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第七十一話

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 デバイスにそれぞれ、戦闘時以外の休息をとる場として設けられたのは、一つの区を丸々利用した仮設休憩所。お互い、その場所は明かされていない。英雄サイドの仮説休憩所が設けられた場所は大田区全体である。
 仮想フィールドのため、区をまたぐ境目全域に、現実にはあり得ないほどのメカニカルな城壁が聳え立つ。扉の傍には、監視カメラとそれに付随する形でご立派なガトリングガンが備え付けられている。
 それに城壁と城門は、並大抵の火力が高い攻撃だろうと簡単には壊れないようになっている。一番の馬鹿力である学園長だったら……壊れる。
 デバイスを認証し、硬い城門がゆっくりと開く。その間も銃口とカメラはこちらを向いている。エヴァは酷く気分が悪そうであった。
「……エヴァちゃん、大丈夫?」
「――心配ご無用です……ありがとうございます礼安女神」
 女神と呼ばれ、口角が緩みまんざらでもない表情だった礼安。その間も扉を開くのを待つばかり。
「――大分ゆっくりだね?」
「まあそこんところもアノ人考えてんでしょ。大凡五分くらい、ってところか。その間に英雄以外か無理やりこっち側の人間が入り込もうもんなら、扉脇のご立派なもので門番直々におしおき、って流れだろうねん。俺っちが築城した人間ならそうする」
 ようやく開ききったのは、きっかり五分後。最強格六人が、特権など何もなしにようやく壁の向こう側に入り込めた。
 壁の向こう側では、無人の大田区の街並みに、英雄の卵たちの営みが広がっていた。礼安たちの来訪を見やるも、特にこれと言ったアクションはしない。裏切るにもタイミングがあるのか、実に挙動不審な人物ばかり。
 そんな英雄の卵たちに肝を冷やしながらも、礼安たちは割り振られた休憩施設の方へ向かうのだった。
 大田区は、旧大森区と旧蒲田区が、昭和二十二年に合併し誕生した区である。日本有数の高級住宅地である田園調布、山王に代表される住宅都市の一面や、東部の臨海部や多摩区沿いは、京浜工業地帯に含まれる工業都市であり、町企業が集積する日本を代表する中小企業の街である。
 故に、現在生存している英雄や武器たちにとっては、非常に居心地のいい場所そのもの。
 礼安たち六人をはじめとして、皆にあてがわれたのは、当然と言わんばかりの田園調布の高級住宅。ただし、エリア急造でそこまで数は用意できなかったのか、三から四タッグで一棟、といった具合で用意された。
 礼安たちが家に足を踏み入れたと同時に、二年次三人は部屋中を索敵。信玄は超聴覚、丙良は振動|《ソナー》、エヴァは電気信号。盗聴器の類もケアできる、有力な布陣である。
 結果、何も仕掛けられていないことが判明したため、二年次三人は静かに笑んで頷いた。それぞれが、しっかりと羽を伸ばせる完全空間と相成った。
「あーようやく休憩できる……割かしぶっ通しで礼安っちと一緒に走りこんだから……とにかく風呂入りてェ……」
「奇遇だね、僕もだよ……」
 疲労が目に見えていた丙良達と打って変わって、女子四人は部屋決めで楽しそうに騒いでいた。
「私この部屋がいい! 一緒の部屋になりたい人ー!」
「礼安のお世話は私しかできませんの!」
「……俺が立候補しようかな。ガキンチョたちも世話してきたしよ」
「不肖ながら私エヴァが立候補させていただきます!!」
 まさに、百合の花園。色んな騒動があった中でも、凛々しく咲き誇っている。いつしか、暗い表情だったエヴァの表情は、武器を目の前にした『いつも』のように、明るくなっていた。
「じじ臭い感じになっちゃうけど……女子同士楽しそうでいいねェ。学園長の思惑もあっただろうが……俺と組むことになっちまって申し訳ねえなァ」
「――多分、礼安さんが軸となって盛り上げているんだろうね。先ほどのエヴァさんの表情や雰囲気を、無意識に感じ取った結果だと思うよ」
「――なに、礼安っちってエスパーかなんかの類?? あの子ベース『雷』よな??」
「ある意味ね。男同士、裸の付き合い中にでも、信玄にさっくり話しておくよ」
 女子四人が楽しそうに部屋決めを行っていたため、四人に許可を取って男二人きりの相風呂の時間が生まれることとなった。

 風呂場は、実に広い。しかも、これが男湯女湯と、二つに増設されているのが末恐ろしい。ただ、急造した結果なのか、壁が些か薄め。ある程度割り切るとして、それ以上に誇れる部分が存在する。いくら男二人が使うとはいえ、圧倒的に余分なスペースが生まれるほどに広い。噴射する水の形がいくつも変わるシャワー四つ、人が四人入ったとしても余裕が生まれるほどの浴槽、清潔感溢れる白一色の風呂場であった。裏を返せば、生活感ゼロである。
「――お、慎ちゃん……久々に全身見たけど結構筋肉鍛えた? 大分ごつくなったな」
「まあね、最近鍛えざるを得ない状況が立て続いててね……信玄も相変わらずだね」
 なぜかその丙良の発言にムッとしつつも、二人仲良く一糸まとわぬ全裸になった。その後二人して腰にタオルをずり落ちないよう巻く。お互いメディア露出もしている身なため、この立ち居振る舞いがスタンダードとなっていた。
 あらかじめ浴槽には湯を貯めておいたため、準備は万全。しかし二人とも選んだのは、汗をかいた体をしっかり労わることであった。
 椅子を横に並べ、シャワーを流しながらシャンプーを頭で乱暴に泡立てる。
「――そいやさ。さっき言ってたけど……礼安っちって本当にエスパーかなんか? 感情一つでそのために動けるとか……俺っちもある程度表情から読めはするけど……あそこまでじゃあねぇよ?」
「……まあ、これに関しては彼女の過去に起因するんだ」
 頭が疑似的なアフロ状態になったすぐあと、全てシャワーで洗い流し、二人ともリンスに手をかける。シャワーを止めたため、水滴が落ちる音と二人の息遣い、それに楽しそうに着替える女子陣の声以外聞こえていない。
「――んなプライベートなこと、俺っちに喋っちゃっていいの?」
「礼安ちゃんには『信頼できる人にだけ話していい』とは言われているから……でも他言無用で頼むよ」
 丙良の口から語られるのは、礼安がかつて壮絶なレベルでいじめられていた時のこと。それに母親を早くに亡くしていること。未だ痛々しい傷跡が残る中で、それでも尚一般人の平和を守るために、『最高の英雄|《ヒーロー》』となるため邁進していること。
「――だからこそ、あの子は人の心の内が読み取れる。第六感のようなもので、ぼんやりと感情が色で読み取れるようなものだけどね」
 一通り聞き終わった信玄の表情は、怒りに満ちていた。目が座り、自分のことでもないのに歯を食いしばっていた。
「何で、そこまでして……クズのために命を張るなんて選択ができるんだよ。人として出来過ぎて逆に薄気味悪いぜ、全くよ」
「……彼女の心の芯にあるのは、大好きなお母さんからの教えを忠実に守る『義の心』が備わっているんだ。亡くなったお母さんの教え、そして当時は英雄として活動していたお父さん……不破学園長の後姿を見て来たからこそだろうね」
 勇敢な父と、誠実な母。両親の教えを無駄にしないための、自分を顧みない行動の数々である。
「――それに。入学前から関わっている僕だからわかるけど……あの子、誰かの笑顔が心の底から好きなんだろうね。プライスレスなものに心惹かれるのか、欲の根源にまつわる、詳しいことはよく分からないけどね」
「だからこその、エヴァっちへのあの対応か――」
 暗い表情を見せた彼女への、精一杯の優しさ。なるべく多くの人が笑っていられる、そんな世界こそが、彼女の望みなのかもしれない。
 故の、遠くの方で聞こえる声が、彼女が現在進行形で楽しませている証なのかもしれない。
(わぁ、すっごいおっぱい大きいねエヴァちゃん! 私も結構あるって言われているっぽいけど、負けちゃうよ! すっごいえっちだよ!)
(ああ礼安さん!! 駄目ですそのどたぷんダイナマイトバディは!! まさにボンキュッボンを人間で表すならまさにこれですよ!! 不肖エヴァ・クリストフ十六歳、同性の一糸まとわぬ美しすぎる裸で鼻血出ます!!)
(ここで鼻血出さないでくださいましエヴァ先輩!! 礼安の体に虜にならず私の体で我慢してくださいまし!! 礼安とは違い胸はあまり無いですが!! 礼安の体のお世話は私の役目ですの!!)
(ああいけません院さん!! 院さんも礼安さんに引けを取らないほどの、均整の取れたナイスバディ!! 皆して私を興奮させて『ナニ』させるつもりですか!? 貧血になりますよ私!?)
(――俺、自信あるの筋肉くらいか……?)
(んなわけありませんよ透さん!! 海外モデルのような、無駄のない体脂肪率低めのスレンダーボディ、最高じゃあないですか!! 私筋肉女子に目覚めてしまいそうですハイ今目覚めました!!)
 実に模範的破廉恥|《ラッキースケベ》シチュエーション。よくアニメやゲームで聞こえてくるような、女風呂から聞こえてくる声。先ほどまで、真剣な話をしていたのにも拘らず、二人して悶々とした空気に。
「――よお、慎ちゃん。俺っち……体洗うって工程が残っているわけだが……その後数分くらい椅子から立ち上がれなさそうなんだけど」
「――奇遇だね、こんな模範的なシチュエーションに、僕が実際に立ち会うことになるとは思えなくて……何だか向こうから聞こえる声が、結構艶っぽい雰囲気になってきたってのも相まって……僕も十分くらい立ち上がれなさそうだよ、仲良しだね」
 丙良の言う通り、先ほどまで修学旅行の女風呂のような楽しそうな声しか聞こえなかったのにも拘らず、今聞こえてくるのは先ほどよりも、多種多様な『色』に満ちた声ばかり。思ったよりも、風呂同士の壁が薄いことを認識した瞬間であった。
((――後で一人きりになれる場所に行くか……))
 静かに体を洗いながら、入学時からの仲である二人の思考が、完全一致した瞬間であった。



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 仮想フィールドのため、区をまたぐ境目全域に、現実にはあり得ないほどのメカニカルな城壁が聳え立つ。扉の傍には、監視カメラとそれに付随する形でご立派なガトリングガンが備え付けられている。
 それに城壁と城門は、並大抵の火力が高い攻撃だろうと簡単には壊れないようになっている。一番の馬鹿力である学園長だったら……壊れる。
 デバイスを認証し、硬い城門がゆっくりと開く。その間も銃口とカメラはこちらを向いている。エヴァは酷く気分が悪そうであった。
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 そんな英雄の卵たちに肝を冷やしながらも、礼安たちは割り振られた休憩施設の方へ向かうのだった。
 大田区は、旧大森区と旧蒲田区が、昭和二十二年に合併し誕生した区である。日本有数の高級住宅地である田園調布、山王に代表される住宅都市の一面や、東部の臨海部や多摩区沿いは、京浜工業地帯に含まれる工業都市であり、町企業が集積する日本を代表する中小企業の街である。
 故に、現在生存している英雄や武器たちにとっては、非常に居心地のいい場所そのもの。
 礼安たち六人をはじめとして、皆にあてがわれたのは、当然と言わんばかりの田園調布の高級住宅。ただし、エリア急造でそこまで数は用意できなかったのか、三から四タッグで一棟、といった具合で用意された。
 礼安たちが家に足を踏み入れたと同時に、二年次三人は部屋中を索敵。信玄は超聴覚、丙良は振動|《ソナー》、エヴァは電気信号。盗聴器の類もケアできる、有力な布陣である。
 結果、何も仕掛けられていないことが判明したため、二年次三人は静かに笑んで頷いた。それぞれが、しっかりと羽を伸ばせる完全空間と相成った。
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「不肖ながら私エヴァが立候補させていただきます!!」
 まさに、百合の花園。色んな騒動があった中でも、凛々しく咲き誇っている。いつしか、暗い表情だったエヴァの表情は、武器を目の前にした『いつも』のように、明るくなっていた。
「じじ臭い感じになっちゃうけど……女子同士楽しそうでいいねェ。学園長の思惑もあっただろうが……俺と組むことになっちまって申し訳ねえなァ」
「――多分、礼安さんが軸となって盛り上げているんだろうね。先ほどのエヴァさんの表情や雰囲気を、無意識に感じ取った結果だと思うよ」
「――なに、礼安っちってエスパーかなんかの類?? あの子ベース『雷』よな??」
「ある意味ね。男同士、裸の付き合い中にでも、信玄にさっくり話しておくよ」
 女子四人が楽しそうに部屋決めを行っていたため、四人に許可を取って男二人きりの相風呂の時間が生まれることとなった。
 風呂場は、実に広い。しかも、これが男湯女湯と、二つに増設されているのが末恐ろしい。ただ、急造した結果なのか、壁が些か薄め。ある程度割り切るとして、それ以上に誇れる部分が存在する。いくら男二人が使うとはいえ、圧倒的に余分なスペースが生まれるほどに広い。噴射する水の形がいくつも変わるシャワー四つ、人が四人入ったとしても余裕が生まれるほどの浴槽、清潔感溢れる白一色の風呂場であった。裏を返せば、生活感ゼロである。
「――お、慎ちゃん……久々に全身見たけど結構筋肉鍛えた? 大分ごつくなったな」
「まあね、最近鍛えざるを得ない状況が立て続いててね……信玄も相変わらずだね」
 なぜかその丙良の発言にムッとしつつも、二人仲良く一糸まとわぬ全裸になった。その後二人して腰にタオルをずり落ちないよう巻く。お互いメディア露出もしている身なため、この立ち居振る舞いがスタンダードとなっていた。
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 頭が疑似的なアフロ状態になったすぐあと、全てシャワーで洗い流し、二人ともリンスに手をかける。シャワーを止めたため、水滴が落ちる音と二人の息遣い、それに楽しそうに着替える女子陣の声以外聞こえていない。
「――んなプライベートなこと、俺っちに喋っちゃっていいの?」
「礼安ちゃんには『信頼できる人にだけ話していい』とは言われているから……でも他言無用で頼むよ」
 丙良の口から語られるのは、礼安がかつて壮絶なレベルでいじめられていた時のこと。それに母親を早くに亡くしていること。未だ痛々しい傷跡が残る中で、それでも尚一般人の平和を守るために、『最高の英雄|《ヒーロー》』となるため邁進していること。
「――だからこそ、あの子は人の心の内が読み取れる。第六感のようなもので、ぼんやりと感情が色で読み取れるようなものだけどね」
 一通り聞き終わった信玄の表情は、怒りに満ちていた。目が座り、自分のことでもないのに歯を食いしばっていた。
「何で、そこまでして……クズのために命を張るなんて選択ができるんだよ。人として出来過ぎて逆に薄気味悪いぜ、全くよ」
「……彼女の心の芯にあるのは、大好きなお母さんからの教えを忠実に守る『義の心』が備わっているんだ。亡くなったお母さんの教え、そして当時は英雄として活動していたお父さん……不破学園長の後姿を見て来たからこそだろうね」
 勇敢な父と、誠実な母。両親の教えを無駄にしないための、自分を顧みない行動の数々である。
「――それに。入学前から関わっている僕だからわかるけど……あの子、誰かの笑顔が心の底から好きなんだろうね。プライスレスなものに心惹かれるのか、欲の根源にまつわる、詳しいことはよく分からないけどね」
「だからこその、エヴァっちへのあの対応か――」
 暗い表情を見せた彼女への、精一杯の優しさ。なるべく多くの人が笑っていられる、そんな世界こそが、彼女の望みなのかもしれない。
 故の、遠くの方で聞こえる声が、彼女が現在進行形で楽しませている証なのかもしれない。
(わぁ、すっごいおっぱい大きいねエヴァちゃん! 私も結構あるって言われているっぽいけど、負けちゃうよ! すっごいえっちだよ!)
(ああ礼安さん!! 駄目ですそのどたぷんダイナマイトバディは!! まさにボンキュッボンを人間で表すならまさにこれですよ!! 不肖エヴァ・クリストフ十六歳、同性の一糸まとわぬ美しすぎる裸で鼻血出ます!!)
(ここで鼻血出さないでくださいましエヴァ先輩!! 礼安の体に虜にならず私の体で我慢してくださいまし!! 礼安とは違い胸はあまり無いですが!! 礼安の体のお世話は私の役目ですの!!)
(ああいけません院さん!! 院さんも礼安さんに引けを取らないほどの、均整の取れたナイスバディ!! 皆して私を興奮させて『ナニ』させるつもりですか!? 貧血になりますよ私!?)
(――俺、自信あるの筋肉くらいか……?)
(んなわけありませんよ透さん!! 海外モデルのような、無駄のない体脂肪率低めのスレンダーボディ、最高じゃあないですか!! 私筋肉女子に目覚めてしまいそうですハイ今目覚めました!!)
 実に模範的破廉恥|《ラッキースケベ》シチュエーション。よくアニメやゲームで聞こえてくるような、女風呂から聞こえてくる声。先ほどまで、真剣な話をしていたのにも拘らず、二人して悶々とした空気に。
「――よお、慎ちゃん。俺っち……体洗うって工程が残っているわけだが……その後数分くらい椅子から立ち上がれなさそうなんだけど」
「――奇遇だね、こんな模範的なシチュエーションに、僕が実際に立ち会うことになるとは思えなくて……何だか向こうから聞こえる声が、結構艶っぽい雰囲気になってきたってのも相まって……僕も十分くらい立ち上がれなさそうだよ、仲良しだね」
 丙良の言う通り、先ほどまで修学旅行の女風呂のような楽しそうな声しか聞こえなかったのにも拘らず、今聞こえてくるのは先ほどよりも、多種多様な『色』に満ちた声ばかり。思ったよりも、風呂同士の壁が薄いことを認識した瞬間であった。
((――後で一人きりになれる場所に行くか……))
 静かに体を洗いながら、入学時からの仲である二人の思考が、完全一致した瞬間であった。