか、拳を強く握りしめ、目から熱いものが伝うのを感じた。
 
「生徒のみなさんの中には、なおまだ、私の言葉を信じられない人がいるかも知れません。それでも、私はみなさんを信じて、逃げることなく、正面から語る生徒会を作っていきたいと思います。勇気と真心を持って真実を語る。そういう生徒会を、そういう一宮高校を私は全校のみなさんとともに作るために、全力を尽くしたいと思います。一宮高校の全校生徒は、さまざまなことがあった今年の生徒会選挙を通じて学んだことを活かして、よりよい学校にしていくチカラがあると、私は信じています! あなたの声を私と一緒に届けましょう! どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました」

 演説を終えた候補者が、深々と頭を下げると、会場からは盛大な拍手が沸き起こる。

 その音が、最初の候補者よりも大きく響き渡っているように感じるのは、僕の感情が冷静さを失っているからだろうか―――?

 ただ、大講堂に鳴り響く拍手と歓声のなか、そばでつぶやく先輩の言葉を僕は聞き逃さなかった。

「他人の悪行まで自分で背負うなんて、ホントに聖女キャラね」

 その言葉に反応し、上級生に視線を向けると、

「佐々木くんが、彼女に惚れ込んだ理由がわかったわ」

ケイコ先輩は、そう言って、僕に微笑みかける。そして、続けて、こう付け加えた。

「光石さんは、自分のできることをやり通した。佐々木くんも、彼女との関係をどうするのか、そろそろ、キチンと考えないとね?」
 
 軽く片目を瞬きさせて、放送・新聞部の取材とは関係ない言葉をかけてきた先輩をよそに、司会進行を務める選挙管理員の代表者は、淡々と、このあとの流れを伝える。

「これで、第106代の一宮高校生徒会選挙立候補者演説会を終了します。投票は、各クラスの教室に戻り、タブレット端末で行ってください」

 そうして、全校生徒が大講堂から立ち去った三十分後……。

 第106代の一宮高校生徒会長の当選者が発表された―――。
 
 結果を表示する大型スクリーンの画面を見つめながら、僕は拳を強く握りしめた。


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「つづいて、二人目の演説者は、2年生の|光石琴《みついしこと》さんです。光石さん、中央の演台へどうぞ」
 司会のmichiの言葉にうながされ、光石琴が、舞台の真ん中にある大きな演台に向かった。
 その瞬間、
「光石さん! がんばって!」 
という声が上がる。
 生徒たちが座る座席の方に目を向けると、ステージの側に居る僕たちから向かって右側の1年生が座る位置からのようだ。おそらく、その声は、先日の生徒会選挙で光石琴のSNS担当を任された天野さんのものだ。
 下級生の声に気づいた候補者は、生徒たちの座る席の方に向かって、ニコリと微笑んだあと、気を引き締めるように、一度、口を真一文字に結んでから、中央の演台の前に立った。
 どんな言葉で演説をはじめるんだろう?
 僕が注目していた彼女の第一声は、意外な言葉からはじまった。
「今回の生徒会選挙に立候補しました光石琴です。この生徒会選挙に当たり、ここまで来ることができたのは、私のことを応援してくれた生徒のみなさんのおかげです。その方々にお礼を申し上げます。私自身には、多くの足りないところがあり、先日の生徒会選挙でも、多くの生徒のみなさんの心を傷つけ、期待を裏切ってしまいました。この選挙戦では、色々なイヤな想いをされた方が多かったと思います。私自身の至らなかった点を心からお詫び申し上げます。それとともに、この生徒会選挙を通じて、私は多くのことを学ばせていただきました」
 まさか、最初の言葉を謝罪ではじめるなんて、思ってもいなかった。
 しかも、彼女は周りの人たちを、そして、自分自身を傷つけられた側じゃないか……。
 |身贔屓《みびいき》と他の生徒に言われても、僕は光石琴の言葉に対して、そう感じてしまう。
 ただ、そんな僕のちっぽけな想いをよそに、候補者は言葉を続ける。
「先日、そして、今回の生徒会選挙をともに戦った多くの候補者の方から、多くの教えをいただきました。生徒会役員を志す者としての生きざまも教えていただきました。この投票が終わった後は、結果にかかわらず、本当に心を一つにして、一宮高校のために、全校生徒のために、ともに手を携え、全身全霊を尽くしたいと思ってます」
 光石琴の言葉は、ここから、熱を帯び始めた。
「先日の生徒会選挙に立候補への決意を表明したとき、私は自分の所属する吹奏楽部が活動している音楽室で出馬表明をしました。まだまだ暑さの残る日でした。その音楽室で夏休みに行った定期演奏会には、学校の内外から多くの人たちに参加していただきました。演奏を聞いた大勢の人が笑顔を見せてくれました。私は、そんな笑顔があふれる一宮高校にしたいと思っています。そう考えて、前回の選挙で期待を裏切ったにもかかわらず、あらためて、今回の選挙に立候補しました」
 彼女の言葉を噛みしめるように聞いていた僕は、頬が熱く火照るりはじめるのを感じていた。
「お互いが悪口を言い合ったり、足を引っ張ったりするのではなく、ともに助け合い、悲しい思いでいる人、苦しい思いでいる人、そういう人たちを助け合うような、そんな一宮高校にしたいと思っています」
 光石琴が発する言葉の一つ一つに、僕は力強くうなずく。
「今年の生徒会選挙では、色々なことがありました。クラブ連盟や運営委員会の組織票に頼った選挙。SNSを中心にして、正確でない情報が飛び交う選挙。今のままでいいと私は思っていません。一人一人が幸せを実感できる。安心して登校できる。もう一度、一人一人に笑顔が戻ってくる。そういう一宮高校を必ず作っていきます」
 僕は、いつの間にか、拳を強く握りしめ、目から熱いものが伝うのを感じた。
「生徒のみなさんの中には、なおまだ、私の言葉を信じられない人がいるかも知れません。それでも、私はみなさんを信じて、逃げることなく、正面から語る生徒会を作っていきたいと思います。勇気と真心を持って真実を語る。そういう生徒会を、そういう一宮高校を私は全校のみなさんとともに作るために、全力を尽くしたいと思います。一宮高校の全校生徒は、さまざまなことがあった今年の生徒会選挙を通じて学んだことを活かして、よりよい学校にしていくチカラがあると、私は信じています! あなたの声を私と一緒に届けましょう! どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました」
 演説を終えた候補者が、深々と頭を下げると、会場からは盛大な拍手が沸き起こる。
 その音が、最初の候補者よりも大きく響き渡っているように感じるのは、僕の感情が冷静さを失っているからだろうか―――?
 ただ、大講堂に鳴り響く拍手と歓声のなか、そばでつぶやく先輩の言葉を僕は聞き逃さなかった。
「他人の悪行まで自分で背負うなんて、ホントに聖女キャラね」
 その言葉に反応し、上級生に視線を向けると、
「佐々木くんが、彼女に惚れ込んだ理由がわかったわ」
ケイコ先輩は、そう言って、僕に微笑みかける。そして、続けて、こう付け加えた。
「光石さんは、自分のできることをやり通した。佐々木くんも、彼女との関係をどうするのか、そろそろ、キチンと考えないとね?」
 軽く片目を瞬きさせて、放送・新聞部の取材とは関係ない言葉をかけてきた先輩をよそに、司会進行を務める選挙管理員の代表者は、淡々と、このあとの流れを伝える。
「これで、第106代の一宮高校生徒会選挙立候補者演説会を終了します。投票は、各クラスの教室に戻り、タブレット端末で行ってください」
 そうして、全校生徒が大講堂から立ち去った三十分後……。
 第106代の一宮高校生徒会長の当選者が発表された―――。
 結果を表示する大型スクリーンの画面を見つめながら、僕は拳を強く握りしめた。