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第2章〜宣伝的人間の研究〜⑮

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10月31日(金)

 不幸中の幸いというか、降谷たちが、屋良(やら)先輩の自宅に集団訪問した際、ご家族は全員不在で、先輩のご家族が直接的な迷惑を受けることは無かったという。
 それでも、この10月最後の日曜日に行われた降谷通(ふるやとおり)屋良(やら)委員長に対する集団自宅訪問のライブ配信は、当然のことながら校内でも問題視され、週明けすぐに、「指定された場所以外での選挙活動自粛」に関する通達がなされた。

 学校側の対応は素早く、週が明けた月曜日には、各クラスのホームルームで担任の先生からの注意喚起とともに、『生徒会選挙に関する注意事項』と題されたプリントが全校生徒に配られた。

 ただし、この注意喚起には、SNSをはじめとしたネット上の選挙運動については、一切触れられていなかった。

(問題は、選挙活動の場所だけじゃないだろう……)

 問題への対応が早かったことは、素晴らしいと感じるが、選挙管理委員会にしても、先生たち教職員にしても、現状の認識が甘すぎると感じざるを得ない。

 放課後、いつものように放送室に集まって、学校側の対応のゆるさについて、放送・新聞部のメンバーに対して語ると、珍しくケイコ先輩が、申し訳なさそうな表情で、

「その点については、私も大した問題じゃない、と楽観視して見誤っていたことがあると思う。この動画を見て」

と言って、スマホを取り出し、ショート動画でおなじみの《ティックタック》のアプリを起動する。

 先輩が表示させた画面には、女子バスケットボール部の部員である松島みのりが映っていた。僕が女子バスケ部の取材に行った日に、()()()()()()()()()あの部員だ。

 動画は、CUTIE STREETの『かわいいだけじゃだめですか?』をBGMに、軽快なノリで始まる。

 ――――――バスケ部部員に聞いてみた!

 ――――――光石さんが生徒会長に当選したら、クラブ棟の建て替えが決まるって、本当ですか?

「これ実は、本当なんです。というのも、石塚くんが先頭に立ってやろうとしているクラブ棟の建て替えの見直し、これを光石さんは、『推し進める』ということを言われてますね」

「クラブ活動をしていない生徒が使うことのないクラブ棟が、何億円もかける必要があるのかな? っていうのが、みんなそれぞれ意見があるポイントだと思いますので、コメント欄で教えてください」

 ショート動画らしく、映像は30秒程度で終了していた。
 彼女が、書き込みをうながしたコメント欄には、

 ・はじめて知った! 情報ありがとう!!
 ・クラブ棟、建て替え反対! 学校のお金を使うなら、食堂の建て替えを!

という投稿が並んでいる。

 動画とコメントを確認し終わった僕は、めまいがするような感覚をこらえながら、言葉を吐き出す。
 
「なんですか、コレ? 光石さんは、選挙公約のなかで、『クラブ棟を建て直す』なんて、一言も言ってない! むしろ、公約には、『クラブ棟の建て替えについて、全校生徒で議論する場を設ける』って言ってるのに! まるっきり逆じゃないですか!? どうして、こんなことを顔出しで言えるんですかね?」

 普段は、誰かの……特に女子生徒の発言に怒りをおぼえるということなんて、ほとんど無い僕だけど、さすがに、こんな()()()の発言をショート動画で配信するなんてことを見逃すことはできない。

「学校側の現状の認識が甘すぎる、ってのは、佐々木くんの言うとおり。そして、私自身も、石塚・降谷陣営がなりふり構わず、情報戦を仕掛けてくるとは思っていなかった……見通しが甘すぎたのは、私も同じ。この点については、反省してる」
 
 そう言って、僕に対して謝罪するように語るケイコ先輩だけど、こんな風に話されると、こちらも恐縮してしまう。

「いや……先輩が悪いわけじゃないですから……」
 
 僕は、先輩の言葉に答えたあと、気を取り直すべく、今週の生徒会選挙の情勢調査を確認する。
 SNSで、どれだけデマなどが飛び交おうと、各クラブの組織票は簡単に動くわけじゃない。

 これまでと同じく、各学年の1クラスを対象にして、Googleフォームを利用して行った情勢調査では、こんな結果が出ていた。

 光石候補  35%
 石塚候補  25%
 陣内候補  15%
 降谷候補   5%
 投票先未定 20%

 石塚候補が猛追し、ついに、2位に躍り出ている。
 そして、まだ、投票先未定の生徒の割合が20%ほどあるけれど……。

 それでも、いわゆる無党派層と言って良い、この生徒のうち、4分の1が光石候補に投票すれば、当選は確実だ……と、僕は安堵する。

 続いて、生徒会選挙の関心度は、以下のようになっている。
 
 大いに関心がある   55%
 ある程度関心がある  15%
 どちらとも言えない  20%
 あまり関心がない    5%
 まったく関心がない   5%

 この数字を見ながら、トシオが興味深いことを話してくれた。

「実は、ココだけの話だけど、週明けにクラブ連盟が正式に、光石さん指示を表明するらしい。たぶん、これで彼女の当選は確実だろう」

 親友の言葉に、自分の気持ちが後押しされた感じがして、僕は心の底からホッとして胸を撫で下ろした。

(そうだよ……いくら、SNSやネット上で過激なことを言ったって、リアルな投票行動が、そう簡単に動くわけじゃないんだ……)

 学校のSNSの言動に対する注意喚起の甘さには疑問が残るけど、それは、この生徒会選挙が終わってから考えれば良いか……と、思い直すことにした。

 そうして、少し穏やかな気持で休日を迎えようと気持ちを切り替えようとしたときのこと……。
 各候補者のSNSを確認していたミコちゃんが、悲鳴に近い声をあげた。

「佐々木先輩、大変です! 《トゥイッター》に光石さんと先輩の写真がアップされています!」


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10月31日(金)
 不幸中の幸いというか、降谷たちが、|屋良《やら》先輩の自宅に集団訪問した際、ご家族は全員不在で、先輩のご家族が直接的な迷惑を受けることは無かったという。
 それでも、この10月最後の日曜日に行われた|降谷通《ふるやとおり》の|屋良《やら》委員長に対する集団自宅訪問のライブ配信は、当然のことながら校内でも問題視され、週明けすぐに、「指定された場所以外での選挙活動自粛」に関する通達がなされた。
 学校側の対応は素早く、週が明けた月曜日には、各クラスのホームルームで担任の先生からの注意喚起とともに、『生徒会選挙に関する注意事項』と題されたプリントが全校生徒に配られた。
 ただし、この注意喚起には、SNSをはじめとしたネット上の選挙運動については、一切触れられていなかった。
(問題は、選挙活動の場所だけじゃないだろう……)
 問題への対応が早かったことは、素晴らしいと感じるが、選挙管理委員会にしても、先生たち教職員にしても、現状の認識が甘すぎると感じざるを得ない。
 放課後、いつものように放送室に集まって、学校側の対応のゆるさについて、放送・新聞部のメンバーに対して語ると、珍しくケイコ先輩が、申し訳なさそうな表情で、
「その点については、私も大した問題じゃない、と楽観視して見誤っていたことがあると思う。この動画を見て」
と言って、スマホを取り出し、ショート動画でおなじみの《ティックタック》のアプリを起動する。
 先輩が表示させた画面には、女子バスケットボール部の部員である松島みのりが映っていた。僕が女子バスケ部の取材に行った日に、|塩《・》|対《・》|応《・》|を《・》|し《・》|て《・》|く《・》|れ《・》|た《・》あの部員だ。
 動画は、CUTIE STREETの『かわいいだけじゃだめですか?』をBGMに、軽快なノリで始まる。
 ――――――バスケ部部員に聞いてみた!
 ――――――光石さんが生徒会長に当選したら、クラブ棟の建て替えが決まるって、本当ですか?
「これ実は、本当なんです。というのも、石塚くんが先頭に立ってやろうとしているクラブ棟の建て替えの見直し、これを光石さんは、『推し進める』ということを言われてますね」
「クラブ活動をしていない生徒が使うことのないクラブ棟が、何億円もかける必要があるのかな? っていうのが、みんなそれぞれ意見があるポイントだと思いますので、コメント欄で教えてください」
 ショート動画らしく、映像は30秒程度で終了していた。
 彼女が、書き込みをうながしたコメント欄には、
 ・はじめて知った! 情報ありがとう!!
 ・クラブ棟、建て替え反対! 学校のお金を使うなら、食堂の建て替えを!
という投稿が並んでいる。
 動画とコメントを確認し終わった僕は、めまいがするような感覚をこらえながら、言葉を吐き出す。
「なんですか、コレ? 光石さんは、選挙公約のなかで、『クラブ棟を建て直す』なんて、一言も言ってない! むしろ、公約には、『クラブ棟の建て替えについて、全校生徒で議論する場を設ける』って言ってるのに! まるっきり逆じゃないですか!? どうして、こんなことを顔出しで言えるんですかね?」
 普段は、誰かの……特に女子生徒の発言に怒りをおぼえるということなんて、ほとんど無い僕だけど、さすがに、こんな|嘘《・》|八《・》|百《・》の発言をショート動画で配信するなんてことを見逃すことはできない。
「学校側の現状の認識が甘すぎる、ってのは、佐々木くんの言うとおり。そして、私自身も、石塚・降谷陣営がなりふり構わず、情報戦を仕掛けてくるとは思っていなかった……見通しが甘すぎたのは、私も同じ。この点については、反省してる」
 そう言って、僕に対して謝罪するように語るケイコ先輩だけど、こんな風に話されると、こちらも恐縮してしまう。
「いや……先輩が悪いわけじゃないですから……」
 僕は、先輩の言葉に答えたあと、気を取り直すべく、今週の生徒会選挙の情勢調査を確認する。
 SNSで、どれだけデマなどが飛び交おうと、各クラブの組織票は簡単に動くわけじゃない。
 これまでと同じく、各学年の1クラスを対象にして、Googleフォームを利用して行った情勢調査では、こんな結果が出ていた。
 光石候補  35%
 石塚候補  25%
 陣内候補  15%
 降谷候補   5%
 投票先未定 20%
 石塚候補が猛追し、ついに、2位に躍り出ている。
 そして、まだ、投票先未定の生徒の割合が20%ほどあるけれど……。
 それでも、いわゆる無党派層と言って良い、この生徒のうち、4分の1が光石候補に投票すれば、当選は確実だ……と、僕は安堵する。
 続いて、生徒会選挙の関心度は、以下のようになっている。
 大いに関心がある   55%
 ある程度関心がある  15%
 どちらとも言えない  20%
 あまり関心がない    5%
 まったく関心がない   5%
 この数字を見ながら、トシオが興味深いことを話してくれた。
「実は、ココだけの話だけど、週明けにクラブ連盟が正式に、光石さん指示を表明するらしい。たぶん、これで彼女の当選は確実だろう」
 親友の言葉に、自分の気持ちが後押しされた感じがして、僕は心の底からホッとして胸を撫で下ろした。
(そうだよ……いくら、SNSやネット上で過激なことを言ったって、リアルな投票行動が、そう簡単に動くわけじゃないんだ……)
 学校のSNSの言動に対する注意喚起の甘さには疑問が残るけど、それは、この生徒会選挙が終わってから考えれば良いか……と、思い直すことにした。
 そうして、少し穏やかな気持で休日を迎えようと気持ちを切り替えようとしたときのこと……。
 各候補者のSNSを確認していたミコちゃんが、悲鳴に近い声をあげた。
「佐々木先輩、大変です! 《トゥイッター》に光石さんと先輩の写真がアップされています!」