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第48話 エンジェル・ダスト

ー/ー



「アルトラ、エンジェル・ダスト……!」

 森花炉之介(もり かろのすけ)の足もとから、風もないのに砂ぼこりが舞いあがった。

「くっ、これは……!」

 姫神壱騎(ひめがみ いっき)ら周囲の者たちは、目がくらみそうになって顔をふさぐ。

「ご乱心召されたか、森さん!」

 百鬼院霊光(ひゃっきいん れいこう)が叫んだ。

「乱心? 乱心ですって? わたしは極めて冷静ですよ? どうすればこの場をやりすごせるのか、それを冷静に考えているのです」

 肝心の剣客はいたってすずしい顔になった。

「森さん、アルトラの使用を許可すると、わたしは確かに提案いたしました。しかしそれはあくまで、試合の流れで必要に応じる形でという意味です。敗北を喫した悔し紛れに用いよとは、ひとことも申し上げておりませんよ?」

 三千院静香(さんぜんいん しずか)が苦言を呈する。

「ぞんじあげておりますよ、そんなことは。あいもかわらず四角四面な方ですね、静香さま? そんなことだから負けるのですよ、わが師である暁月明染(あきづき みょうぜん)に」

「貴様、無礼者――っ!」

 へらへらとする森花炉之介に百鬼院霊光は腰の刀を抜いた。

「ふん、わたしと同じく光を得ないあなたなら、霊光さま、あるいはわたしの気持ちも理解してくださると思っていましたのに」

「ぬっ!?」

 砂ぼこりが百鬼院霊光を包みこむ。

「霊光さん!」

 三千院静香が吼えた。

「ふふ、わたしのエンジェル・ダストは、こうやって人間の生気を吸い尽くすこともできるのです」

「うう……」

 百鬼院霊光の肌がミイラのようにやつれてきて、彼はその場にひざをついてしまった。

「森さん、おやめなさい! このような蛮行、武人の誇りにかけて、許されるものではありません!」

 剣神のたしなめもまるで通じていない様相である。

「武人ですって? 気は確かですか、静香さま? 剣術もアルトラも、わたしがこの技を覚えたのは、すべて生きるため。生来目の見えないこの身、生きるためには力を得るしかなかった。恨むのであればそう、わたしに光を与えなかった天なり神なりを恨むことですね」

「……」

 百鬼院霊光の動きがどんどんと鈍くなり、完全に虫の息となる。

 そのありさまを見つめていた少年剣士は――

「森さん、正気なのですね、それで?」

「そのとおりですよ、壱騎さん。でなければあなたのお父上を手にかけたりもしませんでしたし」

「了解いたしました」

「ほう?」

 姫神壱騎は実に凛とした、晴れわたったまなざしをしている。

 それが逆に、森花炉之介をいらつかせた。

「ああ、その目、そっくりだ。わたしが亡き者にした、あの男とね」

「父・龍聖(りゅうせい)のことでしょうか?」

「ええ、そうです。まだ幼かった君を守るため、わたしの能力で塵芥になった愚か者。その最期を迎えるときも、いまの君のような目をしていましたね。父子そろってバカのひとつ覚えのように――」

「森さん! それ以上の侮辱はこの俺が許しません!」

 ウツロが怒りの形相をぶつける。

 しかし姫神壱騎は横に手を伸ばしてそれを制した。

「壱騎さん……」

 彼は少しうなだれたが、もう一度顔を上げる。

 笑顔だ。

「……」

 森花炉之介は思い出した。

 姫神龍聖(ひめがみ りゅうせい)が塵となって消える直前、振り向いて息子にした笑顔を。

 その顔に、瓜二つだ……

「ありがとう、ウツロ。でもここは、俺に任せてほしいんだ。勝負はまだ終わってはいない。どうか俺が、自分に打ち勝つところを見届けてほしい……!」

「壱騎さん……」

 ウツロはその意味を即座に理解し、高ぶる心を静めた。

 父さん、兄さん、どうか、俺に、俺たちに、力を貸してください……!

 そう強く念じた。

「茶番は済みましたでしょうか?」

「ええ、そしてあなたはすぐに悟るでしょう。あなたという存在そのものが、最大の茶番であることに……!」

「言いますね、壱騎さん。しかしながら塵を自在に操るわがアルトラ、どうやって立ち向かうおつもりで?」

「ふっ」

 少年はまた笑った。

「俺も出すまでです、アルトラを……!」

「ふむ、お父上と違い、あなたは持っているのでしたね。では、拝見いたしましょうか?」

 姫神壱騎は白装束をはだけ、たすきで強く結んだ。

「何をするおつもりですか?」

 全盲の剣士がいぶかる。

「見せてさしあげましょう。これが俺の、ドラゴン・ライドです……!」

「これは……」

 少年剣士の肉体に、あらぶる龍の紋様が浮かびあがった。


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「アルトラ、エンジェル・ダスト……!」
 |森花炉之介《もり かろのすけ》の足もとから、風もないのに砂ぼこりが舞いあがった。
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「ご乱心召されたか、森さん!」
 |百鬼院霊光《ひゃっきいん れいこう》が叫んだ。
「乱心? 乱心ですって? わたしは極めて冷静ですよ? どうすればこの場をやりすごせるのか、それを冷静に考えているのです」
 肝心の剣客はいたってすずしい顔になった。
「森さん、アルトラの使用を許可すると、わたしは確かに提案いたしました。しかしそれはあくまで、試合の流れで必要に応じる形でという意味です。敗北を喫した悔し紛れに用いよとは、ひとことも申し上げておりませんよ?」
 |三千院静香《さんぜんいん しずか》が苦言を呈する。
「ぞんじあげておりますよ、そんなことは。あいもかわらず四角四面な方ですね、静香さま? そんなことだから負けるのですよ、わが師である|暁月明染《あきづき みょうぜん》に」
「貴様、無礼者――っ!」
 へらへらとする森花炉之介に百鬼院霊光は腰の刀を抜いた。
「ふん、わたしと同じく光を得ないあなたなら、霊光さま、あるいはわたしの気持ちも理解してくださると思っていましたのに」
「ぬっ!?」
 砂ぼこりが百鬼院霊光を包みこむ。
「霊光さん!」
 三千院静香が吼えた。
「ふふ、わたしのエンジェル・ダストは、こうやって人間の生気を吸い尽くすこともできるのです」
「うう……」
 百鬼院霊光の肌がミイラのようにやつれてきて、彼はその場にひざをついてしまった。
「森さん、おやめなさい! このような蛮行、武人の誇りにかけて、許されるものではありません!」
 剣神のたしなめもまるで通じていない様相である。
「武人ですって? 気は確かですか、静香さま? 剣術もアルトラも、わたしがこの技を覚えたのは、すべて生きるため。生来目の見えないこの身、生きるためには力を得るしかなかった。恨むのであればそう、わたしに光を与えなかった天なり神なりを恨むことですね」
「……」
 百鬼院霊光の動きがどんどんと鈍くなり、完全に虫の息となる。
 そのありさまを見つめていた少年剣士は――
「森さん、正気なのですね、それで?」
「そのとおりですよ、壱騎さん。でなければあなたのお父上を手にかけたりもしませんでしたし」
「了解いたしました」
「ほう?」
 姫神壱騎は実に凛とした、晴れわたったまなざしをしている。
 それが逆に、森花炉之介をいらつかせた。
「ああ、その目、そっくりだ。わたしが亡き者にした、あの男とね」
「父・|龍聖《りゅうせい》のことでしょうか?」
「ええ、そうです。まだ幼かった君を守るため、わたしの能力で塵芥になった愚か者。その最期を迎えるときも、いまの君のような目をしていましたね。父子そろってバカのひとつ覚えのように――」
「森さん! それ以上の侮辱はこの俺が許しません!」
 ウツロが怒りの形相をぶつける。
 しかし姫神壱騎は横に手を伸ばしてそれを制した。
「壱騎さん……」
 彼は少しうなだれたが、もう一度顔を上げる。
 笑顔だ。
「……」
 森花炉之介は思い出した。
 |姫神龍聖《ひめがみ りゅうせい》が塵となって消える直前、振り向いて息子にした笑顔を。
 その顔に、瓜二つだ……
「ありがとう、ウツロ。でもここは、俺に任せてほしいんだ。勝負はまだ終わってはいない。どうか俺が、自分に打ち勝つところを見届けてほしい……!」
「壱騎さん……」
 ウツロはその意味を即座に理解し、高ぶる心を静めた。
 父さん、兄さん、どうか、俺に、俺たちに、力を貸してください……!
 そう強く念じた。
「茶番は済みましたでしょうか?」
「ええ、そしてあなたはすぐに悟るでしょう。あなたという存在そのものが、最大の茶番であることに……!」
「言いますね、壱騎さん。しかしながら塵を自在に操るわがアルトラ、どうやって立ち向かうおつもりで?」
「ふっ」
 少年はまた笑った。
「俺も出すまでです、アルトラを……!」
「ふむ、お父上と違い、あなたは持っているのでしたね。では、拝見いたしましょうか?」
 姫神壱騎は白装束をはだけ、たすきで強く結んだ。
「何をするおつもりですか?」
 全盲の剣士がいぶかる。
「見せてさしあげましょう。これが俺の、ドラゴン・ライドです……!」
「これは……」
 少年剣士の肉体に、あらぶる龍の紋様が浮かびあがった。