修行?
ー/ー
翌日の早朝、日が出たばかりでまだ薄暗い……ここからまた、新しい生活が始まる。
新品の黒いスポーツウェアに着替え、外に出て準備体操をする。
基礎は体力作りだ!と、いうことで、往復約10㎞の早朝ランニングを始めることになった……壱弥と一緒のせいでテンションは更にダダ下がりである。
早起き生活になったのも理由のひとつではあるのだが……宣言したその日の放課後、親父がノリノリで商店街のスポーツ用品店で、わざわざ高いブランド物のウェアやら、ランニングシューズやらを勝手に選んで、勝手に俺の財布から支払いをして購入した。
ここはさ、お父様が払ってくれることで息子を応援するところ……じゃないのだろうか?「ほー結構安いな」とか、六桁いってるのにこの発言……金銭感覚がおかしすぎる。
「おはよう~……わっ!格好だけはいっちょまえだね」
「……おはよ」
隣の部屋から出てきた壱弥が俺の姿を笑った……形から入るちょっと痛い人みたいに言うなっての。
「はいはい、気持ち落ち着かせて走らないと修業にならないよ?ルートがあるからしっかりついてきて覚えてね」
単純に走ればいいものではないらしい……地表へ流れでている気の流れを取り込みながらのランニングをするのだそうだ。
流れの悪いところと、良いところがあるから、ルートを間違えないようにしなければならないらしい。
【霊力】を高めるための気の感じ方や、取り込み方を調整する修行と並行して、体力もつけるという……意外としっかりしたことをしているんだと、感心した。
さすがに初日ということで、ゆっくりとしたペースで走り始めてくれた……素直に感謝だな。
「慣れてくるとね、取り込み方とか加減が出きるんだけど……とりあえず今日は普通に走る感じで大丈夫だよ」
修業に関しては壱弥は先輩、教えてくれることはしっかりと頭に入れなきゃな。
「ふふっ、らしくないね?いつもなら文句言うのに……僕は秋緋と修業できるのは嬉しいよ」
「今日だけだ、今日だけ」
「あはっ!つれないなぁ~」
こいつのこんなやわらかい笑顔を見たのは久しぶりかもしれない……そんなに嬉しいもんかな?
しばらくの間、車道脇を走っていたが、学校を通り過ぎたあたりで細い道に入っていく……こんな道あったんだなとキョロキョロしながら後を追っていく……が、待て待て、ここは?
「ふぅ……この先に神社があってそこで瞑想するんだけど、正面の方の気の流れがよくないから回り道をしなきゃいけないんだ……ちょっと大変だけど、頑張って着いてきて」
学校の裏手、少し行ったところの小高い丘の林の中に小さな神社があるのは知っている。
が、これはもう、道とか、ランニングとかじゃない。
細い道の突き当たりの家の高くて目立つ木を登り、屋根に飛び降り、屋根づたいに何軒か走り抜け、神社に向かって進んでいく。
これは……不法侵入ではなかろうか?「悪い気のせいでこの周辺は空き家が多いからそこの屋根だけをピンポイントだよっ!ほっ!」っと言いながら、軽快に渡っていく壱弥……そうだとしても不法侵入な事には変わりないと思うんだが……。
そんな状況なせいで見失う訳にはいかない、と、必死に追っていくが、何度も踏み外して落ちそうになる……これは初心者にはハードすぎるだろう。
「あとはここを――そうだ……ここは飛んでいかないと……一応聞くけど、使役してる妖怪なんていないよね?」
必死こいて半分落ちた体を屋根の上まであげる……なんで息ひとつ乱すことなく立ってられるんだ……。
「はぁはぁ……い、いるわけ……ない……ゴホッゴホッ!い、いても……小鬼くらいなもんだ…ふぅ…………はぁ……はぁ……」
「いくらなんでも運動不足すぎじゃない?……とりあえず、鵺に頼むね」
妖怪必要とか知らんし……親父も壱弥も説明足りなさすぎだろ。
「はいはいごめんごめん……お願いね鵺」
また人の心の声を……せめて心込めて謝ってほしいもんだ。
壱弥はポケットから鵺の入っているボールペンを取り出し、カチリと押す。
この間と同じ様に俺の脇を風が通るぬける……前と違うところはそれが猫ではなく、しっかりと鵺として『見える』ことだ。
「秋緋殿、今回はしっかりと、姿が見えるようでござるな!」
「お、おう……鵺も元気そうだ……な?」
俺に尻尾の蛇を絡ませ、鵺は笑ったような気がした。
気がしたっていうのは、喋ってるのは尻尾の蛇の方で、頭である猿の顔の表情はみせてくれないから……ややこしい奴なんだよなぁ、いい加減人見知り直そうぜ?
「僕たちをあそこの神社まで運んでもらえる?」
「承知した」
鵺の尻尾の蛇が器用に俺の体を持ち上げ、背に乗せるとすぐさま飛び立った。
「っ……わっ?!すっげ……」
「短い距離ではござるが……落ちぬようしっかり掴まっていてくだされ」
ひと蹴りで神社を見下ろすくらい高く飛び上がり、向かっていく。
うーん……こういう事が出来るのは、少しだけうらやましく思う……いかん、惑わされるな俺。
早朝の澄んだ風が運動で火照った体に当たる……気持ちいい……。
なんて、ボーッとしていたら着地の衝撃で手を離してしまい、勢いよく、社脇の植木の中にツッコむようにぶっ飛んだ。
「どぅわあっ!!」
「あぁぁぁ!秋緋殿ぉっ!」
「俺の不注意であって鵺のせいではないよ」と、逆さまになったまま伝えたが……右往左往する見た目猛獣、動きが可愛い鵺。
かわいそうになってしまって優しくなだめ、早く壱弥のところへ行くようにもうひと声かけると、申し訳なさそうに飛び立った。
鵺を見送ってから、俺はゆっくりと体を起こす。
「さすがにちょっと……痛い……」
全身についたホコリやら、葉っぱやらを払って気付く……新品のウェアはすでにボロボロ……俺の13万4千5百円が……なんと短い命かと。
「あーちゃん!豪快だったねっ!」
沙織里おったんかい!見てたんなら助けに来てくれても……あぁ……お茶してたのか。
「壱弥くんもすぐ来るのかな?とりあえずお茶のんで落ち着こうっ!」
朝から元気でなにより……というか、ちょっと薄着すぎじゃございませんか?ランニング直後で「ふぅあついあつい……」はいいんだけど……。
サイズの関係で伸びきった可愛いくまさんの顔が入ったタンクトップが……裾をパフパフと動かしおへそを見せながら中へ風を送って…………ゴクリ……。
「煩悩も瞑想で飛ばしたほうがいいね」
半ギレの壱弥と、たんこぶをつけた鵺が背後に立っていた。
いや、別に、変なこととか考えてない、ほんとだ!見てただけっ!
と、俺の言い訳は無視され、いそいそと壱弥と沙織里は持ってきていたマットの上で座禅を組んで瞑想を始め……ねぇ、そのマットどこから出したの。
事前準備の説明が皆無すぎるだろ……ほんとに修業させてもらってるのか俺。
全員無言のまま……俺は仕方なくそのまま1時間、砂利が足や尻に食い込む痛みに耐えながら座禅を……もちろん、そんな状況じゃ平常心なんて保てるわけがなく……瞑想なんてまともにできなかった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
翌日の早朝、日が出たばかりでまだ薄暗い……ここからまた、新しい生活が始まる。
新品の黒いスポーツウェアに着替え、外に出て準備体操をする。
基礎は体力作りだ!と、いうことで、往復約10㎞の早朝ランニングを始めることになった……|壱弥《いつみ》と一緒のせいでテンションは更にダダ下がりである。
早起き生活になったのも理由のひとつではあるのだが……宣言したその日の放課後、親父がノリノリで商店街のスポーツ用品店で、わざわざ高いブランド物のウェアやら、ランニングシューズやらを勝手に選んで、勝手に俺の財布から支払いをして購入した。
ここはさ、お父様が払ってくれることで息子を応援するところ……じゃないのだろうか?「ほー結構安いな」とか、六桁いってるのにこの発言……金銭感覚がおかしすぎる。
「おはよう~……わっ!格好だけはいっちょまえだね」
「……おはよ」
隣の部屋から出てきた|壱弥《いつみ》が俺の姿を笑った……形から入るちょっと痛い人みたいに言うなっての。
「はいはい、気持ち落ち着かせて走らないと修業にならないよ?ルートがあるからしっかりついてきて覚えてね」
単純に走ればいいものではないらしい……地表へ流れでている気の流れを取り込みながらのランニングをするのだそうだ。
流れの悪いところと、良いところがあるから、ルートを間違えないようにしなければならないらしい。
【|霊力《れいりょく》】を高めるための気の感じ方や、取り込み方を調整する修行と並行して、体力もつけるという……意外としっかりしたことをしているんだと、感心した。
さすがに初日ということで、ゆっくりとしたペースで走り始めてくれた……素直に感謝だな。
「慣れてくるとね、取り込み方とか加減が出きるんだけど……とりあえず今日は普通に走る感じで大丈夫だよ」
修業に関しては|壱弥《いつみ》は先輩、教えてくれることはしっかりと頭に入れなきゃな。
「ふふっ、らしくないね?いつもなら文句言うのに……僕は|秋緋《あきひ》と修業できるのは嬉しいよ」
「今日だけだ、今日だけ」
「あはっ!つれないなぁ~」
こいつのこんなやわらかい笑顔を見たのは久しぶりかもしれない……そんなに嬉しいもんかな?
しばらくの間、|車道脇《しゃどうわき》を走っていたが、学校を通り過ぎたあたりで細い道に入っていく……こんな道あったんだなとキョロキョロしながら後を追っていく……が、待て待て、ここは?
「ふぅ……この先に神社があってそこで|瞑想《めいそう》するんだけど、正面の方の気の流れがよくないから回り道をしなきゃいけないんだ……ちょっと大変だけど、頑張って着いてきて」
学校の|裏手《うらて》、少し行ったところの小高い丘の林の中に小さな神社があるのは知っている。
が、これはもう、道とか、ランニングとかじゃない。
細い道の突き当たりの家の高くて目立つ木を登り、屋根に飛び降り、屋根づたいに何軒か走り抜け、神社に向かって進んでいく。
これは……|不法侵入《ふほうしんにゅう》ではなかろうか?「悪い気のせいでこの周辺は空き家が多いからそこの屋根だけをピンポイントだよっ!ほっ!」っと言いながら、軽快に渡っていく|壱弥《いつみ》……そうだとしても|不法侵入《ふほうしんにゅう》な事には変わりないと思うんだが……。
そんな状況なせいで見失う訳にはいかない、と、必死に追っていくが、何度も踏み外して落ちそうになる……これは初心者にはハードすぎるだろう。
「あとはここを――そうだ……ここは飛んでいかないと……一応聞くけど、|使役《しえき》してる|妖怪《ようかい》なんていないよね?」
必死こいて半分落ちた体を屋根の上まであげる……なんで息ひとつ乱すことなく立ってられるんだ……。
「はぁはぁ……い、いるわけ……ない……ゴホッゴホッ!い、いても……|小鬼《こおに》くらいなもんだ…ふぅ…………はぁ……はぁ……」
「いくらなんでも運動不足すぎじゃない?……とりあえず、|鵺《ぬえ》に頼むね」
妖怪必要とか知らんし……親父も|壱弥《いつみ》も説明足りなさすぎだろ。
「はいはいごめんごめん……お願いね|鵺《ぬえ》」
また人の心の声を……せめて心込めて謝ってほしいもんだ。
|壱弥《いつみ》はポケットから|鵺《ぬえ》の入っているボールペンを取り出し、カチリと押す。
この間と同じ様に俺の脇を風が通るぬける……前と違うところはそれが猫ではなく、しっかりと|鵺《ぬえ》として『見える』ことだ。
「|秋緋殿《あきひどの》、今回はしっかりと、姿が見えるようでござるな!」
「お、おう……|鵺《ぬえ》も元気そうだ……な?」
俺に尻尾の|蛇《へび》を|絡《から》ませ、|鵺《ぬえ》は笑ったような気がした。
気がしたっていうのは、|喋《しゃべ》ってるのは尻尾の|蛇《へび》の方で、頭である|猿《さる》の顔の表情はみせてくれないから……ややこしい奴なんだよなぁ、いい加減人見知り直そうぜ?
「僕たちをあそこの神社まで運んでもらえる?」
「承知した」
|鵺《ぬえ》の尻尾の|蛇《へび》が器用に俺の体を持ち上げ、背に乗せるとすぐさま飛び立った。
「っ……わっ?!すっげ……」
「短い|距離《きょり》ではござるが……落ちぬようしっかり|掴《つか》まっていてくだされ」
ひと|蹴《け》りで神社を見下ろすくらい高く飛び上がり、向かっていく。
うーん……こういう事が出来るのは、少しだけうらやましく思う……いかん、惑わされるな俺。
早朝の澄んだ風が運動で火照った体に当たる……気持ちいい……。
なんて、ボーッとしていたら着地の|衝撃《しょうげき》で手を離してしまい、勢いよく、|社脇《やしろわき》の植木の中にツッコむようにぶっ飛んだ。
「どぅわあっ!!」
「あぁぁぁ!|秋緋殿《あきひどの》ぉっ!」
「俺の不注意であって鵺のせいではないよ」と、逆さまになったまま伝えたが……|右往左往《うおうさおう》する見た目|猛獣《もうじゅう》、動きが可愛い|鵺《ぬえ》。
かわいそうになってしまって優しくなだめ、早く|壱弥《いつみ》のところへ行くようにもうひと声かけると、申し訳なさそうに飛び立った。
|鵺《ぬえ》を見送ってから、俺はゆっくりと体を起こす。
「さすがにちょっと……痛い……」
全身についたホコリやら、葉っぱやらを払って気付く……新品のウェアはすでにボロボロ……俺の13万4千5百円が……なんと短い命かと。
「あーちゃん!|豪快《ごうかい》だったねっ!」
|沙織里《さおり》おったんかい!見てたんなら助けに来てくれても……あぁ……お茶してたのか。
「|壱弥《いつみ》くんもすぐ来るのかな?とりあえずお茶のんで落ち着こうっ!」
朝から元気でなにより……というか、ちょっと|薄着《うすぎ》すぎじゃございませんか?ランニング直後で「ふぅあついあつい……」はいいんだけど……。
サイズの関係で伸びきった可愛いくまさんの顔が入ったタンクトップが……|裾《すそ》をパフパフと動かしおへそを見せながら中へ風を送って…………ゴクリ……。
「|煩悩《ぼんのう》も|瞑想《めいそう》で飛ばしたほうがいいね」
半ギレの|壱弥《いつみ》と、たんこぶをつけた|鵺《ぬえ》が背後に立っていた。
いや、別に、変なこととか考えてない、ほんとだ!見てただけっ!
と、俺の言い訳は無視され、いそいそと壱弥と沙織里は持ってきていたマットの上で|座禅《ざぜん》を組んで|瞑想《めいそう》を始め……ねぇ、そのマットどこから出したの。
|事前準備《じぜんじゅんび》の説明が|皆無《かいむ》すぎるだろ……ほんとに修業させてもらってるのか俺。
全員無言のまま……俺は仕方なくそのまま1時間、砂利が足や尻に食い込む痛みに耐えながら|座禅《ざぜん》を……もちろん、そんな状況じゃ平常心なんて保てるわけがなく……|瞑想《めいそう》なんてまともにできなかった。