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5.ネモ帝国で初めてのお茶会

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 我が愛しのブラッドナイト王国と、ネモ帝国のお茶会におけるマナーはあまり違いがございません。ですから、わたくしにかかれば戸惑いなどないもどうぜんでございます。

 まずはレオンハルトさまがおかけになり、わたくしへ着席を勧められてから腰を下ろしました。

 このサロンルームにいるのはレオンハルトさまとわたくし、そしてお互いの執事や付き人、侍女ばかりですね。他にどなたもいらっしゃらないようで、安心致しました。

「レオンハルトさま。本日はお招き頂きまして幸甚の至りでございます」
「こちらこそ、招待を受けてくれてありがとう。そしてそう固くなるな、普段通りに、だろう?」
「ふふ、そうでございました。では、そのように。わたくし、当国では交流を持たせて頂いている方もいらっしゃいませんから、少々不安を抱きながら本日まで過ごしておりました」

 これは本当のことでございます。知識としてはネモ帝国について、そして貴族家について頭の中には入っておりますけれども、実際にお会いしたことのある方はいらっしゃいませんもの。

「ですが、こうしてレオンハルトさまにご親切にして頂きまして、そのお優しさに胸がいっぱいでございます」
「フェリシア姫……。困ったことがあれば、いつでも俺を頼って欲しい。いや、なくても共に過ごす時間が増えることを望んでいると言うのは、迷惑だろうか?」

 あら、あらあら。本当にお優しいのですね、レオンハルトさま。本当に見た目以外氷ではありませんわ。寧ろ暖かな春と申し上げるのが適当でございましょう。

 氷の皇子ではなく、常春の皇子の方が的確なのではないでしょうか。それとも氷魔術がお得意でいらっしゃるということかしら、わたくしにはこれ以上の推察は現時点で難しいですわね。

「わたくしもレオンハルトさまとお話出来る時間を頂けました嬉しく思いますわ。何せこれから学び舎で共に過ごす方々とは初対面も同然ですもの、不安がないと言えば全くの嘘になってしまいます」

 これは本心でしてよ。自国ならばまだしも、社交場の雰囲気すら知らない他国ですもの。不安がありませんわ、などと嘘を申し上げるわけには参りません。

 これにはレオンハルトさまも同意をくだざいまして、「俺の傍にいれば良い」と言ってくださいました。しかし他国の王女が自国の皇太子殿下の傍にいるというのは、ご令嬢たちからすれば面白くないはなしではないでしょうか。

 それを疑問として敢えて顔に出し、少しだけ首を傾げます。すると読み取ってくださったレオンハルトさまが、少しだけ苦笑して口を開かれました。

「俺は誰とも婚約はしていないから、厄介事に巻き込まれたりはしない」
「そうでしたの。レオンハルトさまはこうして他国の者であるわたくしにもお優しくしてくださいますから、既に良い方と巡り会っていらっしゃるものだと」
「……いや、良い出会いといえばフェリシア姫とこうして言葉を交わせることだ。元々はあなたの兄君が留学予定だったと聞くが、俺としては姫が来てくれて嬉しい」
「まあ、うふふ。そう言って頂けて嬉しゅうございます。わたくしもレオンハルトさまと懇意にさせて頂き、ネモ帝国で一人にならずに済んだと安堵しておりますもの」

 本当にお優しい方ですわ。吸血種であるわたくしに気を使って部屋のカーテンも全て閉めてくださいましたし、頂いている紅茶の質も最高のもの。お茶菓子も美味しゅうございます。

「ところでフェリシア姫。……こういったことをお聞きするのはマナー違反と分かっているが、一つ心配でな。我が国ではお食事に困ることはないだろうか」

 食事でございますか。それはつまり血のことを申しておりますのね、ええ、分かっておりますとも。飢餓が限界に達した吸血種は満足するまで無差別に人も獣も襲いますからね、心配にもなりましょう。

「自国より保存用の食事を取り寄せておりますから、問題はございませんわ。それに、吸血種とは言いますけれども、毎度の食事で血を求めるわけではございませんの」

 これは勘違いされ易いのですよね。吸血種は生き血ばかり飲む、と。違いましてよ、普段の食事は他の人族と同じものでございます。そこに血を定期的に摂取するだけなのですから。

「そうか、失礼した。もし新鮮な血が飲みたくなったら、俺を頼ってくれ。その時はきっと姫に合う血を提供しよう」
「まあ、そこまで気を使って頂けるとは……本当にレオンハルトさまはお優しくいらっしゃいますわ。ええ、その時はお言葉に甘えさせて頂きます」
「是非。求めるならば今からでも構わないぞ」
「ふふ、ご冗談がお上手ですこと。わたくしの場合は三日に一度で足りますから、毎日飲んでしまえばその血を求めて止まなくなってしまいましてよ」
「——ほう。そうなのか?」
「さて、そう伝えられております。ですから、血は様々なものから摂取するようにと育てられて参りました」

 吸血種について好奇心が刺激されたのでしょうか、楽しそうに聞いてくださいますわ。自分語りをしているようで恥ずかしくはありますけれど、これもまた正確に吸血種を知って頂くための時間でございます。

 ええ、少しでも我が種族に対する偏見を減らすためにわたくしがやれることはやりましてよ。我が国は、そうして追われた者たちが集まって出来た国ですから。

「吸血種は他の人族よりもずっと寿命が長くあります。ですから、百年前や二百年前は最近ですの」
「そうなのか……では、苦い記憶を持つ者も多かろう。人族への、その、憤りはないのだろうか」
「そうですわねえ、全くないとは言えないでしょう。ですが、朗らかな者が多いのも吸血種の特徴でございます。あの頃は生きていた者たちはほとんど土の下だから、と言うものが多いですわね」
「ははっ、それは確かに朗らかだな。我が国でもより吸血種に対する誤認の是正に努めよう。姫にとって過ごし易い国にしてみせる」

 使命感に溢れていらっしゃいますわね。国を継ぐ者としての役割だと思っていらっしゃるのでしょう、レオンハルトさまは良き皇帝になられるのでしょうねえ。

 その時はお后選びにも頑張って頂かねば。吸血種に対して寛容な方をお選びになってくださいまし。そうされれば、わたくしもネモ帝国へと外交に訪れやすいというもの。


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次のエピソードへ進む 6.入学式と留学生挨拶


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 我が愛しのブラッドナイト王国と、ネモ帝国のお茶会におけるマナーはあまり違いがございません。ですから、わたくしにかかれば戸惑いなどないもどうぜんでございます。
 まずはレオンハルトさまがおかけになり、わたくしへ着席を勧められてから腰を下ろしました。
 このサロンルームにいるのはレオンハルトさまとわたくし、そしてお互いの執事や付き人、侍女ばかりですね。他にどなたもいらっしゃらないようで、安心致しました。
「レオンハルトさま。本日はお招き頂きまして幸甚の至りでございます」
「こちらこそ、招待を受けてくれてありがとう。そしてそう固くなるな、普段通りに、だろう?」
「ふふ、そうでございました。では、そのように。わたくし、当国では交流を持たせて頂いている方もいらっしゃいませんから、少々不安を抱きながら本日まで過ごしておりました」
 これは本当のことでございます。知識としてはネモ帝国について、そして貴族家について頭の中には入っておりますけれども、実際にお会いしたことのある方はいらっしゃいませんもの。
「ですが、こうしてレオンハルトさまにご親切にして頂きまして、そのお優しさに胸がいっぱいでございます」
「フェリシア姫……。困ったことがあれば、いつでも俺を頼って欲しい。いや、なくても共に過ごす時間が増えることを望んでいると言うのは、迷惑だろうか?」
 あら、あらあら。本当にお優しいのですね、レオンハルトさま。本当に見た目以外氷ではありませんわ。寧ろ暖かな春と申し上げるのが適当でございましょう。
 氷の皇子ではなく、常春の皇子の方が的確なのではないでしょうか。それとも氷魔術がお得意でいらっしゃるということかしら、わたくしにはこれ以上の推察は現時点で難しいですわね。
「わたくしもレオンハルトさまとお話出来る時間を頂けました嬉しく思いますわ。何せこれから学び舎で共に過ごす方々とは初対面も同然ですもの、不安がないと言えば全くの嘘になってしまいます」
 これは本心でしてよ。自国ならばまだしも、社交場の雰囲気すら知らない他国ですもの。不安がありませんわ、などと嘘を申し上げるわけには参りません。
 これにはレオンハルトさまも同意をくだざいまして、「俺の傍にいれば良い」と言ってくださいました。しかし他国の王女が自国の皇太子殿下の傍にいるというのは、ご令嬢たちからすれば面白くないはなしではないでしょうか。
 それを疑問として敢えて顔に出し、少しだけ首を傾げます。すると読み取ってくださったレオンハルトさまが、少しだけ苦笑して口を開かれました。
「俺は誰とも婚約はしていないから、厄介事に巻き込まれたりはしない」
「そうでしたの。レオンハルトさまはこうして他国の者であるわたくしにもお優しくしてくださいますから、既に良い方と巡り会っていらっしゃるものだと」
「……いや、良い出会いといえばフェリシア姫とこうして言葉を交わせることだ。元々はあなたの兄君が留学予定だったと聞くが、俺としては姫が来てくれて嬉しい」
「まあ、うふふ。そう言って頂けて嬉しゅうございます。わたくしもレオンハルトさまと懇意にさせて頂き、ネモ帝国で一人にならずに済んだと安堵しておりますもの」
 本当にお優しい方ですわ。吸血種であるわたくしに気を使って部屋のカーテンも全て閉めてくださいましたし、頂いている紅茶の質も最高のもの。お茶菓子も美味しゅうございます。
「ところでフェリシア姫。……こういったことをお聞きするのはマナー違反と分かっているが、一つ心配でな。我が国ではお食事に困ることはないだろうか」
 食事でございますか。それはつまり血のことを申しておりますのね、ええ、分かっておりますとも。飢餓が限界に達した吸血種は満足するまで無差別に人も獣も襲いますからね、心配にもなりましょう。
「自国より保存用の食事を取り寄せておりますから、問題はございませんわ。それに、吸血種とは言いますけれども、毎度の食事で血を求めるわけではございませんの」
 これは勘違いされ易いのですよね。吸血種は生き血ばかり飲む、と。違いましてよ、普段の食事は他の人族と同じものでございます。そこに血を定期的に摂取するだけなのですから。
「そうか、失礼した。もし新鮮な血が飲みたくなったら、俺を頼ってくれ。その時はきっと姫に合う血を提供しよう」
「まあ、そこまで気を使って頂けるとは……本当にレオンハルトさまはお優しくいらっしゃいますわ。ええ、その時はお言葉に甘えさせて頂きます」
「是非。求めるならば今からでも構わないぞ」
「ふふ、ご冗談がお上手ですこと。わたくしの場合は三日に一度で足りますから、毎日飲んでしまえばその血を求めて止まなくなってしまいましてよ」
「——ほう。そうなのか?」
「さて、そう伝えられております。ですから、血は様々なものから摂取するようにと育てられて参りました」
 吸血種について好奇心が刺激されたのでしょうか、楽しそうに聞いてくださいますわ。自分語りをしているようで恥ずかしくはありますけれど、これもまた正確に吸血種を知って頂くための時間でございます。
 ええ、少しでも我が種族に対する偏見を減らすためにわたくしがやれることはやりましてよ。我が国は、そうして追われた者たちが集まって出来た国ですから。
「吸血種は他の人族よりもずっと寿命が長くあります。ですから、百年前や二百年前は最近ですの」
「そうなのか……では、苦い記憶を持つ者も多かろう。人族への、その、憤りはないのだろうか」
「そうですわねえ、全くないとは言えないでしょう。ですが、朗らかな者が多いのも吸血種の特徴でございます。あの頃は生きていた者たちはほとんど土の下だから、と言うものが多いですわね」
「ははっ、それは確かに朗らかだな。我が国でもより吸血種に対する誤認の是正に努めよう。姫にとって過ごし易い国にしてみせる」
 使命感に溢れていらっしゃいますわね。国を継ぐ者としての役割だと思っていらっしゃるのでしょう、レオンハルトさまは良き皇帝になられるのでしょうねえ。
 その時はお后選びにも頑張って頂かねば。吸血種に対して寛容な方をお選びになってくださいまし。そうされれば、わたくしもネモ帝国へと外交に訪れやすいというもの。