ミツバチたちからのプレゼント
ー/ー 夏のある日。
「なぁ、詩音(しおん)。ミツバチたちはな、絵を見分けることができるんじゃよ」
庭にあるミツバチの巣箱をぼんやりと見ながら絵を描いていた私に、おじいちゃんは語りかけた。
「え、嘘! 虫が絵なんて見分けられるの?」
目を丸くして振り返ると、おじいちゃんはにっこりと頷いた。
「ミツバチはな。虫の中でもとっても頭がいいんじゃ。じゃからな、芸術家のピカソやモネの絵も見分けることができるんじゃよ」
「ふーん……」
自分の描いていた絵に目を移した。
庭にあるミツバチの巣箱をぼんやりと見ながら絵を描いていた私に、おじいちゃんは語りかけた。
「え、嘘! 虫が絵なんて見分けられるの?」
目を丸くして振り返ると、おじいちゃんはにっこりと頷いた。
「ミツバチはな。虫の中でもとっても頭がいいんじゃ。じゃからな、芸術家のピカソやモネの絵も見分けることができるんじゃよ」
「ふーん……」
自分の描いていた絵に目を移した。
青い空、金色に輝く太陽、黄色く揺れる向日葵……。
その時、一匹のミツバチが飛んで来て、私の絵にとまった。
「わっ、来た!」
「怖がらなくても大丈夫。刺したりしないよ」
おじいちゃんは優しく微笑んだ。
「そうなの?」
私は恐る恐る絵を描くことを再開すると、そのミツバチはじっとして、まるで絵が色付いていくのを見守っているかのようだった。
中学生になったばかりの私は、学校が終わると絵を描くことに没頭していた。昔から引っ込み思案だった私は中学校に馴染むことができず、友達も一人もできなかった。だから、放課後には養蜂家のおじいちゃんの家に寄り、庭を眺めながら絵を描いて、気の遠くなるほどに長い時間を塗り潰していた。
両親はそんな私のことを心配していたが、おじいちゃんはいつも温かく迎え入れてくれた。私にとっては、庭にミツバチの巣箱が並ぶおじいちゃんの家が、何よりも安心してくつろげる憩いの場所だったのだ。
私の描くその絵は、毎日少しずつ変化していった。
おじいちゃんの庭の風景……それは、毎日同じようで、どこか違う。
向日葵の背の高さ、巣箱の影の長さ、ミツバチのとまっている花……それらは、毎日、少しずつ変わっていた。
私はその変化を一つのキャンバスの中で融合させた。少しずつ違う毎日を、一つの絵の中で表現する……それは私にしかできない作業に思えた。
その『夏』を表現した一つの絵。
その絵を見るミツバチの数は日に日に増えていった。
数匹がとまっては飛び立ってゆき、さらに巣箱から出た数匹がとまって、まるで私の絵を鑑賞して楽しんでいるかのようだった。
その夏の終わり。
「詩音。ほら、お誕生日プレゼントじゃよ」
八月三十一日が誕生日の私に、おじいちゃんが一つの大きな瓶をくれた。
「え、これ……ハチミツ?」
おじいちゃんは柔らかく微笑んだ。
「目を閉じて、味わってごらん」
おじいちゃんから渡してもらったスプーンでハチミツを一すくいすくって口の中に入れ、私はすっと目を閉じた。
「すごい……」
私の目の前には、『その夏』の風景……まさに、私の描いた絵の中の風景が広がった。
青い空。少しずつ伸びる向日葵。色とりどりの花にとまるミツバチたち……。
そのハチミツには、それらがぎゅっと凝縮されていたのだ。
「おじいちゃん、これは……」
目を開けて見つめると、おじいちゃんは目尻に皺を寄せ、白い歯を見せた。
「ミツバチたちはな、毎日、せっせと働いた。詩音の描く絵を見て励まされながらな。そして、詩音の絵が完成するとともに、今年のミツバチたちのお仕事は終わった。じゃから、ミツバチたちから、詩音にとっておきのプレゼント……詩音の絵の世界をぎゅっと詰め込んだハチミツをプレゼントしてもらったんじゃ」
「素敵……」
私は自分の絵とハチミツをうっとりと見つめた。
私はそれから毎年、夏になると毎日おじいちゃんの家へ行って絵を描いた。
毎年、少しずつ違う夏。
私のお誕生日にミツバチたちがプレゼントしてくれるハチミツは、私の描く絵……その風景の中に、私を誘い込んでくれたのだ。
そして、私はおじいちゃんに教わりながらミツバチの飼い方も少しずつ学んでいった。
徐々に学校にも慣れて友達もできたが、それでもミツバチたちは私にとってかけがえのない親友になっていたのだった。
その時、一匹のミツバチが飛んで来て、私の絵にとまった。
「わっ、来た!」
「怖がらなくても大丈夫。刺したりしないよ」
おじいちゃんは優しく微笑んだ。
「そうなの?」
私は恐る恐る絵を描くことを再開すると、そのミツバチはじっとして、まるで絵が色付いていくのを見守っているかのようだった。
中学生になったばかりの私は、学校が終わると絵を描くことに没頭していた。昔から引っ込み思案だった私は中学校に馴染むことができず、友達も一人もできなかった。だから、放課後には養蜂家のおじいちゃんの家に寄り、庭を眺めながら絵を描いて、気の遠くなるほどに長い時間を塗り潰していた。
両親はそんな私のことを心配していたが、おじいちゃんはいつも温かく迎え入れてくれた。私にとっては、庭にミツバチの巣箱が並ぶおじいちゃんの家が、何よりも安心してくつろげる憩いの場所だったのだ。
私の描くその絵は、毎日少しずつ変化していった。
おじいちゃんの庭の風景……それは、毎日同じようで、どこか違う。
向日葵の背の高さ、巣箱の影の長さ、ミツバチのとまっている花……それらは、毎日、少しずつ変わっていた。
私はその変化を一つのキャンバスの中で融合させた。少しずつ違う毎日を、一つの絵の中で表現する……それは私にしかできない作業に思えた。
その『夏』を表現した一つの絵。
その絵を見るミツバチの数は日に日に増えていった。
数匹がとまっては飛び立ってゆき、さらに巣箱から出た数匹がとまって、まるで私の絵を鑑賞して楽しんでいるかのようだった。
その夏の終わり。
「詩音。ほら、お誕生日プレゼントじゃよ」
八月三十一日が誕生日の私に、おじいちゃんが一つの大きな瓶をくれた。
「え、これ……ハチミツ?」
おじいちゃんは柔らかく微笑んだ。
「目を閉じて、味わってごらん」
おじいちゃんから渡してもらったスプーンでハチミツを一すくいすくって口の中に入れ、私はすっと目を閉じた。
「すごい……」
私の目の前には、『その夏』の風景……まさに、私の描いた絵の中の風景が広がった。
青い空。少しずつ伸びる向日葵。色とりどりの花にとまるミツバチたち……。
そのハチミツには、それらがぎゅっと凝縮されていたのだ。
「おじいちゃん、これは……」
目を開けて見つめると、おじいちゃんは目尻に皺を寄せ、白い歯を見せた。
「ミツバチたちはな、毎日、せっせと働いた。詩音の描く絵を見て励まされながらな。そして、詩音の絵が完成するとともに、今年のミツバチたちのお仕事は終わった。じゃから、ミツバチたちから、詩音にとっておきのプレゼント……詩音の絵の世界をぎゅっと詰め込んだハチミツをプレゼントしてもらったんじゃ」
「素敵……」
私は自分の絵とハチミツをうっとりと見つめた。
私はそれから毎年、夏になると毎日おじいちゃんの家へ行って絵を描いた。
毎年、少しずつ違う夏。
私のお誕生日にミツバチたちがプレゼントしてくれるハチミツは、私の描く絵……その風景の中に、私を誘い込んでくれたのだ。
そして、私はおじいちゃんに教わりながらミツバチの飼い方も少しずつ学んでいった。
徐々に学校にも慣れて友達もできたが、それでもミツバチたちは私にとってかけがえのない親友になっていたのだった。
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