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【序幕】

ー/ー



 女優になりたい。

 それが(みやび)の夢だった。
 小学校低学年の頃、地元の札幌で上演された親子向けミュージカルに連れて行ってもらったのがきっかけだ。
 煌びやかな衣装で歌い踊るステージ上の役者たち。
 容姿や運動神経は並以上だとしても、「普通の子」の範疇からはみ出すことはなかった少女は、日常とはかけ離れた華やかな世界に魅了された。
 帰り道、母にずっと舞台の感想を話し続けていたという。「あたしもあんなふうになりたい!」と繰り返しながら。
 雅自身は、感動したことはともかく母への語り掛けについてはまったく覚えていないのだが。

「ぜったい途中でやめないから。何でも言うこときくからおねがい!」
「……もし投げ出したら、もう『絶対』も『一生のお願い』も二度と信用しないからね」
 毎日のように懇願されてとうとう根負けした親に、児童劇団に入れてもらうことができた。『夢』のスタートラインに立てた! と輝かしい未来への希望が心に身体に溢れていたあの日。
 それからずっとスポットライトの真下を目標に、演技はもちろん歌もダンスも必死で頑張ったのだ。

 劇団内の公演には何度も出たことはある。
 主演級とは程遠い端役だったものの、それでも雅は嬉しかった。
 矢継ぎ早に飛んでくる厳しい指摘に、応えられない自分が悔しくもあり影ではよく泣いたものだ。
 けれど、地方のこの小さな劇団でたとえ主役になったとしても『スター』にはなれない気がした。
 テレビや映画に出て目立ちたい、有名になりたいわけではない。純粋に、どこででも通用する役者になりたかった。
 本当にそれだけ。
 少しでも上を目指したくて、大劇団が地元で開催するオーディションをいくつも受けた。
 しかし結果は全滅。結局雅の実力はその程度、だったのかもしれない。

 雅は自分でも、見た目(ルックス)はいい方だと思っている。
 ただし、どう見ても「可愛い・綺麗」より「恰好いい」と評される容姿なのもまた理解していた。身長は百七十センチで中性的な顔立ち、異性より同性に人気のあるタイプだ。

「雅には女優よりモデルの方が向いてるんじゃないかな。その気あるならちゃんとしたとこ紹介するよ」
 中学に入ってすぐの頃、劇団の演出家に言われた言葉が今も雅の耳に残っている。
 ……つまり「演技では無理。『子ども』の今はなんとかなっていても限界が来る」と遠回しに通告されたようなものだからだ。

 結局雅は、中学卒業と同時に劇団を辞めた。

 幸いなことに、雅は現役で第一志望の大学に合格できた。
 世間的な評価は間違いなく一流の大学であるし、「東京なんて……」と娘を遠くに送り出すことを渋っていた両親も「桂銘(けいめい)なら」と許してくれて上京して来た。
 寮の入居選考に通ったのも幸運だった。金銭面の負担が段違いだからだ。やはり東京は家賃が高い。
 かなり希望者が多くて激戦だ、と知っていたからこその喜びもある。北海道からというのも大きかったようだ。

「遠方出身者が優遇される」
 選考基準に明記はされていないが、過去の実績からはまことしやかに囁かれていると入寮してから聞かされた。

 実際、経済的に困窮しているわけではない雅が選ばれたのだから、あながち『噂』ではないのではないか。
 雅の実家は相対的には裕福な方だと思うが、「金が有り余っている」とは到底言えない状態だ。

 東京の大学に行かせてもらえること自体感謝しているし、少しでも親の負担を減らせた方がいいに決まっている。



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 女優になりたい。
 それが|雅《みやび》の夢だった。
 小学校低学年の頃、地元の札幌で上演された親子向けミュージカルに連れて行ってもらったのがきっかけだ。
 煌びやかな衣装で歌い踊るステージ上の役者たち。
 容姿や運動神経は並以上だとしても、「普通の子」の範疇からはみ出すことはなかった少女は、日常とはかけ離れた華やかな世界に魅了された。
 帰り道、母にずっと舞台の感想を話し続けていたという。「あたしもあんなふうになりたい!」と繰り返しながら。
 雅自身は、感動したことはともかく母への語り掛けについてはまったく覚えていないのだが。
「ぜったい途中でやめないから。何でも言うこときくからおねがい!」
「……もし投げ出したら、もう『絶対』も『一生のお願い』も二度と信用しないからね」
 毎日のように懇願されてとうとう根負けした親に、児童劇団に入れてもらうことができた。『夢』のスタートラインに立てた! と輝かしい未来への希望が心に身体に溢れていたあの日。
 それからずっとスポットライトの真下を目標に、演技はもちろん歌もダンスも必死で頑張ったのだ。
 劇団内の公演には何度も出たことはある。
 主演級とは程遠い端役だったものの、それでも雅は嬉しかった。
 矢継ぎ早に飛んでくる厳しい指摘に、応えられない自分が悔しくもあり影ではよく泣いたものだ。
 けれど、地方のこの小さな劇団でたとえ主役になったとしても『スター』にはなれない気がした。
 テレビや映画に出て目立ちたい、有名になりたいわけではない。純粋に、どこででも通用する役者になりたかった。
 本当にそれだけ。
 少しでも上を目指したくて、大劇団が地元で開催するオーディションをいくつも受けた。
 しかし結果は全滅。結局雅の実力はその程度、だったのかもしれない。
 雅は自分でも、|見た目《ルックス》はいい方だと思っている。
 ただし、どう見ても「可愛い・綺麗」より「恰好いい」と評される容姿なのもまた理解していた。身長は百七十センチで中性的な顔立ち、異性より同性に人気のあるタイプだ。
「雅には女優よりモデルの方が向いてるんじゃないかな。その気あるならちゃんとしたとこ紹介するよ」
 中学に入ってすぐの頃、劇団の演出家に言われた言葉が今も雅の耳に残っている。
 ……つまり「演技では無理。『子ども』の今はなんとかなっていても限界が来る」と遠回しに通告されたようなものだからだ。
 結局雅は、中学卒業と同時に劇団を辞めた。
 幸いなことに、雅は現役で第一志望の大学に合格できた。
 世間的な評価は間違いなく一流の大学であるし、「東京なんて……」と娘を遠くに送り出すことを渋っていた両親も「|桂銘《けいめい》なら」と許してくれて上京して来た。
 寮の入居選考に通ったのも幸運だった。金銭面の負担が段違いだからだ。やはり東京は家賃が高い。
 かなり希望者が多くて激戦だ、と知っていたからこその喜びもある。北海道からというのも大きかったようだ。
「遠方出身者が優遇される」
 選考基準に明記はされていないが、過去の実績からはまことしやかに囁かれていると入寮してから聞かされた。
 実際、経済的に困窮しているわけではない雅が選ばれたのだから、あながち『噂』ではないのではないか。
 雅の実家は相対的には裕福な方だと思うが、「金が有り余っている」とは到底言えない状態だ。
 東京の大学に行かせてもらえること自体感謝しているし、少しでも親の負担を減らせた方がいいに決まっている。