表示設定
表示設定
目次 目次




5

ー/ー



 ねぇ、お母さん。私、少しは可愛がってもらえる人間になれたかな。子供っぽくてワガママな私も、桔平くんと一緒に過ごす中で、ちょっとずつ大人になってきたんだよ。

 桔平くんってね、本当はすごく寂しがり屋なの。それなのに、わざとひとりになろうとする。結構面倒くさいんだよ。私と同じ。お互いに甘えあって支えあっていかないと、私たちは真っすぐ生きていけないの。ひとりだと、フラフラして頼りないから。

 でもね。ふたりだと、どこまででも行ける気がする。ひとりでは不完全すぎるのに不思議だよね。

 だから私はもう大丈夫。桔平くんだけじゃない、たくさんの人たちに支えられているから。もちろん、お母さんもそのひとり。
 みんなの愛情に囲まれている私は、本当に幸せ者だよ。これも、お母さんのおかげだね。

 また会いに来るから。たくさんたくさん、いい報告ができるように頑張るから。だから来年も、ここで待っていてね。

「……よし」

 小さく頷いて振り返ると、桔平くんが優しく微笑んでいた。それを見て急に涙がこみ上げてくる。なんでだろう。なんだか、胸がいっぱいになる。
 
「報告、終わった?」
「うん、ありがとう! さー、ご飯食べに帰ろ!」

 涙目になっているのを悟られないよう、先に歩き出した。

「愛茉」

 優しくて穏やかな声に呼び止められる。泣きそうなの、バレちゃったかな。

 ひと呼吸おいてから振り返ると、桔平くんは笑顔のまま、私の左手を握った。いつも手をつなぐのは右手なのに。そう思っていたら、手袋を外される。
 
「桔梗の花言葉って、なんだと思う?」
「桔梗……気品、とか……?」
「うん。あとは清楚、誠実、それと……」

 桔平くんが、コートのポケットから手のひらサイズの小さな箱を取り出した。え、待って。これってもしかして……。

「変わらぬ愛、永遠の愛」

 そう言いながら、箱の中に入っていたものを私の左手薬指へはめた。
 プラチナリングの中央に、たくさんの光を反射して輝くダイヤモンド。独創的なのに上品なデザインで、私の指にピッタリなサイズの指輪。

 嘘でしょ。どうしよう。手が震えて、視界が滲む。
 
「前に『将来は浅尾愛茉』って言ってくれただろ。きっと、父さんも喜んでくれていると思うんだよ。オレに似ているなら絶対に寂しがり屋だから、家族が増えるのは、すげぇ嬉しいだろうなって。しかも、こんなに可愛い家族がさ」

 指輪をはめた私の手を、桔平くんの両手が包み込む。すごくあたたかくて、もう涙が堪えられなくなった。

「愛しているよ。オレが永遠の愛を誓うのは、あとにも先にも愛茉だけだ。だからこれからは『浅尾愛茉』として、ずっとオレの隣で泣いたり怒ったり笑ったりしてほしい。家族になって、ふたりで健康に長生きしようぜ」

 真っすぐで透き通った眼。世界一大好きなグレーの瞳が、私を映している。
 声が出てこない。だけど私も、桔平くんに伝えたいことが、たくさんある。ただ頷くだけじゃ足りない。

 何度か呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。一生に一度しかないんだから、ちゃんと言葉にしなくちゃ。そう言い聞かせて、こみ上げるものを必死に抑えながら口を開いた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 6


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 ねぇ、お母さん。私、少しは可愛がってもらえる人間になれたかな。子供っぽくてワガママな私も、桔平くんと一緒に過ごす中で、ちょっとずつ大人になってきたんだよ。
 桔平くんってね、本当はすごく寂しがり屋なの。それなのに、わざとひとりになろうとする。結構面倒くさいんだよ。私と同じ。お互いに甘えあって支えあっていかないと、私たちは真っすぐ生きていけないの。ひとりだと、フラフラして頼りないから。
 でもね。ふたりだと、どこまででも行ける気がする。ひとりでは不完全すぎるのに不思議だよね。
 だから私はもう大丈夫。桔平くんだけじゃない、たくさんの人たちに支えられているから。もちろん、お母さんもそのひとり。
 みんなの愛情に囲まれている私は、本当に幸せ者だよ。これも、お母さんのおかげだね。
 また会いに来るから。たくさんたくさん、いい報告ができるように頑張るから。だから来年も、ここで待っていてね。
「……よし」
 小さく頷いて振り返ると、桔平くんが優しく微笑んでいた。それを見て急に涙がこみ上げてくる。なんでだろう。なんだか、胸がいっぱいになる。
「報告、終わった?」
「うん、ありがとう! さー、ご飯食べに帰ろ!」
 涙目になっているのを悟られないよう、先に歩き出した。
「愛茉」
 優しくて穏やかな声に呼び止められる。泣きそうなの、バレちゃったかな。
 ひと呼吸おいてから振り返ると、桔平くんは笑顔のまま、私の左手を握った。いつも手をつなぐのは右手なのに。そう思っていたら、手袋を外される。
「桔梗の花言葉って、なんだと思う?」
「桔梗……気品、とか……?」
「うん。あとは清楚、誠実、それと……」
 桔平くんが、コートのポケットから手のひらサイズの小さな箱を取り出した。え、待って。これってもしかして……。
「変わらぬ愛、永遠の愛」
 そう言いながら、箱の中に入っていたものを私の左手薬指へはめた。
 プラチナリングの中央に、たくさんの光を反射して輝くダイヤモンド。独創的なのに上品なデザインで、私の指にピッタリなサイズの指輪。
 嘘でしょ。どうしよう。手が震えて、視界が滲む。
「前に『将来は浅尾愛茉』って言ってくれただろ。きっと、父さんも喜んでくれていると思うんだよ。オレに似ているなら絶対に寂しがり屋だから、家族が増えるのは、すげぇ嬉しいだろうなって。しかも、こんなに可愛い家族がさ」
 指輪をはめた私の手を、桔平くんの両手が包み込む。すごくあたたかくて、もう涙が堪えられなくなった。
「愛しているよ。オレが永遠の愛を誓うのは、あとにも先にも愛茉だけだ。だからこれからは『浅尾愛茉』として、ずっとオレの隣で泣いたり怒ったり笑ったりしてほしい。家族になって、ふたりで健康に長生きしようぜ」
 真っすぐで透き通った眼。世界一大好きなグレーの瞳が、私を映している。
 声が出てこない。だけど私も、桔平くんに伝えたいことが、たくさんある。ただ頷くだけじゃ足りない。
 何度か呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。一生に一度しかないんだから、ちゃんと言葉にしなくちゃ。そう言い聞かせて、こみ上げるものを必死に抑えながら口を開いた。