第4話

ー/ー



「これから……どうします?」

ジン亡き後、宿の親切もあり、泊まることにした二人。

しかし、この世界に来て日が浅いコウルと、記憶喪失のエイリーン。

カーズを追う。目標は明確だが、まずどうすればいいかわからない。

「そうだ……。ジンさんの荷物」

部屋に運んでもらったジンの荷物。大きめの革袋。コウルはそれを開け、中身を確認する。

食料、地図。コウルは初めて見るこの世界のお金。そして――。

「うん?」

「なにかありましたか?」

コウルは袋の奥から手紙のような物を取り出す。

それには『コウルくん。エイリーンちゃんへ』と書いてあった。

「ジンさんいつの間に手紙なんか……」

「そういえばこの前の夜、何か書いているのを見ました。これだったのかもしれません」

コウルは封を開け、手紙を読む。



『コウルくん。エイリーンちゃん。この手紙を読んでいるということは、私に何かあったのだろう。

志半ばで倒れるわけにはいかないと思ってはいるが、この手紙を残しておくよ。

まず、何をすればいいかわからない時は、どの町でもいい。酒場に行き『マスター』に会いたいと頼むんだ。

ああ、酒場のマスターのことではないよ。『マスター』という名前だ。その人ならきみたちがどうすればいいか導いてくれるはずだ。

すまないね、私はきみたちに目的を押し付けているだろう。でもこれからはきみたちの旅だ。

きみたちの生き方をして構わない。健闘を祈っているよ。ジンより』



「ジンさん……」

コウルは手紙をそっと閉じ、再び袋にしまう。

「マスター様という方にお会いすればいいみたいですね」

「うん」

二人は宿の主人に酒場の場所を聞くと、さっそく向かうことにした。

夕方の酒場には、人が集いワイワイと酒を飲んでいる。町人から冒険者らしき人まで様々だ。

そんな中に若干場違いなコウルとエイリーン。

二人は緊張しながら、酒場のカウンターに向かいマスターの前に座る。

「ご注文は?」

「あ、えっとミルク?」

周りからかすかに笑いが聞こえて、コウルは恥ずかしくなったが、

酒場のマスターは気にせずコウルとエイリーンの前にミルクを差し出した。

二人はそれをゆっくり飲むと、話を切り出す。

「ええと……マスター。『マスター』さんをお願いしたいんですが……」

それを聞いても酒場のマスターは表情ひとつ変えず小声で「明日の朝また来なさい」と言った。

二人はそれを聞くと、手間取りながらミルクの代金を払い、酒場を後にする。

「明日会える……のでしょうか?」

「すぐに来れるとは思えないけど……」

宿に戻りながら二人は考える。いきなり頼んですぐに次の日の朝に会えるのだろうかと。

しかし明日来るように言われた以上、コウルたちはそうするしかない。



「すー……すー……」

「……」

エイリーンの穏やかな寝息が聞こえる中、コウルは眠れずにいた。

最初、ジンのことを考えていたのもあるが――。

(よく考えたら、ジンさんがいなくなって、エイリーンさんと二人きりなんだよな……)

コウルの中で途端に恥ずかしさが湧いてくる。女の子と二人きりそして――。

(可愛い……)

コウルは改めてエイリーンを眺める。

流れるような銀の髪。美しい白い肌。輝く瞳。その全てがコウルを眠れなくする。

(うん? ……瞳?)

コウルは気づく。エイリーンが寝てるのに何故瞳が見えているのか。

「コウル様?」

「!?!?」

エイリーンが目を覚ましコウルの方を見ている。コウルは驚いてべッドから転がり落ちた。

「だ、大丈夫ですか!?」

エイリーンがコウルに駆け寄る。コウルが起き上がると、エイリーンと目が合った。

「目が覚めたら、コウル様がこちらを見ていらしたので、何かあったかと思いまして……。驚かせてしまったのなら申し訳ありません」

コウルは逆に見られていたことが恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。

「な、何でもないよ! おやすみ!」

それを隠すようにコウルはベッドに飛び込むと布団をかぶった。

「コウル様……?」

その様子をエイリーンは不思議そうに見る。

しかしコウル、そしてエイリーン自身も気づいていなかった。彼女も顔が赤くなっていたことに。



翌日、二人は朝早く酒場の前に立つ。

(……わりと普通に寝れてしまった)

あの後、コウルは布団の中ですぐに眠りに落ちていた。

アンデッドたちとの戦いの疲れもあったが、コウルはもともとよく寝れる体質であった。

「では、入りましょう?」

「うん」

ノックをすると「どうぞ」と声がする。しかし昨日の酒場のマスターの声ではない。

そっと扉を開け、店内に入ると、酒場のマスターがいるべき場所に別の男が立っていた。

長身ですらっとした見た目。サングラスに近い眼鏡。左手はケガをしているのか包帯で包まれている。

「はじめまして。コウル、エイリーン」

入り口で様子を伺う二人に、男は声をかける。

「あなたが、マスターさん?」

「マスターで構わない」

二人に向かってほほ笑むその表情に、怪しいところはないと感じ近づく。

「ジンのことは残念だった」

「えっ」

ジンが亡くなったのは昨日。そのことを既に知っていることにコウルは驚いた。

「人の死は、魔力の大きな流れになる。それを知ればわかることさ」

「はあ……」

魔力は人が誰しも持つ。それはジンから聞いていた。

しかし、魔力の大きな流れはコウルにはわからない。

「えっと、僕たちはこれからどうすればいいのでしょうか?」

コウルは単刀直入に聞く。

するとマスターは、いきなり眼鏡を外すと二人をじっと見分し始めた。

「あの……?」

コウルとエイリーンは戸惑う。

だが気にせずにマスターは見定め続けると、数分し、ようやく眼鏡をかけなおした。

「すまなかったね」

「い、いえ」

数分も眺められて少し驚いてはいたが、二人はジンが紹介したこの人の言葉に従うと決めていた。

「さて、コウル。エイリーン。ジンの志を継ぎ、カーズを止めるならば、君たちの大きな目標は二つ。

一つ、コウル、君は東に向かい、迷いの森に行きなさい。ある男が君に力を授けてくれる。

二つ、エイリーン、君は世界の中心、神の塔へ向かいなさい。君の記憶を取り戻す術がある」

「迷いの森……」

「神の……塔」

二人はそれぞれに言われた場所を呟く。それぞれの目標地を。

「では、健闘を祈る」

「えっ」

するとマスターは一瞬でその姿を消した。

すると店の奥から「終わりましたか」と声がし、酒場のマスターが出てきた。

「マスターさんは?」

「もう行かれました。あの方も忙しい身。これ以上はご容赦を」

そう言われては、二人は何も言い返せない。仕方なく宿に戻ることにした。



「さて……」

そう言ったコウルと、横にいたエイリーンが振り向き同時に聞いた。

「エイリーンさんの場所から行く?」

「コウル様の場所から行きます?」

視線が交わる。二人は照れつつ視線を逸らす。

「先にそっちに」

「いえコウル様の方に」

二人は言い合うが互いに譲らない。

「じゃあ、くじで!」

最初はじゃんけんにしようと言ったコウルだったが、エイリーンがじゃんけんを知らなかったのでくじにすることに。

紐の片方を赤く塗り、適当に混ぜ引く。赤を引いた方が決定する。

「あっ」

エイリーンが赤を引く。コウルは俯き「そういえばくじ運なかった」とつぶやいた。

「では――」

「わかったよ。じゃあ、いざ迷いの森へ!」

コウルとエイリーンは手を上げ宣言するのだった。


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「これから……どうします?」
ジン亡き後、宿の親切もあり、泊まることにした二人。
しかし、この世界に来て日が浅いコウルと、記憶喪失のエイリーン。
カーズを追う。目標は明確だが、まずどうすればいいかわからない。
「そうだ……。ジンさんの荷物」
部屋に運んでもらったジンの荷物。大きめの革袋。コウルはそれを開け、中身を確認する。
食料、地図。コウルは初めて見るこの世界のお金。そして――。
「うん?」
「なにかありましたか?」
コウルは袋の奥から手紙のような物を取り出す。
それには『コウルくん。エイリーンちゃんへ』と書いてあった。
「ジンさんいつの間に手紙なんか……」
「そういえばこの前の夜、何か書いているのを見ました。これだったのかもしれません」
コウルは封を開け、手紙を読む。
『コウルくん。エイリーンちゃん。この手紙を読んでいるということは、私に何かあったのだろう。
志半ばで倒れるわけにはいかないと思ってはいるが、この手紙を残しておくよ。
まず、何をすればいいかわからない時は、どの町でもいい。酒場に行き『マスター』に会いたいと頼むんだ。
ああ、酒場のマスターのことではないよ。『マスター』という名前だ。その人ならきみたちがどうすればいいか導いてくれるはずだ。
すまないね、私はきみたちに目的を押し付けているだろう。でもこれからはきみたちの旅だ。
きみたちの生き方をして構わない。健闘を祈っているよ。ジンより』
「ジンさん……」
コウルは手紙をそっと閉じ、再び袋にしまう。
「マスター様という方にお会いすればいいみたいですね」
「うん」
二人は宿の主人に酒場の場所を聞くと、さっそく向かうことにした。
夕方の酒場には、人が集いワイワイと酒を飲んでいる。町人から冒険者らしき人まで様々だ。
そんな中に若干場違いなコウルとエイリーン。
二人は緊張しながら、酒場のカウンターに向かいマスターの前に座る。
「ご注文は?」
「あ、えっとミルク?」
周りからかすかに笑いが聞こえて、コウルは恥ずかしくなったが、
酒場のマスターは気にせずコウルとエイリーンの前にミルクを差し出した。
二人はそれをゆっくり飲むと、話を切り出す。
「ええと……マスター。『マスター』さんをお願いしたいんですが……」
それを聞いても酒場のマスターは表情ひとつ変えず小声で「明日の朝また来なさい」と言った。
二人はそれを聞くと、手間取りながらミルクの代金を払い、酒場を後にする。
「明日会える……のでしょうか?」
「すぐに来れるとは思えないけど……」
宿に戻りながら二人は考える。いきなり頼んですぐに次の日の朝に会えるのだろうかと。
しかし明日来るように言われた以上、コウルたちはそうするしかない。
「すー……すー……」
「……」
エイリーンの穏やかな寝息が聞こえる中、コウルは眠れずにいた。
最初、ジンのことを考えていたのもあるが――。
(よく考えたら、ジンさんがいなくなって、エイリーンさんと二人きりなんだよな……)
コウルの中で途端に恥ずかしさが湧いてくる。女の子と二人きりそして――。
(可愛い……)
コウルは改めてエイリーンを眺める。
流れるような銀の髪。美しい白い肌。輝く瞳。その全てがコウルを眠れなくする。
(うん? ……瞳?)
コウルは気づく。エイリーンが寝てるのに何故瞳が見えているのか。
「コウル様?」
「!?!?」
エイリーンが目を覚ましコウルの方を見ている。コウルは驚いてべッドから転がり落ちた。
「だ、大丈夫ですか!?」
エイリーンがコウルに駆け寄る。コウルが起き上がると、エイリーンと目が合った。
「目が覚めたら、コウル様がこちらを見ていらしたので、何かあったかと思いまして……。驚かせてしまったのなら申し訳ありません」
コウルは逆に見られていたことが恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。
「な、何でもないよ! おやすみ!」
それを隠すようにコウルはベッドに飛び込むと布団をかぶった。
「コウル様……?」
その様子をエイリーンは不思議そうに見る。
しかしコウル、そしてエイリーン自身も気づいていなかった。彼女も顔が赤くなっていたことに。
翌日、二人は朝早く酒場の前に立つ。
(……わりと普通に寝れてしまった)
あの後、コウルは布団の中ですぐに眠りに落ちていた。
アンデッドたちとの戦いの疲れもあったが、コウルはもともとよく寝れる体質であった。
「では、入りましょう?」
「うん」
ノックをすると「どうぞ」と声がする。しかし昨日の酒場のマスターの声ではない。
そっと扉を開け、店内に入ると、酒場のマスターがいるべき場所に別の男が立っていた。
長身ですらっとした見た目。サングラスに近い眼鏡。左手はケガをしているのか包帯で包まれている。
「はじめまして。コウル、エイリーン」
入り口で様子を伺う二人に、男は声をかける。
「あなたが、マスターさん?」
「マスターで構わない」
二人に向かってほほ笑むその表情に、怪しいところはないと感じ近づく。
「ジンのことは残念だった」
「えっ」
ジンが亡くなったのは昨日。そのことを既に知っていることにコウルは驚いた。
「人の死は、魔力の大きな流れになる。それを知ればわかることさ」
「はあ……」
魔力は人が誰しも持つ。それはジンから聞いていた。
しかし、魔力の大きな流れはコウルにはわからない。
「えっと、僕たちはこれからどうすればいいのでしょうか?」
コウルは単刀直入に聞く。
するとマスターは、いきなり眼鏡を外すと二人をじっと見分し始めた。
「あの……?」
コウルとエイリーンは戸惑う。
だが気にせずにマスターは見定め続けると、数分し、ようやく眼鏡をかけなおした。
「すまなかったね」
「い、いえ」
数分も眺められて少し驚いてはいたが、二人はジンが紹介したこの人の言葉に従うと決めていた。
「さて、コウル。エイリーン。ジンの志を継ぎ、カーズを止めるならば、君たちの大きな目標は二つ。
一つ、コウル、君は東に向かい、迷いの森に行きなさい。ある男が君に力を授けてくれる。
二つ、エイリーン、君は世界の中心、神の塔へ向かいなさい。君の記憶を取り戻す術がある」
「迷いの森……」
「神の……塔」
二人はそれぞれに言われた場所を呟く。それぞれの目標地を。
「では、健闘を祈る」
「えっ」
するとマスターは一瞬でその姿を消した。
すると店の奥から「終わりましたか」と声がし、酒場のマスターが出てきた。
「マスターさんは?」
「もう行かれました。あの方も忙しい身。これ以上はご容赦を」
そう言われては、二人は何も言い返せない。仕方なく宿に戻ることにした。
「さて……」
そう言ったコウルと、横にいたエイリーンが振り向き同時に聞いた。
「エイリーンさんの場所から行く?」
「コウル様の場所から行きます?」
視線が交わる。二人は照れつつ視線を逸らす。
「先にそっちに」
「いえコウル様の方に」
二人は言い合うが互いに譲らない。
「じゃあ、くじで!」
最初はじゃんけんにしようと言ったコウルだったが、エイリーンがじゃんけんを知らなかったのでくじにすることに。
紐の片方を赤く塗り、適当に混ぜ引く。赤を引いた方が決定する。
「あっ」
エイリーンが赤を引く。コウルは俯き「そういえばくじ運なかった」とつぶやいた。
「では――」
「わかったよ。じゃあ、いざ迷いの森へ!」
コウルとエイリーンは手を上げ宣言するのだった。