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 *

 あいりが亡くなって二年が経過した。いつまでも落ち込んでいられないと、聖美は賠償金訴訟の件から退いた後、本格的に職場へ復帰した。日勤のパートを辞め正社員となり、夜勤も入るようになった。

 病院に入るとアルコールのツンとした臭いで懐かしさを感じる。ストレスで痩せたせいか、制服は少し大きくなっていた。変化はそれだけではない。トイレに行った際、鏡に映った自分の顔をふと見て老いを感じた。あちこちに小さなシミや皺ができていて、思っていた以上にひどかった。元から自分の顔は好きでなかったため鏡や写真に映ることはなるべく避けてきたが、こんなに歳を取ってしまったのかとショックを受けた。生きていれば誰しもが老いるし、朋夜も見た目に拘る人ではないのだから大した問題ではないと自分に言い聞かせる。

 久しぶりの夜勤の相手は後輩の笹木とだった。彼女は職場で最も若く、聖美のいない間よく働いてくれていたと、看護師長から伝えられた。聖美は彼女に感謝してもしきれない思いだった。

 周りの同僚達は「あまり無理しないでね」「私にできることがあったら言って」など腫れ物を触るように聖美と接していたが、笹木はいつもと変わらない態度で聖美の復帰を出迎えてくれた。

「改めて、長い間仕事に穴開けてご迷惑かけました」

 聖美は笹木に頭を下げる。

「大丈夫ですよ。それより、何て言えばいいか……。えっと……」
「ありがとう。私もなんか……あんまり切り替えできてないけど、仕事している時は忘れられるというか……」

 笹木は「あぁ……そうですよね」と視線を斜め下に逸らした。聖美は気を使わせてしまったと思い、違う話題を頭の中で探していると、笹木は「あの……もし気を悪くしたら申し訳ないんですけど」と前置きして言った。「実は、先輩に話したいことがあって」

「何? どうしたの?」
「今年度から親免許制度が始まるじゃないですか」
「そういえば……そうだったかな……」


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 あいりが亡くなって二年が経過した。いつまでも落ち込んでいられないと、聖美は賠償金訴訟の件から退いた後、本格的に職場へ復帰した。日勤のパートを辞め正社員となり、夜勤も入るようになった。
 病院に入るとアルコールのツンとした臭いで懐かしさを感じる。ストレスで痩せたせいか、制服は少し大きくなっていた。変化はそれだけではない。トイレに行った際、鏡に映った自分の顔をふと見て老いを感じた。あちこちに小さなシミや皺ができていて、思っていた以上にひどかった。元から自分の顔は好きでなかったため鏡や写真に映ることはなるべく避けてきたが、こんなに歳を取ってしまったのかとショックを受けた。生きていれば誰しもが老いるし、朋夜も見た目に拘る人ではないのだから大した問題ではないと自分に言い聞かせる。
 久しぶりの夜勤の相手は後輩の笹木とだった。彼女は職場で最も若く、聖美のいない間よく働いてくれていたと、看護師長から伝えられた。聖美は彼女に感謝してもしきれない思いだった。
 周りの同僚達は「あまり無理しないでね」「私にできることがあったら言って」など腫れ物を触るように聖美と接していたが、笹木はいつもと変わらない態度で聖美の復帰を出迎えてくれた。
「改めて、長い間仕事に穴開けてご迷惑かけました」
 聖美は笹木に頭を下げる。
「大丈夫ですよ。それより、何て言えばいいか……。えっと……」
「ありがとう。私もなんか……あんまり切り替えできてないけど、仕事している時は忘れられるというか……」
 笹木は「あぁ……そうですよね」と視線を斜め下に逸らした。聖美は気を使わせてしまったと思い、違う話題を頭の中で探していると、笹木は「あの……もし気を悪くしたら申し訳ないんですけど」と前置きして言った。「実は、先輩に話したいことがあって」
「何? どうしたの?」
「今年度から親免許制度が始まるじゃないですか」
「そういえば……そうだったかな……」