「親免許制度で子どもも親も救われる」
まず、この言葉には欺瞞が含まれている。経済的に豊かで精神、肉体的に健康であっても完璧な体制とは言えない。虐待件数、または虐待相談件数が減少する可能性はあるも、両方にとって満足のいく制度を実現することは可能なのだろうか。
次に重要な問題はメリットとして上げた点について。親免許制度を取得できる年齢とできな年齢があるのだ。つまりそれは、恩恵を受けることができないと社会から線引された一定の国民がいるという事実。
そして聖美と朋夜は今年、「取得できる年齢」のボーダーラインの上に立とうとしている。
免許を取得できれば仲間外れを回避でき、養子を迎えればさらなる恩恵を受けられる。
「そこまでしてお金が欲しい訳ではありません」
廊下に自分の声がこだましたような気がして、ハッと息を止める。心臓の鼓動が鼓膜まで届いた。この発言は、あいりの事故の賠償金訴訟を退いた時に発した、自分自身のものだった。
聖美は思わずに振り返る。数メートル先の部屋から笹木が出てきて、すぐ隣の部屋に入って行く姿が見た。頭を振り、深呼吸をする。
親免許制度や養子のこと、朋夜との今後について、現実と向き合わなければいけない時は迫っていた。
早朝に目が覚めたのは、急激に気温が下がり冷え込んだせいだった。朋夜はベッドから這い出てカーテンを開ける。車庫の屋根には薄っすらと雪が積もっていた。
今日、春野夫妻は新たな家族と初めて対面する予定でいる。半年前から進めていた特別養子縁組が成立したのだ。事前に親免許を取得できたおかげで「育ての親」になるための審査は滞りなく進み無事、家庭裁判所の審判が確定した。養子になる子の名前は「桜良」、年齢は三歳になる女の子だった。