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夜③

ー/ー



雷が落ちた時の一瞬の停電の時のような、2、3回瞬きしたくらいの感覚。気絶癖というか故意に意識を飛ばされることもあった俺だが、このわずかな時間で目が覚めたのは誇っていいだろう。

…状況の確認をしようか。
目の前には踊り場の窓から差し込む月明り。どこかに飛ばされるこもなく、その場ですぐ快復したってことだな、よし。額も熱くない。ヤケドとかはしてないみたいだ、よかった。

ひとつ疑問があるとすれば…踊り場に何故居るのかってことぐらいか。俺は夜兄に階段を上がり切る前、踊り場に片足をかけたところで接触して動けなくなっていたはず。肝心の夜兄は?居ない?辺りを見渡し振り返り、俺がいたはずの場所を見てしまった。このときの衝撃ったらない。

「は…。なんで?」

ふぅっと息を吐き、手を何度も握り返し、何かを確かめるようにその人物は体を触る。

「あぁ…うん、いいね。全身に温かい血が巡る感覚。心臓の鼓動。いつも感じる匂いも違うきがするよ。久しぶりで少し刺激が強いかな、ふふ。」

簡単に言うと俺がそこにいたんだよね。ドッペルゲンガーとかそういう(たぐい)のものでは無く俺そのもの。そりゃそうだよね。光と熱を持った玉をお互いの額にすり合わせて意識が途切れた後に俺が踊り場、夜兄が『いた』場所にいるってことは。

「もしかして入れ替わってるのか?」

「入れ替わってるとは少し違うかな。ふふ。」

俺の顔で夜兄のあの優しげな不敵な笑い方をする違和感。いいようのない気持ち悪さだ。

「秋緋さ。ちょっと飛んでみたらわかると思うんだけど、どう?」

は?飛ぶ?どうやって?意味がわからないが、「ほらほら早く」と、飛ぶように促してくる。疑いながらも俺は軽く床を蹴るような動作をしてみた。

「へっ?!わ、わわ?!なんだ?えっ?!」

俺の体は見事にフワッと。浮いたわけだ。

「あはは!いい反応だね、驚いたかな?」

驚くとかいうレベルじゃない。確かに意識を失う寸前の不思議な感覚を覚えてはいるが。まさか自分の体が本当に浮くなんて思わない。

「驚いてるところ悪いけど、大事な話をしてもいいかな?全部は言えないのだけれど、今君に起こってる事くらいの説明はしてあげる。」

是非ともお願いしたい。単純に入れ替わってる訳ではない、という理由を。

「ふふ、素直だね。まずね、わたしは人間の体を持たない存在だってことと、今秋緋の体を借りてるってこと。」

なるほど。まるで実体があるように踊り場に『立っていた』。実際はホバーみたいなかんじで若干浮いてた感じだろうか。言いようのない圧力のせいもあって、人ではないだろうなとは感じていたけど実際本物の『幽霊』だったと。

「…俺の体を借りるってどういうことなんだよ。」

「意外と冷静だね?…理由は、そうだね。わたしにも大事な成すべき事に必要だからだよ。借りるだけで済めばいいけど、ね。」

そこは是非借りるだけにしていただきたいものだが。そんな簡単にいくような事じゃなさそうな気がしている。何故そう思うのかって?妙な不安感が胸に湧き上がってきてるんだ。今まで感じたことのないこの感情の吹き出るような感じ。

「君は体から出てしまったけれど、中にいる鬼はそのままこの体に。わたしのモノになった。大事な事のひとつだったからうまくいって嬉しい限り。」

鬼が中にいないだけでここまで冷静になれないものなのかと驚いてる。感情が渦巻いて、今までと違う胸の熱さでざらつく。

それに夜兄の態度だ。何がそんなに嬉しいのか、わからない。身内にこんなことして何が楽しい?嬉しい?昔の夜兄はこんなんじゃ無かった―はずだ。
さっきの記憶の断片の中に夜兄は確かにいた。一緒に庭で遊んだり、いたずらしたり、出掛けたり。ずっと笑って過ごしていたこと。戻ってきた。急激に記憶が戻ってきた衝撃もあるのだが、その記憶と今の状況のギャップも重なり怒りの感情と悲しみの感情がぐるぐるして、どうしたらいいのかわからない。

「…成長と共に綻びができてたのかな。これなら解くのもそこまで難しくないかな。抵抗されることも考慮しないと。って、あれ?秋緋?泣いてるの?」

ぽろぽろと。いつの間にか涙を流していたみたいだ。

「情けないなぁ。それでも真砂家の次期当主?あ、このままだとわたしがそうなるんだっけ、ふふ。」

慰めてくれるわけではないらしい。わかってはいたし、俺もそれを望んでいたわけではないが宙に浮いている俺に向かって見下すようなその物言いはあまりにも胸に刺さるものがあった。俺だって好きで泣いてるわけじゃない。勝手に溢れ出てくるんだ。

「はぁ。いつまでも相手してる訳にいかないんだけど。」

「だって…ぐすっ、ズゾゾゾゾッ」と俺は鼻をすすりながら呆れ顔の夜兄を見ると怪訝な表情をしていた。ややこしいのが俺の顔でって事。気持ち悪さがさらに増す。

「そろそろ土蜘蛛も抑えられた頃合いかな。」

俺から視線をはずし、ふぅっと息を吐くと、夜兄は目線を扉にむけた。そうだ、自分の置かれた状況にだけ驚愕している場合ではない。親父や結緋さん、沙織里に…壱弥。あいつらがここにくればどうにかしてくれるかもしれない。この機を逃すわけには…。

「秋緋、最後に【不視】の使い方を教えてあげる。」

「え…?」

振り返った夜兄は俺の足を掴み何かを念じてるようだった。振り払おうにも力が強く抵抗できない。

不視(ふし)】。

俺に発現した唯一の能力。俺自身の負の部分からでたその能力は制御ができない駄能力だったが。壱弥が施した結界術も意味をなさず、親父たち、複数人いないと抑え込むことが難しいほどの強力な妖怪土蜘蛛も、霊体であってなお使役できている夜兄。ここまで力をうまく使える人物が【不視】を使うっていうことはどういうことか。

「発現してくれててありがたい限りだよ。わたし自身には現れなかったからね。新しい力を使えるのは面白いね。」

正しく使える、ってことなんだろう。血に対して発現するわけだから中身が変わっても使えてしまうんだな。俺のからだ…体というか今のこの状態は魂、幽霊ってことなんだろうか?特に変化は見られない。

「姿を変えてしまうのは可哀想だから、わたしからのお詫びと思って受け取って貰えたら嬉しいよ、秋緋。」

「なんだよ…なにしたんだよ…。」

いつの間にか涙は止まっていたが、次は恐怖で妙な汗が滲み出る。震えまできやがった。

「それじゃ、秋緋。さようなら。」

パッと振り払うように俺の足から手を離し、その反動で俺はくるっと反転して窓に背中が当たる。当たった瞬間バチバチと電流が走るような痛みが走る。

「いってぇ…っ!」

「同じ結界を張り直してあるの言い忘れてたよ、ごめんね。ふふ。」といたずらに笑う夜兄。わざと、俺が間違いなく人という存在ではなくなったという事を物理的に教えてくれたんだろう。ひどいことする。ヒリヒリとする痛みが走る背中。結構堪えるもんだな。単純なバリアって感じじゃないのかな。力が抜けてしまう感覚もある。そのままへたり込んだ俺をよそに、夜兄は階段を下って出口へ向かう。

「どこにいくつもりなんだ?夜兄?」

俺がかけた声に振り返ることはなく。

「わりぃな。俺はこれからお前になるんだ。」

口調が変わった。俺になりきるつもりか?表情は見えないが一人称も、口調も俺。あぁずっと気持ち悪い。やめてくれ。

「夜に…。」

バリバリバリ…バンッ!!と。俺の声を遮るように玄関の扉が派手に開いた。戦っていた皆がここに来たのだ。

「秋緋っ!無事じゃったか!」

真っ先に入ってきたのは結緋さん。そのあとから沙織里、親父、少し不機嫌そうな壱弥が続いて『俺』に駆け寄る。もちろん『俺』っていうのは夜兄が入っている俺の体の方だ。

この感覚はなんだろう。もともと友達という友達もおらず、なんだかんだそばにいてくれたふたり。確かに俺の側にいること自体は変わらない。ただそれは俺の体にだけであって今ここに浮いている俺には…気付いてない。胸が締め付けられるっていうのはこんな感じなのか?

声をかけたら気づくんじゃないか?そうだよ、今は目の前に気を取られているだけで見えてないなんてことは、あり得ない!

「結緋さん!親父!沙織里!壱弥!俺はここだ!!」

叫んだはずだった。けど、何も届いていない。

嘘だろ。本当に見えてもいない?声も聞こえていない?まさか夜兄が俺に【不視】の使い方を教えるって言ったのは…。

俺はそれに気付いてしまった。

故に。眼下で楽しそうに話をしている『俺』たちを呆然と見つめるしかなかった。


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雷が落ちた時の一瞬の停電の時のような、2、3回瞬きしたくらいの感覚。気絶癖というか故意に意識を飛ばされることもあった俺だが、このわずかな時間で目が覚めたのは誇っていいだろう。
…状況の確認をしようか。
目の前には踊り場の窓から差し込む月明り。どこかに飛ばされるこもなく、その場ですぐ快復したってことだな、よし。額も熱くない。ヤケドとかはしてないみたいだ、よかった。
ひとつ疑問があるとすれば…踊り場に何故居るのかってことぐらいか。俺は夜兄に階段を上がり切る前、踊り場に片足をかけたところで接触して動けなくなっていたはず。肝心の夜兄は?居ない?辺りを見渡し振り返り、俺がいたはずの場所を見てしまった。このときの衝撃ったらない。
「は…。なんで?」
ふぅっと息を吐き、手を何度も握り返し、何かを確かめるようにその人物は体を触る。
「あぁ…うん、いいね。全身に温かい血が巡る感覚。心臓の鼓動。いつも感じる匂いも違うきがするよ。久しぶりで少し刺激が強いかな、ふふ。」
簡単に言うと俺がそこにいたんだよね。ドッペルゲンガーとかそういう|類《たぐい》のものでは無く俺そのもの。そりゃそうだよね。光と熱を持った玉をお互いの額にすり合わせて意識が途切れた後に俺が踊り場、夜兄が『いた』場所にいるってことは。
「もしかして入れ替わってるのか?」
「入れ替わってるとは少し違うかな。ふふ。」
俺の顔で夜兄のあの優しげな不敵な笑い方をする違和感。いいようのない気持ち悪さだ。
「秋緋さ。ちょっと飛んでみたらわかると思うんだけど、どう?」
は?飛ぶ?どうやって?意味がわからないが、「ほらほら早く」と、飛ぶように促してくる。疑いながらも俺は軽く床を蹴るような動作をしてみた。
「へっ?!わ、わわ?!なんだ?えっ?!」
俺の体は見事にフワッと。浮いたわけだ。
「あはは!いい反応だね、驚いたかな?」
驚くとかいうレベルじゃない。確かに意識を失う寸前の不思議な感覚を覚えてはいるが。まさか自分の体が本当に浮くなんて思わない。
「驚いてるところ悪いけど、大事な話をしてもいいかな?全部は言えないのだけれど、今君に起こってる事くらいの説明はしてあげる。」
是非ともお願いしたい。単純に入れ替わってる訳ではない、という理由を。
「ふふ、素直だね。まずね、わたしは人間の体を持たない存在だってことと、今秋緋の体を借りてるってこと。」
なるほど。まるで実体があるように踊り場に『立っていた』。実際はホバーみたいなかんじで若干浮いてた感じだろうか。言いようのない圧力のせいもあって、人ではないだろうなとは感じていたけど実際本物の『幽霊』だったと。
「…俺の体を借りるってどういうことなんだよ。」
「意外と冷静だね?…理由は、そうだね。わたしにも大事な成すべき事に必要だからだよ。借りるだけで済めばいいけど、ね。」
そこは是非借りるだけにしていただきたいものだが。そんな簡単にいくような事じゃなさそうな気がしている。何故そう思うのかって?妙な不安感が胸に湧き上がってきてるんだ。今まで感じたことのないこの感情の吹き出るような感じ。
「君は体から出てしまったけれど、中にいる鬼はそのままこの体に。わたしのモノになった。大事な事のひとつだったからうまくいって嬉しい限り。」
鬼が中にいないだけでここまで冷静になれないものなのかと驚いてる。感情が渦巻いて、今までと違う胸の熱さでざらつく。
それに夜兄の態度だ。何がそんなに嬉しいのか、わからない。身内にこんなことして何が楽しい?嬉しい?昔の夜兄はこんなんじゃ無かった―はずだ。
さっきの記憶の断片の中に夜兄は確かにいた。一緒に庭で遊んだり、いたずらしたり、出掛けたり。ずっと笑って過ごしていたこと。戻ってきた。急激に記憶が戻ってきた衝撃もあるのだが、その記憶と今の状況のギャップも重なり怒りの感情と悲しみの感情がぐるぐるして、どうしたらいいのかわからない。
「…成長と共に綻びができてたのかな。これなら解くのもそこまで難しくないかな。抵抗されることも考慮しないと。って、あれ?秋緋?泣いてるの?」
ぽろぽろと。いつの間にか涙を流していたみたいだ。
「情けないなぁ。それでも真砂家の次期当主?あ、このままだとわたしがそうなるんだっけ、ふふ。」
慰めてくれるわけではないらしい。わかってはいたし、俺もそれを望んでいたわけではないが宙に浮いている俺に向かって見下すようなその物言いはあまりにも胸に刺さるものがあった。俺だって好きで泣いてるわけじゃない。勝手に溢れ出てくるんだ。
「はぁ。いつまでも相手してる訳にいかないんだけど。」
「だって…ぐすっ、ズゾゾゾゾッ」と俺は鼻をすすりながら呆れ顔の夜兄を見ると怪訝な表情をしていた。ややこしいのが俺の顔でって事。気持ち悪さがさらに増す。
「そろそろ土蜘蛛も抑えられた頃合いかな。」
俺から視線をはずし、ふぅっと息を吐くと、夜兄は目線を扉にむけた。そうだ、自分の置かれた状況にだけ驚愕している場合ではない。親父や結緋さん、沙織里に…壱弥。あいつらがここにくればどうにかしてくれるかもしれない。この機を逃すわけには…。
「秋緋、最後に【不視】の使い方を教えてあげる。」
「え…?」
振り返った夜兄は俺の足を掴み何かを念じてるようだった。振り払おうにも力が強く抵抗できない。
【|不視《ふし》】。
俺に発現した唯一の能力。俺自身の負の部分からでたその能力は制御ができない駄能力だったが。壱弥が施した結界術も意味をなさず、親父たち、複数人いないと抑え込むことが難しいほどの強力な妖怪土蜘蛛も、霊体であってなお使役できている夜兄。ここまで力をうまく使える人物が【不視】を使うっていうことはどういうことか。
「発現してくれててありがたい限りだよ。わたし自身には現れなかったからね。新しい力を使えるのは面白いね。」
正しく使える、ってことなんだろう。血に対して発現するわけだから中身が変わっても使えてしまうんだな。俺のからだ…体というか今のこの状態は魂、幽霊ってことなんだろうか?特に変化は見られない。
「姿を変えてしまうのは可哀想だから、わたしからのお詫びと思って受け取って貰えたら嬉しいよ、秋緋。」
「なんだよ…なにしたんだよ…。」
いつの間にか涙は止まっていたが、次は恐怖で妙な汗が滲み出る。震えまできやがった。
「それじゃ、秋緋。さようなら。」
パッと振り払うように俺の足から手を離し、その反動で俺はくるっと反転して窓に背中が当たる。当たった瞬間バチバチと電流が走るような痛みが走る。
「いってぇ…っ!」
「同じ結界を張り直してあるの言い忘れてたよ、ごめんね。ふふ。」といたずらに笑う夜兄。わざと、俺が間違いなく人という存在ではなくなったという事を物理的に教えてくれたんだろう。ひどいことする。ヒリヒリとする痛みが走る背中。結構堪えるもんだな。単純なバリアって感じじゃないのかな。力が抜けてしまう感覚もある。そのままへたり込んだ俺をよそに、夜兄は階段を下って出口へ向かう。
「どこにいくつもりなんだ?夜兄?」
俺がかけた声に振り返ることはなく。
「わりぃな。俺はこれからお前になるんだ。」
口調が変わった。俺になりきるつもりか?表情は見えないが一人称も、口調も俺。あぁずっと気持ち悪い。やめてくれ。
「夜に…。」
バリバリバリ…バンッ!!と。俺の声を遮るように玄関の扉が派手に開いた。戦っていた皆がここに来たのだ。
「秋緋っ!無事じゃったか!」
真っ先に入ってきたのは結緋さん。そのあとから沙織里、親父、少し不機嫌そうな壱弥が続いて『俺』に駆け寄る。もちろん『俺』っていうのは夜兄が入っている俺の体の方だ。
この感覚はなんだろう。もともと友達という友達もおらず、なんだかんだそばにいてくれたふたり。確かに俺の側にいること自体は変わらない。ただそれは俺の体にだけであって今ここに浮いている俺には…気付いてない。胸が締め付けられるっていうのはこんな感じなのか?
声をかけたら気づくんじゃないか?そうだよ、今は目の前に気を取られているだけで見えてないなんてことは、あり得ない!
「結緋さん!親父!沙織里!壱弥!俺はここだ!!」
叫んだはずだった。けど、何も届いていない。
嘘だろ。本当に見えてもいない?声も聞こえていない?まさか夜兄が俺に【不視】の使い方を教えるって言ったのは…。
俺はそれに気付いてしまった。
故に。眼下で楽しそうに話をしている『俺』たちを呆然と見つめるしかなかった。