「なぁせんせぇ。そこ、どいてくれると、助かるねんけど…?」
沙織里の捜索に出た東雲が声をかけたのは、東雲が進む先に立ち塞がった、白装束を身にまとった元九尾の、本来の姿の、藻江島珠子。
「あら…そんなに手柄がほしいの?それとも、私とお話しするのを、避けている、のかしらぁ?」
砂城市近郊、上空。日中ではあるが、この高さだと秋の風が肌に冷たく刺さる。
東雲が追いかけているのは、晴れた日には似つかわしくない、黒いレインコートを着た、いかにも怪しい人物。
「いやっちゅうわけやないねんよ?でも、今は…そんなことしとる場合やないやん?案外早く見つかったんやし、サクッと終わらせて、秋くん安心させてやらへんと…」
東雲の発言に珠子は不満げな表情を浮かべる。ふわふわの6尾の尻尾をゆらっゆらっと揺らし、はぁっと色っぽい吐息のようなため息をついた。
「…本当に忘れちゃったの?あれから何年…何十年…私は探していたのに。」
「何の話しとるねん、急がんと…っ?!」
悲し気な表情の珠子はふっと消えたかと思うと、東雲の背後に回って包み込むように抱きつき、首筋に噛み付こうとした。
「はぁ…あんなぁ?今は、知らない振りしてやってんのや、空気読んでほしいわ、玉藻。」
珍しく低い声で強く言い、珠子の口が首に届く前に止めた。
「うふ、ずっとわかっていたのね?秋緋くんのところに置いた子から感じていたのかしら?…じゃあ、沙織里ちゃん助けたら…ね?」
「無事に終わったら考えたるわ…ええ加減、離れてくれへんかなぁ?うっとおしいねん!!」
大きく腕を後ろに振り、ぴったりとくっついていた珠子を突きとばした。くるりと一回転し、ふわりと姿勢を戻した珠子は東雲に向かって言う。
「楽しみに、待ってるわ…東雲…九守ちゃん?」
「…下ん名前を呼ぶなや、気ぃわるいわ。」
怒りのこもった声で珠子を睨み、眼下を走るレインコートの人物の方向へ東雲は急降下していった。そんな東雲とは反対の表情、笑顔を浮かべ、後を追う珠子。
「(…まぁ、近くにおったんはわかってた。直接会わへんかったんが奇跡みたいなもんやったんやし。んー…はぁ、もー!!…あかん、落ち着け俺。今は、秋くんの大好きなお嬢ちゃんの方が先や、俺んことは…後でええ!)」
睨みつける相手を切り替え、コートの内側からナイフを取り出し、レインコートの男へ向かって素早く投げ放つ。
「見つけたでぇっ!この卑怯者がぁ!!」