表示設定
表示設定
目次 目次




7

ー/ー



 翌日は、愛茉と一緒に藝大の大学祭へ行くことにした。

「桔平くん、体調は大丈夫?」

 電車の中で、愛茉が心配そうに顔を覗き込んでくる。
 昨日は久しぶりに外へ出たし、かなり歩いたからな。ここ数か月まともに食事ができていなかったせいで、体力は相当落ちている。そして土曜日の昼だから、どこもかしこも人が多い。普段のオレなら、うんざりしているはずだ。

 それなのに今日は、すこぶる気分がよかった。憑き物が落ちるとはこういうことなのか。

「大丈夫だよ。久しぶりに、すげぇよく寝たから」
「そうみたいだね。珍しくスッキリ起きているから、ビックリしたもん」

 今朝目が覚めると、突然大学祭のことが頭に浮かんだ。これまで一切、気にもしていなかったのにな。

 これは行けということなのかと思い、愛茉を誘ってみると、久しぶりのデートだと言って気合いを入れて支度をしていた。昨日鎌倉へ行ったのは、デートではなかったのか。基準がよく分からないが、この屈託のない笑顔を見ていると、それだけで気力が湧いてきた。

 気がついたら6月14日も過ぎていて、記念日になにもしてやれなかったしな。埋め合わせは、これからしっかりしていかなければならない。

「私ね、腕組むよりも、手つなぐほうが好きなんだ。ていうか、桔平くんの手が好きすぎるんだよね」

 電車を降りて学校まで歩いていると、愛茉が突然言った。どうしてなんの脈絡もなく、そういう発言をするんだよ。

「すごいよね。この手」
「なにが?」
「だって、ものすごーく綺麗な世界を生み出すでしょ。魔法の手だよ」

 子供みたいな表現なのに、愛茉から言われると妙にくすぐったい。そういえばオレも子供のころは、父さんの手を見て同じことを思っていたな。

 ずっと見続けていた大きい手。我ながら似てきたと感じる。少し骨ばっていて、指が長い。こういうところも、しっかり遺伝しているようだ。
 オレも父さんのような父親になれるのだろうか。なぜかふと、そんな想いが頭をよぎった。

「相変わらず、すごい規模だね。ワクワクしてくるー!」

 ずらりと並んだ露店を見て、愛茉が声を上げた。

 上野公園内では、例年通りアートマーケットが開催されている。藝大生が自分の作品を出品しているわけだが、学生とは思えないほどクオリティが高い物ばかりだ。
 愛茉が初めて大学祭へ来たときに買った夫婦茶碗も、丈夫で使い勝手がいいので、ほとんど毎日のように活躍していた。

「藝大って、やっぱりなんか独特だよね。ほかの大学とは全然違うなぁって思う」
「まぁな。祭りに対する熱がすげぇんだよ」
 
 藝大の大学祭は、他校と比べて学生たちの気合いが凄まじい。展示やパフォーマンス、そして模擬店にも、毎年相当力を注ぎこんでいる。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 8


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 翌日は、愛茉と一緒に藝大の大学祭へ行くことにした。
「桔平くん、体調は大丈夫?」
 電車の中で、愛茉が心配そうに顔を覗き込んでくる。
 昨日は久しぶりに外へ出たし、かなり歩いたからな。ここ数か月まともに食事ができていなかったせいで、体力は相当落ちている。そして土曜日の昼だから、どこもかしこも人が多い。普段のオレなら、うんざりしているはずだ。
 それなのに今日は、すこぶる気分がよかった。憑き物が落ちるとはこういうことなのか。
「大丈夫だよ。久しぶりに、すげぇよく寝たから」
「そうみたいだね。珍しくスッキリ起きているから、ビックリしたもん」
 今朝目が覚めると、突然大学祭のことが頭に浮かんだ。これまで一切、気にもしていなかったのにな。
 これは行けということなのかと思い、愛茉を誘ってみると、久しぶりのデートだと言って気合いを入れて支度をしていた。昨日鎌倉へ行ったのは、デートではなかったのか。基準がよく分からないが、この屈託のない笑顔を見ていると、それだけで気力が湧いてきた。
 気がついたら6月14日も過ぎていて、記念日になにもしてやれなかったしな。埋め合わせは、これからしっかりしていかなければならない。
「私ね、腕組むよりも、手つなぐほうが好きなんだ。ていうか、桔平くんの手が好きすぎるんだよね」
 電車を降りて学校まで歩いていると、愛茉が突然言った。どうしてなんの脈絡もなく、そういう発言をするんだよ。
「すごいよね。この手」
「なにが?」
「だって、ものすごーく綺麗な世界を生み出すでしょ。魔法の手だよ」
 子供みたいな表現なのに、愛茉から言われると妙にくすぐったい。そういえばオレも子供のころは、父さんの手を見て同じことを思っていたな。
 ずっと見続けていた大きい手。我ながら似てきたと感じる。少し骨ばっていて、指が長い。こういうところも、しっかり遺伝しているようだ。
 オレも父さんのような父親になれるのだろうか。なぜかふと、そんな想いが頭をよぎった。
「相変わらず、すごい規模だね。ワクワクしてくるー!」
 ずらりと並んだ露店を見て、愛茉が声を上げた。
 上野公園内では、例年通りアートマーケットが開催されている。藝大生が自分の作品を出品しているわけだが、学生とは思えないほどクオリティが高い物ばかりだ。
 愛茉が初めて大学祭へ来たときに買った夫婦茶碗も、丈夫で使い勝手がいいので、ほとんど毎日のように活躍していた。
「藝大って、やっぱりなんか独特だよね。ほかの大学とは全然違うなぁって思う」
「まぁな。祭りに対する熱がすげぇんだよ」
 藝大の大学祭は、他校と比べて学生たちの気合いが凄まじい。展示やパフォーマンス、そして模擬店にも、毎年相当力を注ぎこんでいる。