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DVD

ー/ー



 悟の家は白いマンションの六階で。招き入れられた私は、男子のにしては意外なほどに整頓されたその部屋に驚いていた。
「なぁ、里菜。一緒にDVD見ねぇ?」
「えっ?」
「是非とも一緒に見たい映画があるんだ。ロマンチックな恋愛ものだけど」
 恥ずかしそうに舌を出す彼に、私は微笑んだ。
「ええ、いいわ。そういえば、悟って映像研究部だったわよね」
「そう。部で見ていて、これは絶対に里菜と一緒に見たいと思って」
 彼なりに、ムード作りのための小道具を用意したのだろう。私はその提案に乗ることにした。

 そのビデオは典型的なロマンチックな洋画といった感じで。こんなのには別に興味はないのだけれど……私は眠くなるのを堪えながら見ていた。
 だって、これさえ我慢すれば、後には悟との甘い甘い、甘美な時間が待っているのだから。

 そんなことを思いながら見ていて。私はふと、違和感を覚えた。
「あれ……?」
 ビデオの映像が何だか、覚えのある光景に変わっていたのだ。それは、突拍子もない変化ではなくて。ごく自然に、見ているうちに頭の中でその光景に変換される。そんな、不思議な感覚だった。

 その光景は……窓際の一番後ろの席。その机の中から教科書やノートを取り出して、「死ね」とか「消えろ」とか「ブス」とか、そんな暴言をマジックで書きたい放題に書く。そんな、身に覚えのある光景だった。

「ちょ、ちょっと。何よ、これ……」
 私は動転する。だけれども、ビデオはどんどんとあのイジメ……そう。私が真奈美に対して行っていたイジメの数々を、詳細に映し出した。
 ある場面では、真奈美のロッカーの体操服をビリビリに破いた。ある場面では彼女を誹謗中傷する言葉の数々を黒板に書き連ねた。またある場面では、彼女をトイレの個室に閉じ込めて上から水をかけた……。

「違う、私じゃない……」
 私はまるで金縛りに遭ったかのようにその映像から目が離せなくなって。体は無意識にガクガクと震え出して……。
 だけれど、
「何が、違うの?」
 悟が座っているはずの私の右隣から、彼女……そう。真奈美の声が聞こえた。
 私は恐る恐る、右隣を向くと……
「ま……真奈美」
 そう。さっきまで悟だと思っていた人は、真奈美……私からのイジメに耐えかねて自殺した彼女だったのだ。
「い、いや……」
 私は思わず立ち上がり後ずさったが……彼女も立ち上がり、私にゆっくりと近付いて来た。
「あなた、私に何をした?」
「な……何もしてない! だって、あんたが悪いんだ。親友だと思ってたのに……悟に告ってオッケーされただなんて、浮かれて私に報告してきて。私、どんなに傷ついたか……」
「だから……私のこと、イジめぬいて消したんだ……」
「違う! 私は悪くなんかない!」
 信じられない出来事に激しくパニックを起こして……私は彼の家を飛び出した。


「何で……どういうこと?」
 その家は六階。私はエレベーターに乗り込もうとした。だけれども……
「ま……真奈美……」
 こちらに到着したエレベーターから降りて来たのは真奈美。
「いや~~!」
 どういうこと!?
 だって真奈美は私が『消した』はずなのに。
 私は何が何だか分からなくなって……マンションのエレベーターとは反対側に向かって駆け出した。
 すると……
「うそ……」
 私の進行方向……ある部屋のドアを開けて出て来たのも真奈美で。
 私の顔からさぁーっと血の気が引いて。
 何が何だか分からない……兎に角、逃げなければ!
 そんな気持ちが、私から正常な判断力を奪って。ここが六階だということも忘れ、飛び降りたのだった。



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 悟の家は白いマンションの六階で。招き入れられた私は、男子のにしては意外なほどに整頓されたその部屋に驚いていた。
「なぁ、里菜。一緒にDVD見ねぇ?」
「えっ?」
「是非とも一緒に見たい映画があるんだ。ロマンチックな恋愛ものだけど」
 恥ずかしそうに舌を出す彼に、私は微笑んだ。
「ええ、いいわ。そういえば、悟って映像研究部だったわよね」
「そう。部で見ていて、これは絶対に里菜と一緒に見たいと思って」
 彼なりに、ムード作りのための小道具を用意したのだろう。私はその提案に乗ることにした。
 そのビデオは典型的なロマンチックな洋画といった感じで。こんなのには別に興味はないのだけれど……私は眠くなるのを堪えながら見ていた。
 だって、これさえ我慢すれば、後には悟との甘い甘い、甘美な時間が待っているのだから。
 そんなことを思いながら見ていて。私はふと、違和感を覚えた。
「あれ……?」
 ビデオの映像が何だか、覚えのある光景に変わっていたのだ。それは、突拍子もない変化ではなくて。ごく自然に、見ているうちに頭の中でその光景に変換される。そんな、不思議な感覚だった。
 その光景は……窓際の一番後ろの席。その机の中から教科書やノートを取り出して、「死ね」とか「消えろ」とか「ブス」とか、そんな暴言をマジックで書きたい放題に書く。そんな、身に覚えのある光景だった。
「ちょ、ちょっと。何よ、これ……」
 私は動転する。だけれども、ビデオはどんどんとあのイジメ……そう。私が真奈美に対して行っていたイジメの数々を、詳細に映し出した。
 ある場面では、真奈美のロッカーの体操服をビリビリに破いた。ある場面では彼女を誹謗中傷する言葉の数々を黒板に書き連ねた。またある場面では、彼女をトイレの個室に閉じ込めて上から水をかけた……。
「違う、私じゃない……」
 私はまるで金縛りに遭ったかのようにその映像から目が離せなくなって。体は無意識にガクガクと震え出して……。
 だけれど、
「何が、違うの?」
 悟が座っているはずの私の右隣から、彼女……そう。真奈美の声が聞こえた。
 私は恐る恐る、右隣を向くと……
「ま……真奈美」
 そう。さっきまで悟だと思っていた人は、真奈美……私からのイジメに耐えかねて自殺した彼女だったのだ。
「い、いや……」
 私は思わず立ち上がり後ずさったが……彼女も立ち上がり、私にゆっくりと近付いて来た。
「あなた、私に何をした?」
「な……何もしてない! だって、あんたが悪いんだ。親友だと思ってたのに……悟に告ってオッケーされただなんて、浮かれて私に報告してきて。私、どんなに傷ついたか……」
「だから……私のこと、イジめぬいて消したんだ……」
「違う! 私は悪くなんかない!」
 信じられない出来事に激しくパニックを起こして……私は彼の家を飛び出した。
「何で……どういうこと?」
 その家は六階。私はエレベーターに乗り込もうとした。だけれども……
「ま……真奈美……」
 こちらに到着したエレベーターから降りて来たのは真奈美。
「いや~~!」
 どういうこと!?
 だって真奈美は私が『消した』はずなのに。
 私は何が何だか分からなくなって……マンションのエレベーターとは反対側に向かって駆け出した。
 すると……
「うそ……」
 私の進行方向……ある部屋のドアを開けて出て来たのも真奈美で。
 私の顔からさぁーっと血の気が引いて。
 何が何だか分からない……兎に角、逃げなければ!
 そんな気持ちが、私から正常な判断力を奪って。ここが六階だということも忘れ、飛び降りたのだった。