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2.晩餐会での出会い

ー/ー



 我が愛しきブラッドナイト王国から常春と名高いネモ帝国へ王室馬車にて出立し、何事もなく到着と相成りました。

 何せ腕利きの王室騎士団がわたくしの護衛として派遣されておりましたからね、万が一などございませんとも。仮にあったとして、わたくしが気づかぬうちに処理したのでしょうね。

 さて、到着したのは太陽眩しい昼間の時間帯でございます。本当は外になど出たくはありませんけれど、はあ、仕方がありません。人族人間種の侍女が昼間の付き添いをしますから、その者が開いた日傘の中に入ってから持ち手を受け取ります。

 ブラッドナイト王国には人間種や混血種もおりましてよ。勿論差別などございません、そんなことをすれば牢屋行き。行き過ぎた行為や言葉を使っていれば、最悪首をちょきん、でございます。

「お(ひい)さま、太陽が高く昇っております。どうぞ影からお出になりませんよう」
「ええ、ありがとう。それでは、皇帝陛下並びに皇后さまへ謁見するための準備を整えましょうか」
「かしこまりました」

 一晩だけ泊まる宿にチェックインをして、身なりを整えます。これをしないで旅姿のまま謁見するなど言語道断、品性を疑われるものですから。

 何せ馬車旅、体を拭くことは出来ても湯浴みなどは出来ませんでした。ですから、宿の湯殿で侍女たちにより隅々までぴっかぴかに磨かれるのでございます。

 そしてその磨かれたわたくしは、確り全身に保湿薬を塗り込まれ、メイクも施されてからドレスを身に纏います。勿論これもわたくしが自ら着るのではなく、侍女たちに任せますとも。

 年齢の割に発育の良い胸は大胆に広く、しかし首元から確りとしたドレス生地までを細かなレースで覆いますから、露出としては少なくなりますわね。

 二の腕までの手袋をして、スカートはマーメイドライン。脚の形にぴったりと添いながらも歩き難くはない、職人渾身の作でございますよ。

 ドレスはブラッドナイト王国では王族だけが纏うことを許される、高貴なる黒。そしてそれに合わせるアクセサリーは銀と赤、真っ赤な宝石が映えますね。

 わたくしの髪色は銀、瞳は赤ですから、瞳の色も合わさって、ええ、良い出来です。流石わたくしの侍女たち。

「美しいです、お姫さま。我らが王国の幼きアレキサンドライト」
「ふふ、その異名は恥ずかしくてよ。けれど、これも皆の手腕によるもの。謁見も、そして晩餐会もこなしてみせますわ」
「我ら一同、お姫さまの手となり足となります。どうぞお好きにお使いください」

 侍女たちのみならず、皆の総意であるのだと彼女たちは言います。王族としてこれほど嬉しいことがありましょうか、わたくしに仕えることを誉れと思ってくれていると言っているも同然なのですから。

 いけない、必要以上に頬が緩んでしまいました。これでは淑女として失格となってしまいます。外交は嘗められたらお終い、文句のつけようがない振る舞いをせねばなりませんわ。

 気を引き締めて参りましょう。いざ、謁見へ。そして晩餐会へ。

 ——と、気合を入れたのも数時間は前のこと。今わたくしは皇帝陛下並びに皇后さまとの謁見を終え、晩餐会での挨拶も完璧にこなし、帝国貴族に囲まれながら微笑んでおります。

 皆様気の良い方々ですわね、ええ、言葉に棘がある方もいらっしゃいますけれども。わたくしを小娘と侮っていらっしゃることくらい、気づいておりましてよ、そこの小太り貴族。

「今宵皆様と良いお話が出来て嬉しゅうございます。けれども、一時だけ夜風に当たらせて頂きますわ。どうぞ戻りましたら、またお話を聞かせてくださいまし」

 にこやかに、穏やかに告げて輪から離れます。暑っ苦しいのですよ、あまり囲まないで頂きたいですわ。はあ、人間種の体温が高いことは分かっておりますけれど、ああして囲まれるともうわたくしには暑くて堪りません。

 バルコニーへと出て、ようやく息を吐くことが出来ました。ふう。ああいけない、ここでも気を抜いたり致しませんわ。何せ背中は見えますから、背筋は伸ばしたまま夜空を見上げるに留めますとも。

「——失礼。ブラッドナイト王国第三王女、フェリシアさまでしょうか」
「はい。……失礼致しました、皇太子殿下。ブラッドナイト王国第三王女、フェリシアにございます。どうぞお見知り置き頂きたく、お願い存じます」

 聞き覚えのある声に、微笑みと共に振り返ります。そこに立っていたのは、ネモ帝国皇太子殿下。驚きました、遠目で見た限りでしたし、まさかお声がけ頂けるとは。

 しかしわたくしも一国の王女、怖気づきは致しませんわ。ご覧くださいませ、わたくしの美しいカーテシーを。

 ネモ帝国の皇太子殿下は、氷の皇子と称されるお方。その名の通り薄い水色の髪に深い藍色の瞳をお持ちでございます。皇帝陛下よりも皇后さまによく似たお顔立ちでございますけれど、あら、目元は皇帝陛下似ですのね。

「明後日から学院の高等部へ留学生として編入なされると聞く、私も同学年だから何か困ったことがあれば言って頂きたい」
「ありがとう存じます、皇太子殿下。そのような温かなお言葉を頂きまして、わたくしの心も安らぎました」

 おや、氷の皇子というのは外見からの異名だったのでしょうか。わたくしに向けて微笑まれる皇太子殿下は、氷とは真逆の正に常春に見受けられます。

 瞳もまた穏やかでいらっしゃいますから、ええ、髪色からの連想でしたのね。恐ろしい性格をなさっているわけではないなら、外交もし易いでしょう。良いことでございます。

「それと、私のことは皇太子殿下ではなくレオンハルトと呼んで欲しい」
「それでは、レオンハルトさまとお呼び致します。わたくしのこともどうぞフェリシアとお呼びくださいまし」
「ああ。……フェリシア姫、我が帝国へようこそ。あなたにとって良き国であれば良いのだが」
「ネモ帝国は気候も穏やかで、とても過ごし易い国であると伝え聞いております。その通りでございますね、わたくしにとっても程良い気温で到着した際に安堵致しました」
「それは良かった。ああ、そうだ。フェリシア姫、明日の入寮後に暇な時間はありますか?」

 穏やかな微笑みを口元に描いたまま、僅かに頭を傾ける皇太子殿下——レオンハルトさま。その問いかけに是を返しましたら、お喜び頂けたようでございます。

 これは外交の滑り出し、順調ですわね。良いことでしてよ。


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次のエピソードへ進む 3.生徒寮への入寮と昼食


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 我が愛しきブラッドナイト王国から常春と名高いネモ帝国へ王室馬車にて出立し、何事もなく到着と相成りました。
 何せ腕利きの王室騎士団がわたくしの護衛として派遣されておりましたからね、万が一などございませんとも。仮にあったとして、わたくしが気づかぬうちに処理したのでしょうね。
 さて、到着したのは太陽眩しい昼間の時間帯でございます。本当は外になど出たくはありませんけれど、はあ、仕方がありません。人族人間種の侍女が昼間の付き添いをしますから、その者が開いた日傘の中に入ってから持ち手を受け取ります。
 ブラッドナイト王国には人間種や混血種もおりましてよ。勿論差別などございません、そんなことをすれば牢屋行き。行き過ぎた行為や言葉を使っていれば、最悪首をちょきん、でございます。
「お|姫《ひい》さま、太陽が高く昇っております。どうぞ影からお出になりませんよう」
「ええ、ありがとう。それでは、皇帝陛下並びに皇后さまへ謁見するための準備を整えましょうか」
「かしこまりました」
 一晩だけ泊まる宿にチェックインをして、身なりを整えます。これをしないで旅姿のまま謁見するなど言語道断、品性を疑われるものですから。
 何せ馬車旅、体を拭くことは出来ても湯浴みなどは出来ませんでした。ですから、宿の湯殿で侍女たちにより隅々までぴっかぴかに磨かれるのでございます。
 そしてその磨かれたわたくしは、確り全身に保湿薬を塗り込まれ、メイクも施されてからドレスを身に纏います。勿論これもわたくしが自ら着るのではなく、侍女たちに任せますとも。
 年齢の割に発育の良い胸は大胆に広く、しかし首元から確りとしたドレス生地までを細かなレースで覆いますから、露出としては少なくなりますわね。
 二の腕までの手袋をして、スカートはマーメイドライン。脚の形にぴったりと添いながらも歩き難くはない、職人渾身の作でございますよ。
 ドレスはブラッドナイト王国では王族だけが纏うことを許される、高貴なる黒。そしてそれに合わせるアクセサリーは銀と赤、真っ赤な宝石が映えますね。
 わたくしの髪色は銀、瞳は赤ですから、瞳の色も合わさって、ええ、良い出来です。流石わたくしの侍女たち。
「美しいです、お姫さま。我らが王国の幼きアレキサンドライト」
「ふふ、その異名は恥ずかしくてよ。けれど、これも皆の手腕によるもの。謁見も、そして晩餐会もこなしてみせますわ」
「我ら一同、お姫さまの手となり足となります。どうぞお好きにお使いください」
 侍女たちのみならず、皆の総意であるのだと彼女たちは言います。王族としてこれほど嬉しいことがありましょうか、わたくしに仕えることを誉れと思ってくれていると言っているも同然なのですから。
 いけない、必要以上に頬が緩んでしまいました。これでは淑女として失格となってしまいます。外交は嘗められたらお終い、文句のつけようがない振る舞いをせねばなりませんわ。
 気を引き締めて参りましょう。いざ、謁見へ。そして晩餐会へ。
 ——と、気合を入れたのも数時間は前のこと。今わたくしは皇帝陛下並びに皇后さまとの謁見を終え、晩餐会での挨拶も完璧にこなし、帝国貴族に囲まれながら微笑んでおります。
 皆様気の良い方々ですわね、ええ、言葉に棘がある方もいらっしゃいますけれども。わたくしを小娘と侮っていらっしゃることくらい、気づいておりましてよ、そこの小太り貴族。
「今宵皆様と良いお話が出来て嬉しゅうございます。けれども、一時だけ夜風に当たらせて頂きますわ。どうぞ戻りましたら、またお話を聞かせてくださいまし」
 にこやかに、穏やかに告げて輪から離れます。暑っ苦しいのですよ、あまり囲まないで頂きたいですわ。はあ、人間種の体温が高いことは分かっておりますけれど、ああして囲まれるともうわたくしには暑くて堪りません。
 バルコニーへと出て、ようやく息を吐くことが出来ました。ふう。ああいけない、ここでも気を抜いたり致しませんわ。何せ背中は見えますから、背筋は伸ばしたまま夜空を見上げるに留めますとも。
「——失礼。ブラッドナイト王国第三王女、フェリシアさまでしょうか」
「はい。……失礼致しました、皇太子殿下。ブラッドナイト王国第三王女、フェリシアにございます。どうぞお見知り置き頂きたく、お願い存じます」
 聞き覚えのある声に、微笑みと共に振り返ります。そこに立っていたのは、ネモ帝国皇太子殿下。驚きました、遠目で見た限りでしたし、まさかお声がけ頂けるとは。
 しかしわたくしも一国の王女、怖気づきは致しませんわ。ご覧くださいませ、わたくしの美しいカーテシーを。
 ネモ帝国の皇太子殿下は、氷の皇子と称されるお方。その名の通り薄い水色の髪に深い藍色の瞳をお持ちでございます。皇帝陛下よりも皇后さまによく似たお顔立ちでございますけれど、あら、目元は皇帝陛下似ですのね。
「明後日から学院の高等部へ留学生として編入なされると聞く、私も同学年だから何か困ったことがあれば言って頂きたい」
「ありがとう存じます、皇太子殿下。そのような温かなお言葉を頂きまして、わたくしの心も安らぎました」
 おや、氷の皇子というのは外見からの異名だったのでしょうか。わたくしに向けて微笑まれる皇太子殿下は、氷とは真逆の正に常春に見受けられます。
 瞳もまた穏やかでいらっしゃいますから、ええ、髪色からの連想でしたのね。恐ろしい性格をなさっているわけではないなら、外交もし易いでしょう。良いことでございます。
「それと、私のことは皇太子殿下ではなくレオンハルトと呼んで欲しい」
「それでは、レオンハルトさまとお呼び致します。わたくしのこともどうぞフェリシアとお呼びくださいまし」
「ああ。……フェリシア姫、我が帝国へようこそ。あなたにとって良き国であれば良いのだが」
「ネモ帝国は気候も穏やかで、とても過ごし易い国であると伝え聞いております。その通りでございますね、わたくしにとっても程良い気温で到着した際に安堵致しました」
「それは良かった。ああ、そうだ。フェリシア姫、明日の入寮後に暇な時間はありますか?」
 穏やかな微笑みを口元に描いたまま、僅かに頭を傾ける皇太子殿下——レオンハルトさま。その問いかけに是を返しましたら、お喜び頂けたようでございます。
 これは外交の滑り出し、順調ですわね。良いことでしてよ。