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第74話 死を求む人々

ー/ー



翌日、状況視察のために7人で町中を歩いていた時のことだった。
「あっ…!?」
突然、煌汰が悲鳴に近い声を上げた。
「どうした…」
煌汰の目線の先を見て、俺も凍りついた。

町中のところどころに立つ街路樹。
それはクリのような広葉樹がメインで、幹や枝が太いものが多いのだが、注目したのはその中の一本。
太い横枝に縄の片端を結び、もう片端を輪にしてそこに首を通してぶらさがっている男がいたのである。
「え…これって…」
紗妃もあ然としていた。
「ああ…またか」
もう見慣れているかのような秀典の言葉が一番恐ろしい。
それは紗妃も同意見なようで、半ば呆れていた。
「またか…って」

「最近は前にも増して食べ物がなくなってきたからな、苦しんで飢え死にしてくよりは、こうしたほうがいい…って考える奴がいっぱいいるんだ」

「こんな状況だからな…おれ達はここまでならなかったけど、将来の見通しもろくに立てれなくて、今の状況に本当に耐えられなくて、自殺に走る人は珍しくない」
秀典と康介はそう言うが、渕部はそれに異を唱えた。
「でもよ、いくら追い込まれたからって自殺することはないよな。何があっても、とりあえず生きてりゃ何とかなるもんだ。死んじまったら元も子もないぜ」

「それはそうね。自ら命を経つくらいなら、犯罪をやってでも生きてた方が絶対いい。私だって、それで生きてるんだから」
紗妃の言葉を聞いて、最近国中で野盗が増えてることの理由がわかったような気がした。
でもこれは、難しい話だ。どちらが正しいという判断は、俺にはできない。
「そうかな…?」

「そうに決まってる。生きるために必死になるのは当然でしょ。命を奪うのは、罪を犯すのはいけないことだ…なんてのは、所詮綺麗事よ」
紗妃は、どこか諦めたように言った。

「はあ…そもそも、どうしてこんな状況になっちまったんだ。冷害があったとかでもないのに、いきなり食べ物がなくなるなんて…」

確かに、それはなんかおかしいとは思う。
だが、こればかりは考えてもわからない。
この世界の食糧事情をまともに知らない俺に、わかるわけないと言えばそうなのだが。
「食べる物がない…って辛いよね。異形に襲われるのでもなく、戦いで死ぬのでもなく、食べ物がなくて餓死するなんて…絶対、なりたくないよね」
紗妃は、少し声を震わせながら言った。


その後町中を一通り見て回ったが、やはり木の枝に縄をかけて首を吊っている者がちらほらいた。
それだけではなく、路上で死んでいる者もいた。
なんか道端で倒れてる人がいるな…と思えば、それはすでに死体なのだ。
辛うじて生きている人も何人かいたが、いずれもミイラのようにひどく痩せ細っており、いつ餓死してもおかしくないような状態だった。

そんな状態のためか、やっている店はほとんどなくどこも閉まっていた。
唯一酒場だけは開いていたが、人の気配はない。
俺達もまた、入る気にはなれなかった。

町の人々は、多くが「自殺したいけど、する勇気がないんです。ああ、早く楽になりたい…」とか、「私は自殺するつもりはありませんよ。最期の悪あがき…じゃないですけど、餓死するその瞬間まで生きてたいです。まあ、故郷で安らかに死ねるのが最期の幸運ですかね…」とか、遅かれ早かれ死ぬ事を望んでいるようだった。
中にはさっき家の前で「もう終わりですよ…私達はこのまま、飢え死ぬしかないんだ、ハハ…」なんて言ってた人が、もう一回そこを通った時には裏庭の木で首を吊っていた、なんて事もあった。

なんだか、昔歴史の教科書で見た飢饉を思い出した。
現代で飢饉が起こると、こうなるのか。
助けてやりたいが、どうしようもない。



馬車に戻るまで、俺達の中にはしばしの沈黙が訪れた。
そして町の入口まで来た時、沈黙を破ってメリムが口を開いた。
「南の山を調べてみましょう」

「…え?」

「町を出て南に行くと、ベリク山という山があります。そこを調べてみましょう」

「そりゃまた…どうしてだ?」

「あの山は、山菜や木の実など食べられるものが豊富にあった所ですし…」
しかし、秀典がそれを否定した。
「いやいや、あそこはもうみんな行ったぞ?今更行っても、何もないだろ」

「それはわかりません。それに、あの山には最近、異形が巣を作ったと聞きます。もし今の状況で町に来たりしたら、大変なことになります!」
俺は、異形が巣を作ったという事に興味を引かれた。
「異形が…?」

「はい。邪霊系の異形だそうです。今は、降りてきたという話は聞かないですが、邪霊系の異形は普通の異形より倒すのが難しい上に増える速度も比較的速いので、放置するのは危険です」

「そうか…よし、なら倒しに行こう」
そう言うと、みんなが一斉に俺を見てきた。
「え…本気で行ってるのか?」

「余計な事しなくていいだろ。ただでさえみんな体力ないのに」
秀典と康介はそう言ってきたが、残りの面々はみんな俺を肯定してくれた。
「賛成。異形は倒しておいて損はないしね」

「町の人たちが動けないなら、私達が行くしかないわね。異形を放っておくと、あとが怖いし」

「ありがとうございます。私もお手伝いしますので、どうか脅威を排除してください」
メリムが感謝の言葉を口にし、渕部も言った。
「そうだぜ。ていうか、おれ達は戦士だろ?こういう時に率先して動かなかったら、話になんないぜ」

秀典達は考え、そして秀典は言った。
「わかった、手伝おう」
秀典に後押しされるように、康介も言った。
「ああもう…わかったよ。ただ、一応確認するけどよ、メシは食わせてもらえるのか?」
どこ心配してんだよ、と煌汰が突っ込んだが今の状況を踏まえて考えると必要のないツッコミだと気づいたのか、すぐにどもって申し訳なさそうな顔をした。
「食料はある。だから…康介、秀典達と来てくれるか?」

「…行かないなんて選択肢、ないに決まってる!」
康介がそう言ったのは、どういう意味なのだろうか。
まあ、仲間が増えるのは嬉しいが。





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翌日、状況視察のために7人で町中を歩いていた時のことだった。「あっ…!?」
突然、煌汰が悲鳴に近い声を上げた。
「どうした…」
煌汰の目線の先を見て、俺も凍りついた。
町中のところどころに立つ街路樹。
それはクリのような広葉樹がメインで、幹や枝が太いものが多いのだが、注目したのはその中の一本。
太い横枝に縄の片端を結び、もう片端を輪にしてそこに首を通してぶらさがっている男がいたのである。
「え…これって…」
紗妃もあ然としていた。
「ああ…またか」
もう見慣れているかのような秀典の言葉が一番恐ろしい。
それは紗妃も同意見なようで、半ば呆れていた。
「またか…って」
「最近は前にも増して食べ物がなくなってきたからな、苦しんで飢え死にしてくよりは、こうしたほうがいい…って考える奴がいっぱいいるんだ」
「こんな状況だからな…おれ達はここまでならなかったけど、将来の見通しもろくに立てれなくて、今の状況に本当に耐えられなくて、自殺に走る人は珍しくない」
秀典と康介はそう言うが、渕部はそれに異を唱えた。
「でもよ、いくら追い込まれたからって自殺することはないよな。何があっても、とりあえず生きてりゃ何とかなるもんだ。死んじまったら元も子もないぜ」
「それはそうね。自ら命を経つくらいなら、犯罪をやってでも生きてた方が絶対いい。私だって、それで生きてるんだから」
紗妃の言葉を聞いて、最近国中で野盗が増えてることの理由がわかったような気がした。
でもこれは、難しい話だ。どちらが正しいという判断は、俺にはできない。
「そうかな…?」
「そうに決まってる。生きるために必死になるのは当然でしょ。命を奪うのは、罪を犯すのはいけないことだ…なんてのは、所詮綺麗事よ」
紗妃は、どこか諦めたように言った。
「はあ…そもそも、どうしてこんな状況になっちまったんだ。冷害があったとかでもないのに、いきなり食べ物がなくなるなんて…」
確かに、それはなんかおかしいとは思う。
だが、こればかりは考えてもわからない。
この世界の食糧事情をまともに知らない俺に、わかるわけないと言えばそうなのだが。
「食べる物がない…って辛いよね。異形に襲われるのでもなく、戦いで死ぬのでもなく、食べ物がなくて餓死するなんて…絶対、なりたくないよね」
紗妃は、少し声を震わせながら言った。
その後町中を一通り見て回ったが、やはり木の枝に縄をかけて首を吊っている者がちらほらいた。
それだけではなく、路上で死んでいる者もいた。
なんか道端で倒れてる人がいるな…と思えば、それはすでに死体なのだ。
辛うじて生きている人も何人かいたが、いずれもミイラのようにひどく痩せ細っており、いつ餓死してもおかしくないような状態だった。
そんな状態のためか、やっている店はほとんどなくどこも閉まっていた。
唯一酒場だけは開いていたが、人の気配はない。
俺達もまた、入る気にはなれなかった。
町の人々は、多くが「自殺したいけど、する勇気がないんです。ああ、早く楽になりたい…」とか、「私は自殺するつもりはありませんよ。最期の悪あがき…じゃないですけど、餓死するその瞬間まで生きてたいです。まあ、故郷で安らかに死ねるのが最期の幸運ですかね…」とか、遅かれ早かれ死ぬ事を望んでいるようだった。
中にはさっき家の前で「もう終わりですよ…私達はこのまま、飢え死ぬしかないんだ、ハハ…」なんて言ってた人が、もう一回そこを通った時には裏庭の木で首を吊っていた、なんて事もあった。
なんだか、昔歴史の教科書で見た飢饉を思い出した。
現代で飢饉が起こると、こうなるのか。
助けてやりたいが、どうしようもない。
馬車に戻るまで、俺達の中にはしばしの沈黙が訪れた。
そして町の入口まで来た時、沈黙を破ってメリムが口を開いた。
「南の山を調べてみましょう」
「…え?」
「町を出て南に行くと、ベリク山という山があります。そこを調べてみましょう」
「そりゃまた…どうしてだ?」
「あの山は、山菜や木の実など食べられるものが豊富にあった所ですし…」
しかし、秀典がそれを否定した。
「いやいや、あそこはもうみんな行ったぞ?今更行っても、何もないだろ」
「それはわかりません。それに、あの山には最近、異形が巣を作ったと聞きます。もし今の状況で町に来たりしたら、大変なことになります!」
俺は、異形が巣を作ったという事に興味を引かれた。
「異形が…?」
「はい。邪霊系の異形だそうです。今は、降りてきたという話は聞かないですが、邪霊系の異形は普通の異形より倒すのが難しい上に増える速度も比較的速いので、放置するのは危険です」
「そうか…よし、なら倒しに行こう」
そう言うと、みんなが一斉に俺を見てきた。
「え…本気で行ってるのか?」
「余計な事しなくていいだろ。ただでさえみんな体力ないのに」
秀典と康介はそう言ってきたが、残りの面々はみんな俺を肯定してくれた。
「賛成。異形は倒しておいて損はないしね」
「町の人たちが動けないなら、私達が行くしかないわね。異形を放っておくと、あとが怖いし」
「ありがとうございます。私もお手伝いしますので、どうか脅威を排除してください」
メリムが感謝の言葉を口にし、渕部も言った。
「そうだぜ。ていうか、おれ達は戦士だろ?こういう時に率先して動かなかったら、話になんないぜ」
秀典達は考え、そして秀典は言った。
「わかった、手伝おう」
秀典に後押しされるように、康介も言った。
「ああもう…わかったよ。ただ、一応確認するけどよ、メシは食わせてもらえるのか?」
どこ心配してんだよ、と煌汰が突っ込んだが今の状況を踏まえて考えると必要のないツッコミだと気づいたのか、すぐにどもって申し訳なさそうな顔をした。
「食料はある。だから…康介、秀典達と来てくれるか?」
「…行かないなんて選択肢、ないに決まってる!」
康介がそう言ったのは、どういう意味なのだろうか。
まあ、仲間が増えるのは嬉しいが。