月の宴①
ー/ー
俺は寝るつもりはなかった。
コーヒー飲んだりして努力はした。無駄な努力だったが。
「も~~~!!あんなけ寝えへんいうとってこれかい!」
「うーん…ダメだってぇ…ふふふはふはは…。」
「笑い方気持ち悪っ!どんな夢見とんねん…!」
お目々が開きません。
流石に慣れない海の家の仕事と気を張ったあのライブのせいだな…体は正直。お疲れでした、と。東雲におんぶされて、こんなことで使役妖怪の便利さを思い知らされてる。ありがとう、ついたら起こして。すやすや。
「あーきーー!あーーきーーーー!!」
久しぶりに聞くこの声は…すずめ?
「んぁ…すずめのこえ?」
「女の声で起きるんかい。これやから秋くんは…。沙織里ちゃんに嫌われてまうで?」
ぐぬっ…反論できん。気を付けるわ。
「秋ー!ひさしぶり!げんきしてた?」
それはこっちのセリフだ。
鬼門に飛ばされてかーちゃんに保護されたと聞いてたけど、すぐに保護されたわけじゃない。少しの間鬼門の中にいただけでも生きてる妖怪には毒らしく親父のところで療養してると聞いていた。元気そうにしていてよかったが。東雲が俺の使役妖怪になっているのが気に食わないらしい。
「この狐がなんで秋のとこに?そんなくっついて…夜様もなんかいうてよ!」
「相変わらずの狐呼ばわり…ちょっとは傷付くねんで?」
「まぁまぁ…すずめ。東雲は秋緋を側で守ってくれてるんだから。ね?」
ぷくっとむくれているすずめ。そんなに東雲嫌いなのか。まぁ、俺も出会いは良いものとは言えないが。こいつも少しはいいところあるから安心してくれ。今ここに連れてきてくれたのも東雲だからさ。
「そうじゃぞ小娘妖怪!秋緋の成長を喜ぶべきなのじゃ!東雲はよく仕えておるじゃろ?」
「どうですかね?私はただのショタ狐としか認識してませんが。」
結緋さんと茨木までいる!何?この宴ってうちにとって重要なやつなの?
「私は秋緋の晴れ舞台を見に来ただけじゃぞ?茨木!カメラの充電は大丈夫かの?スマホも!」
「…招待されてないからって言ってるのに聞かなくてね。」
学校の、保護者も観覧できる発表会の時に張り切っちゃう系かぁ。結緋さんが楽しそうならいいか?
「なんか…大分騒がしくなってるね?」
「宴なんだからみんなで楽しむのは大事だと思うな?ほらほら、この辺りに住んでる妖怪さんたちも集まってきたよー!」
旅館の浴衣姿のままやってきた壱弥と白い巫女の装束に身を包んだ沙織里もやってきた。ほんとに騒がしくなってきたな。
それにしてもその衣装…大変けしからん。いくら正装とはいえ生地が絹のせいか薄い上に、袴の隙間が広すぎる。サイズあってる?そんなので動いたら見え…。
「何を考えている。如何わしいやつめ。」
「はぁ。お前まで出てくるんかよ天使。沙織里が光り輝いて意識飛ばしてるの怖いからその登場の仕方はやめて。」
お得意の時止めで出てくればいいのにと文句を言ったら、ぶつかり合う気の流れが強すぎてて干渉できないんだと。万能ではないわけね。そうだ、天使に用があったの忘れてたな。
「天使、今持ってなくて悪いんだがあのロザリオ使わなかったから返すよ。」
「よい。持っておくがいい。この先また使うやもしれぬ。さて。私は少し離れたところで愛し子の晴れ姿を見守るとしよう。」
備えあればなんとやら?出来ればそんなことが起こることがないよう祈ってる。そういえばこんだけ集まって来てるけど親父の姿が見えないな。どこ行ってるんだろ。
「師匠なら鵺と舞台の方で力仕事してるよ。酒天も酒が飲めるならって率先して手伝ってる。」
なるほど。相変わらず壱弥は汗をかくことはしないのね。
「じゃあ俺もその舞台の方に行くかな。出番もあるし。」
「私も行くね!皆さんごゆっくり楽しんでください!」
皆が席を設けている岩場から少し下り、岩礁でできた道を舞台のある方へ進む。月明りで照らされてるとは言え足場が超絶悪いからな、沙織里をエスコートしてゆっくりと、だ。なんだかんだふたりの時間は取れてなかったなと、ふと思う。
「なんか色々騒がしくて悪いな。夜兄のことも…迷惑かけた。」
ぴょんぴょんと。所々出来ている水溜りの穴を沙織里の手を取って飛び越えながら。
「迷惑…だったかなぁ~。私は夜緋呂さんがあーちゃんの中にいたなんて知らなかったし。」
「いやでもさ、普段俺あんな風に接してないだろ?変だと思わなかった?」
「ん~変といえば変だったかも?」
舞台まであと一歩。少しせり上がっている足場。沙織里を自分に引き寄せるように引っ張り上げて…つい腰に手を回してしまった。
「わ、悪い…転んだらまずいからさ、その…むぅ…。」
「変だったけど、嫌じゃなかったよ?今も…。」
かわ…!
月の明かりが眩しすぎるせいか、沙織里の衣装のせいかはわからないけど。見つめ合って…自然とお互いの顔が近づいて。
「接吻かぁ?こりゃ間違いねぇな。鵺よぉ、記念に写真とってやったらどうだ?はっはぁ!」
「しゅ、酒天殿!静かに見守らねば不躾でござるよ!」
「秋緋もとうとう大人の階段を…そうかぁ…。」
外野がいなければそうだったかも知れないな?なんちゅう目でこっち見てんだよ。
「ふふ。あーちゃん。またあとで、ね。」
軽く人差し指で俺の唇に触れて、沙織里は親父達のところに駆けていった。
「実は小悪魔かあいつは。」
俺は恥ずかしさで顔を赤くして両手で顔を覆いながら、ゆっくりとしゃがむ。火照りを少しずつ冷ましていると、
「真砂くん。」
「だわぁぁっ?!せ、先輩?!」
先輩も居たのか。声をかけるタイミングを計っていたみたいでなんだかちょっと気まずい。
「えっと…舞台できたから…行ける?」
なんかすごい恐縮されてるみたいでこっちが申し訳なくなる。そんなに気にしなくていいっすよ。沙織里はまた後でって言ってたから。
「この舞台を通ってね、皆、戻ってくるんだ。」
岩礁を跨いで作られたきれいな舞台。真ん中部分に花道?のようなものが岩のアーチの穴から舞台まで続いている。その道を通って来るんだそうな。結構な大きさで目立っているのだが、人には見えないんだそうな。
「今日、ここは狭間になるからね。さ、真砂さんも着替えて…はい。」
聞いてなかったが正装があるらしい。そりゃ沙織里も着てるからそうなんだろう。寝癖のついたボロTシャツと短パンじゃ失礼だよな。先輩が左腕を上げて、手をくんっと軽く動かすと、空間から何らかの衣装が出てきて俺に重なった。
「おぉ…すごい…。」
よく神社の神主さんが来てる装束に似ているが、宴の席に相応しいように装飾や刺繍が施された特別なものみたいだ。沙織里の衣装ほどではないがヒラヒラ感が強い。こんな服着たことないから少し落ち着かないな。
「あとは、彼らも。」
同じ様に右手をくんっと。空間から、琵琶と琴、太鼓が出てきて舞台の決められた位置に設置していく。
「来てくれるといいんだけど、ね。」
先輩は笛を握ってる。
喧嘩したっていう相手を待ってるのかな?序曲はなんとかなったみたいだけど。
「また序曲から初めて、主曲に…それから終曲まで。ちょっと長いけどよろしくね。」
序曲が終わるまでに来てくれればいいけどな…来なかったらどうするつもりだ?
「それは僕がやることになるね。」
「壱弥?!あぁ…まぁそうかもなとは思ったよ。」
沙織里が舞うなら壱弥もなんかあるだろうなとは予感はしてたがな?あくまで保険らしいけど。笛吹けるのね。
月が、岩のアーチのてっぺんから陰に入り見えなくなってひとときの暗闇。舞台が影に包まれる。
どうやら始まるらしい。
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「あーきーー!あーーきーーーー!!」
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ぐぬっ…反論できん。気を付けるわ。
「秋ー!ひさしぶり!げんきしてた?」
それはこっちのセリフだ。
鬼門に飛ばされてかーちゃんに保護されたと聞いてたけど、すぐに保護されたわけじゃない。少しの間鬼門の中にいただけでも生きてる妖怪には毒らしく親父のところで療養してると聞いていた。元気そうにしていてよかったが。東雲が俺の使役妖怪になっているのが気に食わないらしい。
「この狐がなんで秋のとこに?そんなくっついて…夜様もなんかいうてよ!」
「相変わらずの狐呼ばわり…ちょっとは傷付くねんで?」
「まぁまぁ…すずめ。東雲は秋緋を側で守ってくれてるんだから。ね?」
ぷくっとむくれているすずめ。そんなに東雲嫌いなのか。まぁ、俺も出会いは良いものとは言えないが。こいつも少しはいいところあるから安心してくれ。今ここに連れてきてくれたのも東雲だからさ。
「そうじゃぞ小娘妖怪!秋緋の成長を喜ぶべきなのじゃ!東雲はよく仕えておるじゃろ?」
「どうですかね?私はただのショタ狐としか認識してませんが。」
結緋さんと茨木までいる!何?この宴ってうちにとって重要なやつなの?
「私は秋緋の晴れ舞台を見に来ただけじゃぞ?茨木!カメラの充電は大丈夫かの?スマホも!」
「…招待されてないからって言ってるのに聞かなくてね。」
学校の、保護者も観覧できる発表会の時に張り切っちゃう系かぁ。結緋さんが楽しそうならいいか?
「なんか…大分騒がしくなってるね?」
「宴なんだからみんなで楽しむのは大事だと思うな?ほらほら、この辺りに住んでる妖怪さんたちも集まってきたよー!」
旅館の浴衣姿のままやってきた壱弥と白い巫女の装束に身を包んだ沙織里もやってきた。ほんとに騒がしくなってきたな。
それにしてもその衣装…大変けしからん。いくら正装とはいえ生地が絹のせいか薄い上に、袴の隙間が広すぎる。サイズあってる?そんなので動いたら見え…。
「何を考えている。如何わしいやつめ。」
「はぁ。お前まで出てくるんかよ天使。沙織里が光り輝いて意識飛ばしてるの怖いからその登場の仕方はやめて。」
お得意の時止めで出てくればいいのにと文句を言ったら、ぶつかり合う気の流れが強すぎてて干渉できないんだと。万能ではないわけね。そうだ、天使に用があったの忘れてたな。
「天使、今持ってなくて悪いんだがあのロザリオ使わなかったから返すよ。」
「よい。持っておくがいい。この先また使うやもしれぬ。さて。私は少し離れたところで愛し子の晴れ姿を見守るとしよう。」
備えあればなんとやら?出来ればそんなことが起こることがないよう祈ってる。そういえばこんだけ集まって来てるけど親父の姿が見えないな。どこ行ってるんだろ。
「師匠なら鵺と舞台の方で力仕事してるよ。酒天も酒が飲めるならって率先して手伝ってる。」
なるほど。相変わらず壱弥は汗をかくことはしないのね。
「じゃあ俺もその舞台の方に行くかな。出番もあるし。」
「私も行くね!皆さんごゆっくり楽しんでください!」
皆が席を設けている岩場から少し下り、岩礁でできた道を舞台のある方へ進む。月明りで照らされてるとは言え足場が超絶悪いからな、沙織里をエスコートしてゆっくりと、だ。なんだかんだふたりの時間は取れてなかったなと、ふと思う。
「なんか色々騒がしくて悪いな。夜兄のことも…迷惑かけた。」
ぴょんぴょんと。所々出来ている水溜りの穴を沙織里の手を取って飛び越えながら。
「迷惑…だったかなぁ~。私は夜緋呂さんがあーちゃんの中にいたなんて知らなかったし。」
「いやでもさ、普段俺あんな風に接してないだろ?変だと思わなかった?」
「ん~変といえば変だったかも?」
舞台まであと一歩。少しせり上がっている足場。沙織里を自分に引き寄せるように引っ張り上げて…つい腰に手を回してしまった。
「わ、悪い…転んだらまずいからさ、その…むぅ…。」
「変だったけど、嫌じゃなかったよ?今も…。」
かわ…!
月の明かりが眩しすぎるせいか、沙織里の衣装のせいかはわからないけど。見つめ合って…自然とお互いの顔が近づいて。
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「ふふ。あーちゃん。またあとで、ね。」
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「実は小悪魔かあいつは。」
俺は恥ずかしさで顔を赤くして両手で顔を覆いながら、ゆっくりとしゃがむ。火照りを少しずつ冷ましていると、
「真砂くん。」
「だわぁぁっ?!せ、先輩?!」
先輩も居たのか。声をかけるタイミングを計っていたみたいでなんだかちょっと気まずい。
「えっと…舞台できたから…行ける?」
なんかすごい恐縮されてるみたいでこっちが申し訳なくなる。そんなに気にしなくていいっすよ。沙織里はまた後でって言ってたから。
「この舞台を通ってね、皆、戻ってくるんだ。」
岩礁を跨いで作られたきれいな舞台。真ん中部分に花道?のようなものが岩のアーチの穴から舞台まで続いている。その道を通って来るんだそうな。結構な大きさで目立っているのだが、人には見えないんだそうな。
「今日、ここは狭間になるからね。さ、真砂さんも着替えて…はい。」
聞いてなかったが正装があるらしい。そりゃ沙織里も着てるからそうなんだろう。寝癖のついたボロTシャツと短パンじゃ失礼だよな。先輩が左腕を上げて、手をくんっと軽く動かすと、空間から何らかの衣装が出てきて俺に重なった。
「おぉ…すごい…。」
よく神社の神主さんが来てる装束に似ているが、宴の席に相応しいように装飾や刺繍が施された特別なものみたいだ。沙織里の衣装ほどではないがヒラヒラ感が強い。こんな服着たことないから少し落ち着かないな。
「あとは、彼らも。」
同じ様に右手をくんっと。空間から、琵琶と琴、太鼓が出てきて舞台の決められた位置に設置していく。
「来てくれるといいんだけど、ね。」
先輩は笛を握ってる。
喧嘩したっていう相手を待ってるのかな?序曲はなんとかなったみたいだけど。
「また序曲から初めて、主曲に…それから終曲まで。ちょっと長いけどよろしくね。」
序曲が終わるまでに来てくれればいいけどな…来なかったらどうするつもりだ?
「それは僕がやることになるね。」
「壱弥?!あぁ…まぁそうかもなとは思ったよ。」
沙織里が舞うなら壱弥もなんかあるだろうなとは予感はしてたがな?あくまで保険らしいけど。笛吹けるのね。
月が、岩のアーチのてっぺんから陰に入り見えなくなってひとときの暗闇。舞台が影に包まれる。
どうやら始まるらしい。