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世界に絶望しないで

ー/ー



朝食を食べ終えた私は自分の部屋で読書をしていた。

そこに侍女が足早にやって来る。


「リーシア様! 大変です!」


「どうしたの?」


「旦那様と奥様が王宮に呼び出されました。何か緊急事態のようで……」

「っ! すぐに私も向かうわ!」

「それがリーシア様は来ないで欲しいと旦那様に伝言を頼まれていて……」

「どうして!?」

その時、執事長が私の部屋の扉をコンコンとノックした。


「お嬢様、ルイズ様が屋敷にいらして欲しい、と」


「今は忙しいから、断って頂戴」


「絶対に来てほしい、とのことです」


ルイズ様がそのようなことを仰ったことは今まで一度もない。

何か重大なことが起こっているのは確かだろう。

そしてタイミングを考えると、ルイズ様は両親が王宮に呼び出されたことについて何か知っているのだ。


「すぐにルイズ様の屋敷に向かいます。馬車を用意して下さい」


「かしこまりました」


執事長は私に一礼し、馬車の用意に向かった。

ルイズ様の屋敷に向け、すぐに出かける。

ルイズ様の屋敷に着くと、初めてルイズ様の執務室に案内された。

いつもはルイズ様の私室か応接室で会っていたので、少しの疑問が湧き上がる。


コンコン。


「ルイズ様、リーシアですわ」


「入って」


いつもの優しいルイズ様の声色に安心したのも束の間、部屋に入った瞬間に私の息は止まりそうになった。



夢で見た部屋だった。



執務用の机に、客人と話す時用の大きな机とソファ。

「リーシア?」

「ルイズ様、ここは危険ですわ! すぐに移動を……!」


「リーシア、今からする話は絶対に他の者に聞かれてはいけない話だ。すまないが移動は出来ない」


「っ! しかし……!」


抗議する私は、次のルイズ様の言葉でそんなことなどどうでも良くなった。



「リーシア、君の両親は処罰されるだろう」



「え……? 何を言っているのですか……?」



「今日、王家に呼び出された。それが答えだ」

「どういうことですか! ちゃんと説明して下さい!」




「教えられない」




「っ! 意味が分かりませんわ!」




「そして、ここにある調査書類を提出すれば、【処刑】も(まぬが)れないだろう」



「処刑……? 嘘ですわよね……?」




私の問いにルイズ様は答えない。

「しかし、私はこの調査書類を提出しないわけにはいかない」

「どうしてですの!」

「今から王宮に向かう」



理由を教えずに、今から両親の処刑に向かうという婚約者。



それでも、今までルイズさまが私に嘘をついたことはない。

つまり、ルイズ様は本当に私の両親を処刑するために王宮に向かうのだ。

歩き出した婚約者を止める方法などなくて。

しかし、止めなければ両親は処刑される。

ルイズ様が本気であることなど誰が見ても明らかだった。



その時、客人用の机が目に入った。




机の上には冷め切ってしまった紅茶と、ティータイム用のお菓子。







そして、フォークと【ナイフ】。







ああ、結局、夢の通りになるのね。






私はナイフを手に取り、夢の通りにルイズ様の首筋のすぐそばに突きつけた。


私の頬には涙が伝い、まさに夢の通りだった。


「ルイズ様、しっかりと説明して下さい。どうかお願いです……! これ以上、予知夢の通りには絶対になりたくない……!」


ポロポロと涙を流し、震えた声で話す私を、ルイズ様はただただいつもの優しい顔で見つめていた。



「リーシア……いや、リーシア・ヴァルトール。ヴァルトール家の予知夢には秘密があるんだ」



「秘密……?」



「元々、ヴァルトール家の予知夢は確実ではなかった。そして、【今も】。起きる可能性が高い未来の夢を見るんだ」

「ヴァルトール家の初代は初めこそ、予知夢を防ぐために全力を尽くした。しかし、【予知夢は起きなければ、予知夢ではないんだよ】」



「どういうことですか……?」



「誰も、王家すらも、予知夢を防いでしまえば、その未来が本当に起こる可能性があったのかすら分からない。それでは、ヴァルトール家は褒賞を貰えない。【ヴァルトール家は地位を確立出来ない】」

「だから、ヴァルトール家の先代は、予知夢をわざと起こすことにしたんだ。【防ぐ】のではなく、【備える】ことしか出来ないことにして。そうして、【起こりやすい未来】を【絶対に起こる未来】に変えた」

「元は起こる確率の高い未来だ。わざと起こすことも簡単だっただろう。防ぐよりずっとね。そして、自身がわざと起こすことの出来ない未来は、始めから王家に申告しないことにしたんだ」

「そして、そのやり方を次の世代にも踏襲させていった」



「そんな……!」



「そして、王家はそれに気づいた。なぜなら、このやり方では一度でも申告した予知夢を起こせなければ、嘘だとバレる。君の両親はミスをした。王家はヴァルトール公爵家の人間【全て】を処罰するつもりだ。もちろん、リーシアも」

「だから、俺は証拠の書類をまとめ上げた。この証拠書類と引き換えに、何も知らなかった【リーシアの減罰を求める】」



「しかし!」



「君も殺されるかもしれないんだぞ! 俺は、それだけは絶対に……!」

「リーシアは俺を殺した後の夢も見た。つまり先ほど俺を殺していた可能性だって高かった。しかし、君は俺を殺さなかった」

「この証拠書類を出せば、君の両親の処刑は確実になる。しかし、出さなくても処刑されるだろう

「リーシア、分かってくれ」



ルイズ様の目に涙が浮かぶ。

私のナイフを持つ手は震えていた。


「リーシア、つまり君の予知夢は【防ぐことも出来るはずなんだ】」

「だから、リーシア。どうか未来に絶望しないで。未来を諦めないで」


その言葉で私は握っていたナイフを床に落とした。

カンッという金属の音が部屋に響き渡る。

ルイズ様が私の頬に伝う涙を手でそっと(ぬぐ)う。



「俺のことを恨んでくれればいい。それでもずっと愛しているよ、リーシア」



ルイズ様が優しく微笑む。



「ねぇ、リーシア。これが最後になるかもしれないから、口付けさせて」



涙が溢れ、私は返答出来ない。

ルイズ様は私の頬に手を当て、そっと私に口付けた。



「本当に愛しているよ、リーシア」



ルイズ様は最後にそう仰った後、立ち上がり、調査書類を持って執務室を出て行く。

私の頬にはただただ涙が伝った。

私はしばらく涙を流し続けた。

どれくらい経っただろう。



涙も枯れ果ててきた頃、私はついに叫んだ。




「うわぁああああああああああ!!」




世界は残酷すぎた。

窓の外の快晴が、憎たらしいほどに。



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朝食を食べ終えた私は自分の部屋で読書をしていた。
そこに侍女が足早にやって来る。
「リーシア様! 大変です!」
「どうしたの?」
「旦那様と奥様が王宮に呼び出されました。何か緊急事態のようで……」
「っ! すぐに私も向かうわ!」
「それがリーシア様は来ないで欲しいと旦那様に伝言を頼まれていて……」
「どうして!?」
その時、執事長が私の部屋の扉をコンコンとノックした。
「お嬢様、ルイズ様が屋敷にいらして欲しい、と」
「今は忙しいから、断って頂戴」
「絶対に来てほしい、とのことです」
ルイズ様がそのようなことを仰ったことは今まで一度もない。
何か重大なことが起こっているのは確かだろう。
そしてタイミングを考えると、ルイズ様は両親が王宮に呼び出されたことについて何か知っているのだ。
「すぐにルイズ様の屋敷に向かいます。馬車を用意して下さい」
「かしこまりました」
執事長は私に一礼し、馬車の用意に向かった。
ルイズ様の屋敷に向け、すぐに出かける。
ルイズ様の屋敷に着くと、初めてルイズ様の執務室に案内された。
いつもはルイズ様の私室か応接室で会っていたので、少しの疑問が湧き上がる。
コンコン。
「ルイズ様、リーシアですわ」
「入って」
いつもの優しいルイズ様の声色に安心したのも束の間、部屋に入った瞬間に私の息は止まりそうになった。
夢で見た部屋だった。
執務用の机に、客人と話す時用の大きな机とソファ。
「リーシア?」
「ルイズ様、ここは危険ですわ! すぐに移動を……!」
「リーシア、今からする話は絶対に他の者に聞かれてはいけない話だ。すまないが移動は出来ない」
「っ! しかし……!」
抗議する私は、次のルイズ様の言葉でそんなことなどどうでも良くなった。
「リーシア、君の両親は処罰されるだろう」
「え……? 何を言っているのですか……?」
「今日、王家に呼び出された。それが答えだ」
「どういうことですか! ちゃんと説明して下さい!」
「教えられない」
「っ! 意味が分かりませんわ!」
「そして、ここにある調査書類を提出すれば、【処刑】も|免《まぬが》れないだろう」
「処刑……? 嘘ですわよね……?」
私の問いにルイズ様は答えない。
「しかし、私はこの調査書類を提出しないわけにはいかない」
「どうしてですの!」
「今から王宮に向かう」
理由を教えずに、今から両親の処刑に向かうという婚約者。
それでも、今までルイズさまが私に嘘をついたことはない。
つまり、ルイズ様は本当に私の両親を処刑するために王宮に向かうのだ。
歩き出した婚約者を止める方法などなくて。
しかし、止めなければ両親は処刑される。
ルイズ様が本気であることなど誰が見ても明らかだった。
その時、客人用の机が目に入った。
机の上には冷め切ってしまった紅茶と、ティータイム用のお菓子。
そして、フォークと【ナイフ】。
ああ、結局、夢の通りになるのね。
私はナイフを手に取り、夢の通りにルイズ様の首筋のすぐそばに突きつけた。
私の頬には涙が伝い、まさに夢の通りだった。
「ルイズ様、しっかりと説明して下さい。どうかお願いです……! これ以上、予知夢の通りには絶対になりたくない……!」
ポロポロと涙を流し、震えた声で話す私を、ルイズ様はただただいつもの優しい顔で見つめていた。
「リーシア……いや、リーシア・ヴァルトール。ヴァルトール家の予知夢には秘密があるんだ」
「秘密……?」
「元々、ヴァルトール家の予知夢は確実ではなかった。そして、【今も】。起きる可能性が高い未来の夢を見るんだ」
「ヴァルトール家の初代は初めこそ、予知夢を防ぐために全力を尽くした。しかし、【予知夢は起きなければ、予知夢ではないんだよ】」
「どういうことですか……?」
「誰も、王家すらも、予知夢を防いでしまえば、その未来が本当に起こる可能性があったのかすら分からない。それでは、ヴァルトール家は褒賞を貰えない。【ヴァルトール家は地位を確立出来ない】」
「だから、ヴァルトール家の先代は、予知夢をわざと起こすことにしたんだ。【防ぐ】のではなく、【備える】ことしか出来ないことにして。そうして、【起こりやすい未来】を【絶対に起こる未来】に変えた」
「元は起こる確率の高い未来だ。わざと起こすことも簡単だっただろう。防ぐよりずっとね。そして、自身がわざと起こすことの出来ない未来は、始めから王家に申告しないことにしたんだ」
「そして、そのやり方を次の世代にも踏襲させていった」
「そんな……!」
「そして、王家はそれに気づいた。なぜなら、このやり方では一度でも申告した予知夢を起こせなければ、嘘だとバレる。君の両親はミスをした。王家はヴァルトール公爵家の人間【全て】を処罰するつもりだ。もちろん、リーシアも」
「だから、俺は証拠の書類をまとめ上げた。この証拠書類と引き換えに、何も知らなかった【リーシアの減罰を求める】」
「しかし!」
「君も殺されるかもしれないんだぞ! 俺は、それだけは絶対に……!」
「リーシアは俺を殺した後の夢も見た。つまり先ほど俺を殺していた可能性だって高かった。しかし、君は俺を殺さなかった」
「この証拠書類を出せば、君の両親の処刑は確実になる。しかし、出さなくても処刑されるだろう
「リーシア、分かってくれ」
ルイズ様の目に涙が浮かぶ。
私のナイフを持つ手は震えていた。
「リーシア、つまり君の予知夢は【防ぐことも出来るはずなんだ】」
「だから、リーシア。どうか未来に絶望しないで。未来を諦めないで」
その言葉で私は握っていたナイフを床に落とした。
カンッという金属の音が部屋に響き渡る。
ルイズ様が私の頬に伝う涙を手でそっと|拭《ぬぐ》う。
「俺のことを恨んでくれればいい。それでもずっと愛しているよ、リーシア」
ルイズ様が優しく微笑む。
「ねぇ、リーシア。これが最後になるかもしれないから、口付けさせて」
涙が溢れ、私は返答出来ない。
ルイズ様は私の頬に手を当て、そっと私に口付けた。
「本当に愛しているよ、リーシア」
ルイズ様は最後にそう仰った後、立ち上がり、調査書類を持って執務室を出て行く。
私の頬にはただただ涙が伝った。
私はしばらく涙を流し続けた。
どれくらい経っただろう。
涙も枯れ果ててきた頃、私はついに叫んだ。
「うわぁああああああああああ!!」
世界は残酷すぎた。
窓の外の快晴が、憎たらしいほどに。