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第1章〜彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず〜⑨

ー/ー



 9月5日(金)

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 バスケ部 退部問題で会見
 ============

 男子バスケットボール部の荏原(えばら)副部長が、僕らの取材を受けるかたちで会見を開いた翌日の一宮(いちのみや)新聞には、こんな見出しが踊った。

 最初は、『男子バスケ部副部長 部員の退部問題を受け会見』という見出し案だったんだけど、

「一面の見出しは、11文字以内が鉄則! こんなの新聞部の常識でしょ!?」

というOGの一言により、文字数を削りに削って、この文言に落ち着いたのだ。
 いつも、校内の行事や大会で活躍しているクラブの活動を取材して記事や映像にしていた僕たち現役部員にとって、学校内の問題や事件を記事にするのは、初めてのことだったので、不慣れなことも多かった。

 そこで、経験豊富なケイコ先輩に、多くの助言をもらうことになった。前日のバスケ部副部長の会見内容を上手くまとめることができたのも、先輩の助けによるところが大きい。

「先輩、受験を控えた時期なのに、すみません」

 ミコちゃんが、申し訳なさそうに謝ると、ケイコ先輩は断言する。

「大丈夫だって! 私には、推薦入試という強い味方がついてるからね!」

 実際、僕らに惜しみなくアドバイスをくれる上級生は、首都圏の有名私立大学の自己推薦条件である、

『学芸・スポーツ・生徒会活動・資格取得・社会活動等の実績者。欠席日数45日以内。指定英語検定で所定の成績を有する者』

という受験資格と条件を満たしていて、11月の中旬に行われる面接と小論文が課される推薦入試を受ける予定だそうだ。

「ケイコ先輩、良いな〜。私も推薦入試で大学に行きたいです〜」

 羨ましそうに言うミコちゃんに対して、先輩は断言する。

「それなら、あなた達も、放送・新聞部の活動で著しい功績ってやつを見せてご覧なさいな! そのためのアドバイスなら、いくらでもしてあげるからさ」

 カラカラ……という擬音が似合いそうな豪快な笑みで、ケイコ先輩が下級生を諭したところで、この日、校内の新学期の日常風景を撮影に行っていたトシオが、息を切らしながら、部室に戻ってきた。

「おい! バスケ部の荏原(えばら)副部長が、また、なにか会見をするらしいぞ!! ノゾミ、一緒に男子バスケ部の部室前まで来てくれ!」

 ハンディのビデオカメラを手にしながら語る親友の言葉に即座に反応した僕は、

「わかった! 念のため、スマホも持って行こう!」

と言ってから、放送・新聞部の備品であるiPhone Proの最新機種を手にして、彼と一緒に部室を飛び出す。
 火曜日に訪れたばかりの男子バスケットボール部の部室前には、人だかりが出来ていた。

「トシオ、YourTubeライブで中継をしよう! ハンディカメラは、僕が持っておくから、トシオは、スマホで撮影してくれないか?」

 こちらの提案に、快く「オーケー!」と応じた親友は、

「しっかり質問して来いよ!」

と、僕を送り出し、動画サイトのライブスタジオにアクセスしてから、動画の撮影を開始した。
 運の良いことに、僕らが部室前に到着したのは、荏原(えばら)副部長が、語り始めようとしているのと、ほぼ同じタイミングだった。

「放送・新聞部の佐々木です! 副部長、バスケ部のなかで、なにか新しくわかったことがあるんですか?」

 人混みをかき分けながら質問すると、こちらの方をチラリと見た荏原副部長は、僕の質問に答えることなく、自らの主張を語りだした。

「まず、最初に言っておきたいことは。今日、ここで会見を行おうと思ったのは、自分ひとりの判断です。他意はありません」

 そう言ったあと、スッと息を吸い込んだ彼は、こう宣言した。

「男子バスケットボール部副部長を務めていた荏原正志(えばらまさし)は、本日をもって、バスケットボール部を退部させていただきます」

 その瞬間、周囲にいた野次馬の生徒から、一斉に声が飛ぶ。

「なんでだよ! バスケ部で、なにか問題があったのか?」

仲尾(なかお)の退部と関係あんのか?」

「レギュラー・メンバーが二人も抜けて、バスケ部はどうなるんだよ!?」

 それらの声に応じることはなく、副部長は目頭を抑えたかと思うと、180センチを超える大柄の身体を丸めながら、声をあげて泣き出し始めた。

「部長にも、一緒に責任を取ってくれ、と言ったけど……すべては、オレ一人が原因だ……ただ、バスケ部と部長を守れなかったのがツラい……」

 そう言って泣き崩れた副部長は、そのまま、

「すいません、以上です」

と勝手に話しを切り上げて、背にしていた部室のドアを開け、僕たちの前から立ち去ろうとする。

「ちょっと待ってください! 副部長の退部は、昨日の部員退部問題と関係あるんですか? あなたが感じている責任は何なんですか? 石塚部長の責任は? きちんと答えてください、荏原(えばら)副部長!」

 立て続けに行った僕の質問には、まるで反応を示さず、副部長は、そのまま男子バスケ部の部室に引きこもってしまった。

 あとに残された僕たち十数人の生徒は、狐につままれたような表情で、

「なんだったんだ、いまのは……? 副部長は、なにがしたかったんだ?」

と、それぞれ顔を見合わせる。

「なんだか、意図が良くわからない説明だったな……」

 トシオが、ポツリとつぶやく。
 自分が誘った手前、外部の人間には真意が読めない副部長の行動に困惑し、部室から僕を連れ出したことに対して、親友なりに申し訳なさを感じているのかも知れない。

 そんな友人を、

「意味がわからなかったことについては、これから取材して明らかにしていこう!」

と言って励ます。
 次は、疑惑の中心人物である石塚部長に話しを聞かなければならない。


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 9月5日(金)
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 バスケ部 退部問題で会見
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 男子バスケットボール部の|荏原《えばら》副部長が、僕らの取材を受けるかたちで会見を開いた翌日の|一宮《いちのみや》新聞には、こんな見出しが踊った。
 最初は、『男子バスケ部副部長 部員の退部問題を受け会見』という見出し案だったんだけど、
「一面の見出しは、11文字以内が鉄則! こんなの新聞部の常識でしょ!?」
というOGの一言により、文字数を削りに削って、この文言に落ち着いたのだ。
 いつも、校内の行事や大会で活躍しているクラブの活動を取材して記事や映像にしていた僕たち現役部員にとって、学校内の問題や事件を記事にするのは、初めてのことだったので、不慣れなことも多かった。
 そこで、経験豊富なケイコ先輩に、多くの助言をもらうことになった。前日のバスケ部副部長の会見内容を上手くまとめることができたのも、先輩の助けによるところが大きい。
「先輩、受験を控えた時期なのに、すみません」
 ミコちゃんが、申し訳なさそうに謝ると、ケイコ先輩は断言する。
「大丈夫だって! 私には、推薦入試という強い味方がついてるからね!」
 実際、僕らに惜しみなくアドバイスをくれる上級生は、首都圏の有名私立大学の自己推薦条件である、
『学芸・スポーツ・生徒会活動・資格取得・社会活動等の実績者。欠席日数45日以内。指定英語検定で所定の成績を有する者』
という受験資格と条件を満たしていて、11月の中旬に行われる面接と小論文が課される推薦入試を受ける予定だそうだ。
「ケイコ先輩、良いな〜。私も推薦入試で大学に行きたいです〜」
 羨ましそうに言うミコちゃんに対して、先輩は断言する。
「それなら、あなた達も、放送・新聞部の活動で著しい功績ってやつを見せてご覧なさいな! そのためのアドバイスなら、いくらでもしてあげるからさ」
 カラカラ……という擬音が似合いそうな豪快な笑みで、ケイコ先輩が下級生を諭したところで、この日、校内の新学期の日常風景を撮影に行っていたトシオが、息を切らしながら、部室に戻ってきた。
「おい! バスケ部の|荏原《えばら》副部長が、また、なにか会見をするらしいぞ!! ノゾミ、一緒に男子バスケ部の部室前まで来てくれ!」
 ハンディのビデオカメラを手にしながら語る親友の言葉に即座に反応した僕は、
「わかった! 念のため、スマホも持って行こう!」
と言ってから、放送・新聞部の備品であるiPhone Proの最新機種を手にして、彼と一緒に部室を飛び出す。
 火曜日に訪れたばかりの男子バスケットボール部の部室前には、人だかりが出来ていた。
「トシオ、YourTubeライブで中継をしよう! ハンディカメラは、僕が持っておくから、トシオは、スマホで撮影してくれないか?」
 こちらの提案に、快く「オーケー!」と応じた親友は、
「しっかり質問して来いよ!」
と、僕を送り出し、動画サイトのライブスタジオにアクセスしてから、動画の撮影を開始した。
 運の良いことに、僕らが部室前に到着したのは、|荏原《えばら》副部長が、語り始めようとしているのと、ほぼ同じタイミングだった。
「放送・新聞部の佐々木です! 副部長、バスケ部のなかで、なにか新しくわかったことがあるんですか?」
 人混みをかき分けながら質問すると、こちらの方をチラリと見た荏原副部長は、僕の質問に答えることなく、自らの主張を語りだした。
「まず、最初に言っておきたいことは。今日、ここで会見を行おうと思ったのは、自分ひとりの判断です。他意はありません」
 そう言ったあと、スッと息を吸い込んだ彼は、こう宣言した。
「男子バスケットボール部副部長を務めていた|荏原正志《えばらまさし》は、本日をもって、バスケットボール部を退部させていただきます」
 その瞬間、周囲にいた野次馬の生徒から、一斉に声が飛ぶ。
「なんでだよ! バスケ部で、なにか問題があったのか?」
「|仲尾《なかお》の退部と関係あんのか?」
「レギュラー・メンバーが二人も抜けて、バスケ部はどうなるんだよ!?」
 それらの声に応じることはなく、副部長は目頭を抑えたかと思うと、180センチを超える大柄の身体を丸めながら、声をあげて泣き出し始めた。
「部長にも、一緒に責任を取ってくれ、と言ったけど……すべては、オレ一人が原因だ……ただ、バスケ部と部長を守れなかったのがツラい……」
 そう言って泣き崩れた副部長は、そのまま、
「すいません、以上です」
と勝手に話しを切り上げて、背にしていた部室のドアを開け、僕たちの前から立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってください! 副部長の退部は、昨日の部員退部問題と関係あるんですか? あなたが感じている責任は何なんですか? 石塚部長の責任は? きちんと答えてください、|荏原《えばら》副部長!」
 立て続けに行った僕の質問には、まるで反応を示さず、副部長は、そのまま男子バスケ部の部室に引きこもってしまった。
 あとに残された僕たち十数人の生徒は、狐につままれたような表情で、
「なんだったんだ、いまのは……? 副部長は、なにがしたかったんだ?」
と、それぞれ顔を見合わせる。
「なんだか、意図が良くわからない説明だったな……」
 トシオが、ポツリとつぶやく。
 自分が誘った手前、外部の人間には真意が読めない副部長の行動に困惑し、部室から僕を連れ出したことに対して、親友なりに申し訳なさを感じているのかも知れない。
 そんな友人を、
「意味がわからなかったことについては、これから取材して明らかにしていこう!」
と言って励ます。
 次は、疑惑の中心人物である石塚部長に話しを聞かなければならない。